2026年3月号
特集1
NTTにおけるウルトラワイドバンドギャップ半導体研究の概要
- 窒化アルミニウム
- 立方晶窒化ホウ素
- ダイヤモンド
ウルトラワイドバンドギャップ半導体は、高耐圧・高周波・高耐環境特性を兼ね備え、サステナブル社会の実現と将来の革新的デバイス・システム創出を支える基盤材料として注目されています。NTT物性科学基礎研究所では、長年の材料基礎研究で培った結晶成長技術を基盤に、窒化アルミニウム(AlN)、立方晶窒化ホウ素(c-BN)、ダイヤモンドを中心とした研究開発を推進しています。本稿では、ウルトラワイドバンドギャップ半導体の最新成果と展望について紹介します。
谷保 芳考(たにやす よしたか)/平間 一行(ひらま かずゆき)
小栗 克弥(おぐり かつや)
NTT物性科学基礎研究所
半導体の“伸びしろ”
半導体は、情報やエネルギーの「処理」「変換」「伝送」を担う基盤技術として、現代社会のあらゆるところで利用されています。スマートフォンやPCに搭載される集積回路は情報処理を担い、発光ダイオード(LED)やレーザは電気エネルギーを光へ変換し、太陽電池は光エネルギーを電気へ変換します。また、電力変換やモータ駆動などに用いられるパワーデバイスは、社会全体の省エネルギー化に直結する重要技術です。
近年はAI(人工知能)技術の急速な発展に伴い、データセンタを中心とした計算資源が増大し、半導体の重要性は一段と高まっています。さらに、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)に代表される光電融合が進むにつれて、光と電気の境界で機能する半導体デバイスの役割も拡大していきます。
半導体の世界には、まだ大きな「伸びしろ」があります。その1つが本特集で扱う「ウルトラワイドバンドギャップ半導体」です。材料そのものが半導体として新しく、基礎物性からプロセス技術、デバイス設計まで未開拓な領域が多く残されています。言い換えれば、物性の理解と技術の積み上げ次第で、これまでの常識を覆すデバイスやシステムが生まれ得る領域です。そこで本稿では、まず半導体の基本概念である「バンドギャップ」と材料選択の考え方を整理したうえで、ウルトラワイドバンドギャップ半導体の意義と、NTTにおける研究開発を紹介します。
ウルトラワイドバンドギャップ半導体
■バンドギャップ:性能を決める“物差し”
半導体の性質を決める基本量の1つが、バンドギャップエネルギー(Eg)です。半導体材料はそれぞれ固有のバンドギャップエネルギーを持っています(図1)。バンドギャップエネルギーが0 eV(エレクトロンボルト)に近い材料は電気が流れやすい導体となり、バンドギャップエネルギーが大きくなるほど電気が流れにくくなって絶縁体に近づきます。半導体はその中間のバンドギャップエネルギーを持ち、さらに、不純物(ドーパント)を混ぜることで、電気伝導性を広い範囲で制御できる点が特長です。
不純物によって電子(負電荷)が伝導する材料はn型半導体、正孔(正電荷)が伝導する材料はp型半導体と呼ばれます。このようなキャリア制御により、トランジスタやダイオードなどが動作し、情報処理や電力制御が可能になります。
光機能においてもバンドギャップエネルギーは重要です。LEDやレーザでは、半導体内で電子と正孔が再結合する際に光が放出されますが、その光の波長はバンドギャップエネルギーで決まります。太陽電池のように光を吸収して電気に変換する場合も、吸収できる波長域はバンドギャップエネルギーによって決まります。バンドギャップエネルギーが大きいほど、発光・吸収する光の波長は短くなります。
現代エレクトロニクスの基盤材料であるシリコン(Si)のバンドギャップエネルギーは1.12 eVです。この値は半導体として電気伝導制御がしやすい領域です。炭化ケイ素(SiC、3.26 eV)、窒化ガリウム(GaN、3.4 eV)はより広いバンドギャップを持つことからワイドバンドギャップ半導体と呼ばれます。バンドギャップが広がるほど電気伝導制御は難しくなりますが、半世紀近い長年の研究開発によりLEDやパワーデバイスとして社会実装が進んでいます。さらに広いバンドギャップを持つ材料として、酸化ガリウム(Ga2O3、4.8 eV)、ダイヤモンド(5.47 eV)、窒化アルミニウム(AIN、6.0 eV)、立方晶窒化ホウ素(c-BN、6.3 eV)があり、これらはウルトラワイドバンドギャップ半導体と呼ばれ、今まさに世界的に研究が加速しています。
半導体材料はそれぞれ固有のバンドギャップエネルギーを持っているため、用途に応じて使い分けられます。また、半導体を構成する元素や結晶構造(図2)が異なると、バンドギャップエネルギーだけでなく、絶縁破壊電界(どれだけ高電圧に耐えられるか)、熱伝導率(どれだけ熱を逃がせるか)、電子飽和速度(高周波でどこまで速く動作できるか)などの物性が変化し、得意とする応用領域が変わります。用途に応じた材料選択とは、これらの“物性の設計”と言い換えることができます。


■ウルトラワイドバンドギャップ半導体が切り拓く応用領域
ウルトラワイドバンドギャップ半導体は、バンドギャップエネルギーが特に大きい材料群であり、「高い電圧に耐える」「高い周波数で動く」「過酷環境でも性能を保つ」「紫外域で発光する」といった特長が期待されます。ここでは、その価値が現れやすい4つの応用領域を整理します。
第一に、パワーデバイスです(図3)。パワーデバイスは、家電、PC、サーバ、電気自動車、鉄道、太陽光発電など広範囲で利用され、カーボンニュートラルの実現に向けてさらなる低損失化が重要課題です。一般に、バンドギャップエネルギーが大きい半導体ほど絶縁破壊電界が高くなり、高耐圧化と低損失化に有利です。現在はSiCやGaNといったワイドバンドギャップ半導体の商用化が進んでいますが、さらに絶縁破壊電界が高いウルトラワイドバンドギャップ半導体(AlNやc-BNなど)を活用できれば、電力変換時の損失を一段と低減できる可能性があります。
第二に、高周波トランジスタです。無線通信、衛星通信、レーダなどの高周波電力増幅器の中核となるのが高周波トランジスタであり、アンテナから出力される信号の周波数と出力が高いほど、通信エリアの拡大や通信速度の向上につながります。このため半導体材料には、高い絶縁破壊電界と高い飽和電子速度を両立することが求められます。5G(第5世代移動通信システム)通信ではGaNが広く利用されていますが、ポスト5Gに向けては、より高出力化が可能なウルトラワイドバンドギャップ材料が注目されています。とりわけAlNやc-BNは、高い絶縁破壊電界と高い飽和電子速度を併せ持ち、高出力・高周波用途において大きなポテンシャルを持ちます。
第三に、環境エレクトロニクスです。Siのような一般的な半導体では、高温になると熱励起によって真性キャリア(熱で生じる電子・正孔)が増加し、オフ状態でも電流が流れやすくなるため、電子回路の安定動作が困難になります。そのため、データセンタでは冷却に莫大なエネルギーを要しています。バンドギャップエネルギーが大きい材料ほど真性キャリアの発生が抑えられるため、高温環境でも動作可能な高温エレクトロニクスの開拓につながります。さらに、材料によっては放射線に対する安定性も期待でき、航空宇宙、原子力エネルギー、深地層、廃炉といった極限環境での応用を拡げる可能性も秘めています。
第四に、紫外フォトニクスです。紫外域、とりわけ深紫外域は、従来の半導体光源にとって到達が難しい「未開拓領域」でした。しかしバンドギャップエネルギーの大きい材料は短波長発光に適しており、紫外LEDやレーザダイオードによる新しい光源技術の基盤となります。紫外光は、衛生・医療、環境浄化、材料・化学分析、微細加工に加え、太陽光の影響を受けにくいソーラーブラインド通信・センシングなど、応用範囲が広いことも特徴です。
さらに、未開拓材料には既存半導体の延長線上では見えにくい新しい物理や機能が潜んでいる可能性があります。NTT物性科学基礎研究所では、現代エレクトロニクスの基盤材料であるSiやGaAs、GaNなどの結晶成長、デバイスプロセス、材料物理、光機能研究で培った技術と知見を基盤として、次世代半導体の創製をめざし、AlN、c-BN、ダイヤモンドというウルトラワイドバンドギャップ半導体の研究開発を進めています。

NTTのウルトラワイドバンドギャップ半導体技術
■窒化アルミニウム(AlN)
AlNはNTT物性科学基礎研究所が世界で初めて半導体化に成功した材料であり、いわば「NTT発の半導体」です(1)。AlNはバンドギャップエネルギーが約6.0 eVと大きく、また、ウルトラワイドバンドギャップ半導体で唯一発光デバイスにも向いている直接遷移型の半導体です。結晶構造はGaNと同じ六方晶ウルツ鉱構造であり、AlNとGaNの固溶体であるAlGaN混晶は全組成域で安定に形成できます。このため、組成によりバンドギャップエネルギーをAlN(6.0 eV)からGaN(3.4 eV)まで広範囲に制御でき、デバイス設計の自由度を高めるヘテロ構造、超格子、量子井戸、組成傾斜層を用いたバンドエンジニアリングが可能です。
AlN系半導体は紫外領域に対応するバンドギャップエネルギーを持つことから、紫外LEDやレーザへの応用開発が進められてきました(2)。加えて、AlNは高い絶縁破壊電界、高い熱伝導率、高い飽和電子速度といった優れた物性を持つため、高耐圧・高周波・高温電子デバイスとしても魅力的です。NTTでは、高品質AlN結晶成長技術と伝導性制御技術を基盤に、AlN系デバイス応用を段階的に拡大してきました。
本特集記事『超高温環境で動作するAlN系トランジスタ』では、AlN系トランジスタの超高温動作を扱います。高温環境では、熱励起によって半導体内のキャリアが増加し、オフ状態でも電流が流れやすくなるため、スイッチ性能指標である電流オン・オフ比が低下します。AlNはその大きなバンドギャップエネルギーから、超高温でもトランジスタのオン状態とオフ状態を明確に維持できることが理論的に予測されていました。記事では、AlNトランジスタが1000 ℃という超高温環境でも動作することを実証し、他材料と比較して大きな電流オン・オフ比を示した成果を紹介します。
本特集記事『AlN系分極ドープトランジスタの高周波動作』では、分極ドーピング技術によるAlN系トランジスタの高周波動作を扱います。AlN系半導体では高Al組成領域で不純物ドーピングが効きにくく、低抵抗チャネル形成が長年の課題でした。そこで、窒化物半導体特有の分極を利用した「分極ドーピング」により、従来困難であった高Al組成AlGaNでも高濃度キャリアを得て、高周波電力増幅動作を実証しました。記事では、分極ドーピングの原理と、ミリ波帯に至る高周波特性を中心に解説します。
本特集記事『AlN系半導体を用いた深紫外レーザダイオード』では、AlN系半導体により実現した深紫外レーザダイオードを扱います。深紫外光源は、衛生・医療、環境浄化、分光分析、さらにはソーラーブラインド通信などへの応用が期待されます。深紫外レーザダイオードでは、発光層への高効率キャリア注入と低抵抗化が性能を左右します。記事では、高度な結晶成長技術により低抵抗構造を実現し、深紫外レーザ発振を実証した成果を紹介します。
本特集記事『AIN圧電薄膜を用いたギガヘルツ弾性波素子』では、ギガヘルツ帯で高速に動作するAlN弾性波素子を扱います。AlNは半導体であると同時に圧電材料でもあり、電圧印加により機械振動(弾性波)を励起・検出する圧電トランスデューサとして機能します。記事では、高品質AlN薄膜を用いたギガヘルツ弾性波デバイスの創出に加え、弾性波と電子・スピンが相互作用する新規物理現象の探究まで含め、デバイスと物性開拓の広がりを紹介します。
■立方晶窒化ホウ素(c-BN)
c-BNはウルトラワイドバンドギャップ半導体中で最大のバンドギャップエネルギー(約6.3 eV)を持ち、絶縁破壊電界も非常に高い値が予測されています。このため、AlNと同様にパワーデバイスや高周波デバイスとして高いポテンシャルを有します。一方で、c-BNは準安定相であり合成が難しく、単結晶薄膜の実現自体が大きな技術課題でした。
NTTでは、独自のイオンビームアシスト分子線エピタキシー法を開発し、c-BN単結晶薄膜のエピタキシャル成長を実現するとともに、Siドーピングによる電気伝導性制御も可能とし、c-BNの半導体応用に道を拓いてきました(3)。
本特集記事『新規ウルトラワイドバンドギャップ窒化物半導体の創製』では、c-BNを母体とする新規三元混晶半導体である立方晶窒化ホウ素スカンジウム(c-BScN)の結晶成長を扱います。c-BN系混晶は、組成によって物性を設計できる利点を持ち、将来のヘテロ構造デバイスに向けた基盤の材料系となります。新材料の創製がデバイス概念の自由度を押し広げる点に、この研究の面白さがあります。
■ダイヤモンド
ダイヤモンドは、ウルトラワイドバンドギャップ半導体としての高耐圧・高熱伝導といった特性に加え、スピン物性にも優れる点が大きな特徴です。ここでいうスピンとは、電子が持つ磁石の向きに相当する自由度であり、それを情報担体として利用する技術がスピントロニクスです。ダイヤモンドは、スピンが乱れにくい可能性を秘めた材料として注目しています。NTTでは、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)を中心とした薄膜合成技術を基盤に、ドーピングのノウハウや電極形成プロセス技術を蓄積し、スピンデバイス応用に向けた研究を推進しています。
本特集記事『ダイヤモンド半導体のスピンデバイス応用に向けた取り組み』では、ダイヤモンド半導体中にスピンを注入するため、強磁性金属とダイヤモンド半導体の接合界面に形成されるショットキー障壁をトンネル障壁として活用するアプローチに着目しました。代表的な強磁性金属であるパーマロイ合金をショットキー電極としたダイヤモンドショットキーバリアダイオードにおける電流輸送機構を解明した成果を紹介します。これにより、ダイヤモンドへのスピン注入の実現に向けた技術基盤が確立され、スピン物性解明から量子機能創出への展開が期待されます。
今後の展開
ウルトラワイドバンドギャップ半導体は、優れた物性が期待される一方で、基礎物性には未解明の点が多く残されており、材料・界面・欠陥に関する理解の深化が不可欠です。また、未解明な点が多い材料であるがゆえに、既存技術の延長や組合せだけでは不十分で、新技術を開発しながら、結晶成長からデバイスプロセス、回路・システム設計までを一体で構築する必要があります。その過程では、基礎研究の継続的な積み重ねに加え、大学・研究機関・企業との連携も重要になります。
ウルトラワイドバンドギャップ半導体は、紫外発光デバイス用途に加え、ハイパワー・高周波・耐環境電子デバイスへの応用に有望な次世代材料です。特にAlN系デバイスは、動作実証に至った初期段階ではあるものの、GaN系デバイスで培われた技術と知見を活用できる点、その既存設備を利活用できる点、さらにAlNウエハの大口径化や高品質化が着実に進展している点から、今後の研究開発が加速すると期待されます。同時に、c-BN系混晶やダイヤモンドスピントロニクスといった新領域では、材料創製と物性解明を両輪として進め、ウルトラワイドバンドギャップ半導体の潜在能力を最大限に引き出すことが重要です。今後も、応用領域の開拓とデバイス技術の高度化を通じて、サステナブルな社会と将来の革新的デバイス・システムの創出に貢献していきます。
■参考文献
(1) Y. Taniyasu, M. Kasu, and T. Makimoto:“An aluminium nitride light-emitting diode with a wavelength of 210 nanometres,” Nature, Vol.441, pp.325-328, 2006.
(2) 谷保・嘉数・牧本: “世界最短波長210 nmの遠紫外発光ダイオード,” NTTジャーナル, Vol.19, No.2, pp.64-67, 2007.
(3) 平間・谷保・山本・熊倉: “新機能ワイドギャップ半導体材料の開拓,”NTTジャーナル, Vol.31, No.8, pp. 29-34, 2019.

(左から)谷保 芳考/平間 一行/小栗 克弥

ウルトラワイドバンドギャップ半導体は、未知の部分が多く残された材料であり、同時に大きな可能性を秘めています。「材料を深く理解することが、将来の技術につながる」という考えのもと、基礎研究を重視しながら挑戦的な研究を進めてきました。本特集を通じて、こうした研究の広がりと将来性を感じていただければ幸いです。