2026年6月号
from NTT東日本
既設光ファイバを活用した地中空洞検知の社会実装に向けたNTT東日本の取り組み
道路陥没等に代表される社会インフラの老朽化に伴う事故リスクが顕在化する中、事故につながる「予兆」を広域かつ効率的に把握し、日常的なインフラ維持管理を可能とする技術への期待が高まっています。NTT東日本では、既設の通信用光ファイバを分布型センサとして活用する光ファイバセンシングに着目し、地中空洞等見えない異常の予兆を検知することをめざしています。本稿では、本取り組みに至るまでの経緯、自治体・大学・建設会社等との共同研究の概要、ならびに社会実装に向けた具体的な適用方法などについて紹介します。
社会インフラを取り巻く課題と予兆監視の必要性
近年、道路・橋りょう・トンネル等に代表される社会インフラの老朽化が急速に進行し、突発的な事故や災害の発生リスクが顕在化しています。2025年1月には、埼玉県八潮市において下水管の老朽化を原因とする道路陥没事故が発生し、1名が犠牲となりました。本事故は、社会インフラの老朽化が、もはや将来の懸念ではなく、「いつ起きてもおかしくないリスク」として現実のものとなっていることを、改めて社会に示した出来事であったといえます。
NTT東日本をはじめ、電力・水道・ガス等のインフラ事業者は、地下空間に膨大な量のインフラ設備を保有・管理しています。これらの状態を把握するためには、現地での点検や調査が不可欠であり、多数の人的リソースと多額の費用を要します。また、日本における社会インフラの総延長は極めて長大であり、老朽化に伴う更新需要も年々増加しています。しかしながら、担い手不足がインフラ業界全体の共通課題となっており、従来と同様の方法で設備全体を高頻度に点検・調査し続けることは、現実的に困難になりつつあります。
このような背景の下、異常が顕在化してから対応する事後保全から脱却し、異常の兆し、すなわち「予兆」をできるだけ低負荷かつ広範囲にとらえることが、持続可能な社会インフラ維持管理を実現するうえでの重要な鍵となります。こうした予防保全の実装に向けては、限られた人員やコストの中でも継続的に活用可能な、新たな点検・監視のあり方が求められています。
光ファイバセンシング技術の特徴とNTT東日本のこれまでの取り組み
光ファイバセンシング*1とは、光ファイバケーブルの片端に計測装置を接続し、後方散乱光の状態変化から振動・歪・温度などの物理量を計測する技術です(1)(図1)。光ファイバそのものが「分布型センサ」として機能するため、点センサ(IoTセンサ等)と比較して広範囲を連続的に監視できる点が特長です。また、通信ビルや敷設済み光ケーブルを利活用できるため、新たな光ケーブルの敷設や多数のセンサ設置、給電設備の導入といった追加コストを抑えることができます。
振動の把握にはDistributed Acoustic Sensing(DAS)*2やDistributed Strain Sensing(DSS)*3を用いることで、光ファイバに沿って分布する微小な振動変化や歪をとらえることが可能となります。これらはいずれも地中環境の変化を把握するための重要な情報となります。本取り組みでは、こうした振動および歪の特性を基に、地盤・管路周辺の状態変化を「予兆」としてとらえることをめざしています。
これまで、NTT東日本は光ファイバセンシングの実証を通じ、社会インフラ領域への貢献に積極的に取り組んできました。例えば、NEC・鹿島建設・NTT東日本の共同実証(2)では、トンネル掘削に伴う振動の影響を光ファイバセンシングで常時かつ面的に可視化できることを示し、都市部における工事の安全性向上や住民の安心感醸成に寄与できることを確認しました。また、NTT・NTT東日本・NECの共同実験(3)では、地下の光ファイバに伝わる振動の違いから路面状態を推定する機械学習モデルを構築し、複数の除雪工区において除雪の要否を遠隔かつリアルタイムに判断する実証を行い、巡回点検や経験則に依存していた除雪判断の効率化・高度化の可能性を示しています。これらの実証は、既設の通信用光ファイバを用いた分布型センシングの適用可能性を確認するものであり、地中空洞検知のような新たな社会課題解決に向けた基盤的な検討として位置付けられます。
*1 光ファイバセンシング:光ファイバの散乱光変化から振動・歪等を連続計測する技術です。
*2 DAS:光ファイバを用い、距離方向に分布した振動を高密度に計測する手法です。
*3 DSS:光ファイバを用い、距離方向に分布した歪を高密度に計測する手法です。

地中空洞検知に向けたNTT東日本の取り組み(実フィールド共同研究)
NTT東日本は、2025年1月に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故を契機として、事故発生から約2週間で「地中空洞検知プロジェクト」を立ち上げました。事故現場には当社の通信用光ファイバが敷設されており、陥没の発生と同時に断線被害も生じました。復旧対応を進める中で、「もし平時から通信用光ファイバを用いたセンシングにより地中環境をモニタリングしていれば、振動特性の変化から何らかの予兆をとらえられた可能性があるのではないか」という仮説を持ち、2週間という短期間で、まずはNTT東日本単独でプロジェクトを始動しました(4)。
その後、インフラ事業者・地方自治体・建設コンサルタント等、さまざまな関係機関と本取り組みを進めるための検討事項について議論を重ねました。現在は、NTT東日本・東京大学生産技術研究所・鹿島建設・東京都下水道局・東京都下水道サービスの5者での共同研究が科研費プロジェクトに採択され研究を推進しています。道路陥没につながる地中空洞化は、地質・地下水・管路条件・交通荷重など複数の要素が複合的に絡み合って発生します。単一組織あるいは単一技術のみで地中の状態を解明することには限界があるため、産官学の知見と現場のデータを結集することが欠かせません。
本プロジェクトでは、NTT東日本が保有する既設の通信用光ファイバに加え、下水道管内に敷設された光ファイバをも対象とし、振動や歪等の物理量に関するデータ取得と評価を行っています。取得するデータを基に、地中空洞化の予兆につながり得る特徴を抽出することをめざしています(図2)。
2026年4月現在、都内の対象エリアにて5者が連携し、データ取得および解析を開始しています。振動および歪のデータに関する特性解析を行い、地中空洞化やそれにつながる地中の状態変化をとらえるための仮説立案および実証を進めています。
現時点では、空洞化を一意に指し示すような「決め手」は得られていないものの、特徴量に変化が現れる可能性は示唆されています。今後は、さらなるデータ蓄積と検証を行うことで、地中という不確実性の高い環境の再現性と説明可能性を高めていきます。

NTT研究所との連携
NTT東日本では、NTTグループ一体となって連携し、光ファイバセンシングを社会課題解決へと展開しようとしています。2025年10月21日には、NTT研究所と産業技術総合研究所が、既存の通信光ファイバを活用し、常時微動の解析により地盤特性の経時変化から地中空洞化の早期発見をめざす手法を実証しています(5)。同リリースでは、地中深さ約3〜30 mを対象として、例えば1日1回といった高頻度な遠隔モニタリングの可能性や、実験エリア(茨城県つくば市内、埼玉県草加市内)での実証、および空洞をモデル化したシミュレーションについても言及しています。
これに対し、NTT東日本の取り組みは、共同研究者とアプローチが異なります。NTT研究所と産業技術総合研究所の2者による取り組みでは、NTT東日本保有の光ファイバを用いて実証を行っているのに対し、NTT東日本では自治体・大学・建設会社らとともに通信光ファイバに加えて下水道光ファイバも活用しています。また、NTT研究所と産業技術総合研究所が常時微動と地盤特性推定(微動アレイ探査*4との比較等)を軸に据えるのに対し、NTT東日本では振動・歪等の時系列データから特徴量を抽出し、一次スクリーニング*5として区間を抽出した上で、他手法の調査へとつなげる設計に重きを置いています。
そのうえで、NTT研究所とは情報共有と役割分担のもと密に連携し、基礎研究から得られる知見や解析手法を現場検証へ取り込みながら技術成熟を図っています。将来的には、研究所側の解析手法も適切に融合させ、判断基準や運用フローまで含めて道路管理者の業務に組み込めるかたちへ近づけることで、社会実装を加速していきたいと考えています。
*4 微動アレイ探査:常時微動の表面波を多点同時観測し、位相速度(分散)からS波速度構造を推定する方法です。
*5 一次スクリーニング:広域監視で対象区間を絞り込み、詳細調査へつなげる考え方です。
社会実装を見据えた運用の考え方
光ファイバセンシングの最大の強みは、長い区間を対象に、連続的かつ高頻度に状態変化をとらえられる「広域・高頻度」な監視を実現できる点にあります。一方で、本技術によって直接計測できる範囲は、あくまで光ファイバが敷設されたルート沿いに限定されており、ルート外の状況を面的に把握できるものではありません。そのため、光ファイバセンシングは、異常の可能性を早期にとらえるための「予兆検知・一次スクリーニング」として位置付け、既存の点検・調査手法と組み合わせて活用することが重要です。
具体的には、光ファイバセンシングにより変化が確認された区間を抽出し、リスクや重要度に応じて優先順位を付けたうえで、地中レーダ探査、目視等による管路内調査、ボーリング調査など、目的に応じた調査手法を段階的に適用していく運用が考えられます。このような役割分担を行うことで、限られた人員・予算の中でも、調査リソースを真に必要な個所へと集中させることが可能となり、重大な見落としのリスクを低減しつつ、全体としての維持管理効率の向上が期待できます。
併せて、実運用に向けては、データに基づく判断基準の設定、誤検知が生じた場合の対応方針、緊急時における連絡・判断プロセスなどを、現場の実態や組織体制に即して設計することが不可欠です。これらは、単に技術を導入するだけでは解決できず、運用と改善を継続的に行う力が求められます。通信インフラの保守において、長年にわたり24時間365日の安定的な運用を担い、設備監視・サービス障害への対応、運用ルールの整備を実施してきたNTT東日本の知見は、自治体をはじめとするインフラ管理者が新たな技術を実装する際の運用設計において、大いに活用できると考えています。
NTT東日本の価値は、光ファイバセンシングをはじめとする要素技術そのものにとどまらず、それらを現場に即して実装し、運用しながら改善を重ね、組織全体に定着させてきた実績にあります。光ファイバセンシングは、通信設備の設計・施工・保守で培われてきた既存の技術やノウハウをそのまま活用できる技術であり、全く新しい仕組みを一から構築するのではなく、既存技術の掛け合わせによって新たな価値を創出できるという点に特徴があります。
NTT東日本は、アセット&マネジメントのシェアリングという視点をさらに拡張し、既設の光ファイバを社会インフラ全体の維持管理に活用することで、他のインフラ事業者や自治体との協働を加速していきます。そのうえで、光ファイバセンシングに加え、ドローン点検をはじめとした多様な技術を組み合わせ、現場の実態に即した実効性の高いソリューションを社会に実装していきます。コスト面および人的リソースでの持続性と安全性の両立を図りながら、都市のスマート化にも資する新たな運用モデルの構築を、今後もさまざまなパートナーと共に推進していきます。
今後の社会インフラ維持管理のあり方
高度経済成長期に集中的に整備された膨大な社会インフラは、老朽化の進行や自然災害の激甚化により、一般市民の生命や日常生活に直接影響を及ぼしかねない局面に入っています。これまで当たり前とされてきた安心・安全は、もはや前提ではなく、改めて守り、磨き続けるべき価値そのものとなりつつあります。社会インフラは、経済活動だけでなく、生命活動や文化活動を支える人間社会の基盤であり、その価値は50年後、100年後においても変わりません。だからこそ、私たちは「いま」の意思決定が将来世代に与える影響を、これまで以上に重く受け止める必要があります。
一方で、老朽化の進行、自然災害の激甚化、税収構造の変化、担い手不足といった課題はすでに顕在化しており、従来の延長線上にある対応だけでは、持続可能な社会インフラの維持は困難です。点検・補修といった個別最適の積み重ねにとどまらず、技術・データ・人・組織を横断した構造的な変革が求められています。
社会インフラの未来は、現場を知り、判断を担う私たち1人ひとりの選択の積み重ねによってかたちづくられます。NTT東日本は、その変革のパートナーとして、共に考え、共に実装し、未来を支え続けます。
■参考文献
(1) https://www.rd.ntt/iown_tech/post_8.html
(2) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20230824_01.html
(3) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20231109_01.html
(4) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20250213_04.html
(5) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/10/21/251021a.html
