グローバルスタンダード最前線
ASTAP-31およびAPT WTSA-20準備会合報告
APT(Asia Pacific Telecommunity)におけるICT分野の標準化活動の強化、地域として国際標準の策定に貢献することを目的としたASTAP(APT Standardization Program)の第31回総会(ASTAP-31)が2019年6月に東京で開催されました。ここではASTAP-31の結果報告、および2020年に予定されているWTSA(World Telecommunication Standardization Assembly)の第1回APT準備会合の状況を報告します。
荒木 則幸(あらき のりゆき)†1/ 岩田 秀行(いわた ひでゆき)†2
NTTアクセスサービスシステム研究所†1/ NTT研究企画部門†2
第31回ASTAP会合
APT(Asia Pacific Telecommunity)はアジア・太平洋地域でのICT分野の開発を促進している国際機関であり、1979年に設立され、アジア・太平洋地域の38カ国が加盟しています。
ASTAP(APT Standardization Program)はAPTにおいて標準化活動を推進している会議であり、約10カ月ごとに総会を開催しています。今回の第31回ASTAP会合(ASTAP-31)は、アジア主要国との連携強化や日本の意向を反映した提案内容の調整を図るため、総務省およびNTT等の協賛企業の支援により、2019年6月に東京(秋葉原)で開催されました。会合には20カ国から108名が参加し、オープニングではAPT事務局長のAreewan氏、ホスト国を代表して佐藤ゆかり総務省副大臣からスピーチをいただきました(図1)。
図1 オープニング会場
第1回APT WTSA-20準備会合
ASTAP-31と併催して、WTSA(World Telecommunication Standardization Assembly)-20に向けたAPTの準備会合であるAPT WTSA-20準備会合(APT準備会合)が開催されました。WTSA-20はITU-Tの全体総会であり、2021~2024年までの会期のITU-Tにおける研究体制および各Study Groupの議長・副議長のポスト、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)等の最新技術に関する研究テーマ等を決定する重要な会合です。WTSAの審議は、世界の地域を6つ(アジア、北南米、欧州、ロシア、アラブ、アフリカ)に区分し、各地域単位で共同提案を持ち合うことで合意形成の効率化を図っているため、APT準備会合はWTSA-20に向けた対処方針を審議するうえで非常に重要です。例えば、日本の提案を反映しようとした場合、アジア・太平洋地域としてAPTの共同提案とすることにより、他地域と地域レベルでの交渉が可能となります。
今回は、WTSA-20に向けた第1回目の会合であり、APT準備会合の議長、副議長等の会合運営の役職者の選出と検討体制の承認が行われました。表1にAPT準備会合の新体制を示します。APT準備会合の議長にはTTC(Telecommunication Technology Committee:情報通信技術委員会)の前田洋一専務理事が選出されました。またITU-T作業方法(WG1)、ITU-T組織構成(WG2)、規制・政策と標準化関連事項(WG3)について検討する3つのWG(Working Group)が設立されました。実効的な会合での議論を推進するWG議長と副議長に日本から3名が選任され、日本として意向の反映に向けた強力な支援体制が構築できたと考えられます。今後、ITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group)などの議論動向を踏まえ、APTにおける共同提案の合意に向けた議論が進められる予定です。
表1 APT WTSA-20準備会合の新体制
インダストリーワークショップの開催
会合初日の午後に、インダストリーワークショップが開催されました。前半は災害対応ICT、後半はスマートシティおよびIoTに関するテーマで4カ国、7名による講演が行われました。インダストリーワークショップのプログラムを表2に示します。本ワークショップのレポートとして、関連するASTAPのEG(Expert Group)における将来の有望な検討項目が報告されました。
表2 インダストリーワークショップのプログラム
ASTAPの組織構成
ASTAPの構成とそれぞれの役職者を図2に示します。ASTAPは11のEGと技術分野ごとにEGを取りまとめる3つのWGで構成されます。実質的な技術審議は各EGで行われ、各EGからの成果文書はWGで承認を得た後、ASTAP総会にて最終審議が行われる仕組みとなっており、各会合レベルで効率的な議論が行える構成となっています。
図2 ASTAPの構成と役職者
主な審議結果
今回のASTAP総会では、11件のAPTレポート、1件のガイドライン文書、4件の調査質問状、3件の他標準化団体へのリエゾン文書が承認されました。主な出力文書を表3に示します。
EG-DRMRS(防災・災害復旧システム)のセッションでは、NTTからの提案により検討が進められていた可搬型緊急通信システムのユースケースに関する技術文書の審議が進められ、熊本地震での可搬型ICTリソースユニット(MDRU: Movable and Deployable ICT Resource Units)(1)の適用例が盛り込まれたほか、中国およびフィリピンの緊急通信システムの事例、ITU等の他標準化団体における災害対応ICT関連技術・通信サービスの標準化状況を追加して、APTレポートとして承認されました(図3)。今後、アジア・太平洋地域においてMDRU等の可搬型緊急通信システムの活用が広がることが期待されます。
また、前回のASTAP-30総会においてAPT勧告化プロセスにかけることが承認された「災害時における車両を使用した情報通信システム」〔Information and Communication System using Vehicle during Disaster (V-HUB)〕については、勧告化に必要な条件〔加盟国の25%(10カ国)以上の賛成かつ2カ国以上の反対がないこと〕を満たし、2018年10月に開催された第41回APT管理委員会にて、APT勧告として承認されたことが報告されました。
EG ITU-T(ITU-T課題)のセッションでは、開発途上国を含むAPT加盟国に向けてITU-Tの各SGにおける最新の標準化トピックや技術動向および審議状況の報告・情報共有が行われています。今回はITU-Tの全SGからプレゼンテーションが行われ、WTSA-20での審議に向けて、APT加盟国間で各SGの現状把握、新規課題等について情報共有することができました。
表3 ASTAP-31総会で承認された主な出力文書
図3 アタッチケースタイプMDRUの特徴
今後の予定と課題
ASTAPはAPTにおける標準化活動を推進している会議であり、日本からもASTAP議長を輩出するとともに、WGや多くのEGの役職者を務めています。NTTおよび日本からの参加者は、技術文書の審議においても主導的な役割を果たしており、APT諸国における主要国として、日本に対する期待・信頼は極めて大きいと考えられます。WTSA-20のような大規模な国際標準化会議の場では、各国単独ではなく地域としての提案が重要視されることが多く、日頃からAPT地域でのプレゼンスを示し、APTメンバとの連携を深めておくことが重要であり、ITU-Tに対しては、APT準備会合だけでなくASTAPもそのための貴重な場となると考えられます。次回のAPT準備会合は2020年2月もしくは3月に、第32回ASTAP総会は2020年5月もしくは6月に開催される予定です。
■参考文献
(1) 坂野・小田部・小向:“移動式ICTユニット方式の全体概要、”NTT技術ジャーナル、Vol.27, No.3, pp.12-16, 2015。