2026年6月号
特集
さらなる進化を遂げたNTT版LLM tsuzumi 2――日本の企業DXを支える高性能・高セキュア・低コストな純国産LLM
- tsuzumi 2
- LLM
- 生成AI
NTTグループは、企業の持続的かつ質の高い成長をAI(人工知能)で支える独自の戦略「AI for Quality Growth」を目標に、AIビジネスを推進しています。その中核を担うのが、2025年10月20日に記者発表され商用提供が開始された、軽量でありながら高性能な日本語処理能力を備える大規模言語モデル(LLM)「tsuzumi 2」です。本稿では、NTTグループのAI戦略を概観するとともに、tsuzumiからtsuzumi 2への進化ポイントを中心に、NTT版LLM「tsuzumi」の現在地を紹介します。
唐澤 圭(からさわ けい)/工藤 伊知郎(くどう いちろう)
海道 真弘(かいどう まさひろ)
NTTマーケティング部門
NTTグループのAIビジネス
生成AI(人工知能)の進化とともに、AI活用は実証実験や業務効率化の段階から、企業競争力そのものを左右する経営テーマへと移行しつつあります。こうした中、NTTグループは独自のAI戦略として 「AI for Quality Growth」 を目標に、企業の持続的かつ質の高い成長を支えるAIビジネスを本格的に展開しています。
■エンド・ツー・エンドかつフルスタックでの提供
NTTのAIビジネスにおける第1の特徴は、お客さまの経営課題をAIで解決するためのコンサルティングから実装・運用までを一気通貫で提供できる点です。
顧客の事業課題を整理し、めざすべきTo-Be像を描くコンサルティングからスタートし、それを実現するための最適なアーキテクチャ設計、業務・環境に合わせた実装、そして成果創出までの伴走を行います。
AI導入においては、モデル選定やツール導入以上に、業務やデータの理解、運用設計、定着化が成否を分けます。NTTグループは長年培ってきた業界知見とSI(System Integration)力を活かし、AIを「導入して終わり」にしないエンド・ツー・エンドの支援によって、顧客のQuality Growthを継続的に創出していきます。
■業務特性に応じた豊富なAIラインアップ
第2の強みは、業務特性に応じて選択・組み合わせ可能なAIラインアップです。
従来、生成AIは公開情報を扱う汎用業務、いわゆるOpen領域での活用が中心でした。しかし現在では、企業固有のノウハウや機微な情報を含む「クローズ領域」の業務へと活用が急速に拡大しています。実際、6割を超える顧客が「個人情報や機密データを自社環境で、クローズドかつセキュアにAIへ学習させたい」という要望を持っています。
NTTグループは、こうしたニーズにこたえるため、オープンモデルから独自のソブリンモデルまでのさまざまなAIモデルやAIエージェントをラインアップとして提供しています。業務の特性に合わせてAIを適材適所で使い分け、あるいは組み合わせることで、効率性と効果の最大化を図るという考え方です。
■AI活用を支えるインフラまで含めた一体提供
AI活用には、モデルやアプリケーションだけでなく、それを支えるインフラが不可欠です。
具体的には、「GPUを中心としたコンピューティングリソース」「データや拠点を結ぶ高品質なネットワーク」「安定的かつ効率的な電力供給」という3つの要素が重要となります。
NTTグループは、GPUコンピューティング、ネットワーク、電力供給のすべてのアセットを所有し、AI活用に必要なインフラ全体を安定的かつ効率的に運用し、提供できる点も大きな強みとしています。
NTTグループは、「AI for Quality Growth」というビジョンのもと、コンサルティングからインフラまでをエンド・ツー・エンドで提供する体制を整えています。企業固有の課題、業務、データに深く寄り添いながら、AIを真の事業成長へとつなげていきます。今回はその中でクローズ領域での生成AI活用のキードライバであるtsuzumi 2を紹介していきます。
tsuzumi 2提供の背景
近年、ChatGPTをはじめとするLLMへの注目が高まる一方で、従来のLLMは、膨大な学習データと計算リソースを必要とし、その結果、電力消費や運用コストの増大、機密情報の取り扱いに伴うセキュリティリスクといった課題を抱えています。NTTは、これらの課題に対応すべく、軽量でありながら世界トップレベルの日本語処理性能を持つtsuzumiをNTT人間情報研究所にて研究開発、2023年11月に発表し、国内企業・自治体等でのAI普及を推進してきました。
これまでに、実際のビジネス現場でのAI活用において、特に企業・自治体が保有する複雑なドキュメントへの理解や専門的な知識への対応力強化等のご要望を多数いただきました。このようなニーズを研究開発へフィードバックし、NTTはtsuzumiの次世代モデルtsuzumi 2を開発しました。お客さまからのニーズにおこたえできる性能に加え、1GPUで推論可能という従来モデルの特長も継承し、環境負荷とコストを抑え、企業・自治体等のAI活用を加速できるよう開発してきました。
純国産モデルとしての特長
AI市場が急速に進展する一方で、安全保障や産業競争力の強化という観点から、各国では自国開発のAIを重視する動きが活発化しています。日本政府においてもAI基本計画において国産AIの開発強化に向けた取り組みが進められています。特に政府や企業が保有する機密データやクローズド領域の業務には、ノウハウやナレッジ、インテリジェンスが集約されており、安全保障や産業競争力の観点から、ソブリンAIとして守るべき重要な領域です。NTTがフルスクラッチで開発した大規模言語モデルtsuzumiは、図1に示すこうした機微な領域にも対応可能な、プライベートLLMとして安心して活用できる純国産モデルです。実際、NTTグループ会社に対して6割を超えるお客さまが、個人情報や機密性が高いデータをお客さま環境でクローズドかつセキュアに利用したいとご要望いただいています。
国産AIは、良質な日本語学習データを活用し、日本の文化や慣習を深く理解する能力を備えているうえ、1GPUで動作するため、オンプレミス環境でも経済的に利用いただけます。さらに権利保護を意識した学習データのコントロールや、アップグレード等のリリースは外部環境や情勢変化の影響を受けずに、安定的に実施できます。

お客さまニーズを基にアップグレード
2023年11月に、NTTが開発したLLMモデルtsuzumiを発表して以来、tsuzumiおよび生成AIに関する企業のお客さまからの相談件数は、継続的に増加しており、現在、国内だけでも1800件を超えるご相談をいただいています。お客さまも自治体などの公共、金融から医療など多様な業界、そして事業規模の大小を問わず、幅広いお客さまからお問合せをいただきました。そのような中でtsuzumiは図2に示すようにお客さまニーズやマーケット動向をNTTの研究所へフィードバックし、それを基に基盤モデルをアップグレードしていくサイクルを通じて、市場へアジャイルに対応できる点も特徴です。実際にtsuzumiをリリースした後、図3のように8割以上のお客さまから「企業固有のノウハウが記載されたマニュアルや社内資料の読み込み、要約に活用したい」とご要望をいただきました。tsuzumi 2ではこうしたニーズに対応するために必要な文章読解力等の学習を強化しました。
さらに専門知識に基づく業務への対応ニーズにつきましては、ご相談が多かった金融、医療、自治体といった業界を中心に、専門知識の学習強化を行い、基盤モデルの開発、進化を進めていきました。


tsuzumiからtsuzumi 2への進化
tsuzumi 2では、図4に示すように、従来のtsuzumiが持つ強みである1GPUで動作する省コストでの運用や高い日本語処理性能はそのままにし、企業の業務への適応力がさらに進化しています。具体的には企業内のドキュメントの長文読解や複雑な文脈、意図の理解といった業務への適応力が向上しました。
また、特化型LLMの構築においても、特定業界の専門知識を強化し、お客さまがご利用になる際に、少ないデータでのチューニングが可能となり、より早く省コストで高精度なカスタマイズが実現できるようになりました。
例えば、「ファイナンシャル・プランニング技能試験2級」に合格するためには、tsuzumi 2は、事前に200問でトレーニングするだけで2級の試験に合格しますが、他のモデルは、その10倍の1900問を事前にトレーニングしないと合格ラインに達しませんでした。tsuzumi 2が金融分野の専門知識を強化していることにより、お客さまがご利用になる際に通常の1割の学習データでカスタマイズが可能となりました(図5)。
現在は、金融・医療・自治体の専門知識を強化していますが、今後も、お客さまのニーズに応じてそのほかの業界、領域につきましても強化していく予定です。


おわりに
NTTは、tsuzumi 2の提供開始を機に、NTTグループ各社からのソリューション提供、サービス実装を順次推進していきます。
2025年度末から2026年度初めにはtsuzumi 2の論理的な数学能力やコード対応能力をさらに進化させたバージョンをリリースしていきます。
さらに、NTTの基幹業務であるネットワークサービスやサイバーセキュリティ分野への応用、AIエージェントどうしが自律的に連携し議論するAIコンステレーション等の開発も進めます。これらの取り組みにより、NTTは新たな価値創造とお客さま体験の高度化をさらに加速していきます。

(左から)唐澤 圭/工藤 伊知郎/海道 真弘



生成AI「tsuzumi 2」について、tsuzumiからのアップデートを中心に性能向上のポイントを整理しました。業務への具体的な適用検討や、お客さまへの提案を検討する際の参考にしていただければ幸いです。