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NTTグループの食農分野の取り組み

NTTグループの食農分野の取り組み

農業は地方の基幹産業でありますが、長期にわたる就業人口の減少や高齢化、気候変動による自然災害への対応、販路の確保等さまざまな課題を抱えています。その課題解決の手段として、バイオ技術や IoT(Internet of Things)、ビッグデータ解析、AI(人工知能)、ロボットを農業分野に活用したAgriTech(アグリテック)が注目されています。NTTは1985年の民営化以降、「公共性」と「企業性」の双方を使命として求められており、事業活動を通じて社会的課題を解決する「Smart World」の実現にも取り組んでいます。農業も重点分野として位置付け、これまで通信事業で培ってきたICTを活用、象徴的なパートナーとの連携によりその課題解決を図る「Smart Agri」の実現にも取り組んでいます。本稿では、NTTグループの取り組みの方向性、具体的な事例、将来像について紹介します。

久住 嘉和(くすみ よしかず)/ 村山 卓弥(むらやま たくや)/ 吉武 寛司(よしたけ かんじ)

NTT研究企画部門

食農分野等を取り巻く課題

農業分野は就業人口の減少と高齢化が進み、ここ30年で6割近く減少し、65歳以上の比率が6割を超えています。新規就農者も、収穫量や品質が天候次第で変動して収入が安定せず、災害や獣害被害等の不確実性への不安から、大幅な増加はみられません。それに伴い農地も減り続けています(1)。また、農業生産を行った後の輸送や販売先(販路)の確保も課題です。就農後は農産物をつくるだけでなく、それを販売し収益をあげなければなりません。そのため、消費者がどのようなニーズやトレンドを持っているかをタイムリーに把握し、そのニーズ等を生産に反映させるマーケットイン型の農業に取り組むことも有効です。一方、世界に目を向けると、人口爆発により食料、水の争奪戦になるともいわれています。今後、日本の農業が発展するためには、若い世代の就業者を増やし、規模拡大と流通・販売・消費を含めた食農全体の生産性向上、グローバルという大きなマーケットを視野に入れて取り組むことが求められます。このような状況の中、政府は未来投資会議(2)において、「Society 5.0」「データ駆動型社会」への変革をめざした攻めの農林水産業を掲げ、「世界トップレベルのスマート農業」「スマートフードチェーン」などの実現を重点項目としています。

NTTグループの食農×ICTの取り組み

NTTグループにおいても農業を重点分野として位置付け、NTT研究企画部門が取りまとめ、グループ横断プロジェクト「農業ワーキング」を発足させ、NTT東日本・西日本やNTTドコモ、NTTデータ、NTTコミュニケーションズといった主要事業会社に加え、秀でたサービスを持つ約30のグループ会社や研究所と連携し、全体戦略策定やサービス・研究開発等、農業生産から流通・販売・消費・食・グローバルまで、多岐にわたる取り組みを進めています。グループ各社が持つ全国規模の通信インフラやアセット、ネットワークサービス、AI(人工知能)技術やNTTが提唱する未来のコミュニケーション基盤IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)*の活用も視野に入れた食農分野向けの技術やソリューションをお客さまに提供しています(図1)。施設園芸(太陽光型、人口光型)、露地栽培、畜産、共通的な気象情報、地図および流通、販売、食や食品ロス低減等SDGs(Sustainable Development Goals)に資するサービス・技術をラインアップしています。これらを組み合わせ、例えば、大規模・分散化が進むと想定される農地や施設(ハウス)を1つの仮想的な農場としてとらえ、面的に展開されたセンサ等で収集された環境や土壌、生育状況や気象情報等、さまざまなデジタルデータを一元的に管理して掛け合わせ、シミュレーションを行います(デジタルツインコンピューティング)。そのシミュレーション結果から品目に応じた最適な栽培計画を立て、農機やドローン、草刈機、収穫機等のロボティクスを遠隔で制御しながら、効率的に農作業を行います。これらの研究所やグループ会社の取り組み成果は各種展示会や外部講演等を通じた情報発信も戦略的に行っています(図2)。

* IOWN:NTTが2030年ごろの実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想。

図1 ソリューションマップ

図2 展示会へのグループ出展模様

先進的パートナーとの具体的な取り組み

ただ、農業ビジネスへの参画に歴史の浅いNTTグループには専門知識やノウハウが不足しています。そのため、産官学の先進的で象徴的なパートナーとの連携を戦略的に進めています(図3)。例えば、国立大学法人北海道大学(北大)、岩見沢市、NTTグループは、最先端の農業機械をはじめとするロボティクスの自動運転技術に高精度な位置情報、第5世代移動通信システム(5G)、AI等のデータ分析技術等を活用した世界トップレベルのスマート農業の実現と社会実装およびスマート農業を軸としたサステイナブルな地方創生・スマートシティのモデルづくり等に取り組んでいくこと、またIOWNなど将来の革新的技術のスマート農業への適用に向けてともに検討を開始することに合意し、産官学連携協定を締結しました。自動運転農機については現在、世界に先駆けた複数台の協調作業システムや遠隔監視による無人状態での完全自動走行(レベル3)の実証フェーズにあり、その実現に向けては、正確な測位情報、農機や天候、作物の生育状況の把握・予測に基づく農作業計画の自動生成が必要なことに加え、農機に搭載されたカメラからの映像情報等を、低遅延かつ信頼性を担保しながら監視拠点まで伝送することも必要です。そのため、直近では5Gやローカル5G、将来はIOWNも活用し、例えば、農協や農作業の請負業者が岩見沢市の監視センター等の拠点から、広域の農場にある多数の農機やドローン、草刈機等のロボットを遠隔地から監視・制御を行う、技術革新およびそれに伴う農業の産業化を大学、自治体、JA、農機メーカ等とも連携しながら実現する世界観をめざします。また日本と同様、新興国においても都市化が進み、就農人口が減少傾向にあるといわれています。そのため、本革新的技術をモデル化・体系化してグローバル展開も行い、農業の自動化・効率化を通じた人類の食料不足に貢献することも視野に入れて取り組みを進めます(図4)。

図3 パートナー連携

図4 北大・岩見沢市との連携

将来の方向性

NTTグループはここ数年、農業の生産部分に加え、よりマーケットの大きい、流通・加工・販売・食・輸出にわたる、いわゆるスマートフードチェーン全体を見据えた取り組みへと拡大しています。例えば、生産者と需要家をデジタルデータでつなぐデジタルフードバリューチェーンの仕組みにより、需要家のリクエストに応じて生産を行うマーケットイン型の農業を通じ、計画的で安定的な生産、安定した調達を実現し、食農にかかわる関係者がムダなくメリットを享受できるような仕組みの早期実現をめざします。また、流通効率化を通じた廃棄ロス低減によるSDGsの取り組みも進めます。さらには、グローバルアグリにも取り組み領域を拡大します。まずは今後成長が見込める東南アジア、中東、アフリカおよび農業先進国の欧州における、現地企業や団体、大学等との具体的な案件を足掛かりに取り組みを広げる予定です。さらに、林業への領域拡大や、そのために必要なパートナーとの連携も早期に進めます。今後も、NTTグループが選ばれるバリューパートナーになることをめざし、グローバルを視野に入れた1次産業全体での発展に貢献していきます(図5)。

図5 ビジョン

■参考文献
(1) https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/2030tf/281114/shiryou1_2.pdf
(2) https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2018_zentai.pdf

(左から)吉武 寛司/久住 嘉和/村山 卓弥

NTTグループが今後も皆様から選ばれるバリューパートナーとなるべく、ICTを通じてグローバルでの農業をはじめとする食農分野の発展に貢献します。

問い合わせ先

◆問い合わせ先
NTT研究企画部門
食農プロデュース担当
TEL 03-6838-5364
FAX 03-6838-5349
E-mail agri-ml@hco.ntt.co.jp