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特集

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APNを支えるPhotonic Gatewayと光アクセス技術

NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)の光アクセス基盤プロジェクトでは、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けて、Photonic Gatewayによる低遅延な光アクセスネットワークの研究開発を進めています。本稿では、大容量、低遅延を実現するネットワークに求められる波長管理や集線など光の特性を活かしたシステム技術について紹介します。

吉田 智暁(よしだ ともあき)
NTTアクセスサービスシステム研究所
プロジェクトマネージャ

光アクセスの周辺状況

光アクセスが提供する通信サービスはこれまで、トリプルプレイ(電話+インターネット+映像)に始まり、モバイルやIoT(Internet of Things)トラフィック収容として発展してきました。これらは主に人の知覚を満たすためのトラフィックを扱ってきたといえます。一方、伝送速度の向上がもたらすビット単価の低下が今後も続くと期待されていることから、さらに多くの情報を瞬時にかつ安価に転送することが可能になると考えられます。これに伴い、クラウドアクセス、AR(Aug­ment­ed Reality)/VR(Virtual Reali­ty)、自動運転、e-sportsといった、人の知覚を超える膨大な情報量や反応速度が求められるシーンでの通信応用が広がり、さらに安全でナチュラルなサービスを享受できる社会が期待されます。したがって、それを支える光アクセスシステムには、さらなる低遅延と多様化する通信サービスの効率的収容が求められます。
一方で、労働力人口は減少し続け2060年には現在から4割減少すると指摘されています(1)。特にアクセスネットワークの装置は広域に分散配置されるため、保守者の移動を含めた稼働低減と効率化が大きな課題になります。現在のコロナ禍の影響も考慮すると、これまで以上に人の移動と保守稼働を極力抑える光アクセスシステムの実現も重要になります。

光アクセスシステムのめざす姿

現在の光アクセスシステムは、例えば法人向け、モバイル向け、マス向けと、個別の光アクセスネットワークを有し、それぞれの提供時期やエリア展開に合わせた伝送速度で効率的にサービス展開、提供できる専用装置を用いてきました。しかし今後は、これまでのような大容量化だけではなく、低遅延といった多機能化や、柔軟性を向上させながら運用負荷を低減できる効率的な運用への技術開発が進められると考えます。
そこで今後は、伝送・転送機能と付加機能(サービス)を分離し、できる限り伝送・転送機能を汎用化、共通化する光アクセスシステムをめざすことが重要になります(図1)。伝送・転送機能と付加機能(サービス)を分離し、サービスに共通した最低限の伝送・転送機能によるスモールスタートと、さまざまな品質、要件に対して付加機能を選択・付与・削除できるようにすることで迅速なカスタマイズが可能になります。また、装置の種別を減らすことで運用作業が共通化され、保守を簡易かつ安全に行うことが可能になります。伝送・転送機能をシンプルに構成することができれば、接続される光アクセスネットワークのインフラ部分(例えば光ファイバ設備)を共用することも可能となります。NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)ではこのような高い柔軟性と低い運用負荷を実現し、インフラを共用できる光アクセスシステムの実現をめざしています。

大容量、低遅延のネットワークを実現するAPN とPhotonic GW

NTTが2019年に発表したIOWN(Innova­tive Optical and Wireless Network)構想では、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)、デジタルツインコンピューティング(DTC)、コグニティブファウンデーション(CF)の3つの要素でスマートな社会を実現していくことをめざしています(2)。その構成要素の1つであるAPNは電力効率100倍、転送容量125倍、エンド・ツー・エンド遅延200分の1のネットワークを実現することを掲げています。具体的には、光デバイス技術や波長分割多重技術を活かし、光のパスをエンド・ツー・エンドかつフルメッシュで提供することによって遅延を極限まで低減し、高速大容量で特定の通信プロトコルに依存しないプロトコルフリーのネットワークをめざします。
光パスをエンド・ツー・エンドで提供するためにAPNは、交換、多重、スイッチングといった電気処理を極小化したPhotonic EX(Exchange)とPhotonic GW(Gate­way)で構成されます。Photonic EXは、コアフルメッシュ面で1Pbit/s級の大容量パスをクロスコネクトできる機能を有します。Photonic GWは、ローカルフルメッシュ面で波長の割り当て制御や集線を行う機能を有します(図2)。これにより光の特性を最大限に活用し、特定のプロトコルに依存しない低遅延の伝送が可能になります。AS研はこのPhotonic GWの研究開発を行っています。

Photonic GWによる集線、波長管理

Photonic GWはAPNを実現する光直結集線機能やアドドロップ機能を有する光ノードと、自動構成を司るコントローラで構成されています。光ノードは具体的には以下の5つの機能を果たすことで、電気処理を極力用いない低遅延の集線を可能とします(図3)。
① ユーザがどの波長を使うかを指定、制御し、その信号の波長を監視する波長制御・監視機能
② 回線の開通に合わせて信号を通過させ、不要な信号は停止させる通過・停止機能
③ 各ユーザに割り当てられた波長の光信号を集線し中継ネットワークに転送する機能と、中継ネットワークから転送された光信号をそれぞれの波長ごとに分配する集線・分配機能
④ 最短経路が求められるトラフィックに対し、Photonic EXで折り返すのではなく、入り口であるPhotonic GWで折り返しを可能とする折り返し機能
⑤ 再生、中継および電気的処理を行うために、Photonic GWの位置での処理を可能とする取り出し・挿入機能
①で示した波長制御の機能については、インチャネル制御技術であるAMCC(Auxiliary Management and Control Channel)を用います(図4)。AMCCはPhotonic GWの主要機能となる波長管理制御の1つで、Photonic GWからユーザ装置への波長制御指示信号を、ユーザ信号と干渉しない低周波数帯に重畳します。また、波長制御指示信号は簡易な回路を追加するだけで重畳可能となるため、経済的に実現できます。このAMCCを用いることにより、主信号の通信プロトコルや光変調方式に依存しない波長の監視制御が可能となるとともに、制御の汎用化、共通化が図れます。

APNによるプロトコルフリーの活用例

従来テレビ信号や無線などのRF信号の伝送においては、それぞれに割り当てられた周波数、信号方式に応じた送受信機器、当該RF信号を中継するための伝送装置を用途ごとに開発してきたため、ネットワークトータルの導入、運用、更改コストが増大していました。AS研では従来よりRF信号を一括してFM信号に変調して長距離伝送するRoF(Radio over Fiber)技術をFM一括変調方式として実用化しています(3)。Photonic GWで構成されるAPNに広帯域化したFM一括変調方式を用いれば、各種帯域の異なるRF信号を一括多重して長距離伝送するプロトコルフリー伝送が可能になります。これは、デジタル信号の信号形式、変調方式を意識せずにRF信号として伝送することができるため、IP(Internet Protocol)やEthernetといったデジタル信号形式や信号速度に依存しない、より幅広い形式の伝送サービスを柔軟に提供できます。

伝送・転送機能と付加機能の機能分離

AS研では、伝送・転送機能と付加(サービス)機能の機能分離技術にも取り組んでいます。具体的には装置の伝送・転送機能はシンプルに構成し、付加機能はソフトウェアや端末として追加、変更、削除を容易にします。
機能分離を実現するための取り組みとして、1つはONF(Open Networking Foun­da­tion)にて、アクセスシステムのオープン化開発を推進しています。AT&T、ドイツテレコム、トルコテレコムらとともに、SEBA(SDN-Enabled Broadband Access)プロジェクト(4)に参画し、OLT(Optical Line Terminal)の機能分離アーキテクチャを策定しオープンソースとして開発しました(図5)。従来はPtoP(Point-to-Point)やPON(Passive Optical Net­work)といったさまざまな方式で光アクセスサービスを提供するために、その方式ごとに装置や専用のEMS(Element Manage­ment System)が用いられていましたが、SEBAを用いると機能配備や制御を共通ソフトウェアとして実装することや、監視制御を行うManagement System を統一化することが可能となります。SEBAはオープンソースであるため、誰でも参照でき、機能の実装や追加、削除は自由に行うことができます。
また、転送機能と付加機能を分離させる別の事例として、経路故障発生時の無瞬断切替を端末側で行う付加機能を開発しました(図6)。従来経路故障が発生した際、経路切替に伴い瞬断が発生し映像が乱れていました。本技術では、無瞬断切替装置をネットワークの両端に配備し、両経路から信号を送信し、受信側で信号を選択します。これにより無瞬断での経路切替が可能になります。無瞬断切替を実現する技術は以前より実用化されていますが、この技術の特徴は、ネットワークサービスとしてはシンプルなL2転送機能を用い、無瞬断を実現する機能は端末としてネットワークから分離するところにあります。ネットワークは転送機能をシンプルに実現し、無瞬断切替サービスが必要なユーザには端末を追加することで、無瞬断切替が必要なユーザにのみ手早く提供することが可能になります。

今後の展望

引き続き、大容量低遅延化、高い柔軟性と低い運用負荷を実現するアクセスシステムの研究開発と、高い柔軟性を発揮する転送機能と付加機能を分離する技術の研究開発を推進し、これらの技術を用いてIOWNひいてはAPNの実現をめざしていきます。

■参考文献
(1) https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/pl170531.pdf
(2) 伊藤:“IOWN構想に基づくオールフォトニクス・ネットワーク関連技術の取り組み,”NTT技術ジャーナル, Vol. 32, No. 3, pp.10-11, 2020.
(3) 下羽・池田・吉永:“FM一括変換方式を用いた光映像配信技術,”CS2019-84, 信学会通信方式研究会技報, pp.97-101,2019.
(4) https://opennetworking.org/seba/

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
光アクセス基盤プロジェクト
TEL 046-859-4958
FAX 046-859-5513
E-mail info-phgw-p-ml@hco.ntt.co.jp