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テクニカル ソリューション

アクセス系設備の生物被害対策──忌避テープの展開

通信サービスを支えているアクセス系設備は、全国各地に広く張り巡らされており、そのほとんどが屋外環境下に置かれています。そのため、自然の中で暮らす生物によって引き起こされる故障が毎年発生しています。今回は、NTT東日本技術協力センタに全国各地から問合せが多数寄せられているアリ等の昆虫による被害の特徴と対策を紹介します。

アクセス系設備の生物被害

アクセス系の設備は昆虫類(アリ・クマゼミ・コウモリガの幼虫等)、げっ歯類(リス・ムササビ・ネズミ等)、鳥類(カラス・キツツキ等)などの生物により故障が発生しています。例えば、今回取り上げるアリ被害に対しては、侵入経路となる樹木・ツタ等の伐採が有効な対策となります。しかし、それらの植物の成長に合わせて継続的に伐採することは、非常に多くの稼働がかかるため、新たな対策が求められていました。そこで、NTT東日本技術協力センタでは薬品会社と連携した検討により、昆虫に対しての忌避効果が得られるピレスロイド系の薬剤を主成分とした「忌避テープ」による対策を推進してきました。

アリ被害の特徴とこれまでの対策

アクセス系架空設備でのアリ被害は、主に光クロージャ内の心線収納用品に収納されている光ファイバ心線をかじることにより発生する断線故障でした(図1(a))。そのほかにも、スパイラルスリーブ内やPVC電線防護カバー内でも、光ケーブル・光ドロップの外被から心線部までかじり、断線故障を引き起こしています(図1(b))。また、メタル接続端子函内では心線の外被をかじり、蟻酸(アリが仲間を誘導する際のマーキングおよび敵を攻撃する際に分泌する強酸性の成分)の影響により、心線どうしが接触し、絶縁不良を起こします(図1(c))。これまでの調査結果から、これらのアリ被害は、身体的特徴から「シリアゲアリ」「ヨツボシオオアリ」(図1(d))によるものであると推定されました。これらのアリは樹上営巣性で、自然界ではシイ、カシなど照葉樹林(常緑広葉樹林)の樹皮下や樹木腐朽部に営巣し、暗いところを好む性質があります(1)。被害を受けた設備の環境は、常に暗所であり、人の触れることが少ない場所です。そのため、クロージャ内はアリが営巣するのに都合が良い環境と考えられます。

図1 アリ被害による故障

これまでアリ被害対策として、技術協力センタでは、メタル接続端子函の隙間から内部への侵入を防ぐ隙間充填工法を考案、導入してきました。しかし、工事・保守の際におけるメタル接続端子函開閉のたびに、接続端子函カバーかん合部にシール材の充填を繰り返すことになり、稼働がかかってしまいます。

「忌避テープ」による新たな対策

技術協力センタでは、薬品会社と連携し、昆虫に対する忌避効果が見込まれる薬剤を使用した新たな対策を検討しました。光クロージャやメタル接続端子函に設置することを考慮すると、形状の加工がしやすく、短時間で施工が可能であることが必要です。そこで、薬品会社ではすでに製品として販売している「忌避テープ」のうち、片面が接着面となっているものが、対策品として最適であると判断しました。

「忌避テープ」の概要

「忌避テープ」は、シートの半面に接触型忌避剤が施されたテープです(図2(a))。忌避剤の主成分はピレスロイド系の薬剤で、昆虫の皮膚や口から入ることで神経に作用し不快感を与えるため、昆虫はシートの忌避面を避けようとします。ピレスロイド系の薬剤は、哺乳類、鳥類など恒温動物の体に入っても速やかに分解され、短時間で体外へ排出されるため、影響はありません。また、湿気・水滴などの影響を受けないため、水に濡れても薬剤の効力に変化はなく、忌避効果期間は暗所で約10年です。ただし、紫外線によって忌避効果が減少するため、直射日光を避ける必要があります。本忌避テープは剥離紙・粘着テープ・薬剤の三層構造で、形状はポリエステルテープ(半透明)、粘着素材はアクリル系です。
実際の施工では、光クロージャの場合、スリーブかん合部の隙間などから昆虫が侵入するため、「忌避テープ」をスリーブの内側縁の両側および内側上板部に貼付して侵入を防ぎます(図2(b))。スパイラルスリーブではピッチ間の隙間から、PVC電線防護カバーではPVC保護テープで抑え巻きした個所のクセ隙間などから侵入して営巣します。そこで、スパイラル状にした「忌避テープ」をケーブルに巻き付け、その上からスパイラルスリーブおよびPVC電線防護カバーを取り付けます(図2(c))。メタル接続端子函では、カバーの隙間や側壁などから侵入し、底板に営巣するため底板や側壁などに貼付します(図2(d))。

図2 「忌避テープ」の設置状況

最近の「忌避テープ」対策事例

次に、技術協力センタに最近調査依頼があった生物被害のうち、昆虫に対して「忌避テープ」で対策した事例をいくつか紹介します。

RSBM-F(屋外設置型)のアリ被害対策

RSBM-Fの定期点検で蓄電池収納部にアリの侵入と営巣が確認されました(図3(a))。営巣により、極度な温度変化による蓄電池の寿命劣化を防ぐ(断熱)ための発泡スチロール製の蓄電池保温ケースが損傷しました。調査の結果、基礎台と蓄電池収納部裏の隙間からアリが侵入していることを確認しました。対策として、侵入経路およびアリが営巣する蓄電池保温ケースの側面等に「忌避テープ」を設置しました(図3(b))。現在経過観察中ですが、現在のところアリの営巣は確認されていません(設置後約3カ月)。

図3  「忌避テープ」の対策事例

その他昆虫対策

「忌避テープ」はアリ以外の昆虫にも効果があることが分かっています。ここではゴキブリ被害の事例と対策を紹介します。
飲食店内に設置されている電話機内部にゴキブリが侵入し、故障が発生しました。保守部門にて機器の取替えを行いましたが、同じお客さま宅にて、定期的(3カ月に1回程度)に同様の故障が発生しており、その都度、機器の取替えを行っていました。侵入したゴキブリの体長は4mm程度であり、体色は全体的に焦げ茶色で、背中部の色が薄くなっている特徴からチャバネゴキブリであると推定されます(2)。調査の結果、ゴキブリは電話機裏側底面部の隙間から内部に侵入したと推測しました。電話機内部へのゴキブリの侵入を防ぐため、「忌避テープ」をプラスチック製の薄い板に貼付し、シート状に加工した対策品を作製し、電話機の下に敷くことにしました(図3(c))。これにより、ゴキブリを電話機周辺で遮断することができ、電話機への侵入を防ぐことができると考えています。

今後の展開

ここでは、アクセス系設備に対する生物被害のうち、アリ等の昆虫による被害への対策方法、最近の被害事例について紹介しました。今回の事例を参考に、現場での被害削減に役立てていただければと考えています。技術協力センタは、前身組織である技術協力部を含めると50年以上技術協力活動を行ってきました。これまでに蓄積された知識と経験を基に、引き続きアクセス設備の信頼性向上、故障低減に向けた取り組みを進めていきます。

■参考文献
(1)“日本産アリ類の検索と解説, ”日本蟻類研究会, 1989.
(2)“決定版 生物大図鑑 昆虫Ⅰ, ”世界文化社, 1985.

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ アクセス技術担当
TEL 03-5480-3701
FAX 03-5713-9125
E-mail gikyo-ml@east.ntt.co.jp