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特集1

IOWN構想における移動固定融合サービスの実現に向けた取り組み

無線アクセスネットワーク(RAN)運用管理のインテリジェント化を実現するコグニティブ・ファウンデーション(CF)連携基盤技術

5G(第5世代移動通信システム)ネットワークのRAN(Radio Access Network)では高周波数帯の活用や大容量化に伴い無線基地局が増加し、さらにスマート工場などでのネットワーク利用が期待されています。そのため、従来の装置オペレーションに加え、無線基地局スリープによる省電力化やネットワークスライス制御といった複雑なオペレーションが求められており、その実現にはネットワークの状況分析や制御内容の判断を自律的に実施する「インテリジェント化」が必要です。本稿では、RANを自律的に制御しインテリジェント化を実現するコグニティブ・ファウンデーション(CF)連携基盤技術を紹介します。

中島 求(なかじま もとむ)/高橋 謙輔(たかはし けんすけ)
津野 昭彦(つの あきひこ)/上野 真生(うえの まさき)
NTTネットワークイノベーションセンタ

RAN運用管理のインテリジェント化

5G(第5世代移動通信システム)/6G(第6世代移動通信システム)ネットワークのRAN(Radio Access Network)において、高周波数帯の活用に伴うマイクロセル化や大容量化によって無線基地局が増加し、RANの消費電力は年々増加しているため、トラフィックが少ない時間帯における無線基地局のスリープ制御などの省電力化が求められています。スマート工場などでのネットワーク利用の実現に向けた標準化が進み、ネットワークスライシングの実現や、装置故障が影響するスライスの把握といった装置とスライスの一元的な運用管理が求められています。また、エリア内における無線基地局の設置密度の高まりや、設定する無線パラメータ数の増加に伴い、RANの設計・運用業務はより複雑化し、人手で対応することが困難になる場合もあり、設計・運用の自動化が求められています。
このような状況に対応するには、従来のオペレーションに加え、ビッグデータやAI(人工知能)/ML(機械学習)を活用しネットワーク自身が制御対象や内容を自律的に判断する「インテリジェント化」を実現する必要があります。
RAN運用管理のインテリジェント化の検討は標準化団体O-RAN Allianceにて進められており、本稿ではO-RAN仕様に基づきRANを自律的に制御するコグニティ ブ・ファウンデーション(CF)連携基盤技術を紹介します。

O-RANアーキテクチャとSMO

RAN運用管理のインテリジェント化に向けた機能群やアーキテクチャはO-RAN Alliance にて策定が進められています。O-RANアーキテクチャを図1に示します。
5GにおけるRAN装置は、アンテナや電波を制御するRU (Radio Unit)、無線信号の処理を行うDU(Distributed Unit)、RU/DUの制御やコアネットワークとの接続を行うCU(Central Unit)から構成されます。これらはネットワーク機能(NF: Network Functions)と呼ばれ、NFに対しては無線パラメータ等の設定といったFCAPS(Fault、Configuration、Accounting、Performance、Security)制御を行う必要があります。また、現在RANの仮想化が進展(1)しており、仮想化されたDU、CUであるvDU、vCUが登場しています。vDU/vCUの動作プラットフォームである仮想化基盤に対しては、仮想リソースの確保といった制御を行う必要があります。O-RANアーキテクチャでは、これらの基本的な制御を実施する機能部として、SMO(Service Management and Orchestration)を定義しています。
自律的な制御を実現するロジックを処理する機能部としてRIC(RAN Intelligent Controller)が定義されています。RICは、1秒未満のリアルタイムな制御を担うNear-RT(Near-Real Time)RICと、1秒以上の制御を担うNon-RT RICに分かれており、SMOはNon-RT RICを具備し、Near-RT RICに対する制御を実施します。
私たちは、インテリジェントなRAN運用管理の実現にSMOが必要と考え、具現化に取り組んでいます。

SMOのアーキテクチャ

前述のとおり、SMOにはNFに対するFCAPS制御、仮想化基盤の制御、制御ロジックの処理が求められます。ここでは、それぞれの実現内容、SMOに求められる機能とアーキテクチャを解説します。
NFに対するFCAPS制御は、NFの新規作成や設定変更、処理負荷などの運用状態の収集、故障監視やアラームの検知などがあげられます。具体的には、PM(Performance Management)情報、FM(Fault Management)情報の収集や蓄積といったデータ管理、CM(Configuration Management)情報の保管、変更や履歴管理といったインベントリ管理があげられます。
仮想化されたNFが仮想化基盤上で動作する際には、仮想リソースの確保や、仮想リソースの故障監視、故障発生時のヒーリングといった制御が必要となります。
制御ロジックの処理を担うNon-RT RICは、個々の制御ロジックを実行するrAppと、ロジックの実行に必要な各種データの提供やNF制御機能などをプラットフォームとして提供するNon-RT Frameworkから構成されます。制御ロジックはさまざまな内容が考えられるため、rAppとNon-RT RIC Frameworkは疎結合化し、rAppの配備(デプロイ)や起動・停止などを共通的に管理するrApp管理機能が必要となります。
これらを実現すべく、O-RAN Allianceでは、図2に示すSMOの機能群を規定しています。
しかし、点線で示す機能(Non-Anchored Function)について、具備個所や機能分担などの実現方式は規定されておらず、検討を実施しています。
NFは、複数ベンダから提供されるマルチベンダ構成が想定されますが、Non-RICで実行する制御ロジックはベンダによらず共通的に動作することが望ましいです。そのため、NFに対するFCAPS制御を実現するRAN管理機能群、データ管理群、インベントリ管理機能群を担うOSS(Operation Support System)機能部を定義しNon-RT RICとは疎結合とします。
仮想リソースの制御に必要な機能群や、制御方式に関しては標準化が進んでおり、ETSI(European Tele-communications Standards Institute)NFV(Network Functions Virtualisation)MANO(Management and Orchestration)に規定されています。そのため、私たちはvDU/vCUを前提としたうえで、MANO機能部を定義しOSS機能部とは疎結合とします。
Non-RT RICには、rAppの制御ロジック実行に必要な機能群(R1機能群、A1機能群、AI/MLワークフロー機能群)とrApp管理機能群を具備します。
以上のようにNon-RT RIC、OSS、MANOの各機能部を具備するアーキテクチャによってSMOを具現化したCF連携基盤を図3に示し、以降では各機能部について解説します。

OSS機能部

OSSが実現するNFに対するFCAPS制御の具体としては、NFの設定を管理し、DU/CUごとのパラメータの設定やアンテナ角度(チルト角)制御といった変更や、ソフトウェアアップデートを実施します。NFのベンダによらず、NFの運転状態を監視し、動作状況やログを取得するとともに、信号のトレース、セルの閉塞やスリープ、PM情報を監視し、しきい値超過時のアラーム発行を実施します。
NFをSMOに収容追加するとき、OSS機能部はMANO機能部と連携し、仮想リソースを確保したのちにNFを起動し、設定情報を投入するとともに、NFと仮想リソースの紐付けを管理します。NFの構成管理を実施し、変更や削除、構成情報の世代管理といった機能を提供します。仮想リソースの障害が発生した際には、MANO経由で受信する仮想リソースのアラームと、仮想リソース上で動作しているNFを紐付け、NF単位のアラームを生成します。保守者は仮想リソースのアラームと、NFのアラームを受信でき、さらに対処する際には、NFとその仮想リソースを一元的にヒーリング制御し復旧させることを実現します。これらNFの管理機能をNFMF(Network Function Management Function)として具備します。
前述したネットワークスライシングについて、移動固定融合サービスなどの新たなネットワーク利用形態におけるRANスライス利用を想定する必要があります。このとき、サービス用途に応じ、他のネットワークなどを組み合わせることが必要で、複数のネットワークドメインにまたがるE2E(End-to-End)ネットワークスライスによる実現が考えられており、標準化が3GPP(3rd Generation Partnership Project)にて進められています(図4)。
スライシングの実現には、スライスと個々の無線基地局を対応付けて管理し、無線基地局に対しスライスの設定を実施する必要があります。スライス作成・設定変更・削除といった操作を実施する際は、設定変更対象となる装置を抽出し、スライスのパラメータを装置単位に分解し投入するといった構成管理を実施します。また、装置アラーム受信時に影響のあるスライスを抽出しスライス単位のアラームを生成するといった障害管理や、PM情報を監視しスライス単位でのしきい値超過判定を実施するといった性能管理を実施します。このようなスライスの構成管理・障害管理・性能管理を実施するスライス管理機能は、3GPP TS28.531に規定されているRAN NSSMF(Network Slice Subnet Management Function)を具備することで実現します。
これにより、RANドメインにおけるスライシングを実現するとともに、E2Eネットワークスライスを管理する上位システムであるNSMF(Network Slice Management Function)と連携してE2Eネットワークスライスへの提供を実現し、今後進展が想定されるトランスポートネットワークやコアネットワークにおけるスライシングと合わせ、エンドエンドでのネットワークサービスの実現をめざします。以上より、NFMFとNSSMFを備えるOSS機能部を具現化します。

Non-RT RIC機能部

RAN運用管理のインテリジェント化を推進するにあたっては、さまざまな制御ロジックを実現する必要があります。個々の制御ロジックはrAppとしてモジュール化し、実現したい制御内容に応じ、必要なrAppをNon-RT RIC Framework上でアドオン可能としています。
rAppが必要とする情報は制御ロジックにより異なるため、Non-RT RIC Frameworkは蓄積したPM/FM/CM情報に関して、PM項目や取得対象期間、CM項目や更新履歴、FMアラーム内容や発報日時等による検索が可能な状態でrAppに提供します。NFに対する制御においては、OSS機能部と連携し、マルチベンダ性を確保したCM変更や基地局スリープを実現します。複雑な制御内容は、複数のrAppを用いて実現することもあり、rApp間のデータ流通などの連携動作に必要な機能もNon-RT RIC Frameworkは提供します。
ここで具体例として無線基地局のスリープ制御を紹介します。無線基地局は、最繁時の需要を満たすように設置されますが、オフィス街のように夜間人口が少ないエリアでは、夜間・休日にトラフィックが大きく減少する特性がみられます。トラフィック情報を継続的に収集しこのようなエリア特性を抽出し、トラフィック減少時に無線基地局をスリープ制御させることで、ネットワーク消費電力を削減できます。しかし、無線基地局をスリープ制御した際、当該エリアが圏外となってしまいます。そこで、オーバーレイ関係にある基地局を自動的に抽出するとともに、アンテナ角度を自動最適化(2)し、当該エリアをカバーすることでユーザ影響を防止します。また、カバーしている基地局のトラフィック情報を監視し、トラフィック増加時にスリープ制御の解除を実施します。このような制御により、単純な時間帯によるスリープ実施・解除と比べ消費電力をより削減しています。この例は、オーバーレイ関係およびアンテナ角度変更量の算出を随時実行するrAppと、周期的にトラフィック分析に基づきスリープ実施を判断するrAppが連携して動作し、Non-RT RIC Frameworkを通じてアンテナ角度変更量やスリープ対象候補の基地局等のデータを共有します。
また、リアルタイム制御が必要な場合において、Near-RT RICと連携機能を提供します。具体例としては、ある基地局の負荷上昇時に収容端末を周辺基地局へハンドオーバさせ負荷を分散することが考えられます。このとき、事前にrAppにて周辺基地局の負荷を監視し適切なハンドオーバ先を抽出しNear-RT RICへ通知し、リアルタイム性が求められるハンドオーバ実施はNear-RT RICにて実施します。
現在、AI/ML技術の発展に伴い、ネットワークオペレーションへのAI/ML適用に関しさまざまな提案がされています。O-RAN Allianceでも、RAN運用管理においてAI/ML活用を実現するための検討が実施されています。AI/MLを活用した制御ロジックをrAppで実現するため、rAppにてAI/MLモデルを用いた推論を実施し、推論に用いるモデルの管理をNon-RT RICで実施する機能分担が検討されています。具体的には、モデルレポジトリを具備し、モデル登録や更新を受け付け、rAppにモデルを配備(デプロイ)し、利用するAI/MLモデルが更新された際の通知を行います。
AI/MLを用いた推論は、時間経過とともにさまざまな理由で推論精度が低下するため、再学習などの機能が必要となります。しかし、このような学習機能やモデル作成といった機能を備えるAI/ML基盤製品は、Kubeflowといったオープンソースも含め提供されています。AI/ML基盤製品は対応する学習アルゴリズムなどが製品によって異なっており、実現したい制御内容に応じて適切な製品を選択可能とすることが望ましいです。そこで、私たちは、R1インタフェースとして規定されているAI/MLモデル管理インタフェースを準用し、モデル格納・更新・削除をAI/ML基盤向けインタフェースとして提供し、モデル作成や再学習を実行するAI/ML基盤製品の選択を可能とする実現方式を検討しています(図5)。

MANO機能部

MANO機能部はETSI NFVの規定をベースに設計し、VNF(Virtual Network Function)が利用するリソースの調停を行うNFVO(NFV Orchestrator)、VNFのライフサイクル管理を行うVNFM(VNF Manager)から構成されます(図6)。
従来、NFVOやVNFMといったMANOを構成する製品は、運用対象となるVNFのベンダごとに個別に設計・実装されることが多く、複数ベンダ製品を組み合わせて運用する際のコスト増といった課題に直面していました。本MANOではこのような課題を解決すべく、ETSI NFVにて規定された共通仕様をベースに、複数ベンダ製品を組み合わせたマルチベンダ構成においても統一された仕様や操作によって運用が可能となるようにインタフェース・機能設計を行っています。
特にVNFMについては、マルチベンダ性の実現のため、OpenStack Tacker(3)プロジェクトを通じたオープンソースコミュニティ活動と並行した開発を進めています。さらに、NTTが保持するキャリアネットワーク運用のノウハウを活用し、RAN機能の実運用を想定した付加機能を実装しています。

おわりに

本稿では、RANを自律的に制御しインテリジェント化を実現するCF連携基盤技術を紹介しました。今回紹介した無線基地局のスリープとエリアカバー制御によるネットワーク消費電力削減のほかにも、無線基地局パラメータ設計・設定の最適化・自動化、ハンドオーバ用無線パラメータの最適化、AI/MLを活用したPMカウンタ異常値の検出などを実現しています。今後もさまざまな制御を実現する基盤としての活躍を期待しています。

■参考文献
(1) 水田・ウメシュ・中島・久野:“RAN仮想化(vRAN)に向けた取り組み,”NTT技術ジャーナル,Vol.34, No.9, pp.37-44, 2022.< (2) 岩本・鈴木・小林:“通信断エリアの早期復旧のための粒子群最適化によるアンテナチルト制御手法,”信学技報, Vol. 121, No. 324, IN2021-24, pp. 1-6, 2022. (3) https://wiki.openstack.org/wiki/Tacker

(左から)津野 昭彦/中島 求/高橋 謙輔/上野 真生

CF連携基盤技術は、O-RAN仕様に基づくSMOを具現化することで、RANを自律的に制御します。今回紹介するネットワーク消費電力削減、RANドメインのネットワークスライシングなど、RAN運用管理のインテリジェント化を実現する基盤として期待しています。

問い合わせ先

NTTネットワークイノベーションセンタ
ネットワークオペレーションプロジェクト
E-mail nttnic-pr@ntt.com

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