NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

テクニカルソリューション

アクセスポイント設計機能を備えた無線LANテスタの機能拡張開発

屋内,屋外を問わず,無線LANを利用したインターネット接続環境が整備され,多数のお客さまがご利用になっています.その一方で,無線LANに接続できない,スループットが出ない,通信が途切れるといったトラブルに関する問合せも継続しています.そのようなトラブルの主な原因はチャネル間干渉となっており,チャネルの再設計が必要となります.そこで,NTT東日本技術協力センタでは,NTTアクセスサービスシステム研究所より無線LANアクセスポイント(AP)設計ソフトウェア技術の成果提供を受け,AP設置設計機能としてLANテスタへ組み込みましたので,その概要と利用方法について紹介します.

無線LANテスタ

NTT東日本技術協力センタでは,無線LANに起因するトラブルの早期解決をめざし,市販のノートPCに専用無線LANアダプタと専用ソフトウェアを導入することで利用可能な無線LANテスタ(図1)を2012年度より全国の各事業部・支店(支店等)へ展開しています(1),(2)

無線LANテスタは,支店等からの無線LANにかかわる技術相談,技術支援依頼の増加に伴い,そのトラブルを現地で早期に解決できるよう開発してきました.支店等から相談される無線LANトラブルの主な原因としては,無線LANアクセスポイント(AP)の電波強度不足,外来ノイズによる電波干渉,AP間でのチャネル干渉問題といったものがあります.また通信トラブル以外の相談として,APのチャネル設計方法やAP設置前の電磁環境調査といったものもあります.これらの相談内容を現地で解決するためのツールとして,AP検出・受信強度測定,スループット測定,AP分布表示,電磁環境モニタ,ノイズ分布表示,干渉解析,長期監視,レポート作成といった機能を具備した無線LANテスタを開発し,支店等でご利用いただいています(表1).

AP設置設計機能の開発

従来の無線LANテスタでは,チャネル間干渉等により所望のスループットが得られない場合,干渉解析機能を使うことで,最適なAPチャネルを確認することができます.この干渉解析機能は,AP設置場所における各チャネルの使用状況,各チャネルに対する外来ノイズの有無等から,APに設定すべき推奨チャネルを表示します.近年では,無線LAN利用者や利用端末の増加に伴い,同一エリアに多くのAPが設置されるケースが増えており,干渉解析機能だけでは,最適なチャネルの設定が困難になってきています.

そこで,NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)が開発した無線LAN AP設計ソフトウェア技術(置局設計ソフトウェア)(3)を利用して,APの設置において最適なスループットを得られるような設計機能を追加開発しました.この機能を追加することにより,無線LANテスタの測定結果と置局設計ソフトウェアが連携し,最適な置局設計が可能になりました.

AP設置設計機能の概要

AP設置設計機能では,無線LANテスタのAP検出機能により検出した設計対象以外のAPのチャネル情報,受信強度情報も活用し,実際の設置環境内でまんべんなく最適なスループットが得られるようAPに設定すべきチャネルおよび出力レベル,帯域幅をAS研考案のアルゴリズム(4)により導出します.

本機能を動作させるPCの動作環境を表2に,ソフトウェアの構成を図2に示します.置局設計ソフトウェアの主機能となる制御エンジンによるパラメータ算出と無線シミュレータによるスループット計算は,仮想マシン(VM)上で実行しています.仮想マシンで実行された推奨チャネルや出力レベル,帯域幅といったパラメータ情報とスループットの計算結果は,AP設置設計機能インタフェースを介して無線LANテスタ上に表示されます.将来的には置局設計ソフトウェアの機能をクラウドサーバ上で実現することにより,端末側の機能のスリム化と計算の高速化を想定しています.しかしながら,現状では無線LANテスタを動作させるPC上に仮想マシンを搭載するため,従来の無線LANテスタよりもメモリ容量の多いPCが必要となります.

AP設置設計機能の操作手順

AP設置設計機能の操作手順を以下に示します.

① 「AP分布表示機能」による分布図作成:設計するエリアの図面を作成し,設計対象・設計対象外APの受信強度を測定します.

② 最適化画面へ移動:分布表示機能による測定が完了したら,画面内の「最適化」ボタンを押下することで,計算を実行する画面へ遷移します.

③ 最適化計算の実施:測定結果等を最終確認し,「最適化計算」ボタンを押下することで,計算が始まります.AP分布表示機能で検出されたAP数にもよりますが,小規模な場合で数分,AP数が多くなる場合には数十分程度の計算時間が必要になる場合があります.

④ 計算結果の表示:計算が終了しますと,最適化後のチャネル,出力レベル,帯域幅といった設定内容と,推定受信強度マップ,推定スループットマップが表示されます.

このように,従来の無線LANテスタが持つ「AP分布表示機能」を活用し,簡易な操作により実際の設置環境においてもっともスループットが高くなるAPの設定値を計算により求めることが可能となります.このほかにも,「AP分布表示機能」による実際の設置環境での測定を実施しなくとも,「最適化」タブを利用することで,置局設計ソフトウェアの制御エンジンと無線シミュレータによる設置設計の計算が実施可能です.

AP設置設計機能の活用例

屋内環境において複数のAPを設置したものの所望のスループットが得られない場合に,本機能を活用することによりスループットを改善することができます.本機能の活用例として,10 m×20 mの屋内環境にAPが5台設置されているケースについて手順を示します(図3).はじめに,無線LANテスタで受信強度,スループット,チャネル使用状況等の確認を行います.今回のケースでは,すべてのAPが5GHz帯の同じチャネルを使用していました.そこで,AP分布機能により各APの受信強度を測定した後,置局設計ソフトウェアにおいてスループットのシミュレーションにより分布図を作成し最適化計算を行います.なお,今回は5 GHz帯を利用していることから,レーダによる通信停止を防止する観点でW52(チャネル36,40,44,48)の帯域のみを使用する条件としました.計算前は平均スループットが21.84 Mbit/sでしたが,置局設計ソフトウェアによる計算後に表示されているチャネルと帯域幅,出力レベル設定とすることで平均スループットを94.1 Mbit/sへと大幅に改善させることができました.

今後の展開

無線LANテスタは,無線LAN電波の見える化により,無線LANトラブルの早期回復を支援するだけでなく,無線LANサービスの円滑な導入も支援するツールです.そのため,無線LANサービスのトラブル発生時の保守作業に必要となる各種機能に加え,APを新たに設置する際にどのような設定値にすれば良いのかの最適化設計を行う機能を具備しました.本ツールを活用いただくことにより,安定的かつ快適な無線LANサービスの提供が可能になります.

技術協力センタでは,引き続き支店等の課題解決に向けた技術協力活動を推進し,通信設備の品質向上・信頼性向上に貢献していきます.

■参考文献

(1) 岡本・平澤・伊藤・村川:“Wi-Fiサービスの円滑な提供に向けた無線LANテスタの導入,”信学通信ソサイエティマガジン, Vol,7,No.1,pp.38-43,2013.

(2) NTT東日本:“IEEE802.11acに対応した無線LANテスタの導入,”情報通信エンジニアリング協会,Raisers, 2015年5月号.

(3) https://www.ansl.ntt.co.jp/j/times/110/01/

(4) B. A. H. S. Abeysekera, M. Matsui, Y. Asai, and M. Mizoguchi: “Network controlled frequency channel and bandwidth allocation scheme for IEEE 802.11a/n/ac wireless LANs: RATOP,” PIMRC2014, pp. 1041-1045, Washington DC, U.S.A., Sept. 2014.

問い合わせ先

NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ EMC技術担当
TEL 03-5480-3711
FAX 03-5713-9125
E-mail gikyo-ml@east.ntt.co.jp