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2025年2月号

特集2

カーボンニュートラル実現への道──再生可能エネルギー普及拡大に向けて

エネルギーグリーン化のための新たな電力流通モデル「Internet of Grid プラットフォーム」

NTTアノードエナジーは、カーボンニュートラルの達成には再生可能エネルギーのさらなる拡大が必要不可欠と考えています。しかし、現在の送配電網は大規模発電所からの電力供給を前提にしており、太陽光発電等の分散型電源に適したものにはなっておらず、これらの課題を解決するために、新たな電力流通モデル「Internet of Grid(IoG)プラットフォーム」を開発しました。本稿では、IoGプラットフォームの開発経緯ならびに今後の展望について紹介します。

永井 卓(ながい すぐる)/山際 孝典(やまぎわ たかのり)
NTTアノードエナジー

はじめに

NTTグループでは、日本全国に通信局舎があり、停電時でも通信事業を継続するために蓄電池を保有しています。
また、NTTでは新たな環境エネルギービジョン「NTT Green Innovation toward 2040」を発表し、2040年度までにカーボンニュートラルの実現をめざしています。
このような中で、NTTアノードエナジーは2019年6月に設立され、NTT通信局舎の蓄電池等を活用し、再生可能エネルギー(再エネ)拡大に向けた取り組みを展開しています。
近年、これまでの再エネの主力であったウインドファーム(集合型風力発電)やメガソーラー(大規模太陽光発電システム)等は開発ポテンシャルが少なくなってきており、これからは中小規模の太陽光発電等の増加が見込まれます。
一方で、現在の一般送配電事業者が運用する配電系統においては、これら中小規模太陽光発電等が系統に接続できないケースが増えてきており、課題となっています。
そこで、NTTアノードエナジーではこの課題解決に資する新たな電力流通モデルである「Internet of Grid (IoG)プラットフォーム」を開発しました。

開発の背景

現在の送配電網は、火力発電所などの大規模発電所からの電力供給を前提としているため、各家庭へ供給するまでの間、段階的に電力流通設備の容量が小さくなっています。そのため、特に電力流通設備の容量が小さい配電系統に導入される各家庭や、地域の太陽光発電や風力発電等の再エネを増やし、利用していくためには、天候や時間帯で変化する電力系統の潮流把握や、再エネの増加に伴う電圧上昇や設備容量の増強等が必要となり、これらの解決が喫緊の課題となっています。これらの課題解決を図るために、新たな電力流通モデルを実現するIoGプラットフォームの検討をすることとなりました。

再エネ導入拡大に関する課題と対処方針

既存の配電網は、発電所から需要家等に向けて電力流通設備の容量が小さくなるように設計されており、容量の小さい需要家付近の末端系統に再エネが接続されることは想定していませんでした。このため、電力流通設備の容量不足により、中小規模の太陽光等の再エネの末端系統への導入ができないケースが発生してきており、再エネの導入拡大にあたっての大きな課題となっています。
本事象への対処方法としては、まずは再エネを最適に導入できるように、配電網および配変電所をつくり変えることが考えられます。しかしながら、この方法は莫大な規模の投資が必要であり、その実現は極めて困難であると考えています。
その他の対処方法としては、既存の配電網を最大限有効活用しつつ、接続する再エネを増やすという方法が考えられます。この実現にあたっては、配電網の電流や電圧等の潮流データ把握が必要となります。現在の配電網ではこれら潮流データが正確に把握できないため、いつ・どの程度の電力が供給、または発電されるか不明であり、電力系統の電圧上昇や電流増加のリスクを回避するために再エネの系統連系ができないケースが増加しています。
そのため、スマートメーターで潮流データを把握、分析し、電流増加や電圧上昇時に蓄電池制御することを一体的に行う、これまでになかった新たな電力流通モデルであるIoGプラットフォームを開発しました。IoGプラットフォームにより、既存の電力インフラに通信を融合させ、既存の配電網を最大限有効活用しつつ、接続する再エネを増やすことができるインフラへアップデートすることが可能となります。

IoGプラットフォームの構成

IoGプラットフォームは、スマートメーター、潮流マネジメントシステムと蓄電池で構成されており、主な役割は以下のとおりです(図1)。
(1) スマートメーター
従来のスマートメーターは、電力使用量を計量することが主な役割でしたが、今回製作したIoGプラットフォームのスマートメーターは電力使用量に加え、電流や電圧等の潮流データを計測します。これらのデータを潮流マネジメントシステムへ送信し、配電網内の潮流把握のために使用します。
また、スマートメーター内にサービス基盤を設け、さまざまなサービスのハブとして活用できるマルチユースを可能とする仕組みを持っています。
(2) 潮流マネジメントシステム
潮流マネジメントシステムは、IoGプラットフォームの司令塔として機能します。スマートメーターからの潮流データを把握、分析し、設備許容値を逸脱しないかを監視するとともに、蓄電池へ充電指示を行い、系統安定化を実現します。
(3) 蓄電池
配電系統の電流や電圧が設備許容値を上回ることが予見された場合、潮流マネジメントより指示を受け、充電を行います。
また、この蓄電池は充電した電気を市場取引に活用したり、災害時や大規模な停電の際に災害避難施設等に電力を供給したりする等マルチユースを可能とする仕組みを持っています。

IoGプラットフォームによる再エネ導入促進効果

晴れた日の昼間は、太陽光再エネの発電量が増え、配電系統に逆潮流する電力量が多くなるため、配電系統内において電圧上昇や電流の増加が発生します。
電圧を例にすると、配電系統内において低圧は101 Vの上下6 Vを超えないように法律で定められています。そのため、現在の配電系統では電圧が上昇した場合、この範囲に収まるよう電圧を調整する必要がありますが、一般送配電事業者が管理する既存の配電系統では電流や電圧といった潮流データが把握できていないため、これ以上発電を行わないように再エネの系統連系回避や出力抑制を行うこととなります。
IoGプラットフォーム導入後の配電系統では、電圧や電流といった潮流を測定し、潮流マネジメントシステムにて可視化を行い配電系統内の状況を監視します。また、測定された潮流データにより設備許容値逸脱の可能性が予見された場合、蓄電池への充電指示を行い、電圧上昇や電流増加を抑制します。この取り組みによって再エネの発電量増加が可能となります(図2)。

他エネルギーソリューションとの違い

これまでの主なエネルギーソリューションであるDR(Demand Response)やVPP(Virtual Power Plant)は、再エネ発電含めた電力供給量と需要量を一致させることを主な目的として、発電や電力使用量の抑制等、再エネ発電事業者や需要家への制約を前提としたソリューションです。
一方、IoGプラットフォームはこれら再エネ発電事業者や需要家への制約をなるべくなくして、最大限再エネを配電系統につなげられるように、配電インフラのアップデートを目的としたソリューションであり、この点が最大の違いです(図3)。

蓄電池のマルチユースについて

IoGプラットフォームの蓄電池については、前述の電流増加や電圧上昇対策に加え、夜間においては充電した電気を電力市場取引へ活用することが可能です。また、災害発生時においては避難施設等に対して電気を供給する非常時マイクログリッドの調整力としての活用など、マルチユースが可能です。

スマートメーターのマルチユースについて

IoGプラットフォームのスマートメーターについては、潮流データの測定以外にもマルチユースが可能です。スマートメーター内に新たなサービス基盤を搭載し、さまざまなアプリケーションを組み込むことが可能です。さらに、HES(Head End System)に振分け機能を搭載しており、多様なサービスのハブとしての活用を可能としています(図4)。
サービス基盤を活用した考えられる取り組み例としては、需要家向けのエネマネ(エネルギーマネジメント)サービスが挙げられます。
従来は需要家向けエネマネサービスを行う場合、HEMS(Home Energy Management System)機器やルータ等の準備が必要でしたが、IoGプラットフォームのスマートメーターにより、内部に搭載されたサービス基盤にHEMSに対応したアプリケーションを組み込むことで、HEMS機器やルータ等が不要となり、電気給湯器やEV(電気自動車)充電器等の家庭内に設置した家電機器に対して電力見える化や制御等のエネマネサービスが手軽に実現できます(図5)。
そのほかにもスマートメーターのサービス基盤に直接電気給湯器を制御できるソフトをインストールすることで、天気の良い日は昼間の太陽光発電を利用し、また天気の悪い日は夜間の安価な電気を利用する等、再エネ電気をより多く利用するために気象状況等により沸き上げ時間を自動的に変更することが容易となります。

IoGプラットフォームの実証について

NTTアノードエナジーと岐阜県八百津町は、2020年度に実施した国の「マイクログリッドの構築に向けたマスタープラン作成事業」をきっかけに、配電事業や非常時マイクログリッドの検討に取り組んできていることから、IoGプラットフォームの実証実験を2024年9月から八百津町で開始しています。
具体的には、八百津町の協力のもと大崎電気、NEC、NTTテクノクロス、三菱電機、NTTデータ東北とともに、八百津町施設および蓄電池を設置したNTT施設敷地内にスマートメーターを設置し、スマートメーターで計測した電圧等の潮流データについて潮流マネジメントシステムで把握・管理を行い、電圧上昇の状況に応じて蓄電池を制御して電圧上昇の抑制を図ります。

今後の展開について

八百津町での実証実験を踏まえ、送配電事業者へのIoGプラットフォームのサービス提供に加え、当社自らが配電事業や、特定送配電事業等で活用することを検討していきます。
また、IoGプラットフォームにおけるエネルギーサービスのハブとなるスマートメーターを活用して、前述の電気給湯器やEV充電器等の需要家リソースの監視や制御の実現に向けた取り組みをACCESS社と行うとともに、電力使用監視(デマンド監視)や水道・ガス等の共同検針の実現に向けた取り組みについても大崎電気やNTTテレコンと行います。
将来的には、エネルギーサービスだけでなく、防災情報等の自治体サービスとの連携等に向けた取り組みについても検討を進めます。IoGプラットフォームのスマートメーターには、これらが可能となるよう多様なサービスのハブとして活用できる機能を搭載しており、また、HESに振分け機能を搭載することで、サービス事業者にとって事業展開しやすい環境を提供します。

おわりに

今後、電力の主要電源が再エネとなっていくことから、既存の電力流通システムを変革し、より配電分野に設備投資を行っていくなどの投資リバランスを進めていく必要があり、その際に新たなイノベーションやこれらを活用した事業者による取り組みを活性化していくことが望ましいと考えています。
このような観点からも、今回のIoGプラットフォームによる取り組みを進めることは重要であり、IoGプラットフォームの事業を通じて、再エネのつながりやすい社会をめざすとともに、自治体のレジリエンス強化等の地域貢献にも取り組んでいきます。
また、NTTグループの通信事業と電力は、電柱や電線等の同じような資産を擁するため、インフラとしての親和性が高いことから、これらの相乗効果についても追求していきたいと考えています。

(左から)永井 卓/山際 孝典

NTTアノードエナジーは、今回紹介したIoGプラットフォームのようにNTTグループの保有するアセットやICTに関する知見を活用し、再エネのさらなる普及拡大を通じた、持続可能な社会へ貢献できる取り組みを今後も展開していきます。

問い合わせ先

NTTアノードエナジー
経営企画部 広報室
TEL 03-5444-2442

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