2026年2月号
グループ企業探訪
メンテナンス技術×ICT・AI技術×ドローン技術で“支える人を、支えたい”

高度経済成長期に整備された日本のインフラ設備は、敷設から50年以上が経過し、老朽化が深刻な課題となっています。加えて、維持管理にかかわる技術者不足と財源不足は年々深刻化しており、従来の点検手法だけでは対応が困難な状況にあります。このような「100年に一度の大転換期」にある社会課題の解決に向け、ドローンとICTを駆使したインフラ点検サービスで注目を集めているのが、ジャパン・インフラ・ウェイマークです。2019年の設立以来、全国6200件以上もの橋梁、鉄塔、道路で点検を手掛けてきました。今回、矢倉良太社長に事業内容、最新の取り組み、および「支える人を、支えたい」というミッションに込めた思いについて伺いました。
株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク
矢倉良太社長
最先端テクノロジと現場ノウハウの融合により、持続可能なインフラメンテナンスの実現をめざして
■設立の背景と会社の概要について教えてください。
ジャパン・インフラ・ウェイマーク(JIW)は、NTT西日本の100%子会社として2019年4月に設立されました。社名の「ウェイマーク(Waymark)」は「道標」を意味し、NTT西日本グループで培ってきた設備管理の実績を基に、これからのインフラ点検のあるべき姿を示していくという決意を込めています。
私たちが立ち向かう社会課題は、「技術者不足」と「社会インフラ老朽化」の2つです。少子高齢化により、2030年には15~65歳の生産年齢人口比率が6割以下となり、労働需要に対する人材不足は644万人まで拡大すると予想されています。建設業や製造業では、労働力人口の減少に伴い人員自体が不足しているのに加え、経営者が求める理想のスキルを持った熟練労働者が不足している状態も大変深刻化しています。
一方、社会インフラの老朽化は高度経済成長期に多くの土木構造物が建造されたことに起因しており、道路橋では50年以上経過する施設の割合が2030年3月で54%、2040年3月には75%と加速度的に高くなります。インフラの寿命を延ばし、ライフサイクルコストを縮小するためには予防保全に基づいた計画的な更改マネジメントを行う必要があり、そのためには点検により適正に設備の現状を把握することが重要です。
こうした課題に対し、JIWは「支える人を、支えたい」を合言葉に、まさに「社会インフラを支える人を最新技術で支える」べく、メンテナンス技術×ICT・AI(人工知能)技術×ドローン技術によりインフラ設備の点検を革新し、新技術をすべての人が使える世界をめざしています。
JIWの最大の強みは、最先端のテクノロジ(ドローン、AI、ソフトウェア)に精通した社員と、橋梁点検士のようなインフラ点検の現場に精通した社員が共に働いていることです。この2つの専門性を持つ技術者集団として、さまざまなインフラ点検に対するベストソリューションを提供しています。
ドローン点検のパイオニアとして累積6200件以上の点検を実施
■どのような事業を展開しているのでしょうか。
JIWは設立7年目で、累積6200件以上の点検を実施してきました。ドローン点検のパイオニアとして、さまざまなPoC(Proof of Concept)を経ながら点検対象の拡大も進めています。
橋梁点検においては、点検支援技術性能カタログに掲載している「全方向衝突回避センサを持つ小型ドローン技術」などを活用し、全国で年間約300橋の点検を行っています。JIWでは、米ドローンメーカ(Skydio社)と共同開発した点検特化ドローンを使用することで、非GPS環境下でも飛行でき、狭あい部でも衝突回避機能により進入し対象を撮影することができ、高精度に損傷を検出することが可能です。
また、高性能な機体とこれまでの橋梁点検で蓄積してきた運用ノウハウに加え、既存手法も含めた橋梁点検を熟知したメンバとで点検内容をコーディネートしています。発注元の建設コンサルタントからの要望を踏まえ、ドローンなどの新技術と既存技術の優位性を交え、橋梁の状況に合わせた点検を提案しています(図1)。
さらに、自社開発のボート型ドローン(Waymark Boat)による洗堀*1調査を行っています。「レッドロープ測定」と呼ばれる、重錘付きロープを用いて橋上から河床高さを測定する従来手法の場合、測定者のスキルや強風の影響により測定誤差が発生するだけでなく、橋梁上の交通に対する作業員の安全確保に課題がありました。ボート型ドローンによる調査では、従来手法と比較して測定数を容易に増やせ品質向上が期待できるほか、安全な場所から測定でき、作業時間の短縮も見込めます(図2)。
JIWは、紙の調書(野帳)のデジタル化やAI活用による整理業務DX(デジタルトランスフォーメーション)にも力を入れています。従来の橋梁点検作業では、野帳に手書きで記録し、後から写真と照らし合わせる方法が一般的でした。5年間で全国約1000橋のドローン点検を実施してきましたが、手書きの修正や写真整理の手間、記載ミス、現場点検後の写真整理の煩雑さなど多くの課題に直面しました。折角現場の橋梁点検をドローンにより効率化できても、その後の整理業務に多くの時間を要していたのです。そこで、2025年5月に現場の困りごとを解消するための真に必要な9つの機能を盛り込んだ「Waymark Note」をリリースしました。現在、インフラ業界では、産学官が一体となりインフラDXを進めていますが、この業界ではDXが実現される前段でデジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)、デジタライゼーション(個別の業務・プロセスのデジタル化)の2つのステップを乗り越える必要があります。このステップで現場作業の効率化を支援するアプリケーションとして開発を続けており、広く業界に根差していくことをめざしています。
*1 洗堀:川の流れで橋の足元が削られる現象。


暗渠・下水道点検から風車無停止点検、「空飛ぶ避雷針」まで新領域へ挑戦
■最近のホットなテーマについて教えてください。
地震や線状降水帯による豪雨など、日本では災害が後を絶ちません。これにより道路・橋梁をはじめとする社会インフラの倒壊や河川の氾濫が発生し、住民の穏やかさが脅かされています。
一方で、これまで人間の出入りが困難で点検が難しかった場所にも、前述のボート型ドローン等を活用し、点検ができるようになりました。そこで湾岸護岸や区間の大部分が暗渠となっている用水路、下水道などの点検・実証実験を実施してきており、建設コンサルティング会社などから多数相談をいただいています。2024年1月に実施した樋管函体内部における水上ドローンを使用した点検例について紹介します。樋管とは、河川堤防を横断して設置される構造物で、内部には水が流れており、人による点検が極めて困難な施設です。第1回目の点検では、樋管函内でドローン本体との通信接続が切れるおそれのあることが課題として挙げられました。この課題を受けて、JIWは60GHz無線通信装置を搭載した全方向水面移動式ボート型ドローンを自社で開発しました(図3)。60GHz帯では直進性が高く、トンネル状の構造物内でも安定した通信が可能になります。また2024年7月の第2回目の点検では、この新開発のドローンを使用し、搭載された高解像度カメラにより、ひび割れの長さや剥離の面積などの定量的な把握が可能な3Dテクスチャモデル化の検証も実施しました。従来は点検員の経験と勘に頼っていた損傷評価を、客観的なデータに基づいて実施できることが大きな進歩です。
次世代の技術として、さまざまな基礎研究における実証を依頼されることもあります。これまでNTT研究所からもさまざまな実証実験を依頼いただいており、風力発電をはじめとした風車を無停止で点検する技術開発や米TIME誌「Best Inventions of 2025」に選出された「空飛ぶ避雷針」の検証などに携わらせていただいています。
「空飛ぶ避雷針」プロジェクトでは、JIWが雷雨下におけるワイヤ装着ドローンの安定運行を担当しました。2024年12月~2025年1月の期間、島根県浜田市山間部でワイヤをつけたドローンを高度300 mまで飛行させ、ドローンを使用した誘雷に世界で初めて成功しました。また、誘電後も耐雷ケージを具備したドローンは安定して飛行を続けていたことを確認しています。
風力発電風車の無停止点検技術においても、JIWは2機の自律飛行ドローンの飛行について担当しました。この屋外実験に向けては、2機のドローンが一定の距離を保ちながら同期して飛行するための制御技術を開発し、実際、上空30 mでの微弱無線の送受信に成功しました。さらに、JIWが独自制作したAIカメラによるドローンの風車追従自律飛行技術を開発しており、回転する風車ブレードをドローンが自動追尾しながら点検する技術の実現をめざしています。
2040年時点で約3600基の洋上風力発電の風車が日本沿岸に建設される計画であり、保守運用効率化が課題となっています。このような最先端の技術開発に、JIWのドローン技術で貢献していければと考えています。
*2 ecdi:株式会社パナソニック システムネットワークス開発研究所製の60GHz帯を用いた小型・軽量の無線通信装置。有線LAN同等の高速・低遅延通信を無線で実現。

■今後の展望についてお聞かせください。
日本の労働人口の減少は続いており、既存手法による点検だけでは社会インフラが維持できなくなる未来が迫っています。今後もJIWの開発の強みを活かした新たな点検手法でインフラ寿命を延ばし、ライフサイクルコスト低減を図り、持続可能な社会の実現を下支えしたいと考えています。またNTT研究所をはじめとするNTTグループ各社とも連携し、AI技術の高度化や自動飛行技術の確立など、さらなる技術革新を推進していきます。
「新たなインフラ点検手法を創造し、携わるすべての人が使えるようになること」をビジョンに掲げ、お客さまのニーズや時代に合ったサービスを提供するとともに、既存手法にイノベーションを起こし、お客さまに支持され、地域の皆様にも頼りにされる会社を社員一丸となってめざしていきます。
担当者に聞く
現場経験を活かし、建設コンサルタントなどへ新技術を提案
事業推進部 インフラDX推進担当担当課長
下庄 孝弘さん

■担当されている業務についてお聞かせください。
建設コンサルタントやインフラ構造物の管理者へ向けたドローンなど、新技術を活用した点検サービスの営業を担当しています。インフラ構造物の点検は有資格者により実施されるため、サービスの品質やスピードなど弊社の技術力を上手にPRできなくては、土木の専門技術者である顧客に理解は得られません。よって打ち合わせだけでは伝わりにくい技術的な優位性を、いかに分かりやすく示せるかが鍵となります。
私は、従来手法での点検実務を行ってきた経験を活かし、お客さまや業界の課題に適した新技術の提案を進めています。その際、受託点検の現場へも足を運び、直接お客さまと対応し、生の声を聞くとともに、現在自社が行っている点検業務の実態を把握し、さらなる生産性の向上やDX推進のための課題を見つけています。併せて、システム化の必要性がある課題については、自らそのシステムを試行し、実用化が見込めるものについては社内活用や外部サービス化を検討しています。
■今後の展開についてもお聞かせください。
JIWの強みは、点検技術者とハード開発者、ソフト開発者が共に協力し合いながら働いている体制にあります。業界のニーズを的確にとらえ、新たな提案を重ねることで、47都道府県で1200橋を超える点検業務を実施してきました。
一方、これまでは得意分野を持った少数精鋭のスペシャリストたちが、各々の技術力で会社の礎を築いてきましたが、今後のさらなる事業規模の拡大に向けては組織化が重要になります。技術レベルを落とすことなく規模を拡大し組織化していくため、蓄えてきた尖った技術を標準化することにより集団での技術レベルの平準化を的確に進めていきたいと考えています。建設コンサルタントに対しても専門的な技術支援ができる水準を維持しつつ、土木業界で特に深刻な人手不足の課題に立ち向かうべく、DXの推進に貢献していきます。
現場起点の改善で、品質と生産性を両立するDXをめざす
開発部開発担当主査
森田 賢徳さん

■担当されている業務についてお聞かせください。
私は、橋梁点検等支援アプリ「Waymark Note」の開発を担当しています。小規模チームのため、現場ヒアリングから改善企画、UI(User Interface)/UX(User Experience)の設計や実装、運用・保守まで一気通貫で担っています。Waymark Noteは、野帳のデジタル化を起点に、点検後の帳票作成・集計までをつなぎ、業務全体の稼働低減をねらうアプリです。
ところで、橋梁点検の現場は依然として紙運用が中心です。DXが定着しにくい最大の要因は「現場での作業時間がタイト」であることでした。つまり、従来のアプリでは後工程の省力化を優先しすぎたため、現場での入力が膨らんでしまい、点検時間が長引き、結果として「忙しいときほど紙に戻ってしまう」というアプリが定着しない現象が起きていたのです。
この反省を踏まえ、Waymark Noteでは「手書きに近いスピードで迷わず記録できる」入力体験を最優先に、熟練点検メンバと短いサイクルで改善を回しています。加えて、マークシート型入力やCSV出力、集計の自動化など、現場と後工程を分断せずにつなぐ改善も進めています。
また、現場で不具合が発生すると点検のやり直しや一時中断につながるため、データの安定性確保は最重要課題です。全件保存・高頻度バックアップなどにより入出力処理が増加するため、ユーザによる体験やOS差異に起因する不具合まで含めた検証テストを重ねています。さらに少人数による開発でもアプリの品質を担保できるよう、生成AIを活用したコードレビュー支援、テスト設計、試験自動化などにも取り組んでいます。
■今後の展開についてもお聞かせください。
橋梁に限らず多くのインフラの管理について、人手不足や若手育成、老朽化は深刻な社会的課題です。これらに対し、単なるペーパレス化にとどまらず、現場の負荷を増やさず点検の品質を上げていくDXをめざします。
具体的には、どのような業務や現場にも対応できるアプリの汎用性(適応力)の向上、ターゲットユーザの拡大、標準化・可視化による技術者育成のハードル低減に取り組み、現場起点で改善を横展開していきたいと考えています。
ア・ラ・カルト
■全国を飛び回る技術者集団の日常
JIWではハードウェア開発を行っているため、専用の開発室があるとのことです(写真1)。試作中のドローンや部材作成用の3Dプリンタなどもあり、雰囲気はさながら大学の機械系研究室のようです。打合せに来られたお客さまも興味津々とのこと、技術開発の現場を直接見ていただくことで、JIWの技術力への理解を深めていただいているのではないでしょうか。一方、点検現場では、ドローンによる点検の実力を見るために、発注した自治体など関係部署の方が見学に来られることもしばしばあるようです。見学会にとどまらず、即席の意見交換会が開かれることも多いとのことで、現場でのリアルなコミュニケーションを通じて、お客さまのニーズをより深く理解する機会となっているのではないでしょうか。また全国で案件を獲得していることもあり、事務所にはさまざまな地域のお土産が並ぶそうです(写真2)。誰かが置いていく差し入れもあり、リフレッシュエリアはいつも充実しているとのこと。全国各地で活躍する社員どうしのつながりを感じられる、温かい職場環境が形成されているようです。



