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特集

NTTデータ 先進技術特集

顧客との共創に向けたグローバルでの先進技術の取り組み

2023年1月24〜25日にNTTデータが実施したイベント「NTT DATA Innovation Conference 2023」において、技術革新統括本部 技術開発本部イノベーションセンタ(イノベーションセンタ)のセンタ長と、イノベーションセンタ欧州および北米拠点の責任者が、グローバルでの先進技術に関する取り組みや、その成果を基にした顧客との共創R&D活動について発表を行いました。本稿では、各講演の概要をとおしてイノベーションセンタの取り組みを紹介します。

古川 洋(ふるかわ ひろし)†1/Pietro Scarpino†2/Theresa Kushner†3
NTTデータ†1
NTT DATA Italia†2
NTT DATA Services†3

イノベーションセンタの位置付けと役割(講演者:イノベーションセンタ センタ長 古川 洋)

NTTデータが2022年4月に発表した新中期経営計画の5つの柱のうち、イノベーションセンタでは、「先進技術活用力」と「システム開発技術力の強化」を担当しています。
私たちの目標は、世界中から高度な先進技術を獲得し、先進技術を基に革新的なお客さまと共創R&D(研究開発)を実行することです。イノベーション活動の加速に向け、世界6カ国にイノベーションセンタの拠点を立ち上げました(図1)。各拠点において先進技術の成熟度を検証し、検証した技術が顧客事例として事業価値を生み出すかどうかを確認します。この取り組みにあたっては、それぞれの拠点が持つ特性を活かし、最大限効率化を図ることが重要です。また、イノベーションセンタ全体としての統合性を保つため、グローバルに点在する各イノベーションセンタが適用する活動プロセスを標準化することが必要だと考えています。

イノベーションセンタ 欧州拠点の取り組み(講演者:イノベーションセンタ 欧州拠点 責任者 Pietro Scarpino)

欧州では、特に量子コンピューティングと産業分野におけるメタバースに焦点を置いて活動を行っています。また、「変革(Transform)」、「専門性(Specialize)」、そして「つなぐ力(Glue)」という3つの戦略の柱を掲げています。
まず、「変革」について、私たちは、積極的な提案活動によりイノベーションによる価値創造を実現しようとしています。具体的には、人間中心のアプローチを使ってイノベーションを起こし、真にビジネスにつながる提案を行っています。次に「専門性」ですが、先進技術を提案する際には、お客さまの業界や個々のニーズを把握しておく必要があること、また、導入のメリットを理解いただけるよう、専門的に対応することを意識して進めています。「つなぐ力」については、私たちは、これまでお客さまとの共創に向けてたくさんの方々とワークショップを行い、技術によってビジネスを変革する方法を議論してきました。こうした活動では、各イノベーションセンタの拠点間における連携も必要です。さらに、スタートアップや研究機関とも連携を進めており、お客さまに私たちのケイパビリティ(能力や強み)を提示しています。つまり、私たちイノベーションセンタを活用いただくことで、さまざまな連携が進み、ビジネス上のひらめきを生み出すことができるのです。
これらを実現するための4つの要素があります。まず、革新的なソリューションを構築する「高度な専門性を持つ技術人財(テック・アドバイザリー)」です。テック・アドバイザリーは、「変革を起こす環境(Innovation space)」にて、お客さまのニーズを理解し、私たちが提供できる価値を示します。私たちは進め方も重要であると考えており、単にイノベーションの場を提供したり、技術力を示したりするのではなく、実用的なアプローチによりビジネスへの影響を及ぼしていきたいと考えています。また、システム部門など一部の部門だけではなく、関連する各部門の関与を促し、社内における組織間の壁を解消することも重要であるため、活動の初期段階から各部門のメンバを参画させ、関係を構築します。このように、十分に関係構築を行ったうえでお客さまと議論を重ね、先進技術を基に私たちの価値を提案し、ビジネスをこれまでとは異なるかたちで推進していきます。
「The space」は、先進技術を紹介することを目的とした新しいコンセプトのショールームです(図2)。お客さまだけでなく、同僚などさまざまなステークホルダが最先端の技術を体験することができます。「The space」では、欧州拠点の技術に加え、イノベーションセンタの他地域の拠点が取り組む技術も体験していただくことができます。私たちは、設立から9カ月でお客さま(主に経営幹部層)向けのイベントを90件以上開催しました。先進技術がどう未来につながるかを知っていただくためのもので、200人以上の方に参加いただき、すでに30件以上の共創の機会が生まれています。この取り組みには、10カ国以上がかかわっており、活動をとおしてグローバルなつながりを構築することができました。
私たちは、さまざまな企業や研究機関とパートナーシップ構想を進めており、技術系企業では、NVIDIAと戦略的パートナーシップを締結しました。こうしたパートナーシップを活用してデジタルツインや産業分野におけるメタバースの専門家である彼らとともにソリューション開発を行っています。私たちは、お客さまへの共同提案を開始しており、複数の活動をともに行う予定です。そのほかにも、メディア企業とパートナーシップを結び、活動を行っています。
次に、産業分野のメタバースに関して進行中の事例を紹介します。私たちは、公共、メディア、エネルギー、製造業、通信などさまざまな分野で活動を行っています。活動の基本にデジタルツインのコンセプトがあり、デジタルのレプリカ(複製)を作成しています。物理的なもの(物体や実体)と仮想的に作成したレプリカを組み合わせることにより、いろいろなユースケースが生まれます。
ある事例では、お客さまから、データセンタのレプリカを作成し、デバイスのデータをすべて統合したいという要望をいただきました。仮想的に作成したシステムをモニタリングすることで、物理的な振る舞いのシミュレーションを行いたいというものでした。私たちは、プラットフォームを使って、3Dの仮想的なレプリカをつくり、データセンタにあるすべてのものを双方向にシミュレーションすることを実現しました。本レプリカでは、細かな構成部品までデジタル化されているので、詳細まで確認することができます。

イノベーションセンタ 北米拠点の取り組み (講演者:イノベーションセンタ 北米拠点 責任者Theresa Kushner)

私たちは、世界中からイノベーションの創出が期待される人財を集めて先進技術の可能性を検証しています。5〜10年後に主流となるであろう技術を特定し、お客さまとの共創をとおして、現在および将来の問題に対する解決の糸口を見出そうとしています。また、スタートアップや研究機関との関係性を強化することによって、技術的な強みを獲得しています。
北米では、イノベーションプログラムを実行しています(図3)。このプログラムでは、まず見込み顧客に対するイノベーション活動の入り口として、「ブリーフィングセンタ」を活用します。次に、「イノベーションスタジオ」において、既存の課題や技術を検討しながらお客さまのニーズを特定していきます。イノベーションセンタでは、問題解決に必要となる先進技術を検証し、検証で得られた知見を基に実証実験を実施し、MVP(Minimum Viable Product:お客さまに価値を提供できる最小限の製品・サービス)の作成までを一気通貫で行います。さらに、後続のデリバリーセンタが、製品開発、お客さまへの提供を担当します。非常にシンプルなモデルですが、私たちイノベーションセンタでは、このように包括的な活動を行っています。
私たちが活動を行っているイノベーションスタジオとイノベーションセンタについて、少し詳しく紹介します。
イノベーションスタジオでは、お客さまが中心となって活動を行います。ここでは、日々の業務から離れ、自身の問題の解決や、将来必要となることに対して集中して取り組むことができます。また、先進技術を使った課題の解決方法を検討することができます。机上でMVPを作成するようなこともあれば、自分たちの環境を模した仮想的な空間、例えば都市を模した空間に実際に入っていただくことで、没入感を得たり、これから活用しようとする先進技術を事前に体験したりすることもできます。
また、イノベーションセンタでは、先進技術を網羅的に検証し、技術の成熟度を判定することで取り組むテーマを決定しています。特定した技術について、どの拠点が取り組むべきかについても戦略的に検討します。そして、グローバルの拠点間で協力し、先進技術をお客さまのビジネス価値へと変換していくのです。私たちは、グローバルにおける技術戦略を設定し、それらを基に活動を進め、最終的に革新的なお客さまとの共創をめざしています。
北米では、特に「デジタルヒューマン」と「スマートスペース(知的空間)」の分野に注力し、活動を行っています。
デジタルヒューマン分野については、人間の姿をした3Dキャラクターに関する取り組みなどを行っています。最初に、アバターの作成、ボイスクローニング、可視化のプラットフォームなど、技術を構成する要素を特定し、技術評価を行います。私たちの拠点には、技術的な専門性に加え、価格、コスト、保守などの観点からお客さまに最適な提案が行える人財がそろっています。デジタルヒューマンを活用することで、人手不足の解消や、人件費の削減が実現できると考えています。また、デジタルヒューマンの事例としては、アパレル業界大手のお客さまと一緒に、仮想的な洋服の試着に関する取り組みを進めています。
スマートスペースについても同様に取り組みを進めています。スマートスペースとは、効率的かつ効果的な管理のために、ネットワーク化され、かつセンサを備えた物理的な環境であり、大きな空間だけでなく、店舗や工場といった小さな空間でも実現可能な仕組みです。例えば、ある地域の非常事態における対処方法を検討したい場合、シミュレーションを行うことが重要となりますが、その際、センサを利用するとともに、スマートスペースのケイパビリティを統合するのです。スマートスペースの事例としては、国際空港内にある公共交通を対象として、輸送ハブの動きをリアルタイムで収集して情報提供するといった取り組みを行いました。
私たちは、デジタルヒューマンとスマートスペースの組合せも有効だと考えています。スマートスペース上にメタバース空間があり、そこでアバターがガイドとなることで双方向のやり取りが生まれます。
私たちは、このような活動をとおして、NTTデータの一員として、またグローバルなイノベータとして将来に向けて貢献していきたいと考えています。

(左から)古川 洋/Pietro Scarpino/Theresa Kushner

イノベーションセンタでは、先進的なお客さまとの共創R&Dをめざし、グローバル拠点横断で技術検証や提案活動を行っています。私たちの活動に興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひお問い合わせください。

問い合わせ先

NTTデータ
イノベーションセンタ
E-mail ic_pr@kits.nttdata.co.jp