NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

特集1

国際標準化動向特集

無線通信関連の標準化動向

モバイル通信、衛星通信、無線LAN、固定無線など、無線通信は通信ネットワークで大きな役割を果たしています。国際標準化組織の1つであるITU-R(International Telecommunication Union-Radiocommunication Sector)では、2023年11月に開催されるWRC-23(2023 World Radiocommunication Conference)に向け、Beyond 5G(第5世代移動通信システム)や6G(第6世代移動通信システム)を見据えたものだけでなく、さまざまな検討、議論が行われてきました。また、民間標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)においても、5Gのさらなる進化に向け、現在、Release 18以降の仕様を5G-Advancedとして検討開始しています。IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)配下のSA(Standard Association)の中の作業部会であるIEEE 802.11部会では次世代無線LANの検討もされています。本稿では、これらに加え、衛星通信、固定無線、電波伝搬の標準化についてNTTグループの活動状況を紹介します。

小鯛 航太(こだい こうた)†1/永田 聡(ながた さとし)†2
立木 将義(たちき まさよし)†2/岸田 朗(きしだ あきら)†3
岩谷 純一(いわたに じゅんいち)†3/大槻 信也(おおつき しんや)†3
山田 渉(やまだ わたる)†3/中谷 達也(なかたに たつや)†3
坂本 信樹(さかもと のぶき)†4
NTT研究企画部門†1
NTTドコモ†2
NTTアクセスサービスシステム研究所†3
NTT技術企画部門†4

はじめに

無線通信に関する国際標準化組織としては、フォーラム標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)やIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)、周波数の利用方法を規定するデジュール標準団体であるITU-R(International Telecommunication Union-Radiocommunication Sector)があり、NTTグループはサービスの拡大や開発技術のグローバル化、周波数の効率的な利用への寄与を目的としてこれらの標準化団体で積極的に活動しています。本稿では、モバイル通信に関する標準化組織である3GPPおよびITU-R SG(Study Group)5/WP(Working Party)5D、固定衛星通信に関するITU-R SG 4/WP 4A、無線LANに関するIEEE、ITU-R SG 5/WP 5A、固定無線に関するITU-R SG 5/WP 5Cそして、これらにおける検討を支える電波伝搬に関するITU-R SG 3でのNTTグループの活動内容および最近の動向を紹介します。

モバイル通信の標準化に関する動向

■3GPPにおける動向

3GPPは、第3世代向けの移動体通信システムの標準仕様を検討するために、各国・地域の標準化団体により1998年12月に発足されたパートナーシッププロジェクトです。3GPPで作成された標準仕様書は、標準化機関パートナー(OP:Organizational Partner)である世界6つの標準化団体により各国・地域の標準として発行されます。また、各OPが協力してITUに標準仕様書を提案し、ITUより国際勧告が行われることで国際標準となります。3GPPの組織構成としては、各企業や団体が直接参加し、技術仕様の作成作業を行う技術仕様化グループ(TSG:Technical Standardization Group)と、OPが参加して全体の線表決定、進捗管理等を行うプロジェクトコーディネーショングループ(PCG:Project Coordination Group)の大きく2つのグループから構成されます。3GPP ではリリース(Release)と呼ばれる機能セット単位でリリース番号を付与して標準技術仕様書を発行しており、近年では2018年に仕様化が完了したRelease 15(Rel-15)が5G(第5世代移動通信システム)として世界各国で商用化されています。3GPPではRel-15の仕様策定後に、その発展としてRel-16およびRel-17仕様にて5Gの機能拡張や性能改善を行ってきており、またRel-18以降を「5G-Advanced」と定義し、2022年からRel-18仕様策定作業を開始しました。5G-Advancedは2020年代後半を商用ターゲットとしており、2030年ごろをターゲットとした6G(第6世代移動通信システム)へのステップになります。2010年代および2020年代の3GPP標準化タイムラインを図1に示します。図の6G関連のスケジュールは2030年ごろの商用化というターゲットから逆算した予想であり、今後の3GPP Releaseのスケジュールや6Gとの対応関係は現時点では未定ですが、5G-Advancedの標準化は6G仕様ができる直前のRel-18から20となると考えられます。

■IMTの標準化に関する動向

NTTドコモでは、国際標準に準拠した移動通信システムであるIMT(International Mobile Telecommunication)をはじめとする移動業務および関連する無線通信システムや利用する周波数等無線通信に関する標準化活動を行っており、ITU-Rにおいて地上無線通信を所掌するSG 5と、その傘下のWP 5Dで活動しています。WP 5Dの動向について近年注目を集めている3つのトピックを中心に動向を紹介します。
(1) 新たなIMT周波数の特定
IMTの新たな周波数利用に関する検討は、2019年に開催されたWRC-19の後から開始されました。そして2023年3月から4月にかけて開催されたCPM(Conference Preparatory Meeting)-23により、これまでの周波数共用検討などがまとめられ、WRC-23に向けた準備が整いつつあります。具体的には、他業務の無線システムに干渉影響がないか、影響を回避するためにはどのような条件が必要か、といった事前の技術検討がWP 5D会合を通じて進められており、IMTに関する専門家に加え、他無線システムの専門家も参加して詳細な議論が行われてきました。IMT周波数の追加特定に関するWRC-23議題1.2において、日本を含む第三地域(アジア・太平洋地域)においては、7025〜7125MHzの100MHz幅が検討の対象となっており、2023年11月から開催されるWRC-23において、IMT周波数として特定されるかどうかについて結論が出されることとなります。
(2) HIBS(HAPS)用周波数の検討
近年、次世代の新たな通信インフラとして高高度プラットフォーム局(HAPS:High Altitude Platform Station)などが注目されてきていますが、HAPSをIMT基地局として利用するHIBS (HAPS as IMT Base Stations)用周波数に関する事項がWRC-23議題1.4として議論されています。WRC-23議題1.2と同様に、CPM-23の結果により、これまでの周波数共用検討などがまとめられてきており、WRC-23に向けた準備が整いつつあります。2022年時点では、日本を含む第三地域においては1885-1980MHz、2010-2025MHz、2110-2170MHzがHIBS用周波数として利用可能ですが、これらに加えてWRC-23議題1.4では図2に示す2.7GHz以下のいくつかの候補周波数について、HIBSでのさらなる利用周波数拡大の検討が行われています。こちらについても2023年11月から開催されるWRC-23において、HIBS用周波数利用拡大について結論が出されることとなります。
(3) IMT.FRAMEWORK FOR 2030 and BEYOND勧告の策定
これまでの周波数の話題とは少し趣が異なりますが、将来にわたるIMTの役割、そのためのフレームワークや目的を定義する新勧告案の策定を目的として、WP 5Dにて2021年から検討が始まりました。具体的には、2030年以降に向けたIMTの開発の枠組みとめざすべき目標であるIMT-2030の利用シナリオをどのようなものとするか、また能力の定義、その目標値について多くの議論がなされました。これまでに2年以上の時間をかけて、各国提案の統合と審議が行われて、IMT-2030の利用シナリオ図(図3(a))と能力図(図3(b))を含む新勧告案ITU-R M.(IMT.FRAMEWORK FOR 2030 and BEYOND)が2023年6月にWP 5D会合において合意され、2023年9月に予定されているSG 5での審議に進むこととなりました。新勧告の承認後はより詳細な技術要件仕様の策定など、IMT-2030の実現に向け、3GPPなどと連携しながら検討が進められていくことになります。

固定衛星の標準化に関する動向

WP 4Aは衛星業務を所掌とするITU-R SG 4に所属し、固定衛星業務および放送衛星業務の軌道・周波数の有効利用を扱っています。WRC-19議題1.5では、17.7-19.7GHz、27.5-29.5GHzにおける、静止軌道(GSO:Geostationary-Satellite Orbit)上の宇宙局と通信を行う移動する地球局(ESIM:Earth Stations in Motion)利用に関する技術検討が行われ、決議169(WRC-19)が策定されました。本決議169において、特に航空機に搭載するESIM(A-ESIM:Aeronautical ESIM)については27.5-29.5GHzで運用している地上業務(主に5Gなど)の適切な保護を目的としたA-ESIMへの規制検討が要請され、送信電力を順守するためのA-ESIMの飛行高度や場所に基づく計算手法をまとめた勧告が2023年7月のWP 4A会合にて合意、SG 4にて承認されました。WRC-23会期においては、WP 4Aは主に5つのWRC議題を担当しており、その1つである議題1.16にて17.7-18.6GHz、18.8-19.3GHz、19.7-20.2GHz、27.5-29.1GHz、および29.5-30GHzにおける、非静止軌道(non-GSO:non Geostationary-Satellite Orbit)上の宇宙局と通信を行うESIM利用に関する技術検討が行われており、日本は決議169(WRC-19)に基づき合意された勧告をベースに、WRC-19議題1.5と同様に地上業務の適切な保護のための活動を進めているところになります。

無線LANに関する動向

NTT研究所では無線LANについての活動を実施しています。IEEE配下のIEEE 802.11部会において無線LANの標準規格策定のための活動を行っています。加えて、電波・周波数の利用方法といった国際的な制度にかかわる議論への対応を、ITU-Rにおける地上無線システムに関するSGであるSG 5配下の作業部会でありIMT以外の陸上移動無線を所掌するWP 5A、および電波に関する国際条約であるRR(Radio Regulations:無線通信規則)改定を議論するWRCで実施しています。

■IEEE 802.11における動向

IEEE 802.11 WGでは、新たな規格策定に向けさまざまな機能・トピックの議論が行われています。その中でも、現在(2023年8月現在)の最新規格IEEE 802.11ax (Wi-Fi 6/6Eが対応)の次世代の高速化規格となるIEEE 802.11be(11be)を議論するTG(Task Group) be、およびその次世代の規格を議論するUHR(Ultra High Reliability) SGが主要な議論グループとなっています。
11be(Wi-Fi 7が対応)は30Gbit/s以上の最高スループットの実現、低遅延機能の具備をターゲットとし、4096 QAM(Quadrature Amplitude Modulation)の変調多値数、6GHzの周波数帯における従来の2倍となる320MHzの利用帯域幅の利用、1つの筐体に実装された複数の無線機能を連携・協調させるマルチリンク伝送、周期的な低遅延トラフィックを優先的に送信させるR-TWT(Restricted Target Wake Time)などが規定される見込みです。TGbeでは標準規格ドラフトの改定が進められており、図4に示すとおり2024年12月の標準化完了を予定しています。
UHR SGでは、高速化がメインのこれまでの主要規格と異なり、無線アクセスの低遅延化・高信頼化を主なターゲットとしています。これを実現するための候補技術として、複数のAP(Access Point)が協調して送受信を行うマルチAP協調・連携技術、非周期で発生するトラフィックの低遅延伝送を優先的に伝送する機能、端末がAPを遷移する際の無瞬断ハンドオーバ、周波数利用効率技術の改善機能などが議論されています。今後、UHR SGの議論を踏まえた新たな規格策定議論がTG(TGbn)において2023年11月に開始され、2027年3月にIEEE 802.11bn(11bn)標準として規格化完了する目標が設定されています。さらに、UHR SGにおいては、11bnに対して付加的に利用することを前提とした60GHz帯のミリ波帯周波数の機能の検討も議論され、TGbnとは別に新たなSGとして、IMMW (Integrated Millimeter Wave) SGが2023年11月に設立され議論が開始される予定です。

■ITU-Rにおける動向

近年のITU-Rにおける無線LANに関するトピックとして、2019年のWRC-19で5.2GHz帯の屋外利用・高出力化を可能とするRR改定が合意され(1)、その根拠となる技術検討をWP 5Aで実施し、NTT研究所からも積極的に活動を行いました。2023年のWRC-23では無線LANを対象とした議題はありませんが、WP 5AではWRCの議題以外にも無線LANに関する議論が継続的に行われ、以下の2点が検討されています。
第一に、無線LANの技術条件などが記載されたITU-R勧告 M.1450およびM.1801の修正の議論です。主な論点として、IEEE 802.11標準規格の更新に伴い6GHz帯を使用するIEEE 802.11axの追記などが提案されています。これに対し中国・ロシアなどが、無線LANの6GHz帯の利用増加に伴う他システムへの干渉増加を懸念し、対抗して無線LANの6GHz帯の利用制限が提案され、議論されています。日本からはこれまで、WRC-19でのRR改定や近年の6GHz帯の無線LAN利用を可能とする国内制度改正の反映の提案、ならびに6GHz帯の利用制限案への反対意見などを入力し、作業文書に暫定反映されています。
第二に、6GHz帯の地球探査衛星と無線LANの共用評価に必要となる無線LANのパラメータが地球探査衛星を所掌するWP 7Cから照会され、議論されています。
いずれも図5に示すように他システムと共存している6GHz帯の周波数が議論の中心となっています。
NTT研究所はWP 5Aの日本代表団の無線LAN主担当として継続的に活動しています。

固定無線システムに関する動向

固定無線システムに関する標準化活動を実施している組織として、ITU-R SG 5配下の作業部会であるWP 5Cがあり、NTT研究所が活動しています。
現在の大きな議論テーマとしてはサブテラヘルツ波(92GHz以上)の技術進展に伴い、高速・広帯域な通信が実現可能なこれらの周波数帯での固定無線の世界的な調和に向けて、W帯(92-94GHz、94-100GHz、102-109.5GHz、111.8-114.25GHz)およびD帯(130-134GHz、141-148.5GHz、151.5-164GHz、167-174.8GHz)の固定無線用周波数のチャネル配列に関する勧告や、地球探査衛星用受動センサを保護するための検討が実施されています。これらの作業が完了することにより、モバイルバックホール・フロントホール向け大容量固定無線システムの世界的な実現および展開の促進が期待できます。
WP 5Cでは固定無線システムの将来動向や将来の利用方法についても検討しており、ITU-R報告 F.2323 「固定無線の利用と将来動向」にまとめられています。固定無線の利用方法として、図6に示すような有線設備の敷設が困難な地域への通信サービスの提供が含まれており、NTTアクセスサービスシステム研究所が開発したVHF(Very High Frequency)帯加入者系ディジタル無線システム(TZ-68D)(2)(3)を海外にも訴求するために、長距離(数10km)かつ見通し外通信を実現する技術特徴や日本で運用開始したことを追記する活動もNTT研究所では実施しています。

電波伝搬の標準化に関する動向

NTT研究所では電波伝搬に関する標準化活動を実施しており、ITU-Rにおいて電波伝搬を扱う研究委員会であるSG 3および配下の基本伝搬を扱うWP 3J、ポイント-エリア伝搬を扱うWP 3K、電離圏伝搬を扱うWP 3Lおよび干渉伝搬を扱うWP 3Mで活動しています。SG会合はおおむね2年に1度の開催を、WP会合は年1回の開催を基本としており2023年は5月22日から6月2日にかけて開催されました。本会合では32カ国、27機関から210名(日本からは15名)が出席し、4つのWP会合宛に156件の寄与文書、SG宛に39件の寄与文書が入力されました。議論の結果、今会合では18件の勧告改訂、2件の報告改訂、3件の研究課題改訂と1件の新研究課題追加がなされました。
本稿ではSG 3の動向について近年注目を集めている高周波数帯のトピックを中心に概要を紹介します。

■ITU-R 勧告 P.1238(屋内無線通信のための伝搬データと推定モデル)

日本、英国、韓国から100GHz以上のさまざまな環境における伝搬測定例が示され、次回会合での勧告化に向けてオフライン会合で継続議論されることとなりました。また、100GHz以下の伝搬損失推定モデルについては新規測定データの追加により、会議室環境の推定モデルが新たに勧告化されました。さらに、高周波数帯で問題となる人体遮蔽について、新勧告化をターゲットとして活動を行う新しいオフライングループが設立され、次回会合まで継続議論されることとなりました。

■ITU-R 勧告 P.1411(屋外短距離無線通信のための伝搬データおよび推定モデル)

2022年会合までに入力された測定データを基に遅延スプレッドや角度スプレッドなどの広帯域特性を中心に勧告の表へパラメータが追加されることが合意されました。また、日本および米国からの寄与文書がきっかけとなり、見通し確率推定モデルについて白熱した議論がなされました。その結果、引き続きの検討が必要ということになり、新しいオフライングループが設立されることとなりました。

今後の展望

無線通信システムおよび無線スペクトラムに対する需要は年々増大しており、3GPPやWRC-23を含むITU-R、IEEEにおいてはBeyond 5Gや6G、次世代無線LANを念頭に置いた技術標準の検討やより広範な周波数帯について多種多様な議論が予想されます。国内での利用だけではなく、国際的な共存をも意識して、引き続き国際標準化活動を推進したいと考えています。

■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/657
(2) https://www.rd.ntt/research/AS0087.html
(3) https://www.rd.ntt/as/history/wireless/wi0213.html

(上段左から)小鯛 航太/永田 聡/立木 将義/岸田 朗
(下段左から)岩谷 純一/大槻 信也/山田 渉/中谷 達也/坂本 信樹

本稿では、無線通信関連の標準化動向についてさまざまな方面の有識者から寄稿をいただくかたちで完成させました。紙面の都合で十分に紹介できなかったところもありますので、ご興味があれば躊躇せず質問やコメントをいただけますと一同ありがたく思います。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
標準化推進室
E-mail std-office-ml@ntt.com