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from NTTファシリティーズ

補強部材の設置が容易で通路も設けられる耐震補強技術の開発

近年の大地震の頻発、南海トラフ地震・首都直下地震等の発生確率の高まりから、建築物の耐震補強の推進が急務となっています。NTTファシリティーズでは、建築物の長期継続使用や地震後の事業継続性確保といった市場ニーズにもこたえるとともに、耐震補強に伴う建築物の運用への影響を少しでも軽減することを考えました。ここでは、NTTファシリティーズが開発した「補強部材の設置が容易で通路も設けられる耐震補強技術(ユニット型制振補強システム)」について紹介します。

新たな耐震補強技術開発の背景

■耐震補強の重要性

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、住宅・建築物の倒壊による大きな被害がみられました。建築基準法に基づく現行の耐震基準は1981年6月に導入されましたが、阪神・淡路大震災では特に1981年以前に建築されたものに大きな被害が発生しました。そのことを契機に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」が制定され、2013年11月の改正では病院、店舗、旅館等の不特定多数の者が利用する建築物および学校、老人ホーム等の避難弱者が利用する建築物のうち大規模なものなどについて、耐震診断の実施が義務付けられるようになりました。
この改正の背景には、近年の新潟県中越地震(2004年)、福岡県西方沖地震(2005年)、岩手・宮城県内陸地震(2008年)、東北地方太平洋沖地震(2011年)といった大地震の頻発があり、改正後も熊本地震(2016年)、大阪府北部地震(2018年)、北海道胆振東部地震(2018年)と続いています。このように大地震はいつどこで発生してもおかしくない状況にあります。特に南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震および首都直下地震については、発生確率の高まりが指摘され、ひとたび地震が発生すると被害は甚大なものになると想定されていることから、あらゆる対策の大前提として建築物の耐震補強を推進することが求められています。

■市場ニーズにこたえるために

建築物の耐震補強に関しては、耐震改修促進法の改正、南海トラフ地震・首都直下地震等への対応といった背景に加えて、建築物の長期継続使用や地震後の事業継続性確保等の市場ニーズも高まってきています。言い換えれば、建築物が大地震に耐える(倒壊しない)だけでなく、大地震後も大がかりな補修工事をすることなく継続使用が可能で、さらには事業継続性も確保することが求められているといえます。
このような市場ニーズに対して、建築物の新築では制振構造が採用されることも多くなってきています。制振構造の建築物では構造骨組に取り付けた制振ダンパーが地震エネルギーを吸収し、大地震時はもとより、その後の余震に対しても構造骨組の損傷進展(補修費用の増大)を抑制することができることから、建築物の長期継続使用や地震後の事業継続性確保に有効なためです。
一方、建築物の耐震補強では「構造骨組に耐震補強部材(耐震壁、鉄骨ブレース等)を追加する補強(=在来補強)」が大部分であり、大地震に対して建築物を倒壊させない(構造骨組の損傷進展は許容する)設計が一般的となっています。構造骨組の損傷抑制が求められる場合には、耐震補強部材の設置個所数の大幅な割増しにより対応することも考えられますが、建築物の長期継続使用や事業活動に必要な使用性・フレキシビリティ等を維持することが困難になり、市場ニーズに十分にこたえられない場合も多いと思われます。
建築物の耐震補強でも「耐震壁や鉄骨ブレースの代わりに、構造骨組に制振ダンパーを取り付けて制振構造にする補強(=制振補強)」の事例もあるものの、構造骨組の損傷抑制に有効な制振補強が広く採用されないのは、在来補強に比べて設計の難易度が高く手間がかかることに加えて、在来補強とも共通するいくつかの課題があるためと考えられます。
そこでNTTファシリティーズでは、既存建築物の長期継続使用や地震後の事業継続性確保に有効な制振補強をより採用しやすいものにするため、従来の制振補強の課題を解決するとともに、設計の難易度や手間を軽減する設計ガイドラインや標準設計図を備えた「ユニット型制振補強システム」を開発することにしました。

ユニット型制振補強システムの概要

■従来の制振補強の課題

制振補強部材の取付け方法は、図1のようにその形状によっていくつかの型に分類されます。従来の制振補強ではシアリンク型や壁型の取付け方法が採用されることが多いのですが、いずれの取付け方法も既存建築物の耐震補強で採用するにあたっていくつかの課題があります。
シアリンク型では、図1(a)のように制振補強部材の全周にわたってアンカーを施工するため、既存柱・梁との一体性を高めることができますが、耐震補強工事に伴って騒音・振動・粉塵が発生します。また、建築物の用途によっては、制振補強部材と既存柱・梁とを一体化するためのコンクリート打設による下階への水漏れリスクが問題になる場合があります。さらに、建築物の使用状況によっては制振補強部材が通路や窓に干渉し、建築物の使用性維持が課題となります。
一方、壁型では、図1(b)のように建築物の使用状況に応じて通路や窓を確保しやすいですが、既存梁の中央部に制振補強部材が取り付くことから、地震時には既存梁の中央部に集中的に大きな応力が作用します。そのため、制振補強部材の取付けに際して、既存梁を補強したうえで上下階までボルトを貫通させて固定するという大がかりな工事が必要になる可能性が高く、上下階での工事発生による建築物の運用や工事費・工期への影響が大きいことが課題となります。
以上のように、従来の制振補強では①施工性向上、②建築物の使用性維持、③既存柱・梁の応力負担軽減といった課題があり、これらの課題が解決されれば制振補強をより広く採用できるようになると考えられます。

■ユニット型制振補強システムの特徴

従来の制振補強の課題を解決するため、図2のように①施工性向上、②建築物の使用性維持、③既存柱・梁の応力負担軽減に有利な「ユニット型制振補強システム」を考案しました。
1番目の特徴は「施工性向上」です。本システムでは「ユニット型」という名称のとおり、設計・製作・施工がしやすいように制振補強部材を数種類のユニットで構成し、建築物の補強位置によって階高・スパンが異なる場合でも、一部のユニットの部材長の調整のみで対応できるようにしています。また、力の流れをシンプルにし、アンカー本数を削減することで、工事に伴う騒音・振動・粉塵の発生を抑制しています。さらに、制振補強部材の取付けにコンクリートを使用せず、工事は鉄骨部材の取付けのみとすることで、コンクリート打設による下階への水漏れリスクをなくしています。
2番目の特徴は「建築物の使用性維持」です。本システムでは制振補強部材の上部に新設梁を設けて、新設梁にⅤ字ブレースを取り付けることで、壁型の制振補強部材取付け方法のように既存梁に大きな応力を作用させることなく、通路や窓に使用できる大開口を確保できるようにしています。
3番目の特徴は「既存柱・梁の応力負担軽減」です。本システムでは既存柱・梁との接合部をすべて「ピン接合」とすることで、地震時においても既存柱・梁に集中的に大きな応力が作用することがないようにしています。これにより、制振補強部材の取付けに際して既存柱・梁を補強する必要がなく、上下階での工事発生による建築物の運用や工事費・工期への影響を軽減することができます。
特に既存柱との接合部には、2個の軸受(ベアリング)を用いた独自の「スウェイ機構」を採用することで、既存柱のさらなる応力負担軽減を図っています。また、スウェイ機構の可動域の範囲で施工誤差を吸収することもできるため、施工性向上にも寄与します。
なお、ここでは建物の構造種別が鉄筋コンクリート造の場合を想定して説明していますが、本システムは鉄骨造等の他の構造種別にも適用可能です。

■ユニット型制振補強システムの適用シーン

ユニット型制振補強システムは施工性に優れていること、耐震補強工事が制振補強部材を設置する階のみで完結し工期短縮も見込めることから、建築物を運用しながら耐震補強工事を進める場合に適しています。また、コンクリート打設による下階への水漏れリスクがないため、精密機器を収容する部屋の上階での工事も可能です。
制振補強部材の形状の工夫により、通路や窓に使用できる大開口を確保できるため、事務室内や窓際でも建築物の使用性を維持しつつ補強部材を設置することが可能です。また、建築物の用途変更に伴い、既存の耐震壁を全面的に撤去し、本システムを設置することで耐震性能向上と建築物の使用性向上を両立させ、建築物の資産価値を向上させることも考えられます。
独自の構造により、既存柱・梁の応力負担を軽減できるため、既存柱・梁の強度に余裕がない建築物でも適用しやすいというメリットもあります。

ユニット型制振補強システムの構造性能確認試験

ユニット型制振補強システムが開発意図どおりの構造性能(エネルギー吸収性能、応力伝達機構)を有することを検証するため、本システムの試験体を製作し、大地震を想定した動的加振による構造性能確認試験を実施しました。図3のように、試験体は試験設備の形状に合わせて90度回転させて設置し、重力加速度の影響を与えないように変位制御による加振を行いました。
1番目の検証項目であるエネルギー吸収性能(地震時に制振ダンパーがエネルギー吸収する能力)は、本システムを加振したときの減衰力-変位関係により表されます。本試験では図4のように減衰力-変位関係が解析結果と非常によく対応し、開発意図どおりのエネルギー吸収性能を有することを確認することができました。
2番目の検証項目である応力伝達機構(既存柱・梁の応力負担を軽減するために設けたピン接合やスウェイ機構の働き)は、本システムを加振したときの応力や変位の状態により確認することができます。本試験では試験体各部の変位を詳細に計測して解析結果と比較することで、独自の応力伝達機構が有効に機能することを確認することができました。
なお、加振波は正弦波および地震波とし、最大変位や周期の異なる多数の加振波で検証することで、建築物や地震動の特性によらず安定した構造性能を発揮できることを確認しました。また、長周期地震動に伴う長時間繰り返し加振や建築物の供用期間中の地震の繰り返しを想定した300秒間の連続加振においても、本システムが必要なエネルギー吸収性能を維持し損傷しないことを確認しました。

今後の展開

NTTファシリティーズでは、既存建築物の長期継続使用や地震後の事業継続性確保に有効な制振補強をより採用しやすいものにするため、従来の制振補強の課題を解決する「ユニット型制振補強システム」を考案し、開発意図どおりの構造性能を有することを検証しました。今後は実建物への導入検討を通して、ユニット化の徹底による施工性のさらなる向上や工事費削減に向けた改良に取り組み、耐震補強工事における適用シーンを増やしていきたいと考えています。

問い合わせ先

NTTファシリティーズ
研究開発部 ファシリティ部門 建物ソリューション担当
TEL 03-5669-0823
FAX 03-5669-1652
E-mail nakaga55@ntt-f.co.jp