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2026年8月号

グループ企業探訪

第291回 株式会社NTT AI-CIX

AIは業界を飛び越え、つながる「連鎖型AI」時代に――NTT AI-CIX設立の背景にある技術者の挑戦

「AI(人工知能)は目の前の課題を解決するだけでなく、一歩先の潜在課題にも対応できるフェーズに入っています」そう語るのは、2024年8月に設立されたNTT AI-CIXの社家一平社長です。同社は、NTTグループが研究開発を進めてきたデジタルツインコンピューティング(DTC)を基に、業界や業務をまたいでAIを連携させる「連鎖型AI」の社会実装を進め、トライアルホールディングスとの合弁会社Retail-CIXを設立するまでに至りました。技術者がお客さまにとことん寄り添うことをモットーに、流通構造改革からエネルギー、ヘルスケア領域へと進めていく社家社長に、会社設立の舞台裏から事業構想まで詳しく伺いました。

NTT AI-CIX
社家一平社長

「個別AI」から「連鎖型AI」への転換によって産業全体の変革をめざす

■会社設立の背景や業務概要、めざしているところについて教えてください。

NTT AI-CIXは、「個別AI」から「連鎖型AI」への転換によって、産業全体の変革をめざす企業です。DTC技術を核に、複数のAI(人工知能)が業務や業界の垣根を越えて連携し、個別業務の最適化にとどまらず、サプライチェーン全体の最適化まで幅広く取り組んでいます。社名の「AI-CIX(AI-Cross Industry transformation)」には、業界横断でAIを活用し、その最適化をコアコンピタンスと位置付けることで、新たな産業変革をめざすという意思が込められています。
現在は主に、サプライチェーンマネジメント(SCM:Supply Chain Management)の最適化、農業分野における仮想市場構築、ビル管理における共有部空調の最適化の3分野を中心に、パートナー企業と連携しながら社会実装を加速させています。
私自身は、光ファイバ伝送技術の開発からキャリアをスタートし、NGN(Next Generation Network)開発推進を経て外部企業との連携業務へと歩みを進めてきました。NTTスマートデータサイエンスセンタではトヨタ、パナソニック、日立、三菱重工などを担当し、業界ごとに抱える課題の違いと、それを解決するためのアプローチの複雑さを実感してきました。
通信サービスの課題は想像が付きますが、他業界は全く異なります。そういった中でAIやデータ活用を推進するとなると、技術者がもっとお客さまの事業に直接寄り添って、現場で課題認識をしなければならないと考えるようになりました。すると、研究開発したテクノロジの知見をベースに、さまざまな業界の現場理解を深めることで、これまでになかった新たなソリューションがみえてきたのです。

技術者だからこそみえる「将来」の課題と「業際ビジネス」の可能性

■技術者として直接お客さまに向き合うことで得られた気付きについて教えてください。

技術者として直接お客さまと向き合うことを続けていると、さらに大きな利点があることに気付きました。現在多くの企業では、顕在化している「現在」の課題解決にAIを活用していますが、DTCをAIに掛け合わせて使うと、まだみえていない「将来」の課題にも解決策を提示できます。将来的にこの技術が必要ですが今はありません、ではなく、私たちならつくれますといえるのが技術者の強みです。
さらに着目したのは、DTCで異なる業界や業務のデータを組み合わせることで生まれる「業際ビジネス」の可能性でした。例えば、ビルの混雑状況、エレベーターの動作間隔、飲食店の混み具合、オフィスの稼動状況は一見独立した事象ですが、実は密接に関連しています。これらが共有されればビル全体の最適化が実現し、新たなビジネス機会が生まれます。この考え方が「連鎖型AI」のコンセプトへと発展していきました。
デジタルツインがあって何かができるのではなく、何かをやりたいからそれに必要なデジタルツインをつくるのです。目的や課題に応じて必要な情報を収集し、複数の事業者や業務プロセスをまたいだ最適化こそが、DTCがめざすべき姿だと考えました。

トライアルホールディングスとの協業が示した成果

■注目すべき具体的な取り組み事例について教えてください。

現在は小売・流通、農業、ビルマネジメントなどの領域に注力しており、中でも注目すべき事例が、小売・流通のSCMにおけるトライアルホールディングスとの連携です。この協業の背景には、企業どうしの深い共感がありました。
トライアルホールディングスの永田久男会長は、小売・流通業界の慣習による無駄の削減を訴え、そのために自社の情報をオープンにして仲間づくりを進めるという高い志を持つ経営者です。トライアル社はさまざまな企業とチームを構築し、単独企業の効率化ではなく、業界全体を巻き込んだ連携による変革を模索していました。永田会長は当時、「横のDX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼んでいました。
トライアル社のグループ会社であるRetail AIは、タブレット搭載ショッピングカートやAIカメラを活用したスマートストアなどのDX推進を進めていましたが、AI連携をした最適化の領域には未開拓でした。私がDTCや連鎖型AIについて説明したところ、複数の事業者間で最適化を図るというコンセプトが、まさにトライアル社のめざす「横のDX」と一致したのです。
2024年1月から本格化したトライアル社との共同検討では、「補充発注自動化」「棚割最適化」「物流効率化」「1to1マーケティング」の4つのテーマを設定し、年間売上40億円規模の大型スーパーマーケットなど数店舗で実証実験を実施しました。
技術的な核心は業務プロセス間の関係性を数理モデル化することにありました。発注のタイミングを曜日でまとめ、ある程度まとまった量で調整すれば、配送回数も作業回数も減りトータルコストは大幅に下がります。こうした業務間の影響を数理モデル化したことがブレークスルーとなり、店舗作業コスト20%削減、店舗在庫20%圧縮、物流10%効率化、欠品・廃棄5%削減という成果にめどが立ちました(図1)。

合弁会社Retail-CIX設立、「CIX-ORDER」の全国展開へ

■トライアル社との協業はどのように発展したのでしょうか。

こうした成果を踏まえ2025年7月8日、当社とRetail AIは資本金1億円、出資比率50:50の対等な関係で合弁会社「Retail-CIX」を設立しました。私が代表取締役を兼任しており、50:50の対等出資とすることで意思決定のスピードを重視した体制としています。
Retail-CIXは小売・流通にとどまらず、卸売業向けの需要予測による在庫最適化、メーカ向けの生産・出荷計画最適化など、サプライチェーン上流との連携も視野に入れており、製造現場の作業平準化と残業削減、返品率・廃棄率の大幅削減といった川上への波及効果をめざしています。
設立後、Retail-CIXで開発したAIとデジタルツイン技術を用いた発注最適化ソリューション「CIX-ORDER」は、2025年9月より順次導入が進められ、トライアルカンパニーのスーパーセンターを中心とする264店舗(2026年2月10日時点)への本格導入が完了しました(図2)。対象はグロサリー、菓子、日配品、生活消耗品など約2万8000 SKU(Stock Keeping Unit)に及びます。本ソリューションは、複数の発注をまとめ納品回数を最適化する「納品効率化・集約機能」と、棚割情報と売場状態から適正量を自動算出する「棚割連動型在庫最適化」を備えています。発注業務の効率化や過剰在庫抑制にとどまらず、補充作業などのオペレーションコスト削減を実現しており、店舗ごとに180人時/月相当の作業人時の削減と過剰在庫の約30%削減が見込まれています。

■今後の展望についてお聞かせください。

現在注力している3分野のうち、農業分野として農産物流DXの実証実験を進めていた神明ホールディングスの東京シティ青果(東京都江東区豊洲)において、AIによる分荷自動化サービスの導入が決定し、2026年下期でのサービス提供を予定しています。今後は神明ホールディングスのその他の青果卸売市場へのサービス展開を順次進めていき、デジタル空間で農産物の需給調整による仮想市場の実現に向けて、また、持続可能な農産物流通の実現に向けて挑戦を続けていきます。
当社の事業競争力を向上させ、さらなる成長を果たすためには業務・業界横断的な機能スキルが重要な要素となります。そのために現場観察と文脈理解、GAP構造とトレードオフの構造化、解決手段の探索、デジタルツインによる再現と最適化のフレームワーク化を推進していくとともに、業界の横展開の営業を強化し稼ぐ力を成長させて、エネルギーや医薬品物流といった新たな領域への応用も視野に入れて業界の変革に貢献していきます。

担当者に聞く

サプライチェーン全体最適で小売の未来をつくる──流通事業チーム

産業・流通事業本部流通事業部
福田 健一さん
星野 安泉さん
片桐 実奈さん

■担当されている業務についてお聞かせください。

私たち流通事業チームは、小売・卸・メーカを横断したサプライチェーン全体の最適化に取り組んでいます。在庫過剰や返品・廃棄コストの増加、人手不足による配送コスト・人件費の上昇といった流通小売業界の構造的課題を、すべてのプレイヤーが恩恵を受ける「全体最適」で解決することをめざしています。現在の主力サービスは店舗における発注業務の自動化ですが、チームの取り組みはシステム開発にとどまりません。店舗や物流センタに自ら足を運び現場を深く理解し、問題設計という上流工程から社会実装まで一気通貫で手掛けていることが大きな特徴です。
チームメンバのうち、3名の役割について紹介します。福田は顧客との対話を通じて解くべき問題を設計し、効果的かつ実運用可能な技術の検討から商用開発チームへの引き渡しまでを一貫してリードしています。星野はデータ分析を軸に店舗・物流センタでのヒアリングを重ね、KPIを確認しながら発注ロジックの設計・改善を続けています。片桐は店舗視察や利用者ヒアリングを通じてサービスの効果と課題を把握し、お客さまの経営層への報告と社内へのフィードバックを通じてシステム改善につなげています。

■今後の展開についてもお聞かせください。

今後は対象カテゴリーの拡大やさまざまなジャンルの小売店への横展開に加え、卸売やメーカへと取り組みの範囲を広げていきます。サプライチェーン全体を俯瞰し関係者が連携することで、個社単位では解消しきれないムリ・ムラ・ムダを解決できると考えています。需要予測・在庫最適化・物流最適化までを統合した意思決定基盤の構築をめざすとともに、これまで注力してきた「効率化」に加え、「売上向上」への貢献にもチャレンジし、業界全体の持続的な成長を支えていきます。

ア・ラ・カ・ル・ト

■「自己裁量を最大化」し、新しい働き方を実現するオフィス環境づくり

EX向上に資する社員の働き方の促進、および事業拡大に伴う組織強化に対応するため、2026年1月にNTT AI-CIXは田町にオフィスを移転したとのこと。新しいオフィス環境の構築にあたり、ABW(Activity Based Working/アクティビティ・ベースド・ワーキング)という、業務内容や気分に合わせて、もっとも生産性が高い場所、時間を自己裁量で自由に選択するという働き方のコンセプトを取り入れたそうです。個人の席を決めず好きな席に座るフリーアドレスとは異なり、「一人で集中したいときは静かな個室で」「新しいアイデアを考えるときはリラックスできる空間で」「チームで意見を交わすときは皆が集まりやすい場所で」等、今行っている仕事にもっとも適した場所を社員が自由に選択できるオフィス環境になりました(写真)。また、植物が人の視界に入ることで、精神の安定を示す脳波「アルファ波」が増えるといわれており、オフィスの緑化にも取り組んでいるそうです。「新オフィスは“自然の中で働ける場所”として活用いただけると嬉しい」とコーポレート部の半瀬さんはおっしゃいます。

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