2026年8月号
特集2
将来のアクセスネットワークを実現する研究開発の取り組み
- 光通信・無線通信
- インフラ設備
- オペレーション
NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)は、光通信・無線通信やインフラ設備およびオペレーションといった技術分野において、アクセスネットワーク(NW)を支える研究開発を進めています。アクセスNWを取り巻く環境変化を踏まえて、AS研が描く将来のアクセスネットワークと、この実現に向けた各技術分野の課題や主な取り組みについて紹介します。
谷口 友宏(たにぐち ともひろ)/山崎 仁(やまさき じん)
阿部 順一(あべ じゅんいち)
NTTアクセスサービスシステム研究所
将来のアクセスネットワークと実現に向けた課題
NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)では、光通信・無線通信やインフラ設備およびオペレーションといった技術分野において、アクセスネットワーク(NW)を支える研究開発を進めています。AS研は将来のアクセスNWの実現を通じて、新たな価値創造とサステナブル社会に貢献することをめざしていますが、将来のアクセスNWを考えるにあたって、特に注目すべき取り巻く環境の変化として以下が挙げられます。
① 人口・都市動態(1):今後の人口減少の加速に伴って、各産業の労働人口はもちろんアクセスNWの構築や運用にかかわる方々の人数も減っていくことが考えられます。また、無居住化が進み、居住地域がコンパクトになるという予測もされており、人口・トラフィックが密集する都市部とルーラルそれぞれのエリア特性に応じたメリハリのあるアクセスNWの設計や運用が求められると考えられます。
② インフラの老朽化(2):道路やトンネル、水道などといった社会インフラについて、建設後50年を超える設備の割合増加が加速することから、通信分野でインフラを担う者として、関連課題への対策の期待が高まると考えています。
③ メタル回線からの移行(3)(4):メタル回線サービスの光・モバイルへの移行に伴って、膨大なメタル設備の撤去、また、メタルを撤去した後のアクセスNW、つまり、アフターメタルのアクセスNWはどうあるべきかという検討課題があると考えています。
④ NW利用の様相:2040年ころのトラフィック予測(5)によると、トラフィック帯域は2020年比で数10倍から300倍程度になり、トラフィックの内訳については人による動画やSNS/Web利用が中心だったものが、AI(人工知能)やモビリティ、ロボティクスやIoTがメインになるだろうと報告されています。また、NTTとしても、人と人との通信だけではなく、モノどうしやAI・ロボットどうしの通信や、リアルタイムAI推論などユーザ近傍でのデータ処理へも対応するAIネイティブインフラへの転換をめざした方針を発表しています(6)。
これらの変化を踏まえ、AIとともに大きく進化していく社会に対して、AS研として以下のような将来のアクセスNWの姿を描いています。
・多数・多様な端末・用途、環境変化に応じた柔軟な収容(工場でのロボット・AI連携や新たなエンタテインメント体験など)
・陸・海・空のすべてのモビリティの収容と運用自律化(無線カバレッジ拡大と大容量化、センシングによる環境把握)
・社会インフラ運用の自動化(状態把握、劣化・故障の予測・復旧)
・AIなどさまざまな用途の通信を支える設備〔大容量化・超並列光接続、All-Photonics Network(APN)展開、通信設備の最適化〕
・ネットワーク運用の自律化と社会基盤連携(AIによる状況把握と対処、モビリティ・インフラなどの社会基盤との協調運用)
このような将来のアクセスNWの実現に向け、技術分野ごとの主な課題を以下のようにとらえたうえで、研究開発を進めています。
・光通信:光インフラの大容量化、APNの特徴を活かしたさまざまなサービスの創出
・無線通信:無線アクセスの品質向上、ミリ波帯・NTN(Non-Terrestrial Network)の活用推進
・インフラ設備:アフターメタルを見据えた検討、社会インフラへの技術展開
・オペレーション:NW運用の自律自動化
光通信に関する主な取り組み
光インフラの大容量化に向けては、マルチコア光ファイバの適用拡大に取り組んでいます。今後、AI・クラウドサービスの進展により、データセンタを中心にマルチコア光ファイバを適用した容量拡大が期待されています。これを実現するための課題としては、同時接続コア数の増加と光中継の省電力化の課題があります。前者については、マルチコア光ファイバが集積された状態で接続する各ファイバを回転させてコアの位置を調心する高集積ファイバ回転機構、後者については、1つの励起光による高効率な4コア一括光増幅の技術検討を進めています。
APNサービスの創出については、オンデマンドで迅速な提供を実現するためのAPNトランシーバの遠隔制御やラインアップ化に取り組んでいます。遠隔制御では例えば、つないだら自動開通するプラグアンドプレイ機能の実現により、作業者派遣を不要とすることで開通時間低減をめざしています。また、さまざまなユースケース〔モバイルフロントホール、企業データセンタ(DC)間接続、クラウド事業者内DC間接続・中継網など〕に対応するために伝送速度が異なるAPNトランシーバのラインアップ化にも取り組んでおり、これらについても遠隔制御対応することをめざしています(図1)。

無線通信に関する主な取り組み
無線アクセス品質向上については、リアルタイムアプリケーションの拡大に対応するための、無線通信の設計技術・把握技術・制御技術の3つを連携させて、つながり続ける無線を実現する技術群であるCradio®の取り組みを紹介します。CradioとNW運用データや外部データ(物流データ、ビル内データ、地図データなど)を連携させ、無線環境のリアルタイムでの把握や広い領域での無線品質の予測を行って、マルチ無線を制御するという仕組みを構築することで、高速移動や変動する無線環境に対応するマルチ無線サービスとして、例えばスマートシティにおける遠隔運転、工場や建築現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)・ドローン監視などのユースケースの実現をめざしています。
ミリ波帯の活用推進に向けては、分散MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)技術やWiGig(Wireless Gigabit)制御技術により、遮蔽環境での通信品質安定化・大容量化の実現をめざしています。これらの技術についてはフィールド実証に取り組んでおり、分散MIMO技術についてはトンネルでのフィールド実証、WiGig制御技術については自動運転バス実証実験(7)を通じて、さまざまな利用シーンでミリ波帯をさらに活用拡大することをめざしています。
NTNの活用推進に向けては、JAXAとの連携で、低軌道衛星MIMO/IoTの軌道上実証実験を進めています。AS研の技術ポイントは、衛星通信にMIMO伝送を適用した大容量化であり、低軌道衛星によるMIMO伝送は世界初の実証です。この技術の確立を通じて、各種の衛星観測精度の向上や大規模衛星センシングサービスの実現をめざしています(図2)。

インフラ設備に関する主な取り組み
主に通信インフラを対象としたアフターメタルを見据えた検討として、2つの取り組みを紹介します。
1番目はメタル撤去技術です。AS研では、特に架空メタルケーブルの撤去に関する技術として、張力を緩めず非昇柱で、安全にケーブルを切断・撤去することを目的とし、作業性・安全性を両立する撤去工具や、点群や画像による現場張力の可視化と提案手法の実施可否判定、また、発生する不平衡荷重や衝撃荷重がケーブルや電柱に与える影響の把握と安全に実施できる条件の明確化を検討しています。この技術の確立を通じて、架空メタルケーブルの維持管理・撤去コストの削減や作業者・設備の安全性の確保をめざしています。
2番目は、電柱本数削減に向けたスパン長延化技術です。メタルケーブルを撤去した電柱のスパンを長延化し、本数を削減することで、根本的な設備維持コストの削減をめざしています。具体的には、実験・シミュレーションによる長スパン振動の影響評価、および不平衡解消と地上高確保を同時に実現する弛度大ケーブル高上げ方法の設備影響を確認しています(図3)。
次に、社会インフラへの技術展開に関する取り組みを紹介します。
まずは、光ファイバ環境モニタリングで、これは既設の光ファイバを用いてセンサ網を構築する技術です。AS研では高精度な振動センシング技術に取り組んできましたが、加えて、ユースケースにおける振動データの解析技術への取り組みを通じて、NTT内設備への活用だけでなく、さまざまな社会インフラ課題解決に向けて地中空洞検知、橋梁点検などの技術確立をめざしています。
また、衛星・データ分析の取り組みでは、震災や豪雨といった激甚災害におけるリスク見える化を通じた地域防災力の向上を目的としています。技術ポイントの1つは、通信で培った電柱の被災予測モデルを応用した道路被災予測であり、災害時避難・物資輸送の事前想定により孤立を防止することをめざしています。もう1つは、衛星電波解析技術を用いた地下を含めた異常スクリーニングであり、衛星画像を用いた重要道路の地下異常監視による道路陥没の防止につなげたいと考えています。
さらに、地上・地下インフラ3D管理の高度化にも取り組んでいます。地上については、3DGS(3D Gaussian Splatting)を用いたドライブレコーダ画像内の設備位置特定技術に取り組んでおり、高精度な位置特定を通じて、維持管理の稼働・コスト削減や劣化の将来予測、都市計画/防災シミュレーションの実現をめざしています。また、地下については、AI技術を用いた地中レーダ波形解析の高度化に取り組んでおり、位置・管径推定、材質推定手法の確立を通じて、社会インフラの維持管理DXに貢献することをめざしています(図4)。


オペレーションに関する主な取り組み
NW運用の自律自動化の実現にあたっての重要なポイントとして、AIの導入が挙げられます。現在、NW構成情報が一元管理されておらずバラバラなデータ管理になっていることや、接続・依存関係をAIに理解させるための用途別チューニングが必要で負担が大きいことが課題になっています。これに対してAS研では、AI導入を促進するネットワーク情報基盤NOIM(Network Operation Injected Model)の取り組みを進めています。ポイントとして、物理~サービスのマルチレイヤNW構成情報を汎用的なデータ形式で構造化すること、また、接続・依存関係を保持したままAIに渡し、AIが探索方法を理解することで正確性と計算効率を両立することに取り組んでいます。これらの技術確立を通じて、複雑なネットワーク運用へのAI導入を迅速化し、NW運用の自律自動化につなげたいと考えています(図5)。

おわりに
本稿では、AS研が描く将来のアクセスNWとこれを実現する取り組みについて紹介しました。光通信における光インフラの大容量化やAPNサービス創出、無線通信における無線アクセス品質向上やミリ波帯・NTNの活用推進、インフラ設備についてのアフターメタルを見据えた検討や社会インフラへの技術展開、さらにオペレーションにおけるNW運用の自律自動化への取り組みを通じて、将来のアクセスNWを実現していきます。
■参考文献
(1)https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/kokudo03_sg_000030.html
(2)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01.html
(3)https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20250929_01.html
(4)https://www.ntt-west.co.jp/news/2509/250929a.html
(5)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_business/02kiban09_04000633.html
(6)https://group.ntt/jp/ir/library/nttis/management_strategy.html
(7)https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2026/0114.html

(左から)谷口 友宏/山崎 仁/阿部 順一


本稿で挙げた各技術分野における取り組みを通じて、将来のアクセスNWを実現し、新たな価値創造とサステナブル社会に貢献します。