NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

2026年1月号

特集

NTT R&D FORUM 2025─IOWN∴Quantum Leap

光技術によるコンピューティングの革新~IOWN 2.0、 3.0への進化、そして量子への飛躍~

本記事は、2025年11月19〜26日に開催された「NTT R&D FORUM 2025─IOWN∴Quantum Leap」における、島田明NTT代表取締役社長の基調講演を基に構成したもので、光技術によるコンピューティングの革新について紹介します。

NTT代表取締役社長
社長執行役員
島田 明

光技術によるコンピューティングの革新

今回、2つのコンピューティングのイノベーションについて紹介します。
1つは「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)光コンピューティング」についてです。こちらは、電気の配線を光の配線へ変えることにより、エネルギーの限界を超えて、AI(人工知能)時代のコンピューティングを支えていく低消費電力のインフラを実現するというものです。
もう1つは今回のNTT R&Dフォーラムのテーマでもある、「光量子コンピュータ」についてです。こちらは、従来のコンピュータによる計算処理の限界を超えて、今まで現実的には解けなかった問題を低消費電力で解決していく技術となります。
まず、最初のイノベーションであるIOWN光コンピューティングについて紹介します。

IOWN光コンピューティング

NTTでは進化する未来のコミュニケーションを、ハードウェアとソフトウェアの両面からIOWN光コンピューティングにより解決をめざします。
ハードウェア面においては、従来電気でつないでいた信号を光でつなぐ信号に置き換え、消費電力を削減しながら低遅延で高速な通信を実現します。
ソフトウェア面において、従来、高度な処理を必要とする大規模なコンピュータでは、部品の組合せに制限があるため、筐体単位の増設が必要となり、使わない部品でも電力を消費していましたが、この制限を取り払い、必要な機能を必要な分だけ使えるリソースの配分技術により、処理の高度化と消費電力の削減を実現します。
将来的には超高速ネットワークであるAPN(All-Photonics Network)を組み合わせることで、遠隔地のコンピュータをあたかも1つの高性能なコンピュータのように利活用し、再生可能エネルギーや発電施設近傍での効率的な電力の利用が可能となります。
このような技術を通じて、NTTは進化する未来のコミュニケーションを光による低消費電力で支えます。

■AIの利活用の急激な進展

AIはかつてない速度で社会に浸透してきています。かつてFacebookが1億ユーザを獲得するのに54カ月かかったところ、OpenAIのChatGPTが1億ユーザに到達するのはわずか2カ月でした(図1)。
このような利用拡大を背景に、世界のAI市場は2030年に約1.8兆ドル、つまり日本円で約270兆円規模に成長すると予測されています。AIの活用が広がるにつれて、AIの開発や運用に使われるコンピュータの規模も年に1.8倍の勢いで、急速に拡大しています。
例えば、2020年にOpenAIがGPT-3の開発に用いたコンピュータには、AI処理を高速化するためのGPUが約1万枚搭載されていました。ところが、2022年に同社がGPT-4を発表した際には、その数が約2.5万枚へと増加しています。さらに、イーロン・マスク氏が開発を進めているX-AIの最新コンピュータでは、20万枚にも及ぶGPUを搭載するといわれています。多数のGPUを用いたAI処理では、GPU間で大量のデータのやり取りが行われるため、通信量はますます大容量化しています。

■大容量通信における光の優位性

NVIDIAの最新GPUでは、GPU間通信に1秒間当り14.4Tbitもの非常に大きな帯域が使用されています(図2)。この14.4Tbitという値は重要なキーワードです。これは、ブルーレイディスク約72枚分のデータを、わずか1秒で転送できるほどの速度に相当します。このような大容量の通信において、従来の電気配線による通信では伝送距離が伸びるほど飛躍的に消費電力が増加します。昨今の大容量化した通信では、その影響が非常に大きくなってきており、コンピュータ内の数10cm程度の短い配線であっても、15cmあたりから電力消費が急速に増大します。これに対して光による通信では、伝送距離が延びても消費電力はほとんど増加せず一定のままです。
このような光と電気の性質の違いから、コンピュータ内部の通信は電気の限界に達しつつあり、通信によって消費される電力の増化や、それによって発生する熱の問題は無視できません。特に、熱の問題は非常に重大です。図3は電気と光のそれぞれが適している通信の領域を示しています。灰色が電気による通信が適している領域、青色が光による通信が適している領域です。通信の容量が大きくなると、これまで電気のほうが適していた短い距離においても、光による通信が求められるようになります。
前述した14.4Tbitという値は、まさにこの青色の領域に入ってきます。昨今のAIコンピュータに求められる、1秒間に10Tbit級の大容量通信では、光が必要であることが分かります。
NTTは40年以上にわたり、光による通信の研究開発および実用化に取り組んできました。情報通信の発展の中で、もともとはNTTの局舎間を光でつなぎ、大容量・高速化を進めてきました。その流れの中で、局舎から家庭へ、そして局舎間、さらにはデータセンタ内部の通信に至るまで、長距離から短距離へと段階的に光へ変化させてきたのです。NTTは時代、時代における最先端のニーズに応じて、より小さな単位での光による通信の革新に取り組んでいます。

■光電融合(PEC:Photonics-Electronics Convergence)デバイスを用いた光配線化

現在のコンピュータ内部には、CPUやGPUなど情報処理を担う部品があり、これらの大半は電気によって動作しています。各部品は電気配線で接続され、相互に通信を行っています。しかし、前述のとおり、たとえ短距離でも大容量の通信には多くの電力が必要です。そのため、この配線を光に置き換えることで、消費電力を削減することが可能になります。ただし、単に電気配線を光配線へ置き換えるだけでは不十分です。情報処理用の部品そのものは電気で動作するため、そこから出る電気信号を光配線に適した光信号へ変換し、別の部品に届ける際には再び光信号を電気信号へ戻す必要があります。この変換を担う、小型かつ高効率なデバイスが求められており、これを「光電融合デバイス」と呼びます。
光電融合デバイスは、光信号と電気信号の相互変換を行うために必要な機能をパッケージングしたものになります。具体的には、光配線から入ってくる光信号を、まず極めて弱い電気信号に変換する受光半導体があります。続いて、その信号を増幅して読み取れるかたちに整え、電気配線へ送り出す電気信号増幅器が必要になります。また逆に、電気配線側から入ってくる電気信号を光信号に変換し、光配線へ送り出すためには、光源駆動用電流制御器や光源半導体が必要になってきます。コンピュータの中を光化していくにあたり、小さな部品1つひとつに、この光電融合デバイスを装着していく必要があり、そのために、どれだけデバイスを小さくできるか、そしてこのデバイス自体が余分な電力を生じさせぬよう、どれだけ電力効率を高められるかが重要になってきます。
IOWN構想では光電融合デバイスを段階的に高度化し、ネットワークからコンピューティングの中まで適用していきます。
最初のIOWN 1.0では、ネットワークの接続部分にある中継装置、それからデータセンタ間、サーバ間のネットワーク装置に光電融合デバイス(PEC-1)を適用しました。
PEC-1を用いた高速・大容量・低遅延なネットワークサービスが「APN IOWN 1.0」で、2023年に商用化しました。2025年に開始されたIOWN 2.0ではいよいよ光電融合デバイスをコンピュータの内部に適用していきます。進化した光電融合デバイス(PEC-2)を用いて、コンピュータボード間の電気配線を光の配線に置き換えていきます(図4)。

■IOWN2.0を実現する機器

PEC-2がIOWN 2.0を実現するために開発を進めている機器で、2026年に商用提供を開始したいと思っています。PEC-2は20mm程度の幅の小さなデバイスで「光エンジン」とも呼ばれています。このPEC-2デバイスを16個内蔵した製品がスイッチです。このスイッチは、総容量で1秒当り102.4Tbitの伝送が可能です。これは、前述した最新のGPU間通信速度である14.4Tbitと比べて7倍以上の大容量となり、AI処理に対して十分な性能を備えています。
これらの機器のプロトタイプを用いることで、従来の8分の1の消費電力で動作するコンピュータを実現しました。2025年の大阪・関西万博のNTTパビリオンで実際に使用しましたが、184日間止まることなく、しっかりと稼動していました。

■光エンジンによるイノベーション

従来の光通信スイッチでは、光通信モジュールがスイッチの前面に取り付けられており、そこから通信相手への切り替えなどを行う情報処理用の他のチップへは、電気配線で接続されていました。そのため、配線の長さが 30cmほどになり、この長さが原因で消費電力が増やしてしまうという課題がありました。しかし、新しい光電融合スイッチでは、光エンジンと情報処理のICチップが同一の台座の上に実装されることによって、ICチップのすぐ近くまで光配線を引き込むことが可能になりました。これにより電気配線が約10分の1となる3cm程度にまで短くすることができ、消費電力を劇的に低減することができました(図5)。
光電融合スイッチの商用化にあたっては、米国のBroadcom、台湾のAccton Technologyをはじめとする、サプライチェーン各社とパートナーシップを確立しています。当社グループのNTTイノベーティブデバイスが中核となる光エンジンとスイッチモジュールを設計製造し、全体をコーディネートしています。
毎秒102Tbitの容量が本当に必要なのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、データセンタのスイッチに使われるBroadcomの「Tomahawk」というLSIの処理容量が毎秒102Tbitに達していることから、すでに光配線が必要であることが分かります。
また、NTTイノベーティブデバイスでは、ライン当り月間約5000個の光エンジンの生産能力を完備しています。これは昼間の稼動のみでの結果であるため、夜間も稼動させればさらに製造能力は上がりますが、今後の需要によってはラインを少なくとも3ラインほど増強する計画を立てています。また、光エンジンの組み立て実装から検査工程までをロボットを導入して自動化することで生産性の向上を図っています。

■IOWN 3.0:光コンピューティングのさらなる進化

IOWN 3.0では、2.0のボード間接続用光配線をさらに進化させ、光電融合デバイスのPEC-3を用いて、CPUやGPUといった半導体パッケージ間の接続を光配線化することをめざしています(図6)。
IOWN 3.0では、パッケージから直接光配線で情報を伝送することで、劇的な低消費電力を実現していきたいと考えており、私たちはこれを「光I/O」と呼んでいます。このため、パッケージに直接接続できるほどに光電融合デバイスを小型化する必要があるのですが、NTTは従来の光デバイスの構造を抜本的に変え、薄膜構造でデバイスをつくる独自の手法を開発し、これを「メンブレンデバイス」と呼んでいます。試作した光送信モジュールは指の上に載せられるほど小さく、横1.11mm×縦2.75mmほどの「チップレット」と呼ばれる構造にこのメンブレンデバイスを16個搭載しています。このPEC-3デバイスである光チップレットについても商用化に向けた研究開発を進めており、2028年に光チップレットの商用サンプルの提供を始めたいと考えています(図7)。
ここまでIOWN 3.0について紹介しましたが、IOWNの進化は3.0で終わるわけではありません。2032年ごろに実現予定のIOWN 4.0では、ついにパッケージ内部の配線も光化していくことをめざしています。これにより、最終的には電力消費を100分の1にまで削減することを目標としています。40年以上に及ぶNTTの光に関する研究開発の成果が、今まさに昔ながらの通信の世界からコンピュータの世界に広がっていこうとしています。
次に、もう1つのイノベーションとなる、光量子コンピュータについて紹介します。

光量子コンピュータ

最新のコンピュータやAI技術でも解決が難しい問題に対し、量子コンピュータの期待が高まっています。量子コンピュータの研究は近年急速に進展し、産業化の波が押し寄せています。市場予測では、2030年代には数兆円規模に成長し、期待はかつてないほど高まっています。量子コンピュータには、超伝導、中性原子、光などさまざまな方式があります。NTTは光通信技術から生まれた光量子方式に挑戦し、光の特性を活かすことで、高速・省電力で圧倒的なスケーラビリティを実現します。通信との親和性も高く、未来のネットワークとつながる力を持っています。
私たちは光の力で量子計算を次のステージへ導きます。それは、エネルギー効率を極限まで高めた持続可能な社会の新しい計算基盤です。

■従来のコンピュータの限界

従来のコンピュータは、多数の可能性を検証しなければ答えが出ない問題に対して、扱える複雑さに限界がありました。例えば、従来のコンピュータが迷路を解く場合、道の1本1本を順番に探索し、行き止まりにぶつかればいったん分岐点まで戻って、次の道を探索するということを出口が見つかるまで繰り返します。しかし、この方法では迷路が複雑になると膨大な計算回数が必要になってしまいます。これに対して量子コンピュータは、すべての道を同時に探索し、出口につながる道のみを残すような動作をしていきます。そのため一度に複数の可能性を検証できるため、計算回数は劇的に削減できるので従来よりも圧倒的に複雑な問題を解くことができます。

■量子コンピュータへの期待

現実社会では、社会的なメリットがあるにもかかわらず、計算処理能力の限界で実現が難しかった課題があります。例えば、大都市の交通や物流の最適化、新触媒の開発によって肥料を空気中の成分から効率的に合成し食糧問題を解決すること、個々の体質や遺伝子に合わせて最適な薬の分子構造を設計する創薬、さらには新しいエネルギー源として期待される核融合炉の設計などですが、量子コンピュータによって圧倒的に計算処理効率が向上することで、これらが実現可能になると期待されています。
このような量子コンピュータの能力の源泉は、量子ビットと呼ばれる従来とは根本的に異なる情報の表し方にあります。従来のコンピュータでは0から1の値が保持できるビットによって情報を表していました。ビットはある時点で0か1のどちらか確定した状態しか取れないので、いくらビットを増やしても同時に表せる状態は1つだけになります。
一方で量子コンピュータでは、0と1の値を同時に保持できる量子ビットによって情報を表すことになります。1つの量子ビットは2つの状態を同時に表せるので、量子ビットを増やすにつれてその組み合わせで指数関数的に表せる状態が増えていきます。量子ビットに対して計算を行うことで一度の計算で複数の状態、すなわち可能性を処理することができます。少し難しい内容かもしれませんが、さまざま状態を表すことができるということです。この量子コンピュータが持つ量子ビットの数は解くことができる問題の複雑さにも直結していきます。1000量子ビット以下では、今は実証のための研究用途に使用され、10万量子ビットぐらいになると、中小規模の問題が解けるようになります。しかし、前述したような社会インパクトの大きい創薬や、暗号の解読、気象予測など汎用的に使うには、およそ100万量子ビットから1億量子ビットが必要になります。

■量子コンピュータの歴史

量子コンピュータの概念は、1980年代にはすでに提唱されていました。しかし、そこから1999年に最初の量子ビットが実証されるまでには18年かかっています。そして、わずか5量子ビットのコンピュータが実際につくられるまでには、さらに約17年、2016年までかかりました。近年では、半導体技術の進化や投資の拡大によって量子ビット数の増加は加速していますが、前述の100万量子ビットや1億量子ビットの実現には、まだ遠い状態です。量子ビット数の拡大が難しい理由の1つは、従来方式に制約があることです。例えば、超電導方式や中性原子方式では、量子ビットを絶対零度に近い温度まで冷やす必要があったり、真空状態を維持する必要があったりと、非常に厳しい動作条件があります。そのため、これらの条件を満たすためには大規模な設備が必要となってしまい、これらが量子ビットの数の拡大を妨げていたと考えられます。
そこでNTTは制約の少ない光量子方式に着目し、研究開発に取り組んでいます。光量子方式のコンピュータは、常温・常圧といった普通の環境下の中でも動作することが最大の魅力であり、スペースも小スペースで済みます。逆に、高速省電力、低投資なども実現できるため、他の方式にない利点が山のようにあります。これによって圧倒的なスケーラビリティ、すなわち量子ビットの急激な拡大を他の方式のおよそ10分の1から100分の1ぐらいの消費電力で実現することができます(図8)。

■実用化に向けたロードマップ

当社は長年研究してきた光の技術を、量子の性質を持った光をつくり出すための「量子光源」に応用し、OptQC(東京大学発のベンチャー)、理化学研究所等と光量子コンピュータを2024年に実現しました。量子光源は従来よりも非常に良質な量子特性を持つ光を生成することができます。言い換えれば、量子の歩留まりが良いということです。この特性はさらにスケーラビリティの向上に寄与していきます。これが実現できた根底にはNTTが光通信の高度化で培ってきた、光を増幅したり、光の性質を変化させたりする技術があります。
そしてこのたび、NTTとOptQCは光量子コンピュータの実用化に向けた連携協定を締結しました。NTTの量子分野へ応用可能な光通信技術とOptQCの光量子コンピュータの開発技術を組み合わせることで、スケーラブルで信頼性の高い世界トップレベルの光量子コンピュータの実現をめざしていきたいと思います。現在、世界的な最新研究レベルでも、量子ビット数は数100からせいぜい1000程度にとどまっています。一方で、汎用利用に必要な量子ビット数はおよそ100万から1億量子ビットとされており、実現にはまだまだ遠い状況です。
NTTとOptQCは光量子方式で、スケーラブルな性質を活かして2030年に世界トップレベルの100万量子ビットを達成したいと考えています。さらにその先、他社に先駆けて1億量子ビットの達成をめざし(図9)、2028年ごろにはさまざまなユースケースを示したいと思っています。

おわりに

NTTは光の技術を用いて、エネルギーの限界、そして従来の計算処理の限界を打ち破って、コンピューティングを革新していきたいと考えています。
現在、世界はAIの進化によって、かつてないほどの変革の時期を迎えていますが、NTTはAI時代のインフラを提供していくだけではなく、さらにその先の量子時代のコンピューティングの革新を通じて、サステナブルな未来社会の実現に貢献していきます。

DOI
クリップボードにコピーしました