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特集

5G evolution & 6Gに向けたNTTドコモの取り組み

5G evolution & 6Gへの動向とめざす世界

日本国内では、2020年3月に5Gの商用サービスが開始されましたが、世界中では次世代の移動通信システムである「6G」および、2030年代の情報通信技術に関する検討の機運が高まっています。本稿では、6Gの研究開発に関する国内外動向やスケジュール展望、および、「ドコモ6Gホワイトペーパー」で提案した5G evolution & 6Gのコンセプトについて概説します。

岸山 祥久(きしやま よしひさ)/須山 聡(すやま さとし)
永田 聡(ながた さとし)
NTTドコモ

まえがき

移動通信システムは、これまで約10年ごとに新世代の方式へと進化しつつ発展してきました。第1世代移動通信システム(1G)から第2世代移動通信システム(2G)にかけて(1980〜90年代)は、音声通話がメインで簡単なメールができる程度でしたが、2000年代の第3世代移動通信システム(3G)から写真、音楽、動画などのマルチメディア情報を誰でも通信できる時代になり、2010年からサービスが開始された第4世代移動通信システム(4G)では、LTE(Long Term Evolution)方式による100 Mbit/sを超える無線通信技術がスマートフォンの爆発的な普及を支えました。そして、第5世代移動通信システム(5G)による商用サービスが、国内では2020年3月から提供され、最大通信速度は4 Gbit/sを超えるところまできました。
5Gには、高速・大容量、低遅延、多数端末同時接続といった技術的特長があり、4Gまでのマルチメディア通信サービスをさらに高度化することに加え、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)とともに、これからの産業や社会を支える基盤技術として新たな価値を創出することが期待されています。特に、5GとAI技術の組合せは、実世界をサイバー空間上に再現し、そこから「未来予測」や「新たな知」を獲得するサイバー・フィジカル融合*1を高度化することで、さまざまな産業分野において新規サービスやソリューションの創出につながると期待されています。このような動向は、2030年代まで継続すると考えられ、今後の5G高度化(5G evolution)および、第6世代移動通信システム(6G)が2030年代の産業や社会を支える基盤技術となるよう、研究開発を推進する必要があります。本稿では、6Gに関する国内外動向や予想されるスケジュール、および、「ドコモ6Gホワイトペーパー(1)」で提案した5G evolution & 6Gのコンセプトを概説します。

*1 サイバー・フィジカル融合:現実空間(フィジカル空間)の情報をさまざまなセンサなどから収集し、仮想空間(サイバー空間)と結びつけることで、より良い高度な社会を実現するためのサービスやシステムのこと。

6G関連動向とスケジュール

6G議論の立ち上がりは、5G議論の立ち上がりに比較すると世界的に早い傾向があります。これは、5Gにおける世界的な開発競争の影響によるものと考えられています。5Gでは、2020年の8年前にあたる2012年ごろから、徐々に国内外での検討プロジェクトが立ち上がっていきました。一方、6Gの議論はフィンランドのOulu大学を中心とする「6Genesisプロジェクト」のように、2030年の12年前にあたる2018年ごろから動きが生じており、2019年には米国でも、当時のトランプ大統領が自身のツイッターで6Gへの取り組みを強化する旨を表明、FCC(Federal Communications Commission)*2がテラヘルツ波*3を研究用途に開放する旨を公表するなど、世界的に早期から動きがみられました(2)。日本でも、総務省が2020年1月より、Beyond 5G*4に関する総合戦略の策定に向けた「Beyond 5G推進戦略懇談会」を立ち上げ、2030年代の社会において通信インフラに期待される事項や、その実現に向けた政策の方向性などに関するロードマップを公表しました(3)。さらに、2020年12月には、6Gに向けた産学官の連携を強力かつ積極的に推進するため、「Beyond 5G推進コンソーシアム」が設立されました(4)。
NTTドコモでは、2017年ごろからBeyond 5Gに関する検討を開始しており(5)、2020年1月には、「ドコモ6Gホワイトペーパー」の初版を公開し、現在3.0版までアップデートを行っています(1)。さらに、国内外の研究機関や主要ベンダもBeyond 5Gや6G関連のホワイトペーパーなどを続々と発表しており、まさにホワイトペーパーラッシュともいえる状況です。
今後は、2030年までの6G実現に向けた、実証実験や国際標準化が進められていくと想定されます。

*2 FCC:米国における連邦通信委員会。テレビ・ラジオ・電報・電話などの事業の許認可権限を持っています。
*3 テラヘルツ波:1THz前後の電磁波の呼称。100 GHzから10 THzの周波数を指すことが多い。
*4 Beyond 5G:5G以降の無線通信システムを表す用語として広く用いられており、「6G」とほぼ同義です。

5G evolution & 6Gでめざす世界

以下では、「ドコモ6Gホワイトペーパー」で提案した5G evolution & 6Gのコンセプトについて解説します。
5G evolutionを経て6Gで実現をめざす6つの要求条件を図1に示します。これらは5Gの性能をさらに高めた要求条件を含むとともに、5Gまでにはない新領域への挑戦も加わり、より多岐に広がるものと想定されています。以下、各々について期待されるユースケースを交えつつ概説します。

■超高速・大容量通信

通信速度の高速化および通信システムの大容量化は、移動通信システム全世代にわたる普遍的な要求条件です。6Gでは、究極に速い通信速度および、多数のユーザがそれを同時に享受可能な超大容量通信の実現が考えられ、具体的には100 Gbit/sを超える通信速度および100倍以上の超大容量化の実現をめざしています。通信速度が人間の脳の情報処理速度のレベルに近づくことで、単なる映像伝送(視覚・聴覚)だけではなく、現実の五感による体感品質の情報伝送、さらには、雰囲気や安心感などの感覚も含めた「多感通信」のような拡張の実現も考えられます。このような、従来にはない超高速・大容量通信のサービスを具現化するには、ユーザインタフェースも「スマートフォン」を超える必要があります。例えば、3Dホログラムの再生を実現するデバイスや、メガネ型端末のようなウェアラブルな端末の進化が期待されます。さらに、このような新体感サービスは超大容量通信によって、複数ユーザ間でもリアルタイムに共有され、サイバー空間上での共体感や協調作業など、新たなシンクロ型アプリケーションの実現も期待されます。
また、産業向けユースケースやサイバー・フィジカル融合などのトレンドを考慮すると、さまざまな実世界のリアルタイム情報をネットワーク上の「頭脳」であるクラウドやAIに伝送する必要があるため、上りリンク*5における大幅な高速・大容量化が特に重要となります。

*5 上りリンク:端末からネットワーク方向への情報の流れ。

■超カバレッジ拡張

将来の通信は空気と同様、あって当り前のものとなり、かつ電力や水と同様、もしくはそれ以上に重要なライフラインとなり得るため、6Gでは、あらゆる場所で移動通信サービスが享受可能になるようサービスエリアを究極にまで拡大することをめざします。世界の陸上面積カバー率は100%を目標とし、それ以外の環境での通信エリアの構築や宇宙ビジネスの発展を見据え、現在の移動通信システムがカバーしていない空・海・宇宙などを含むあらゆる場所へのカバレッジ拡張もめざします。これにより、さらなる人・物の活動環境の拡大と、それによる新規産業の創出にも期待できます。例えば、ドローン宅配のような物流のユースケースや、農業・林業・水産業といった第1次産業における無人化や高度化のユースケースが有望です。また、将来的には空飛ぶ車や宇宙旅行、海中旅行など、2030年代の未来的ユースケースへの応用にも期待できます。

■超低消費電力・低コスト化

移動通信システムにおけるネットワークおよび端末の低消費電力・低コスト化は、地球環境問題などに配慮した、世界がめざす持続可能な社会の実現に向けて重要な挑戦となります。
ネットワークにおいては、今後さらに通信量が増えることを想定し、単位通信速度(ビット)当りに要する消費電力量やコストの大幅な低減をめざします。例えば、通信のトラフィック量が100倍に増大する場合の設備投資および運用コストは、ビット当りのコストを100分の1以下に低減しなければ、高性能化と経済化を両立することができません。
さらに、将来的には無線の信号を用いた給電技術の発展やデバイスの消費電力量の低減技術によって、端末が充電不要になるような世界も期待できます。これは、サイバー・フィジカル融合の高度化によってセンサなどの端末数が増大することや、ユーザインタフェースがウェアラブルなものへと進化していくユースケースを想定すると、より必要性が高まるものと考えられます。

■超低遅延

サイバー・フィジカル融合において、AIとデバイスをつなぐ無線通信は、人間で例えると情報伝達をする神経に相当するといえます。リアルタイムかつインタラクティブなAIによるリモートサービスをより高度に実現するには、常時安定したE2E(End to End)での低遅延が基本的な要件になります。目標はE2Eで1 ms以下の超低遅延の実現です。これによって、サイバー空間からの低遅延なフィードバックによる「違和感」のないサービスを実現することができ、AIによって遠隔制御される機器やロボットが、人間に近い、もしくは人間を超えるような俊敏な動作や機微を読み取るような対応ができる世界も期待されます。例えば、声のトーンや表情などの情報からユーザの望むことを瞬時に判断し、人間と同等以上に気の利く応対をする接客などが、AIによるロボットの遠隔制御で実現されるかもしれません。さらに、このような超低遅延通信によるテレワーク、遠隔操作、遠隔医療、遠隔教育など、さまざまな分野での応用が期待されます。

■超高信頼通信

産業やライフラインのための用途に無線通信を用いる場合、その信頼性が重要な要件です。特に産業向けユースケースの中には、産業機器の遠隔制御や工場自動化など、通信の品質や可用性が安全性や生産性に大きく影響するものが存在します。したがって、必要な性能や安全性を担保するために超高信頼通信の実現は重要な要求条件であり、6Gでは5Gよりもさらにレベルの高い信頼性や高セキュリティの実現が期待されます。5Gにおける超高信頼低遅延通信(URLLC:Ultra-Reliable and Low Latency Communications)*6では、信頼度(Reliability)として99.9999%までの実現が検討されており、6Gではさらに一桁の改善(99.99999%)が目標値として想定されています。
また、現在は「ローカル5G」のように、公衆網のベストエフォート型サービスとは異なる産業向けに特化したネットワーク(NPN:Non-Public Network)が注目されており、工場などの限られたエリアでのURLLC技術が主に検討されています。一方で、将来的にはロボットやドローンの幅広い普及や、空・海・宇宙などへの無線カバレッジの拡大に伴い、より広域での高信頼通信の実現が求められるものと考えられています。

*6 超高信頼低遅延通信(URLLC):低遅延かつ、高信頼性を必要とする通信の総称。

■超多接続&センシング

サイバー・フィジカル融合の高度化によって、人やモノの通信に関連する超多数のデバイスが普及していくと想定され、5Gの要求条件のさらに10倍(=km²当り1000万デバイス)の究極の多接続が6Gの要求条件になるものと考えられます。人に対しては、ウェアラブルデバイスや人体に装着されたマイクロデバイスにより、人の思考や行動をサイバー空間がリアルタイムにサポートするようなユースケースが考えられます。また、車を含む輸送機器、建設機械、工作機械、監視カメラ、各種センサなど、あらゆるモノがサイバー空間と連動し、産業や交通、社会課題の解決、および人の安全・安心で豊かな暮らしをサポートするような世界の実現が期待されます。
さらに、無線通信のネットワーク自身が、電波を用いて端末の測位や周辺の物体検知など、実世界をセンシングする機能を備えていくような進化も想定されます。測位については、環境によっては誤差センチメートル以下の超高精度の実現が期待されます。無線センシングにおいても、電波とAI技術の併用によって、高精度な物体検知に加えて物体識別や行動認識などを実現することも期待されます。

5G evolution & 6Gにおける無線技術の発展

過去の移動通信の世代から6Gまでの技術発展イメージを図2に示します。旧世代では各世代の無線アクセス技術(RAT:Radio Access Tech-nology)*7を象徴する1つの代表的な技術が存在しましたが、4G以降はOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)*8方式をベースとした複数の無線技術の組合せでRATが構成されており、拡張的な技術発展になっています。これは、OFDM方式をベースとした無線技術ですでにシャノン限界*9に近い周波数利用効率*10が実現できている一方、移動通信システムに求められる要求条件や、周波数帯、およびユースケースは継続的に拡張されているためです。
したがって、6Gでは5G evolutionを経て、さらに多くの無線技術の「組合せ」が必要になるとともに、前述の要求条件やさまざまなユースケースを実現していくために、移動通信以外の技術も含めた「組合せの拡張」についても考慮する必要があると考えられます。また、5GはLTEの高度化とNR(New Radio)*11の組合せによって定義されましたが、5GのNRは将来の新技術導入を考慮した拡張性に優れた設計になっているため、6GのRATの定義についても今後議論が必要です。
5G evolution & 6Gに向けて検討が必要な技術領域を図3に示します(1)。
空間領域の分散ネットワーク高度化技術(New Radio Network Topology)では、できるだけ近い距離や見通し環境(ロスの少ないパス)で通信すること、および、できるだけ多数の通信路をつくり、パス選択の余地を多くする(冗長性を増やす)ことで、超高速・大容量化(特に上りリンク)や無線通信の信頼性向上を追求します。空間領域で分散した無線ネットワークのトポロジー*12を構築するための分散アンテナ展開を、いかに経済的に実現するかが課題となっています。
非陸上(NTN:Non-Terrestrial Network)を含めたカバレッジ拡張技術では、静止衛星、低軌道衛星、および高高度プラットフォーム(HAPS:High-Altitude Platform Station)の利用を視野に入れることで、山間・僻地、海上、宇宙空間までカバーすることが可能です。すでに、3GPPではこれら衛星やHAPSを用いたNRのNTNへの拡張検討が開始されています。
また、周波数領域のさらなる広帯域化および周波数利用の高度化技術では、6G向けに5Gよりさらに高い周波数帯であるミリ波や100〜300 GHzのいわゆるテラヘルツ波に適した無線技術を確立します。加えて、それらを検討するうえで重要となる電波伝搬特性の明確化、伝搬モデルの構築、デバイス技術における課題解決などの検討も重要となります。
無線通信システムの多機能化およびあらゆる領域でのAI技術の活用では、電波で測定した情報に加えて、映像や多様なセンシング情報をAI技術で解析し、無線通信制御の高度化、高精度な測位・測距、物体検出、無線給電などに活用します。
加えて、6Gではネットワーク全体における機能配置の最適化、装置の汎用化も考慮しながら、将来の要求条件のさらなる高まりや市場変化の速さに追従するため、ネットワーク・アーキテクチャの抜本的な見直しも含めた検討が必要であり、その設計にも多くの課題が存在します。

*7 無線アクセス技術(RAT):NR、LTE、W-CDMA、GSMなどの無線アクセス技術のこと。
*8 OFDM:デジタル変調方式の1つで、情報を複数の直交する搬送波に分割して並列伝送する方式。高い周波数利用効率での伝送が可能。
*9 シャノン限界:帯域幅とSN比より理論的に導出された、転送可能な情報の最大量。シャノンの通信路容量として知られています。
*10 周波数利用効率:単位時間、単位周波数帯域当りに送ることのできる情報ビット数。
*11 NR:5G向けに策定された無線方式規格。4Gと比較して高い周波数帯(例えば、3.7 GHz帯や28 GHz帯)などを活用した通信の高速化や、高度化されたIoTの実現を目的とした低遅延・高信頼な通信を可能にします。
*12 トポロジー:機器の位置関係やネットワーク構成。

あとがき

本稿では、5G evolution & 6Gに関する国内外動向やスケジュール展望、および、「ドコモ6Gホワイトペーパー」で提案したコンセプトを概説しました。現在、 Beyond 5G推進コンソーシアムや国内外における6G関連プロジェクトでの検討が精力的に進められていることもあり、引き続き、さまざまな業界の関係者や産学官における6G議論の推進に寄与していきたいと思います。

*本特集は「NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル」(Vol.29 No.2、 2021年7月)に掲載された内容を編集したものです。

■参考文献
(1) https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/whitepaper_6g/index.html
(2) https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/index.html
(3) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000364.html
(4) https://b5g.jp/
(5) 岸山:“Beyond 5G無線アクセス技術の初期考察、” 信学ソ大BS-2-2,Sept. 2017.

(左から)岸山 祥久/須山 聡/永田 聡

6Gに向けては、今後も世界的な技術開発の競争が続くことが予想されますが、そのような中で、私たちは人々の暮らしを豊かにするために技術をつくっているのだという本質を見失わないよう、本稿で述べた将来世界の実現をめざしていきます。

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