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2026年11月号

特集2

AIと人が共創する未来を支えるNTTの研究開発

人間の知識を汲み取り活用する高信頼のマルチエージェントシステム──タスク遂行型AIコンステレーション®

NTT人間情報研究所では、複数のAI(人工知能)エージェントが協調して複雑な課題を解決するマルチAIエージェント技術「タスク遂行型AIコンステレーション®」の研究開発を進めています。本稿では、AIエージェントどうしが対話を通じて知識を共有・活用し、全体を統括しながら複雑な課題に取り組む技術と、企業内の知識を複数のAIエージェントで知識グラフとして構造化・活用する技術を紹介します。さらに、事業戦略立案などの実業務への適用に向けた取り組みを紹介します。

安井 崇朗(やすい たかあき)/古林 隆宏(こばやし たかひろ)
薮下 浩子(やぶした ひろこ)/松尾 翔平(まつお しょうへい)
中辻 真(なかつじ まこと)
NTT人間情報研究所

はじめに

NTT研究所では「AIコンステレーション®」(1)の研究開発を、主にNTTコンピュータ&データサイエンス研究所とNTT人間情報研究所が連携して取り組んでいます。
本稿ではNTT人間情報研究所の技術と取り組みを紹介します。

タスク遂行型AIコンステレーション®

■複雑な課題を解くマルチAIエージェント技術

近年、特定の専門性や役割を担い、人に代わって事業戦略の立案や情報分析などを行うAI(人工知能)エージェントの活用が進んでいます。こうしたAIエージェントを複数連携させ、AIに与える仕事や課題(タスク)を分担して取り組むマルチAIエージェント技術が注目されています。一般的な構成では、複雑なタスクを複数の部分課題(サブタスク)に分解し、各サブタスクを異なる役割・専門性を持つAIエージェントが担当します。各サブタスクの結果を順番にAIエージェント間で受け渡すことで解決できるタスクもありますが、事業戦略の立案などのタスクでは、市場、顧客、技術など複数の観点を相互に関連付けながら検討し、それぞれの検討結果を1つの成果物(事業戦略案や企画書など)としてまとめる必要があります。
このようなタスクにおいて、各AIエージェントが自らのサブタスクを個別に遂行し、その結果を単純に統合するだけでは、タスクの全体像や他のAIエージェントの解決アプローチを十分に把握できません。そのため、サブタスク間の関係を踏まえた調整や、成果物全体にわたる一貫性の確保が難しくなり、高品質な成果を得ることが困難になります。そこで私たちは、図1に示すように、AIエージェントどうしの知識共有と対話による協調に加え、全体を統括する仕組みを組み合わせ、複雑なタスクを協調して遂行する技術に取り組んでいます。

■対話を通じた知識の獲得・活用

各AIエージェントは、自らのサブタスクに取り組むだけでなく、他のAIエージェントとの対話を通じて、相手が持つ知識や解決アプローチを獲得します(2)。この知識管理は、人間のチームが対話を通じて互いの知識や考え方を理解し、その後の活動に活かす過程に着想を得ています。具体的には、相手との会話をエピソードとして整理し、重要な内容を要約するとともに、キーワードや重要度を付与して知識として蓄積します。
さらに、個別の会話から得た内容をより抽象的な知識として整理することで、後続の対話や別のタスクでも再利用しやすくします。これにより、各AIエージェントは、過去の対話から得た他者の知識や解決アプローチを参照しながら、自らのサブタスクへの取り組み方や解決案を見直し、他のAIエージェントの取り組みとの整合性を高めることができます。

■議論を通じた知識・意見の統合

各AIエージェントが獲得・蓄積した知識を、チーム全体の成果へ結び付けるために、AIエージェントどうしが段階的に議論する会議プロセスを設けています。チーム目標会議では、各AIエージェントが担当するサブタスクについて意見を交換し、他のサブタスクとの関係や解決アプローチを把握しながら、チーム全体で取り組むタスクを具体化します。
続く成果物生成の会議では、それまでに蓄積した知識や議論結果を踏まえ、各AIエージェントが自らのサブタスクについて、成果物に盛り込む具体的な提案内容を提示し、リーダ役のAIエージェントがそれらを統合します。成果物が各サブタスクの要求を十分に反映できていない場合には、問題点を共有し、再度議論して内容を見直します。
このように、各段階で得た知識や議論結果を引き継ぎながら反復的に検討することで、各AIエージェントの提案内容を融合し、1つのまとまりのある成果物へ統合します。

■メタエージェントによる全体統括

こうしたAIエージェントどうしの議論を、成果物を作成する一連のプロセス全体を通じて適切につなぐため、個々のAIエージェントとは別に、全体を統括するメタエージェントを導入します。
メタエージェントは、各段階の議論や中間成果を確認し、タスクの解決や成果物の改善に向けて、内容の具体化や不要な内容の削除など、後続の議論で反映すべき修正指示を生成します。各AIエージェントはその指示を次の議論の中で具体化することで、前段階での修正指示を後続の議論や成果物にも反映していきます。これにより、チーム全体で取り組むタスクの具体化から成果物の作成まで、各段階の検討結果や修正内容を引き継ぎながら、成果物を段階的に改善します。
さらに、メタエージェントが生成した修正指示の有効性を、タスクの解決度や後続の成果物への反映度から評価します。その評価結果を強化学習によって修正指示の生成にフィードバックすることで、より有効な修正指示を生成できるようにします。

■人とAIの協働に向けて

今後は、こうした知識共有、対話による協調、全体統括の仕組みに、人が持つ知識や意図、業務上の制約を取り込み、人とAIが協働して複雑なタスクに取り組める技術へ発展させます(3)。例えば、人が検討の方向性や重視する観点を示し、メタエージェントを介して各AIエージェントの議論や成果物に反映する仕組みが考えられます。
さらに、実業務への適用に向けては、各AIエージェントが企業や業務に固有の専門知識を扱えることも重要です。次に、こうした専門性の向上に向けた取り組みを紹介します。

複数のAIエージェントが協調して企業知識を活用する知識グラフ構築技術

■企業知識をつなぐ知識グラフ

生成AIの業務利用が急速に進む中、企業内には報告書、議事録、技術資料、市場調査レポートなど、多様な情報が日々蓄積されています。しかし、このような多様で膨大な情報から必要な部分を横断的に結び付けながら活用することは容易ではありません。
大きな課題の1つが「記載内容の共通性は低いが深い関係のある知識」の統合です。例えば、将来の事業戦略を検討する際には「市場動向」「顧客ニーズ」「競合状況」「研究開発計画」など、複数の部門・業務で蓄積された多様な文書を横断して参照し、それらの情報を関連付けながら検討する必要があります。
しかし近年のAIエージェント技術では、すでに見えているキーワードや文書を基に似た内容の知識を取得することを基本としているため、そのような検索で掴むことのできない意味的な関係や因果関係、前提条件などが必要になる場合、人間が介入して関係性を理解・整理し結び付ける必要があります。この点が組織内に蓄積された知識を横断的に活用するうえでの大きな障壁となっています。
私たちはこの課題を解決するため、複数のAIエージェントが複数の観点からチェックしながら知識グラフ*(4)を構築することで、複数の文書に散らばって蓄積された多様な人間の知識を関連付けながら汲み取って活用可能にする技術を研究しています。

*知識グラフ:人物や組織、技術などの事物とその関係性をネットワークとして表現し、知識どうしのつながりを扱えるデータ構造。

■企業知識活用における課題

知識グラフでは、「何が」「何と」「どのような関係で結び付いているのか」を整理して表現することで、異なる文書に存在する情報どうしのつながりを把握しやすくなります(図2)。その結果、「記載内容の共通性は低いが深い関係のある知識」を発見・統合し、より広い視点から分析することが可能になります。
一方で、企業内の膨大で多種多様な文書から知識グラフを自動的に構築することは容易ではありません。まず、人間への報告を前提とした文書が入力となるため、表現の揺れや記述の不整合をうまく調整する必要があります。さらに、複数の部門・業務で蓄積された多様な文書から、見逃しや誤解のないようにさまざまな観点から情報を汲み取る必要があります。結果として、単にAIに文書を読ませるだけでは、企業がめざす複雑なタスク実行に耐える品質の知識グラフに仕上げることは困難でした。

■複数AIによる知識グラフの協調構築

そこで私たちは、知識グラフ構築を複数のAIエージェントによる協調作業として実現する技術を提案しました。図3にそのあらましを示します。
本技術のポイントは、複数のAIエージェントに異なる観点を持たせて相互にチェックさせながら知識グラフを構築することです。図3のケースでは、利用者の問いを基に、その問いを理解するために必要となる複数の観点を導出しています。例えば事業戦略に関する問いであれば、市場環境、技術動向、関連組織などが重要な観点になります。
次に、各観点を担当するAIエージェントを生成します。それぞれのAIエージェントは同じ文書群を参照しながらも異なる視点から情報を抽出するため、知識の多面的な抽出と関連付けが可能になります。
さらに、AIエージェントどうしが抽出結果を共有し、相互に確認を行います。あるAIエージェントが見落としていた情報を別のAIエージェントが補完したり、不適切な関係性を指摘したりすることで、知識グラフを段階的に改善していきます。
実験をとおして、複数文書にまたがる情報を統合して回答する課題において本技術の有効性を確認しました。特に、単体のAIが相互チェックなしに構築した知識グラフと比較すると、本技術で構築した知識グラフは情報の検索性が高い構造になっており、必要な根拠情報の発見と回答品質の向上に寄与することが分かりました。
このように、本技術では多様な観点を持つAIエージェントどうしの議論と相互検証を取り入れることで、より高品質な知識グラフの構築を実現しています。

■知識グラフを基盤とした自律協調型AIの実現に向けて

本技術で構築された知識グラフには、人物・組織・技術・出来事などの関係が整理されています。そのため、利用者が課題の分析や意思決定を行う際には、単純なキーワード検索ではなく、知識どうしのつながりをたどりながら関連情報を探索できます。例えば、ある技術がどの組織で開発され、どの製品に利用され、どの市場に影響を与えているかといった情報を、知識グラフ上の関係性に基づいて追跡できます。
このように、本技術が構築する知識グラフは、複数の文書に分散した知識を関連付けながら活用するための基盤として機能し、技術調査・競合分析・研究開発支援・事業戦略立案など、多数の情報源を統合して判断する業務への応用が期待されます。
今後は、前述したタスク遂行型AIコンステレーション®との連携を進める予定です。図4に、知識グラフとの連携イメージを示します。本技術が構築する知識グラフは、このように複数のAIエージェントが共有して利用する知識基盤として活用できると考えています。例えば、各AIエージェントが異なる専門的観点や経験に基づいて課題を検討する際、知識グラフ上に整理された事物間の関係を共通の根拠として参照することで、各AIエージェントは異なる観点から得られた知見を相互に検証しながら認識をすり合わせることができます。さらに、こうした共通知識を活用することで、個々のAIエージェントが保有する知識や経験を組み合わせながら、より適切な分析や意思決定を行うことが期待されます。
将来的には、本技術が構築する知識グラフによる「組織知」と、タスク遂行型AIコンステレーション®が蓄積する「経験知」を融合することで、AIが単に情報を検索するだけではなく、蓄積された知識と過去の経験の双方を活用しながら議論を行い、新たな事業戦略や施策の創出を支援する環境の実現をめざします。これは、NTTの推進する、多様なAIが協調しながら価値を創出するAIコンステレーション®構想全体のさらなる発展にもつながると期待しています。

事業展開に向けた取り組み

研究開発した技術について、実際の業務シーンでの活用が可能なのか、また適用時の課題を明らかにして今後の研究開発にフィードバックするため、さまざまな検証を実施しています。
NTTデータの法人分野の方々とは、週報や営業状況などの日常的な業務文書から、専門的な知識を抽出・活用し、事業戦略の検討を支援する技術の実現をめざし、共に取り組んでいます。
そのほかにも、実ビジネス上の事業課題解決を目的としたアイデア生成に関して、社内外の方々と複数の検証を実施しています。他技術と比較して、異なる視点から多様な施策アイデアを創出し、それらを組み合わせ、議論することで、より実効性の高い施策案を導出できることを確認するなど、その有効性を実証しています。

まとめ

本稿では、NTT人間情報研究所が取り組むタスク遂行型AIコンステレーション®技術の近年の技術開発と事業展開に向けた取り組みについて述べました。
これまでの取り組みにより、異なる専門性や視点を持った複数のAIエージェントどうしが協調することで、高度な企画立案や意思決定支援など複雑なタスクを解決する技術の実用化が進みつつあります。
今後は、議論の進め方やエージェント構成について、AIエージェント自身が自律的に設計・改善する技術などに取り組み、AIコンステレーション®のさらなる自律化・高度化を図っていく予定です。

■参考文献
(1)https://journal.ntt.co.jp/article/36104
(2)M. Nakatsuji, S. Tateishi, Y. Fujiwara, A. Matsumoto, N. Nomoto, and Y. Sato: “ACT: Knowledgeable Agents to Design and Perform Complex Tasks,” Proc. of ACL2025 (Volume 1: Long Papers), pp. 16831–16861, 2025.
(3)https://www.rd.ntt/research/JN202407_27029.html
(4)A. Hogan, E. Blomqvist, M. Cochez, C. D'Amato, G. De Melo, C. Gutierrez, S. Kirrane, J. Labra Gayo, R. Navigli, S. Neumaier, A. Ngonga Ngomo, A. Polleres, S. Rashid, A. Rula, L. Schmelzeisen, J. Sequeda, S. Staab, and A. Zimmermann: “Knowledge Graphs,” ACM Computing Surveys, Vol.54, No.4, pp.1-37, 2021.

(上段左から)安井 崇朗/古林 隆宏/薮下 浩子
(下段左から)松尾 翔平/中辻 真

複数のAIエージェントが知識を共有し、議論しながら1つの成果をつくることで、より複雑な課題への対応が可能になります。本記事を通じて、企業知識の活用や人との協働へ広がるマルチAIエージェント技術の可能性を感じていただければ幸いです。

NTT人間情報研究所
デジタルツインコンピューティング研究プロジェクト

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