2026年3月号
特集1
超高温環境で動作するAlN系トランジスタ
- 窒化アルミニウム(AlN)
- 高温エレクトロニクス
- ウルトラワイドバンドギャップ半導体
窒化アルミニウム(AlN)は超高温環境下でも動作する半導体デバイス材料として期待されています。本稿では高温エレクトロニクス応用分野とAlNの有効性を解説し、NTTにおけるAlN 系トランジスタの開発と1000 ℃での動作実証、ならびにすべての半導体材料中で最高の電流オン・オフ比が得られた成果を紹介します。
廣木 正伸(ひろき まさのぶ)/平間 一行(ひらま かずゆき)
谷保 芳孝(たにやす よしたか)
NTT物性科学基礎研究所
高温環境で求められる半導体デバイスと応用分野
近年、エレクトロニクス分野において、高温環境でも安定に動作する半導体デバイスへの期待が高まっています。高温エレクトロニクスの代表的な応用として、まず計測用途が挙げられます。高温下で温度や圧力などの物理量を直接計測できれば、装置状態やプロセス状況をより正確に把握することができます。従来は、センサや信号処理回路を高温領域から離れた位置に設置する必要があり、長い配線を介した計測が一般的でした。その結果、応答遅れやノイズの影響を受けやすく、高精度な計測には制約がありました。高温環境でも安定に動作する半導体デバイスを実現できれば、その場で遅延なく高精度の計測が可能となり、センサ応用の広がりが期待されます。
さらに、高温環境に加えて放射線が存在する極限環境では、半導体デバイスに対する要求は一層厳しくなります。宇宙や原子力の分野では、温度条件に加えて放射線による特性劣化や誤動作が問題となります。このような環境においても安定して動作する半導体デバイスが実現すれば、極限環境下での計測や監視、さらには制御機能の高度化につながります(図1)。
これら極限環境での応用を考えると、計測に加えて、装置を駆動するための電力制御も重要な要素となります。高温下で動作するモータやアクチュエータを安定に駆動するためには、制御回路だけでなく、電力を制御するパワーデバイスも不可欠です。例えば、原子力発電所の廃炉作業や極限環境におけるロボット運用では、高温かつ放射線環境下で機器を遠隔操作する必要があり、アクチュエータ駆動や電力供給を担うエレクトロニクスが装置の性能や信頼性を左右します。しかし、シリコン(Si)などの従来の半導体材料では、高温になるとデバイス特性の劣化や動作不安定が生じ、高温環境に近い位置で半導体デバイスを動作させることは困難でした。

ウルトラワイドバンドギャップ半導体AlNの特徴
前述したような高温や放射線など極限環境下で半導体デバイスを動作させるためには、従来材料とは異なる特性を持つ半導体材料が求められます。その有力な候補として、窒化アルミニウム(AlN)が注目されています。
従来の半導体材料では、高温になると熱エネルギーにより価電子帯の電子が伝導帯へ励起され、半導体内で電子や正孔が増加します。このように熱によって生成されるキャリアは真性キャリア*1と呼ばれ、その濃度は温度の上昇とともに増加します。例えば、印加する電圧(ゲート電圧)によって駆動する電流値(ドレイン電流)をコントロールする電界効果トランジスタの場合、真性キャリア濃度が高くなると、ゲート電圧で制御できる電流範囲が狭くなり、トランジスタとして正常な動作が困難になります(図2)。こうした現象が、高温環境で従来の半導体デバイスが使用できなくなる主な要因の1つです。
これに対し、AlNはバンドギャップエネルギー(Eg)*2が6.0 eVと極めて大きいウルトラワイドバンドギャップ半導体*3です。Egが大きいほど、電子の熱励起に必要なエネルギーが大きくなるため、高温環境においても真性キャリアの発生が抑制されます。その結果、高温においても、AlNを用いたトランジスタではゲート電圧によるドレイン電流の制御性を維持できることが期待されます。
図2に示すように、Siでは200 ℃程度で真性キャリア濃度が1×1015cm−3を超え、デバイス動作が困難になります。これに対し、AlNは 1400 ℃においても真性キャリア濃度は1×1015cm−3以下であることから、従来材料では理論的に困難であった極めて高温でのデバイス動作が可能であることが予測されています。さらに、AlNは高温でも酸化や劣化が起こりにくい高い化学安定性を持っています。このため、極めて過酷な温度環境においても材料特性が変化しにくく、高温でも安定に動作できる半導体材料として期待できます。
また、AlNは原子間の結合が強いことから、放射線照射によって特性劣化の原因となる結晶欠陥は生成されにくく、耐放射線性にも優れた半導体材料であることが理論的に予測されています。これは、宇宙や原子力エネルギーなどの耐放射線が求められる分野において、AlNが半導体デバイスを安定に動作させるうえで重要な特徴を持っていることを示しています。加えて、AlN は非常に高い絶縁破壊電界*4を持つことから、高電圧にも耐えられるため、パワーデバイス材料としての応用も期待されています。これらの優れた特性により、AlN は高温・放射線・高電圧といった厳しい条件を同時に耐えられる半導体材料であり、広範な応用が期待されます。
*1 真性キャリア:熱エネルギーによって半導体中に生成する電子や正孔。
*2 バンドギャップエネルギー:半導体中で電気伝導に寄与する電子と正孔が存在できないエネルギー領域(禁制帯)の幅。
*3 ウルトラワイドバンドギャップ半導体:バンドギャップエネルギーが4eV以上と非常に大きい半導体材料の総称。高温や高電圧環境での動作に適しています。
*4 絶縁破壊電界:材料が電気的に破壊されず耐えられる最大の電界強度であり、この値が高いほど高耐圧デバイスに向きます。

AlN トランジスタの開発
前述したAlNの優れた材料特性を実際の半導体デバイスとして活用するためには、いくつかの技術的課題を解決する必要があります。AlNはウルトラワイドバンドギャップ半導体であるがゆえに、従来材料とは異なるデバイス設計やプロセス技術が求められます。ここでは、AlNを用いた金属―半導体電界効果トランジスタ (MESFET: Metal-Semiconductor Field-Effect Transistor)*5において重要となる技術要素について説明します。
AlNを用いた電界効果トランジスタ開発における大きな課題の1つは、AlNチャネル層とソース電極およびドレイン電極との間に低抵抗な電気的接触を形成することが難しい点です(図3(a))。AlNはEgが大きく、電極金属との界面に高いエネルギー障壁が形成されるため、電極金属からAlNに電流を効率良く注入することが困難です。このため、良好なオーミック接触*6を実現することが、AlNデバイス開発における重要な技術課題となっていました。
この課題に対して本研究では、ソース領域とドレイン領域に組成傾斜AlGaN コンタクト層を導入しました(図3(b))。組成傾斜AlGaN コンタクト層は、Al含有率をAlN からAl含有率の低いAlGaNへと連続的に変化させており、電極金属から AlNチャネル層に至るエネルギー障壁を低下することができます。この構造により、金属から半導体への電流注入が促進され、AlN チャネル層への効率的な電流供給が可能となります(図3(c))。その結果、AlN をチャネル層とする MESFET において良好なオーミック接触が得られました。
AlN MESFET の実現にあたっては、オーミック接触だけでなく、ゲート電極における良好なショットキー接触*7の形成も重要な技術課題となります。ゲート電極からAlNチャネル層に流れるリーク電流が大きい場合、高温環境においてデバイスの制御性や信頼性が著しく低下します。本研究では、ニッケル金属をAlN表面に直接形成することで、高いショットキー障壁を持つゲート電極を実現しました。その結果、ゲート電極―チャネル層間の意図しないリーク電流が極めて小さく、ゲート電圧による良好な整流性が得られます。
以上のように、組成傾斜AlGaNコンタクト層によるオーミック接触の実現と、良好なショットキー接触を持つゲート構造の確立により、AlNの材料特性をデバイスとして引き出すことが可能となりました(1)。
*5 金属―半導体電界効果トランジスタ:金属―半導体界面のショットキー接触を利用したトランジスタ構造の一種。
*6 オーミック接触:電圧の向きにかかわらず電流がオームの法則に従って印加電圧に対して直線的に増加する半導体―電極材料間の電気的な接触。
*7 ショットキー接触:金属と半導体を直接接触させた際に形成される電気的接触の一種。金属と半導体のエネルギー構造の違いにより接触界面に障壁(ショットキー障壁)が形成され、電流が一方向に流れやすい整流特性を示します。この特性を利用して、トランジスタのゲート電極では電流を制御する役割を担います。

AlNトランジスタの高温動作
前述した電極構造を用いて作製したAlN MESFETについて、高温環境における動作特性を評価しました。本研究では、AlNの高い耐熱性を実デバイスとして検証するため、1000 ℃まで昇温可能な高温測定系を構築し、AlN MESFETのドレイン電流―ドレイン電圧特性の評価を行いました。
図4(a)は、1000 ℃においてAlN MESFETを評価している様子を示しています。加熱炉内にデバイスを形成したウエハを設置し、高温環境下でMESFETの電極に直接プローブを接触させることで、ドレイン電流やゲート電流をその場で測定しています。このような極めて高温な条件下での評価は、測定系の構築自体が難しく、従来の半導体デバイスではほとんど行われてきませんでした。
この測定系を用いた評価の結果、AlN MESFETは1000 ℃に達する高温においても、トランジスタとしての基本的な動作を維持していることを確認しました(図4(b))。1000 ℃でのデバイス動作実証は、従来の半導体材料では例がなく、AlNが持つ高温安定性を実デバイスとして示した重要な成果です。
AlN MESFETの特徴の1つとして、温度の上昇に伴ってドレイン電流が増加する特性が挙げられます。図5(a)に示すように、温度を上げるにつれてドレイン電流は顕著に増大し、高温においても十分な電流が得られます。一般的な半導体デバイスでは電流を担う電子の濃度は高温ではほぼ変化しないのに対して、電子の移動度は高温ほど低下するため、ドレイン電流は単調に減少する傾向にあります。一方、AlNでは高温になるにつれて電子濃度が増加します。この電子濃度の増加が高温下での移動度低下の影響を上回る結果、高温環境においても高いドレイン電流を維持できるという、AlNに特有の高温動作特性が現れることを明らかにしました。
もう1つの重要な特長は、高温環境においてもトランジスタのオフ状態のドレイン電極―ソース電極間のリーク電流が低く抑えられ、明確な電流オン・オフ動作が維持される点です。図5(a)に示すように、温度の上昇に伴ってリーク電流は増加するものの、1000 ℃においてもトランジスタのオン状態とオフ状態のドレイン電流の比(電流オン・オフ比*8)がおよそ104と十分に大きいことが確認されました。高温環境では、半導体内部で熱によって不要な電流が流れやすくなり、多くの材料では電流オン・オフ比が大きく低下します。これまでに、ダイヤモンド(Eg: 5.5 eV)、酸化ガリウム(Ga₂O₃)(Eg: 4.8 eV)、SiC (Eg: 3.3 eV)などの材料を用いた半導体デバイスの高温動作が報告されていますが、高温下ではリーク電流の増加により電流オン・オフ比が低下する傾向が知られています。これに対し、AlN MESFETは高温においてもリーク電流の増加が比較的緩やかであり、図5(b)に示すように、他の半導体材料と比較して、高温側まで高い電流オン・オフ比を維持していることが分かります。なお、高温測定では測定系由来のバックグラウンド電流が増加し、高温領域では、トランジスタ自体のリーク電流ではなく、測定装置のバックグラウンド電流が観測されています。このことから、実際のAlN MESFETの電流オン・オフ比は、図に示された値よりもさらに大きいと考えられます。以上の結果から、AlNは半導体の中で最高の高温デバイス特性を実際に持つことを実証しました。
*8 電流オン・オフ比:トランジスタのオン状態とオフ状態のドレイン電流の比。トランジスタのスイッチング動作における性能指標の1つ。


まとめ
本稿では、NTT におけるAlN MESFETの開発とその高温動作実証について紹介しました。AlN は大きなバンドギャップエネルギーと高い化学安定性を有し、高温デバイス材料として大きな可能性を持ちます。私たちは、これまでのAlN研究で培った結晶成長技術を基盤として、組成傾斜AlGaNコンタクト層を導入したAlN MESFETのデバイス動作を実現し、1000 ℃でのトランジスタ動作も確認しました。AlN MESFETは、高温で十分なドレイン電流が得られることに加え、低いリーク電流により高い電流オン・オフ比を維持できることから、他材料では実現が難しい高温動作特性を示しました。将来、こうしたAlN系トランジスタは、航空宇宙、エネルギー、深地層、原子炉廃炉など、多様な極限環境での利用が期待されます。
■参考文献
(1) M. Hiroki, Y. Taniyasu, and K. Kumakura: “High-temperature performance of AlN MESFETs with epitaxially grown n-type AlN channel layer,” IEEE Electron Device Lett., Vol. 43, No. 5, pp. 350–353, 2022.

(左から)廣木 正伸/平間 一行/谷保 芳孝

本稿では、AlN MESFETの開発の経緯と高温動作の実証について紹介しました。1000 ℃という極めて高温でのデバイス動作は他の半導体材料では例がなく、高温や放射線環境下でのエレクトロニクス応用に新たな可能性を示すものです。