2026年7月号
特集
IOWN Global Forumにおけるグローバル化に向けた取り組み
- IOWN Global Forum
- リモートプロダクション
- 映像プロダクションDX
本稿では、IOWN Global Forumにおける放送業界向けリモートプロダクションを題材に、課題整理からユースケース策定、PoC(概念実証)実施、評価結果公開に至る一連の取り組みを紹介します。特に、Use Case WG(UC-WG)およびReference Implementation Model Task Force(RIM-TF)では、産業別ユースケースにおけるIOWNの価値を明確化し、技術面に加え経済性の観点も踏まえたリファレンス実装モデルを策定・公開しています。これにより、Forumメンバーで合意された共通モデルとして、国際社会への実装の加速を図っています。
進藤 勝志(しんどう かつし)/寶満 剛(ほうまん たけし)
NTT研究企画部門
IOWN Global Forumの設立とこれまでの活動
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想は、超低遅延・大容量・低消費電力を実現するネットワークや情報処理基盤により、新たな社会価値の創出をめざすものです。この実現に向け、2020年1月にNTT、Intel、Sonyを創設メンバとしてIOWN Global Forum(IOWN GF)が設立されました。2026年4月時点で170社を超える企業・組織が参画しています。
IOWN GFは、通信事業者、ICTベンダ、ユーザ企業、研究機関などが参画する国際的なフォーラムであり、ユースケースの開発、技術仕様やアーキテクチャの策定とともに、社会実装を推進しています。その特徴は、単一技術に閉じることなく、ネットワーク、コンピューティング、データ、アプリケーションを含むエンド・ツー・エンドの観点で議論を行う点にあります。
IOWN GFにおける技術やユースケースの開発活動は、主にUse Case Working Group(UC-WG)やTechnology Working Group(T-WG)、ならびにそれらの配下に設置されたTask Force(TF)により推進されています。UC-WGでは、IOWNの価値を具体化するユースケースを定義し、その意義や適用領域を整理します。T-WGでは、それらのユースケースを実現するために必要となる技術やアーキテクチャの検討・開発を行います。
TFでは、T-WGやUC-WGの方針のもと、個別テーマごとのWork Item(WI)やStudy Item(SI)に基づき、具体的な要件整理、実装検討、および技術検証を行います。特に、UC-WGとT-WGが密接に連携し、ユースケース起点で必要技術を整理する体制をとっている点が、IOWN GFの大きな特徴です。
このような体制のもとIOWN GFでは、ユースケース文書、技術文書、PoC(Proof of Concept) Reference、PoC Reportなどを整備・公開することで、IOWNの具体化と社会実装を推進しています。このようにIOWN GFは、ユースケースを起点とした技術開発と実証を一体的に進める枠組みです。
RIM-TFにおけるリモートプロダクションユースケース開発
リモートプロダクションのユースケースに関する詳細検討は、UC-WG配下のRIM-TFを中心に進められています。RIM-TFは、IOWN GFが提案するアーキテクチャや技術を活用し、ユースケースの要件を満たしつつ、技術的妥当性と経済合理性を両立したリファレンス実装モデル(RIM)を策定・評価することを目的とします。また、その評価を通じて潜在的な技術課題を明確化し、IOWN GFにおけるアーキテクチャや技術仕様のさらなる高度化に貢献する役割を担います。
RIM-TFでは、早期社会実装が見込まれるリモートプロダクションのほか、金融、建設、リモートGPUを活用した生成AI・LLM向けグリーンコンピューティングなどのEarly Adoption Use Caseに加え、2030年ごろの実現をめざすFuture Looking Use Caseなど、複数のユースケースが検討されています。各ユースケースはRIM-TFのWork Itemとして管理され、参加企業が協調して要件や課題の整理、および実装モデルの検討を行います。
RIM-TFでは、以下の成果物を段階的に整備します。
・リファレンスユースケース文書:課題、価値、適用効果の整理(バリューポジションの具体化)
・RIM文書:実装モデルおよび要件の定義
・PoC Reference文書:実証構成および設計指針
・PoC Report:実証結果の評価および価値の検証
これらの成果により、関係者間で共通理解を形成しつつ、社会実装を前提とした検討や開発を進めることが可能となります。リモートプロダクションをはじめとする各ユースケースでは、これらの成果物をフォーラム外にも公開し、社会実装をグローバル規模で推進しています(表)。

リモートプロダクションユースケースのPoCと評価結果
リモートプロダクションでは、3つの構成パターンに基づくユースケースが定義されています。本PoCは、ユースケース文書やRIM文書で定義された要件およびリファレンス実装モデルに基づき、PoC Reference文書で示された検証・評価すべき構成を実環境で再現するかたちで実施されました。これにより、実運用を想定した技術評価と価値の証明を行いました。
■ユースケース1(UC#1):Media Production from Remote Site(遠隔拠点からの制作)
(1) ユースケース概要
UC#1は、遠隔拠点のオペレータが放送局側の制作機器を遠隔操作することで、柔軟な制作ワークフローと人材確保(地理的制約の緩和)を実現するものです(図1)。
(2) 評価項目(PoC Referenceで規定)
UC#1では、(i) 遅延((T1+T2) < 16.6ms)、(ii) 可用性(ダウンタイム等)、(iii) コスト(必要資源の整理)を評価対象とします。
Event Venue(イベント会場)—Remote Office(遠隔拠点)間の遅延を (T1+T2) として評価します。
(3) PoCでの実施内容・結果(PoC Report)
PoC Reportでは、UC#1の遅延条件を「Event Venue—Remote Office間の遅延(T1+T2)< 16.6ms」として定義しています。
本PoCでは測定値から距離条件に基づく換算を行い、UC#1に相当する距離(1000km)での往復遅延が11.06msと算出され、成立条件(16.6ms未満)を満たすことを確認しました。
可用性評価については、Broadcast Center—Operation Center間で冗長構成を用い、片系断時の映像・音声フレームドロップや制御動作の観点で評価を行う枠組みがPoC Reportに示されています。

■ユースケース2(UC#2):Network Resource Sharing(ネットワークリソース共有)
(1) ユースケース概要
UC#2は、イベント発生時にイベント会場から放送局へ必要なネットワークリソースをオンデマンドに確保し、複数の映像ストリームを高品質に伝送することで、従来方式よりコスト効率の高い制作をめざすものです(図2)。
(2) 評価項目(PoC Referenceで規定)
UC#2では、(i) 遅延(T1 < 16.6ms)、(ii) コスト(必要資源の整理)を評価対象とします。Event Venue(イベント会場)—Broadcast Station(放送局)間の遅延を T1 として評価します。
(3) PoCでの実施内容・結果(PoC Report)
PoC Reportでは、UC#2の遅延条件を「Event Venue—Broadcast Station間の遅延(T1)< 16.6ms」として定義しています。
本PoCでは測定値から距離条件に基づく換算を行い、UC#2に相当する距離(200km)での遅延が1.11msと算出され、成立条件(16.6ms未満)を満たすことを確認しました。

■ユースケース3(UC#3):Media Production Resource Sharing(制作機材・制作拠点の共有)
(1) ユースケース概要
UC#3は、制作機材をメディアプロダクションセンタ側に集約・共有し、複数拠点からの利用を可能にすることで、設備投資効率と運用効率の向上をめざすものです(図3)。
(2) 評価項目(PoC Referenceで規定)
UC#3では、(i) 遅延((T1+T2) および (T3+T4) が各々16.6ms未満)、(ii) 可用性、(iii) コスト、(iv) (任意)切り替え時間を評価対象とします。
Broadcast Station(放送局)—Media Production Center(制作センタ)間の遅延を、2つの測定区間 (T1+T2) と (T3+T4) として評価する(いずれもBroadcast StationとMedia Production Centerの間の遅延として定義されます)。
(3) PoCでの実施内容・結果(PoC Report)
PoC Reportでは、UC#3の遅延条件を「Broadcast Station—Media Production Center間の遅延(T1+T2 および T3+T4) < 16.6ms」として定義しています。
本PoCでは測定値から距離条件に基づく換算を行い、UC#3に相当する距離(1000km)での往復遅延が11.06msと算出され、成立条件(16.6ms未満)を満たすことを確認しました。
可用性評価では、IMDD方式を採用した25 GのDWDM波長可変トランシーバ(25 G APN T)を用い、さらにAPN-S(DWDMフィルタを備えたスプリッタ)による波長切り替えを組み合わせることで、運用拠点(Operation Center)側を切り替え可能な構成を採用しています。PoC Reportでは、APN Controller (APN-C)がAPN-Tに対して波長切り替えや送信ON/OFFを制御し、APN-Sによりデータプレーンの切り替えをパッシブに実現する手順が説明されています。
本PoCでは冗長経路上でSMPTE ST2022-7のシームレスプロテクションスイッチングを適用し、片系断を意図的に発生させた際のメディア品質と制御動作を測定しています。
片系断時に映像の乱れやノイズがないこと、音声の途切れがないこと、および制御系が正常に動作することを確認しました。
またUC#3において、APN-Cによる経路切替試験では、前述のTS1(切替操作開始)〜TS2(リンクアップ通知)〜TS3(映像表示復帰)〜TS3’(制御認識)の時刻定義に基づき、光レイヤ・メディア層・制御層の切替時間を評価しました。
切替時間の測定結果として、光レイヤ(APN layer)平均8.354秒、メディア層(Media layer)平均18.3秒、制御層(Control layer)平均103秒が示されています。
この結果は、イベントスケジュール等に応じた接続先の変更を一定の手順と所要時間で実施可能であることを示します。
切替時間の評価は、PoC Reportで定義されたTS1(切替操作開始)~TS2(リンクアップ通知)~TS3(映像表示復帰)~TS3’(制御認識)に基づき、光レイヤ(TS2−TS1)等の切替時間を測定する枠組みで行われました。
以上より、IOWN APNの低遅延性に加え、25 GのDWDM波長可変トランシーバ(25 G APN T)とAPN S、ならびにAPN-Cを組み合わせた構成により、冗長化と運用切替を含むリモートプロダクションの技術的成立性が示されました(図4)。
また本PoCは、複数のIOWN GFメンバが知見・技術・設備を持ち寄る共同PoCとして実施されています。PoC Reportの参加者として、ソニーグループ、TBSテレビ、TBSアクト、住友電工、NTTグループを含む体制で実施しました(図5)。



今後の展望と社会実装に向けた取り組み
IOWN GFのパートナーによるリモートメディアプロダクションのPoCを通じて、ユースケースの実現に必要な基本的技術要件やアーキテクチャの確認が完了しました。PoCでは、PoC Reference文書に基づく構成を実環境で再現し、ネットワーク性能や制作オペレーションへの影響を評価することで、IOWN技術を活用したリモートプロダクションユースケースの成立性を具体的に示しました。
これにより、本ユースケースは概念検討や技術的可能性の段階を超え、実運用を見据えた検討フェーズへと進んでいます。一方で、社会実装や事業化に向けては、技術的成立性に加え、経済性や導入効果を定量的に示すことが重要です。
今回のPoCで得られた知見をもとに、設備構成や運用モデルを踏まえた経済性評価および従来方式との比較による価値の可視化を進めています。これにより、導入検討や投資判断に資する指針の提示が期待されます。
IOWN GFでは、これまでのPoC成果を活用しながら、リモートメディアプロダクションを含む各ユースケースについて、技術・運用・ビジネスの観点を統合した検討を継続し、IOWN技術による価値創出と社会実装の加速をめざしていきます。
■参考文献
(1)https://iowngf.org/remote-media-production-for-broadcast-industry-use-case/
(2)https://iowngf.org/reference-implementation-model-and-proof-of-concept-reference-of-remote-media-production-for-broadcast-industry-december-2024/
(3)https://iowngf.org/remote-media-production-in-broadcast-industry/
(4)https://iowngf.org/

(左から)進藤 勝志/寶満 剛

IOWN Global Forumでは、リモートプロダクションに限らず、多様なユースケースの創出と、それに伴う価値・技術方式・評価結果を体系化し、グローバルに推進しています。新たなユースケース創造を共に進める仲間として、ぜひご参加ください。