2026年3月号
特集2
通信基盤設備の研究開発と社会インフラへの展開
- インフラ
- AI
- レジリエンス
NTTアクセスサービスシステム研究所シビルシステムプロジェクトでは通信を支える基盤設備を対象に、材料・構造に基づく劣化メカニズムの解明から、耐震対策、被災予測、AI(人工知能)を活用した点検・維持管理技術の研究開発を進めてきました。近年はこれらの知見を社会インフラ分野へ展開し、維持管理の高度化や効率化に貢献する技術の創出にも取り組んでいます。本稿では、通信基盤設備における研究開発の変遷とともに、画像診断や被災予測、SAR(Synthetic Aperture Radar)衛星を活用した予兆検知技術を紹介します。
本田 奈月(ほんだ なづき)
NTTアクセスサービスシステム研究所
はじめに
通信ネットワークは、交換機や伝送装置といった情報通信機器や光ファイバのような通信媒体とともに、それらを収容・支持する通信基盤設備によって支えられています。特に地下の通信設備を支えるとう道*1やマンホール、管路などは長期にわたり外部環境に曝され、かつ更改が容易ではないという特性を持っています。そのため、これらの設備では建設後の維持管理を前提とした長寿命化、高信頼性が重要であり、保守運用では劣化の把握と適切な対応が通信サービスの安定提供に直結する大きな課題となります。また、災害等の外乱下でも機能を維持・早期復旧できるレジリエンスの観点から、設備の状態把握と予測に基づく保守運用の高度化が求められています。近年、設備の老朽化の進行や災害リスクの高まりを背景に、点検・補修の効率化に加え、材料や劣化現象に関する基礎的な研究の蓄積を通じて、劣化の進行そのものを精密にとらえ、将来を見据えた予測や社会インフラの維持管理にも展開可能な技術の創出に取り組んでいます。
本稿では、NTTアクセスサービスシステム研究所シビルシステムプロジェクトが取り組む通信基盤設備の研究開発の変遷とともに、近年の設備運用を支える技術、さらには研究開発の将来に向けた取り組みについて紹介します。
*1 とう道:通信ケーブルや管路を収容するために地下に設置された専用の通路構造物。
通信基盤設備と研究開発技術の取り組み
NTTの通信用設備の外観を図1に示します。通信網におけるアクセスネットワークとは、各利用者の端末や建物と通信事業者のビルとをつなぎ、通信サービスを提供する通信網のことで、シビルシステムプロジェクトではとう道、マンホール、管路、橋梁添架設備の研究開発を行ってきました。1970~1980年代の研究開発では、物品開発や開削を中心とした施工技術が主な対象でしたが、阪神・淡路大震災を契機として耐震機能の向上および耐震性確保の必要性に関する研究へと重点を移し、さらに近年では、老朽化が進行する設備を対象に、効率的かつ持続的な保守・管理手法の研究へと重点対象を移しています(1)。
NTTでは、通信を安心・安全に支える基盤の研究開発を材料や構造の検討から、設計、施工、維持管理に至るまでを一体としてとらえて進められてきました。新たな物品や構造を開発する段階だけでなく、実際に長期間使用された設備の状態を分析し、その結果を次の設計や改良に反映するという循環的な取り組みを行っています。ここでは近年の物品開発の一例として、マンホール(MH)鉄蓋の開発を紹介します。

■テーパーダイヤ鉄蓋開発における設計改良と維持管理性向上
MHの鉄蓋は地下に設置された通信・インフラ設備へのアクセス機能を担うと同時に、地上露出部でもあり、交通荷重や第三者影響から設備と人の安全を確保する重要な構造要素として位置付けられます。「テーパーダイヤ鉄蓋」は、点検しやすく、かつ耐摩耗性に優れた鉄蓋として改良開発された物品の一例です(2)。図2に外観と改良点を示します。異なる形状(四角形と六角形)の二段構成を持つ模様とする工夫が適用されています。これは摩耗の進行によって、四角形から六角形へと変化する構造とすることで、残存する溝を計測せずとも、模様形状の変化を目視するだけで摩耗状態を把握可能となり、カメラ画像による点検を容易にするなど、維持管理業務の簡易化および迅速化を実現しました。さらには、模様の配置を工夫することにより、摩耗原因となる砂などを効率的に排出して蓋自身の耐摩耗性を高め、取り換えまでの期間を改良前の約3倍へと延伸することができました。これらの研究開発は、物品や構築コストだけではなく、維持管理コストまで見据えた設計によるものであり、またMH鉄蓋においては摩耗が発生する際のメカニズムを分析して新規開発にフィードバックすることで、長期に管理可能な通信基盤設備を強化していくものです。
基盤設備に関する研究開発は、単一の分野にとどまらず、材料、構造などの基礎技術から、実際の施工、そして長期にわたる維持管理、さらには災害対策までを含む幅広い領域にわたる取り組みが必要です。次に、維持管理における課題や劣化メカニズムの理解、さらにはその先の高度な取り組みについて紹介します。

維持管理における点検診断技術
従来の維持管理では、定められた周期で設備を点検し、ひび割れや錆などの劣化状態を目視して、点検者の報告を元に補修や更新を判断する方法が中心です。しかし、この方法では点検者による評価のばらつきが生じやすく、また劣化の外観が類似していても、原因や進行速度が異なる場合には、経験則だけでは適切な判断が難しいという課題があります。
こうした課題に対して重要となるのが、劣化を「現象」としてとらえるだけでなく、「なぜ起こるのか」「どのような条件で進行するのか」といった劣化メカニズムに着目した分析です。過去の事例や点検結果から、材料の性質、周囲の環境条件、構造的な特徴などが関係し、劣化は時間とともに進行することが分かっています。これらの要因を整理し、メカニズムとして理解することが、劣化を予測し、維持管理稼働を適切化する第一歩となります。ここでは設備の劣化に対する画像診断技術を紹介します。
■画像による劣化診断・推定技術
点検診断においては、目視による点検項目が多くを占めており、今日ではAI(人工知能)による画像診断技術の活用が急速に進んでいます。AIによる撮影画像をひび割れや変状を抽出・評価する技術が導入され点検の効率化が図られています。点検データをデジタルカメラなどで取得し、集約した後、各々の画像の診断を一括実施することで稼働を効率化します。またAIによる画像診断は効率化だけではなく、各点検者による評価のばらつきを抑制します。さらに点検データのデジタル化は点検履歴を蓄積して、経年変化としてとらえることが容易になり、診断の精度向上やさらには将来の劣化進行の予測を可能とします。
近年NTTではデジタルカメラにより撮影した道路橋等のインフラ施設の画像から数年後の鋼材腐食の進行を高精度に予測する技術を確立しました。画像認識AIによる点検・診断・劣化予測の取り組みを図3に示します。腐食の進行予測技術は、長年にわたって研究されてきたとおり、点検する対象物の抽出、対象物における劣化エリアの算出、エリアと鋼材の減肉との相関性評価、そして腐食エリアの拡大を推定する技術へと進化させてきました。実際の撮影画像から将来の腐食の広がりを予測した画像を生成することができる検査技術は世界初であり、腐食進行した実際の施設の画像と、設置環境のデータを学習させることにより高精度な予測画像の生成を可能にしました(3)。この技術は道路橋に添架された通信用管路設備に対する検証の結果、数年後における腐食領域の増加率を平均誤差10%未満(9.9%)の精度で予測できることを確認しています。
一般的にAI画像診断の実用化に課題となる主な原因は、実環境のばらつきとAIの学習情報との不整合にあります。特に、所外環境設備の画像は、照明条件や汚れ、撮影角度、劣化の進行形態が学習データと異なると、精度の誤差につながります。さらにAIは劣化の因果ではなく見た目の相関を学習するため、背景などに影響されて誤判定を起こすことがあります。劣化状態の区分が連続的であいまいなため、正解レベルの揺らぎがあることも判断精度を低下させます。画像診断の研究においては、これまで画像から劣化を精度良く分析するために、劣化の主要素となる個所の適切なセグメンテーションが鋼材の減肉などの定量的データと相関性を分析することで、高精度な分析や予測につながっています。
これらの技術開発に共通しているのは、劣化や損傷を単発の事象として扱うのではなく、材料や構造、環境条件に基づくメカニズムとして理解し、その知見を実用的な技術へと落とし込んでいる点です。これらの取り組みは、設備の安全性と信頼性を高めると同時に、次で述べる社会インフラ維持管理への発展につながる重要な基盤となっています。

社会インフラへ拡大する通信基盤技術
橋梁・道路・トンネル・上下水道などの社会インフラ設備は老朽化が進んでおり、トンネル崩落や道路における重大な事故も増加しています。さらに、2045年には設備保全費が2018年度比で約40%増加する一方、生産年齢人口は大幅に減少すると予測されており、インフラ維持管理を取り巻く環境は一層厳しさを増しています。加えて、大地震や集中豪雨などの激甚災害が頻発する中、限られたリソースでいかに効率的かつ的確にインフラを維持していくかが喫緊の課題となっています(4)。
社会インフラは、コンクリートや鋼、樹脂などの材料で構成され、経年により腐食やひび割れといった劣化が進行する点で、通信基盤設備と多くの共通性を持っています。耐震対策や被災予測、点検・メンテナンス技術はいずれも、設備の構造特性や材料特性、外力の作用を踏まえた分析を基盤とするものであり、通信設備で培われてきた劣化評価やデータ解析の知見を社会インフラへ展開することが期待されます。ここでは、こうした背景に基づき、被災予測および劣化の予兆検知に関する取り組みを紹介します。
■設備データに基づく被災予測技術
膨大な既設設備を限られたリソースの中で効率的に更新・補強していくためには、更改の優先順位を合理的に判断する手法が不可欠です。管路などの設備を主な対象として、NTTにおいては被災した設備データの傾向を分析し、研究開発を進めてきました。過去の設備における被災事例に加え、地盤条件や設備構造に関するデータを統合することで、地震や豪雨などの大規模災害時に、設備が受ける影響の程度を事前に推定する技術が構築されています。これにより、被災リスクの高い設備をあらかじめ把握し、重点的に対策を講じるべき対象の選定や復旧計画の高度化が可能となり、限られた人的・物的リソースの効率的な活用に寄与します。
図4に被災予測技術の概要を示します(5)。長年にわたり蓄積してきた設備被災時の点検データを用いることで、例えば電柱を対象として豪雨起因の被災リスクを評価すると、高精度(正答率約98%)で推定するAIモデルの構築に成功しました(図4(a))。さらに、この技術を応用し、地図上に仮想的に配置した電柱データを用いて道路沿線の被災リスクを面的に評価する手法にも応用を展開しています(図4(b))。本手法により、詳細な現地調査や道路固有のデータがなくても、全国どこでも短時間で豪雨時の道路被災リスクを推定し、ハザードマップが整備されていない地域においても、迅速な被災リスクを評価できます。こうした設備単位の被災予測技術を応用するかたちが、道路の被災リスクを面として評価する技術の一例です。本技術は道路の避難ルートや物流ルートの検討、事前防災計画の策定など、地域の防災・減災や復旧計画の構築に資するものと期待されます。

■衛星データに基づく地中空洞の予兆検知
社会インフラを対象とした維持管理は、設備単位の評価に加え、広域に状況を把握する視点が重要となります。その有力な手段の1つが、衛星データを活用した広域観測です。本技術の概要を図5に示します。一般に、SAR(Synthetic Aperture Radar)*2衛星を用いたインフラ監視では、地表面の凹凸や沈下といった形状変化をとらえる手法が用いられてきました。これに対し、NTTでは地表面に現れる変状だけを対象とするのではなく、アスファルトへの浸透性を有する電波の散乱特性や偏波成分に着目することで、地表に顕在化する前段階の地盤内部の変化をとらえる手法を実証しました(6)。また、衛星データを時系列で取得し変化を分析することで、空洞変状の進展状況を把握することが可能となります。これにより、道路陥没の予兆を、地表変状が顕在化する以前の段階からとらえることができると考えます。従来の地中空洞は道路上から地中レーダを用いて現地点検することで特定していましたが、本技術を適用することで、広域を対象とした効率的なスクリーニングが可能となり、点検に要するコストや稼働を大幅に削減できると期待されます。
今後は、衛星データを、地上・地下で得られる点検データ、さらには同じくNTTで研究が進められている既設の通信用光ファイバで検知する振動分析による地盤モニタリング手法と組み合わせることで、道路陥没のような社会課題に対して予兆をとらえ、社会インフラの安心・安全に貢献していきます。
*2 SAR:電波を照射し、その反射特性を解析することで、天候や昼夜の影響を受けずに地表や地盤の状態を観測できるレーダ方式。

おわりに
本稿では、通信基盤設備を対象として、劣化メカニズムの理解から耐震対策、被災予測、AIを活用した点検・維持管理技術、さらに衛星データを用いた広域観測技術までを概観しました。これらの取り組みはいずれも、劣化や損傷を進行過程としてとらえ、将来の対策や設計へとつなげる共通の考え方に基づいています。
通信基盤設備は、長期使用や更新制約といった特性において、道路や橋梁、上下水道などの社会インフラと多くの共通点を持っています。通信で培われてきた劣化評価やデータ駆動型予測の知見は、社会インフラ全体の維持管理にも応用可能な価値を持っています。一方で社会インフラの維持管理は国、自治体、各企業などインフラごとで個別に実施されているため、相互の連携により全体最適や効率的な維持管理を進めていく必要があり、協調的な取り組みも進められています。こういった連携と、設備データに基づく予測技術や広域・継続観測を可能とする計測手段を組み合わせることで、インフラ維持管理の合理化と高度化は一層進むと考えられます。シビルシステムプロジェクトでは、これらの研究開発をより一層推進し、通信基盤設備を支えるとともに同様の課題を抱える社会インフラ事業へ技術と知見を還元することで社会全体の課題解決へ貢献していきます。
■参考文献
(1) https://www.tsukuba-forum.jp/50th/chronology.html
(2) https://group.ntt/jp/newsrelease/2017/10/04/171004a.html
(3) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/04/30/250430a.html
(4) https://www.rd.ntt/research/JN202507_34714.html
(5) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/05/12/250512c.html
(6) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/11/07/251107b.html

本田 奈月


通信基盤設備を対象とした研究を通じて、劣化や変状のとらえ方、将来の見通しに関する検討を進めてきました。今後は、分野を越えてNTTだけでなく社会インフラにも資する技術の創出に取り組んでいきます。