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特集

IOWN──APNで実現するネットワークサービス技術

APNで実現するネットワークサービス技術

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の実現のためには、従来のインターネットとは比較にならない大量のデータを効率良く処理できる高度なネットワークが求められます。NTTでは、この要求にこたえるために、光電融合技術を最大限活用した画期的なオールフォトニクス・ネットワーク(APN: All Photonics Network)の研究開発を行っています。本稿では、このAPNでさまざまなサービスを実現するための機能別専用ネットワーク(FDN: Function Dedicated Network)技術とその上で実現するネットワークサービス技術について説明します。

川端 明生(かわばた あきお)†1/青柳 雄二(あおやぎ ゆうじ)†2
NTTネットワークサービスシステム研究所 所長†1
NTTアクセスサービスシステム研究所 所長†2

オールフォトニクス・ネットワーク

IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)(1)のオールフォトニクス・ネットワーク(APN: All Photonics Network)(2)では、「DX/デジタル流通時代のさまざまなICT基盤のインフラ・オブ・インフラ」となることをめざしています。このためにAPNでは、通信ビルだけでなくユーザ施設(工場、病院等)やデータセンタ間をエンド・ツー・エンド(E2E)で広帯域な光ネットワークや無線アクセスでつないで誰でも超高速の光伝送や無線伝送を利用できる共用のネットワークを構築し、さまざまな産業のICT基盤として提供されるサービスでシェアリング(インフラ・オブ・インフラ)することをめざしています。APNで実現されるさまざまなサービスイメージを図1に示します。
図1に示すように、APNでは、大容量・低遅延の光マルチキャストパスをオンデマンドで任意の対地間で提供することで映像配信事業者とユーザに4K/8K等の「高臨場映像配信サービス」を提供したり、ユーザ近傍に配置されたMEC(Multi-access Edge Computing)から無線アクセスを経由した端末までのミッションクリティカルな遠隔制御メッセージ転送を保証する閉域パスを提供したり、自動運転車や工場内制御システム等のさまざまな利用シーンで「ミッションクリティカルな遠隔監視/制御サービス」を支えるインフラとなります。また大規模なデータセンタ間の光伝送サービスや5G(第5世代移動通信システム)/6G(第6世代移動通信システム)の基地局・無線制御システムとモバイルコア間をつなぐ伝送サービスを提供し、さまざまな「ICT・ネットワークのインフラ基盤」となります。

機能別専用ネットワーク

APNという同一のネットワークで、さまざまなネットワーク要件を持つサービスを実現し、共存させるために、機能別専用ネットワーク(FDN:Function Dedicated Network)アーキテクチャ(3)を採用しています。 FDN種別とユースケースを図2に示します。
FDNでは、デジタル信号を光パスに直接マッピングする①デジタル信号転送(Straight Digital)、アナログ信号を光パスに直接マッピングする②アナログ信号転送(Natural)、データをパケット等にフレーム化してフレームデータを光パスに転送する③パケットフレーム転送(Framed Digital)の3種の転送サービスを提供します。①、②がAPNで新たに提供される特徴的なサービスです。①の例では、低遅延の映像伝送のためのHDMI信号等を光パスで伝送するサービス、②の例では超セキュア通信を実現するための量子暗号を用いた暗号鍵伝送サービス等が実現されます。また③においても光の超大容量性を活かして、E2Eで制御メッセージを確定周期で周波数同期して伝送するE2E確定周期保障サービスを提供できることがFDNの特徴となっています。
このようなFDNを実現するアーキテクチャモデルを図3に示します。FDNは、APNの伝送・無線基盤、コンピュート基盤であるDCI(Data Center Infrastructure)と端末間の接続制御やデータ流通の制御等を行うネットワーク機能の組合せで構成されます。図3に示すように、マルチオーケストレータの指示に従い、FDNコントローラが、APN/無線基盤/DCI/ネットワーク機能のドメイン間を連携させる設定制御とそれぞれのリソース割り当てを行うことで、さまざまなサービス要件に応じたE2Eの専用転送機能を提供します。

高臨場コミュニケーションサービスを支える「オンデマンド光多地点接続技術」

1つの場所に大勢が集い、空間を共有することが常識だった会合やイベントも、今日では多様な場所からリモートで集まるようになってきて、便利さを感じる一方で、よりリアリティのあるコミュニケーションや高精細なビジュアルを期待していることも多いと思います。それは多くの人が利用できるサービスを支えるネットワーク技術の制約によるものであり、これは、新たなネットワーク技術の創造と普及により「高臨場」なコミュニケーションサービスに生まれ変わります。このような技術を実現するべく、私たちは、この技術を「オンデマンド光多地点接続技術(光オンデマンド)」と呼び、FDNの1つとして提案し研究を推進しています。この実現において、IOWNのAPNには、既存技術を大幅に上回るスケールの光通信コネクション数を同一ネットワークで実現することが求められます。このとき、従来の専用線サービスのような提供形態では、光パスが張りっぱなしになるためユーザのコスト負担が大きく、また光パス開通のための設計・設定期間を要するためにサービスの利用開始に時間が掛かる問題がありました。このためFDNでは、コントローラとして自動設定制御ソフトウェアを導入しユーザとAPNを仲介することで、ユーザが欲しいときに欲しい品質の光通信パスを提供できる仕組みを導入しています。このような仕組みにより、リモートワールドの映像イベントに低遅延で広帯域な光パスを安価に提供することが可能となります。また、要件の異なる各イベントの光コネクションをお互いが干渉することなく提供できるため、イベントを多数、同時に提供でき、サービスがより安価となります。またこの技術は光ネットワークの領域でありますが、後述する次世代無線制御技術と結合し連携することにより、無線ユーザへの「高臨場」なサービス提供にも貢献します(図4)。

エクストリームNaaS

FDNによって多様なユースケースをカバーしていくためには、無線アクセスを含めたサービス提供も必要となります。FDNの対象領域を無線アクセスに拡張させるため、多種多様なアクセス手段を用いて、超低遅延・超高信頼・超大容量といったエクストリームな要件を満たす品質をE2Eで維持し続けるネットワークサービスをエクストリームNaaS(Network as a Service)と呼び、研究開発に取り組んでいます(図5)。
エクストリームNaaSでは3つの革新をめざしています。第1は、ユーザが指定したアクセスの提供から、ユーザのやりたいことが可能なアクセス環境の提供に変えていくことです。これによりユーザは多様なアクセス手段を意識することなく、利用したいサービスを利用することが可能になります。第2は、制御情報の拡張です。カメラなどのセンサ情報や人の行動などのあらゆる情報を制御信号として活用することで、高精度な予測と新たな付加価値の創出をめざします。第3は、アクセスそのものの拡大です。宇宙や海中といったエクストリームなサービスエリアを実現するとともに、無線空間の持つポテンシャルを最大化させます。
エクストリームNaaSの実現には、さまざまな無線技術およびその周辺技術を高度化し組み合わせていく必要があります。その中でも重要な役割を担う2つの技術が、マルチ無線プロアクティブ制御技術(Cradio®)と、アナログRoF(Radio over Fiber)を用いたビームフォーミング技術です。
Cradio®では、自営・公衆を含む複数の無線ネットワークにおけるさまざまな情報の把握・可視化、通信品質の予測・推定、動的設計・制御技術という無線技術群を高度に組み合わせ、時々刻々と変化するユーザ要求や電波状況に追従します。また、さまざまな社会システムやアプリケーションと協調することで、無線ネットワークを意識させないナチュラルな通信環境の創造を可能にします。
アナログRoFを用いたビームフォーミング技術では、無線のアナログ信号をデジタル変換せずにそのままファイバにのせて伝送することで、エリアに多数展開していくアンテナ部を小型化・低コスト化することができます。さらに、遠隔でのビームフォーミングを行うことで効率的なエリア展開も可能になります。

協調型インフラ基盤サービス

APNを活用して農業ICTやMaaS(Mobility as a Service)等のサービスを実現するためには、端末、クラウド基盤、ネットワークを連携させてE2Eでサービス要件を満足する必要があります。ここでは、FDNの重要な要素技術で、この連携を可能にするために研究開発している協調型インフラ基盤アーキテクチャ(4)の概要を解説します。
図6では、農業ICT分野で圃場間や圃場内でロボット農機を用いて農作業の自動化を行い、遠隔監視・制御を実施する場合の協調型インフラ基盤の協調動作の例を示しています。この例では、圃場Aから圃場Bにロボット農機が移動するときに、ローカル5Gからキャリア5Gにモバイル網が切り替わり、トラクタと協調型インフラ基盤がプロアクティブにトラクタの移動位置とその場における通信品質を予測して通信品質が劣化する前に最適なモバイル通信網に切り替えるシナリオを示しています。
この例では、クラウド基盤上の遠隔制御・監視機能がGNSS(Global Navigation Satellite System)測位により現在の位置を把握して、今後の走行ルートと無線品質を予測します。ローカル5Gの品質が劣化することが予測されると、品質が劣化する前にキャリア5Gへのネットワークへの切り替え指示を行います。このような仕組みにより、E2Eでアプリケーションレイヤからみて通信断がないような切り替えを行うことが可能になります。このため農業トラクタのレベル3自動走行のようなミッションクリティカルなサービスの遠隔監視制御を実現することができるようになります。

今後の展望について

本稿では、APNとFDNで実現される代表的なネットワークサービスとその実現例を解説しました。今後もこれらのネットワークサービスを実現するアーキテクチャの詳細検討を行うとともに、ユースケースごとにPoC(Proof of Concept)を行うことでシステム実装を進め、APNの社会実装を進めていく予定です。

■参考文献
(1) https://www.rd.ntt/iown/
(2) https://www.rd.ntt/iown/0008.html
(3) https://www.ietf.org/lib/dt/documents/LIAISON/liaison-2021-05-28-iown-global-forum-iesg-iab-iown-global-forum-to-ietf-attachment-1.pdf
(4) https://www.bcm.co.jp/site/2021/03/nt/2103-nt-01-02.pdf

(左から)川端 明生/青柳 雄二

IOWNのAPNで実現される代表的なネットワークサービスとその実現例を解説しました。今後もこれらのネットワークサービスを実現するアーキテクチャの詳細検討を行い、APNの社会実装を進めていきます。

問い合わせ先

NTTネットワークサービスシステム研究所
TEL 0422-59-2684
E-mail nea-mgr-ml@hco.ntt.co.jp