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グローバルスタンダード最前線

アジア太平洋地域における標準化活動――ASTAP-33新マネジメント体制

第33回ASTAP(Asia-Pacific Telecommunity Standardization Program)会合が2021年6月にオンライン形式で開催されました。ASTAPはAPT(Asia Pacific Telecommunity)におけるICT分野の標準化活動の強化、地域として国際標準の策定に貢献することを目的としています。ここでは、ASTAP-33の結果および併設されたインダストリーワークショップについて報告します。

荒木 則幸(あらき のりゆき)

NTT研究企画部門

ASTAP概要

APT(Asia Pacific Telecommunity)はアジア・太平洋地域でのICT分野の開発を促進している国際機関であり、1979年に設立され、アジア・太平洋地域の38カ国が加盟しています(1)。
ASTAP(APT Standardization Program)はAPTにおいて標準化活動を推進している会議であり、1998年に発足しました(2)。主な目的は①APT地域内の標準化における協力・協調体制を構築し、国際標準化に貢献すること、②APT地域内の標準化活動者を育成するとともに、地域内メンバー、特に開発途上国メンバーのICT分野のスキル開発を支援すること、③ITU等の国際標準化機関へ地域標準化機関として共同提案を行う、などです。APT地域での仲間づくりと開発途上国への貢献の場として、ASTAPを活用していくことは重要であり、日本における標準化の国際連携の戦略としても重要な課題の1つと考えられます。ASTAP-33は2021年6月7~11日に開催され、17カ国の加盟国から約190名が参加しました。本会合では、5G(第5世代移動通信システム)とEmergency-communicationsに関するインダストリーワークショップが開催され、142名が参加しました。

ASTAPの新マネジメント体制

ASTAPの議長、副議長に関しては、1期3年間で、最大2期まで再任可とする任期が設定されています。2020年11月開催のASTAP-32は、ASTAPの議長、副議長の任期満了のタイミングであり、新議長・副議長の選任が行われるとともに、COVID-19拡大に対応した作業方法の見直し、組織構成継続の確認、新体制での作業グループ(WG:Working Group)会合で作業計画の確認が行われました。COVID-19拡大の影響により、オンライン形式で2日間のみの開催であったため、技術分野別の専門家グループ(EG:Expert Group)会議は開催されず、新マネジメント体制における実質的な審議はASTAP-33から開始されることとなりました。
ASTAPの組織構成および新マネジメント体制を表1に示します。ASTAP-32では、新議長に、前会合まで副議長を務めたHyoung Jun Kim氏(韓国、ETRI)が、副議長には、岩田秀行氏(日本、TTC)とXiaoyu You氏(中国、CAICT)が選任され、WGとEGそれぞれの議長と副議長については継続の確認と承認が行われました。また、ASTAP-33では、日本から新たにWG PSC(Policy and Strategic Co-ordination)の副議長に釼吉薫氏(NICT)、EG DRMRS(Disaster Risk Management and Relief System)の議長に著者である荒木則幸(NTT)が選任されました。

インダストリーワークショップ

ASTAP-33では、APT副議長をオーガナイザーとして、APT加盟国メンバーの関心の高いトピックをテーマとしたインダストリーワークショップが開催されました。今回は、APT加盟国へのアンケート結果より、5Gと緊急通信(Emergency-communications)の2つのトピックスについて、各セッションで、日本、中国、韓国、タイ等から、10件のプレゼンテーションが行われました。5Gは日本や中国、韓国を含むAPT各国で商用導入が開始されており、これから商用化を開始する国々にとっても関心のあるトピックです。また、近年、台風や豪雨等など、日本だけでなくAPT地域においても自然災害は多発していることや、COVID-19の社会への影響が続いていることから、Emergency-communicationsへの関心が高まっています、表2にプログラム構成を示します。
インダストリーワークショップのプレゼンテーションの一部は、EG FN&NGNやEG DRMRSなどのASTAPの技術的に関連のあるEGで議論され、関連技術の新規技術文書(APT Report)の作成が提案されるなど、将来の作業項目として検討が進められました。

主な成果文書

ASTAP-33では、WGおよびEG会議において入力文書が審議され、本会合のプレナリーでは10件のAPTレポート、2件の他標準化団体へのリエゾン文書が出力文書として承認されました。表3に承認された主な出力文書(APTレポートおよびリエゾン)の一覧を示します。
日本が提案し、文書作成を主導してきたAPTレポートは5件で、今会合で承認された文書の半数以上を占めます。この中でNTTが専門委員を務める情報通信技術委員会(TTC)の専門委員会から提案された文書は“Handbook to Introduce ICT Solutions for the Community in Rural Areas”(OUT-10)と“ APT Report on Traffic Accident Record and its Analysis Method’s Guidelines in Asia”(OUT-18)の2件となります。前者は、アジア諸国におけるパートナーと協調し、APTプロジェクト等を活用して実施したルーラルエリアでのICTソリューション実証実験の事例をまとめたもので、今回はミャンマーでの結核病に対する医療ソリューションを事例として追加し、改訂しました。後者は、交通事故の削減を目的として、事故を記録、分析して対応策を立案することの重要性を示したもので、今回はアジア各国での事故記録収集・分析状況を調査し、記録項目・分析方法をガイドラインとしてまとめました。

今後の予定

次回ASTAP-34会合は、ITUのWTSA、WTDC等のイベントが2022年に延期となったことや、COVID-19拡大の状況次第では再度日程変更となる可能性もあることから、開催日程、開催場所を決めるのは困難と判断し、現時点では未定となりました。アジア太平洋地域の標準化活動の推進とともに、ASTAPをAPT加盟国との連携を深める場としてより効果的にASTAPを活用するためにも、対面での会合開催が望まれています。

■参考文献
(1)https://www.apt.int/
(2)https://www.apt.int/APTASTAP