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特集

NTT R&Dフォーラム2020 Connect 基調講演

Road to IOWN

本稿では、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた取り組み「Road to IOWN」について紹介します。本記事は、2020年11月17〜20日に開催された「NTT R&Dフォーラム2020 Connect」での澤田純NTT代表取締役社長の講演を基に構成したものです。

澤田 純(さわだ じゅん)
NTT代表取締役社長

はじめに

今回、「Road to IOWN」について紹介します。まずその前に、2020年11月16日NTTドコモの完全子会社化を目的としたTOB (株式公開買付け)が無事終了し、約91%の株式取得に成功しました。このTOBの目的ですが、国内競争やボーダーレスでの競争が激化する中で、GAFAやOTTの方々と渡り合っていくためには、NTTドコモの強化・成長が不可欠かと。これはどちらかというと受動的な議論です。一方で、能動的には、ドコモを強くすることでNTTグループ全体の成長・発展につなげていきたいと考えています(図1)。

■パンデミックと覇権の歴史

少し視点をずらしてみます。1602年、イエズス会宣教師のマテオ・リッチが中国で刊行した「坤輿万国全図」が、関ヶ原の戦いが終わったころの日本に伝来してきました。この地図を拡大してみますと、大きな島が4つ描かれており、日本というものがすでに認知されていたことが分かります。つまりグローバルにおける日本という位置付けを、この時代から考えていくべき構造があったわけです。
現在、新型コロナウイルス感染症の第3波が来ている中、パンデミックにどう対応していくか、これをまた歴史的に見てみます(図2)。イエズス会の地図に日本が明確に描かれていた時代は、スペインが全世界の覇権を握る前、あるいは握りつつあるころの議論になります。その前はイスラム帝国、そのさらに前がモンゴル帝国でした。モンゴル帝国はペスト、スペインは天然痘を契機に覇権を握っていく歴史がありました。オランダは宗教改革をリードした国で、スペインから大挙して住民が移動し、それに伴って経済の中心もオランダにシフトしていきました。
18世紀になると、産業革命という技術革新により、英国が覇権を握ることになります。このときにアジアから欧州、米国に伝播していったのがコレラです。その後、第一次世界大戦ではスペイン風邪が猛威を振るいます。これで戦争が終わったのではないかという意見もあるようですが、その後はやはり経済衰退があり、米国が台頭してきました。
現在のコロナ禍の向こうにどのような世界が待っているのかということを私たちもよく考えながら、このような視点も広げていくべきだと考えています。

■日本の技術貿易収支

一方、総務省が20年近くまとめている技術貿易収支があります(図3)。いわゆる特許や技術に関する出と入りの数値です。輸出、輸入を比較した結果、産業全体はずっとプラスです。特に自動車や精密機械に関する日本の技術が世界で使われていることの証左でもあると思いますが、一方で、情報通信に着目するとマイナスです。ずっとマイナスといったほうが良いかもしれません。つまり、海外の技術を仕入れ、それを日本で利用して業としているということです。また、2014年には、とあるジャーナリストが「日本発の技術や、それをベースにした製品・サービスがほとんどない。世界に全く貢献しない日本のIT業界は、産業としての存在価値は無い(日本にあるのは“IT利用産業”だけ)」と発言したそうです。私個人的にもこの発言にはショックを受けまして、これは次の技術でゲームチェンジを図っていくべきではないかと考えたわけです。

■アフターコロナ社会のトレンド

次に足元のコロナについてです。コロナは今も猛威を振っていますが、アフターコロナ社会のトレンドについて見ていきたいと思います。
2つありまして、1番目のトレンドはリモートワールド、分散型社会です。おそらく今後いろいろな議論が進むと思いますが、2050年カーボンニュートラルを実現するためにも、リモートワールドは必須ではないかと考えます。ソーシャルディスタンスの確保と経済活動の活性化、これを同時に実現することが求められていきます。これを受けて、NTTグループとしては新たなサービスブランド“Remote World”を立ち上げました。Face to Faceを超える新たな空間をより充実させていきたいと考えています。
もう1つがニューグローカリズムです。グローバリズムはやはり必要な要素ですが、併せて、私たち日本人が持っている文化、そして各地にある異文化、そういったものを尊重してダイバーシティを認めながらやっていくローカリズムが同時に必要ではないかと。これもパラコンシステントだと考えています。
先日、京都大学の山極壽一元総長と出口康夫教授と3人で話しているときに、「SDGsの17項目にないものとはいったい何か知っているか?」と質問されました。それは文化だそうです。つまり、文化というのは基本的にローカルに根差します。SDGsの17項目は普遍的なグローバルターゲットですが、私の言いたいグローカリズムとは、文化も理解し許容したうえで排除せず、全体の目標を達成していくような概念です。1つの考え方や均一な意識ですべてをコントロールしたり、仕切ってしまうのではなく、それぞれの幸せな生き方を認めていくような社会を求めていくべきではないかと。
それをもう少し経済、安全保障や国という立場で見ていきますと、1番目は信頼できる人たちとのサプライチェーンが必要になるでしょうし、2番目はITを活用してDX(デジタルトランスフォーメーション)やコネクテッドバリューチェーンを構築する営みが必要になると思います。そして3番目はエネルギーの自立が求められるだろうということで、NTTグループもグリーン電力の利用を推進しようと考えています(図4)。再生可能エネルギーの利用を2030年に30%まで高めていく予定です。このような動きが認められ、Science Based Targets (SBT)の認定も取得しました。ただ、ベースにあるのはやはりICTで、例えばテレワークをするとCO2排出量が約7割落ちるそうです。つまり、リモートワールドを実現させ、コネクテッドバリューチェーンを構築していくことが大事ではないかと考えているわけです。
そして最後に、革新的なエネルギー技術の創出をICTでお手伝いできないかと考え、NTT宇宙環境エネルギー研究所を2020年7月に設立しました。世界7極が協力して建設が進んでいる国際熱核融合実験炉“ITER”および日本の量子科学技術研究開発機構とも連携しています。核融合を非常に短時間でコントロールしながらプラズマを管理するためには、ペタレベルの大容量の情報を超低遅延で各地に伝送するためのコンピュータ方式と通信方式の革新が求められています。ITERのファーストプラズマは2025年を予定しており、そこへ向けて研究開発を始めています。

Road to IOWN

今日の主題はIOWNです。キーワードはゲームチェンジです。はじめに、2020年6月に資本業務提携を発表させていただきました日本電気株式会社の新野隆社長からのメッセージを紹介します。

■日本電気株式会社 新野社長からのメッセージ

「皆様こんにちは。NECの新野です。このたびはNTT R&Dフォーラムの開催おめでとうございます。皆様ご承知のとおり、NTTとNECは今年6月に、革新的光無線技術を活用したICT製品の研究開発およびグローバル展開を目的に資本業務提携を行いました。この提携により、これまでのオペレータとメーカという垣根を越えた対等なパートナーとして、長期にわたり協力させていただくこととなりました。
では、この提携の目的について簡単にお伝えしたいと思います。
まずO-RAN(Open Radio Access Network)Alliance仕様の普及を両者で促進しつつ、O-RAN準拠の国際競争力のある基地局を開発し、将来的にはグローバルトップシェアをめざします。また、世界最高レベルの性能と低消費電力化を兼ね備えた小型光集積回路、およびそれを組み込んだ情報通信機器を開発し、グローバルに販売していきます。さらに、IOWN構想の実現に資する革新的光無線デバイスの開発や、海底ケーブルシステム、宇宙通信、セキュリティなどに関する技術の高度化にも取り組んでまいります。NTTは先進技術の導入を推進する世界屈指のオペレータであり、また、フォトニクスや小型光集積回路などで業界トップクラスの研究開発力・技術力を有しています。
一方、NECには世界的にも高度な通信技術や、AI、セキュリティなどのデジタル技術およびオペレータに求められる品質と信頼性を確保した通信インフラの豊富な構築ノウハウがあります。この両者が手を結ぶことにより、まさに日本の産業競争力強化、および通信インフラの安全性・信頼性の一層の確保にも貢献できると確信しています。澤田さん、一緒に頑張っていきましょう。本日はありがとうございました。」
新野社長、ありがとうございました。
まず手元のところでは、O-RAN準拠のマルチメディア対応の無線アクセスネットワークを一緒に開発しながら、次の光電融合、あるいはIOWNに備えていきたいと思います。

■NTTのめざす方向性

では、NTTがめざす方向性についてですが、図5のとおり、1番目はリモートワールドに適した新サービスの提供です。2番目は NTTグループ全般のリソース集中を図りながらDXをどう推進していくか。この中のスタートラインがNTTドコモのTOBでした。 3番目は今日のメイントピックであるIOWNの実現です。そしての最後の4番目は、グローバルを含めた新規事業の強化です。
では、結果として社会へどのような貢献を果たしていくかについてですが、1つはやはり産業の国際競争力の強化です。この中にもいくつかありますが、宇宙や海中まで含めた新領域での情報通信の高度化をリードしたいと考えています。それからナショナルセキュリティの向上です。サイバーセキュリティ以外に、事業継続性や災害時の議論もあります。そして、情報通信産業そのものを発展させていきたいと思っています。
今日はNTTがめざす方向性の3番目のIOWN実現について、4つの特徴ある技術について紹介したいと思います。その前に、トヨタ自動車株式会社の豊田章男社長からも今回メッセージをいただいておりますので紹介します。

■トヨタ自動車株式会社 豊田社長からのメッセージ

「豊田でございます。Woven Cityの構想を思いついたとき、NTTの力を借りないと絶対に実現できないと感じました。今年の1月にラスベガスでWoven Cityを発表し、その後すぐに澤田さんのところに行きました。そのときに澤田さんと私で一致したのは、人が安心して暮らせる街にしたい、人が情報に支配され監視されるような街にはしたくない、あくまで人が中心で幸せな暮らしを実現していきたい、そんな思いでした。3月に2人で記者発表してからWoven City実現に向けた仕事が始まっています。トヨタ側の現場に話を聞いてみますと、スマートシティを進めるうえでNTTはパートナーというよりも先生のような存在だと言っておりました。彼らはまず両者の持っているものを全て机の上に並べたそうです。そうするとNTTからは我々が想像していた通信、エネルギー、行政関係にとどまらず、医療やエンタメなど人が笑顔で暮らしていくために必要なあらゆるノウハウが出てきたそうです。やはり我々トヨタだけでは人々の暮らしを創っていくことはできません。
この取り組みが始まるまでは聞いたことがなかったニューノーマルという言葉が日に日に当たり前の言葉になってまいりました。ニューノーマルの中で人々が本当に幸せになれる街を引き続きNTTの皆様とめざしていければと思っております。そしてこれはNTTとトヨタだけでもできません。多くの方々の志と技術で実現できるものだと思っております。NTTの皆様、これからもよろしくお願い致します。ありがとうございました。」
豊田社長、ありがとうございました。

■デジタルツインコンピューティング

Woven Cityを東富士(静岡県裾野市)に建設し、その後は品川、さらには全世界の都市を対象にスマートシティ化を推進する。また、それらを連結した“プラットフォーム・オブ・プラットフォーム”を一緒に実現することが協業の主眼になっていますが、これはデジタルツインコンピューティングにつながる話です(図6)。街をサイバー空間にもう1つ形成し、そこでの予測を住民の生活あるいは都市機能の円滑なオペレーション向上に利用していく考え方です。デジタルツインコンピューティングを通じて未来都市のデザイン、人流・交通流の最適制御、メディカル分野のスマート化を実現していくうえで、“起点”が大事になります。今までの地図は2Dですが、それを3D、さらには時間軸を入れて4D化する。またそれらをデータとして蓄積し、エビデンスにもしながら、正しい位置に原点を戻すような基盤を用意しておく必要があるのではないかと考えています。これを4Dデジタル基盤TMと呼んでいます(図7)。これがサイバーあるいはスマートシティの起点として活用されていくものになるのではないかと考えているところです。2021年度から実用化を開始していきます。
もう1つはパーソナルメディカルソリューションです(図8)。NTTは今、バイオデジタルツインの研究を進めています。脳や心臓の生体情報をセンシングしながら、予測シミュレータや個人情報と組み合わせることで、超ミクロ領域での診断や治療に役立てるものです。目的は人類全体のクオリティ・オブ・ライフ向上であるべきで、人類全体が救いの手を得るような技術の開発と社会的受容性を議論していきたいと考えています。

■オールフォトニクス・ネットワーク

次に、オールフォトニクス・ネットワークです。世界の IPトラフィックは2年で1.5倍、IT消費電力は5年で1.6倍になると予測されています。そのような中、NTTは通信インフラにオール光を導入していきたいと考えています。現在の光アクセス網はスター型になっていて、NTTのビルから1本1本お客さまのところに線を引いていますが、これをオーバーレイしながら、多段ループ型のアクセス設計に変えていきたいと思っています。これは世界初の概念となりまして、その際に鍵となるのが、通信断なく自由に光ファイバを分岐させる技術です。研究途上ですが、これが確立すれば、信頼性および即応性の高いアクセス網が実現します(図9)。
また、オールフォトニクス・ネットワークのユースケースとして、分散型Ultra-Reality Viewingを紹介したいと思います(図10)。アフターコロナの社会ではスタジアムに全員入れずに、家から観戦される方も多くいらっしゃると思います。その方々に遅延なくパフォーマンスを伝えながら、スタジアムと双方向で歓声や雰囲気といった臨場感を共有していきたいと考えています。

■光電融合デバイス/Disaggregated Computing

次に光電融合デバイスを紹介します。現在試作品を作製しており、2年後に完成する予定です。シリコンフォトニクスの中央に位置するLSIに対して、入出力装置として光・電子のコパッケージを採用するというのが第一ステップです。次のステップではチップ間の接続を光に変えます。さらにその次のステップでは、チップ内の通信を光素子で構成します。
そのチップを利用して、サーバ(箱)単位ではなく、CPU、GPU、メモリ等のいろいろな機能どうしを光で結ぶDisaggregated Computing Modelを導入する予定です。このモデルの実現には、超強力なホワイトボックスや新しいOSが必要になります。

■IOWN構想

IOWN構想はオールフォトニクス・ネットワーク、デジタルツインコンピューティング、コグニティブファウンデーションで構成されますが(図11)、デジタルツインコンピューティングや4Dデジタル基盤上の膨大なデータをエンド・ツー・エンドのオールフォトニクス・ネットワークで支えていきます。また、移動ネットワークと固定ネットワークのコアは現在分かれていますが、それを融合していくようなコアが今後必要になると考えています。
前述のパーソナルメディカルソリューションを含めたメディカルICT戦略はデジタルツインコンピューティングのところにあります。一方で、O-RAN/vRAN(virtualized Radio Access Network)およびデバイスはインフラ側です。それら全体をDisaggregated Computing Modelが支えていくことになるのではないかと想定して研究開発を進めています(図12)。

■IOWN Space Computing

次にSpace Computing、地球エネルギー系と切り離された宇宙データセンタの実現です(図13)。例えば低軌道衛星にコンピューティングリソースを搭載し、衛星どうしをつないで分散処理コンピューティングプラットフォームを形成することを検討しています。生データをレーザ伝送で衛星に送信し、計算・分析結果をレーザ伝送で地球に戻します。MIMO(Multiple Input Multiple Output)技術が1年半後に衛星に載ることが決まりましたので、このような技術も利用できると思います。

■IOWNロードマップ

IOWNのロードマップを図14に示します。2020年度にIOWNグローバルフォーラムをスタートさせました。2021年度にはオールフォトニクス・ネットワークのユースケースが出てきますので、この後どのように設備に実装していくかという研究を合わせて進めていきます。また、4Dデジタル基盤TMの最初のバージョンは2021年度中にリリースすべく進めていきます。そして2022年度に光電融合型のデジタルシグナルプロセッシングを出したいと考えています。それからDisaggregated Computingの基本概念とリファレンス方式も検討していきます。2023年度にはドコモの5G 基盤展開率97%を目標にしています。2025年にはPSTNマイグレーションが完了します。また、2025年度には核融合のファーストプラズマ、デジタルツインコンピューティングのグランドチャレンジとして、群衆の未来社会探索、コミュニケーション特性翻訳エンジン、水循環・エネルギーの連成シミュレーション等が控えています。そしてAnother Meはかなり時間を要しますが、2035年に研究開発上の目標を置いています。

■社会のさらなる持続的成長に向けて

私たちはIOWNによるゲームチェンジを行いたいと考えています。光電融合素子、オールフォトニクス・ネットワーク、Disaggregated Computing Model、4Dデジタル基盤TMなどの要素がIOWNを支え、IOWNによって社会に変革をきたすように各種取り組みを推進していきたいと思います。アフターコロナの社会におけるリモートワールドの実現、ニューグローカリズムへの対応は私たちが考えている社会の大きなトレンドですが、そこにIOWNによるゲームチェンジを加えることで、より自立した日本の実現および世界への貢献を進めていきたいと考えています。

おわりに

本日は多くの方々にネットからアクセスいただいています。今後はデジタルイベントという概念がより当たり前になってくると思います。そこで私たちは、NTTがめざす世界観や社会課題への貢献について、3Dで発信する場を用意しました(図15)。私たちが情報を発信したり、あるいはここへ来て楽しんでいただけるような、技術のインキュベーションの場にしていきたいと考えています。
NTTはゲームチェンジ、Changing the Futureをベースにおいて研究開発や事業活動を進めてまいります。皆様、今後ともよろしくお願いいたします。