テクニカルソリューション
移動した地下メタルケーブルの引き戻しの取り組み
電気通信サービスを提供するためのケーブル設備は、地下のとう道や管路、マンホール、地上の電柱等に敷設されています。その中で、地下管路に敷設されたメタルケーブルの中には、敷設当時の位置から時間の経過とともに移動してしまうものがあります。その移動量が大きくなると、接続点でクロージャから脱落する、マンホール内でケーブルが屈曲・変形するといった近傍の設備の新たなトラブルとなることがあります。NTT東日本技術協力センタでは、既存設備の延命化を図り、安全で低コストな地下ケーブル移動の解消方法として、敷設時の位置までケーブルを引き戻す工法について考案し、検討を行いました。ここでは、その検討状況について紹介します。
地下ケーブルの移動とその影響
■車両走行等の振動を受けた地下ケーブルの移動
地下管路内に敷設されたケーブルは、車両の走行等に伴う振動の影響で移動することがあります。この現象をクリーピングと呼び、主に大型車両の通行量が多い、軟弱地盤上の道路で発生しやすいといわれています。図1に示すように、管路上の路面を大型車両が移動すると、その重さにより管路およびその内部のケーブルに変形させる力が加わります。車両が移動することに伴い変形する位置も移動していくため、ケーブルが復元する作用の過程でわずかに移動していく現象が発生します(1)。
■ケーブル移動による影響
地下管路内でケーブル移動が発生すると、その影響はマンホール内のケーブルに現れます。図2に示すように、接続点のクロージャからケーブルが引き抜かれる(図2(a))、クロージャへのケーブル挿入角度が変化する(図2(b))、突き出してきたケーブルが過度に曲がる・捻じれる(図2(c))等が発生します。これらの現象が生じることでさまざまな設備故障が発生する可能性があり、特に地下メタルケーブルにおけるガス漏洩*につながるため、速やかな対処が必要となります。
* ガス漏洩:地下メタルケーブルでは、ケーブル外被に傷やピンホールが生じたときに、水の浸入を防ぐために、高い圧力の乾燥空気(ガス)をケーブル内部に送り続けています。ガス漏洩により圧力が低下すると、浸水による絶縁不良などの故障につながることから、圧力を常時監視し、圧力低下の警報が発せられると、その都度、傷等の補修や圧力低下地点近傍へガスボンベを設置し、ガス供給の補充などを行っています。
ケーブル移動防止対策
■ケーブル移動対策の現状
これまでケーブルの移動防止対策として、マンホール内のケーブルに対して、移動方向の壁面、ダクト際の位置に図3に示すケーブル移動防止金物を取り付けて移動に対するブレーキをかける方法が行われてきました。しかし実際の現場では、敷設時には移動が予測されず移動防止金物が設置されなかった場所や取り付けたタイプの金物では保持力が不足していた場所等があり、この対策方法が上手く機能せずに移動が進行する事例が発生しています。
■新たな対策方法の検討
ケーブル移動が進行してしまった場所において、ケーブルを更改する方法では膨大なコストと時間がかかってしまいます。そこで、ケーブル更改を回避し、ケーブルの継続使用を可能とするため、当該ケーブルを引き戻す方法について検討を行いました。
検討にあたっては、重量のあるメタルケーブルを簡単に引き戻す方法だけでなく、引き戻す過程における新たな外被の損傷の発生やクロージャ等の関連する設備での新たなトラブル発生の有無等、その影響等の課題についても考慮しました。
ケーブル引き戻しの検証
■仮設ケーブルによる検証
まず仮設のケーブルを用いて、引き戻すために必要な牽引力の計測、およびケーブル移動防止金物を把持具として利用した牽引の実験を行いました。実験用の管路に仮敷設した40 mのメタルケーブル(0.4-2000PEC-Hケーブル)をB形ケーブル移動防止金物で把持し、牽引する検証を行いました。検証の結果、約1000[N]の牽引力を加えると40 mのケーブルを引き戻せることが確認できました。
ケーブルの引き戻しに必要な牽引力は下記の(1)式(2)で与えられます。
T=g×μ×w×L (1)
T:ケーブルにかかる張力[N]、w:単位長当りのケーブル質量[kg/m]、g:重力加速度[m/s²]、L:直線部の長さ、μ:摩擦係数(管路)
この(1)式と検証した牽引力の実測値を用いることで、長さの異なるケーブルの引き戻しに必要な牽引力を計算しました。
■移動ケーブル引き戻し装置の試作
仮設ケーブルを用いた引き戻し検証を基に、実際の現場に敷設されたケーブルの引き戻しを行うため、図4、5に示すようなB形ケーブル移動防止金物を把持具とした装置を試作しました。
試作した装置は、2本の油圧シリンダとB形移動防止金物の組み合わせからなり、シリンダから伸びた脚部側をマンホール壁面に、反対側はケーブルを把持したB形ケーブル移動防止金物に取り付けます。油圧シリンダはオイルホースで手動または電動、いずれかの油圧ポンプと接続されます。油圧ポンプによってシリンダに圧力を加える(シリンダを伸ばす)ことで、マンホールの壁面からケーブルを遠ざける方向にケーブルを引っ張ることが可能となります。
また、管路に対し曲がって挿入されているケーブルや重量のあるケーブルでも引き戻しができるように、図6に示す付属品も併せて開発しました。曲がって挿入されているケーブルに対しては、壁面とシリンダの接触面に角度のついた硬質ゴムのスペーサーを取り付けます。また、重量のあるケーブルに対しては、B形ケーブル移動防止金物を連接するための治具を取り付けます。これにより、B形ケーブル移動防止金物の2倍の把持力までの牽引を可能としました。
■未使用(非現用)ケーブルによる検証
次に、実際の現場で未使用(非現用)となったケーブルに対して引き戻しの検証を行いました。検証では、試作装置による牽引だけでなく、牽引側のマンホールでの牽引力、および対向のマンホールでの押し込み力について計測を行いました。また、対向するマンホール側からケーブルを押し込み(押し戻す)力を加えた場合の牽引の影響等を計測しました。実設備での検証の結果、以下の知見が得られました。
① ケーブルの引き戻し作業では、対向するマンホール側から管路内に向かって押し込む作業を行うことで、より少ない牽引力で引き戻しが可能でした。したがって、牽引と同時に押し込む作業を行うことで牽引力を小さくすることができ、引き戻すケーブルへの物理的負荷を軽減できると考えられます。
② 実際のマンホールでは、さまざまな種類のケーブルが複数あることから、押し込むための装置については、作業スペースの限られた場所で効率良く動作させるための工夫が必要だと考えられます。
今後の予定
今後は、最終目標である現用ケーブルに対して、簡単で安全な引き戻し方法の実現に向けて追加の検証を行っていきます。特に、通信サービスへの影響を考慮し、下記の項目の検証を実施する予定です。
① 設置性、作業性の向上:狭隘マンホールでの実施も想定した引き戻し装置の改良とコンパクト化。
② 引き戻しアシスト装置(仮称)の開発:ケーブル引き戻し作業を省力化し、既設ケーブルへの負荷を軽減。
③ 通信への影響の確認:ケーブル牽引時、内部心線の電気的特性の変化等を検証。
④ 近傍設備への影響:長期間変形、変位したケーブルやクロージャを適正な状態、および位置に収めるための検証。
おわりに
技術協力センタでは、55年以上の技術協力活動を行ってきました。これまでに蓄積された知識と経験を基に、引き続きアクセス設備の信頼性向上や故障の早期解決、および保守コスト低減に向けた取り組みを進めていきます。
■参考文献
(1) https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11425379
(2) NTT東日本技術協力センタ:“アクセス系設備に関わる故障事例集 第1版 外部要因編,”2017.
問い合わせ先
NTT東日本
ネットワーク事業推進本部 サービス運営部
技術協力センタ アクセス技術担当
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