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2026年8月号

特集2

つくばフォーラム2026に見るアクセスネットワークの研究開発

光とAIを軸に研究開発CoEをめざすNTT研究所――IOWN、 tsuzumi、 光量子コンピュータの社会実装を通して

本記事は、2026年5月27〜28日に開催された「つくばフォーラム2026」における、木下真吾 NTT研究企画部門長の基調講演を基に構成したもので、NTT研究所の戦略テーマである「IOWN」「tsuzumi」「光量子コンピュータ」について紹介します。

木下 真吾(きのした しんご)
NTT執行役員 研究企画部門長

AI開発は「超大規模な装置産業」へ

NTT研究所では、現在、本講演のサブタイトルにある「IOWN」、生成AI(人工知能)である「tsuzumi」、「光量子コンピュータ」の3つを、重要戦略テーマとして進めています。今日はなぜこの3つが重要なのか、それぞれの研究テーマの進捗について報告します。
背景として、なぜこの3つに研究所が取り組んでいるのかを説明します。今のAIの進化は凄まじいものがありますが、いったん、AIの開発という観点で状況を眺めたいと思います。AIの開発の状況は、一言でいうと「超大規模な装置産業」という見方ができると思います。この超大規模というところを数字で見ていきたいと思います。
まず、膨大な開発、学習コストについてです。スタンフォード大学が出しているAIのIndex Reportによると、今のGPT-5.5の1.5世代前のGPT-4でさえ数兆パラメータという非常に大きいもので、それを開発するのに約150億円から200億円かかるといわれています。これは1回つくるだけで、何回もつくり直したり、バージョンが上がるたびにつくり直すと、この約10倍から100倍の開発費用がかかるといわれています。
また、消費電力の観点からみると、先ほどのGPT-4、このクラスのLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を1回つくるのに、消費電力が約40GWh、これは原発40基分を1時間動かすという膨大なエネルギーでつくられています。一方、学習に対して推論、つまり実際にこのLLMを使うときには、消費電力量は今までのGoogleが0.3Whであるのに対し、ChatGPTではその10倍の2.9Whが消費されるといわれています。
また、実際にこのLLM、AIをつくるための投資も、莫大な額が動いています。例えば民間企業が投資する金額は、米国で2850億ドル、日本は260分の1ぐらいの11億ドルと格差もあります。
このようなニーズにこたえるために、データセンタ需要が非常に大きくなっており、例えば米国で2035年に123GWhクラスのデータセンタが建設されると予想されています。一方、日本では2034年に6GWhのデータセンタの需要が見込まれています。
さらに技術者、研究者の数について見てみます。主な生成AIに関する論文の共著者数について、普通、学術論文を書く場合は、大体5名から多くても10名で一緒に研究をするのですが、例えばGoogleのGeminiは、2023年という古いデータですが論文の共著者数が1350人ぐらいと、ほとんど大きな映画を超えるようなプロジェクトの規模になっています。
さて、このような超大規模な装置産業、リソース産業みたいな体をしているAIですが、今後の進化に向けて、私たちはどのような研究開発をしていくべきなのかを、改めて考えないといけないと思っています。そのときの問いとして、例えばこのまま計算機のリソースを増やしていくべきなのか。あるいは日本という立場に立ったときに、そういう計算機リソースを増やせるのか。そしてこのようにリソースを増やした場合、それが本当に人類や地球のためになるのかを、いろいろ考えながら研究開発の戦略を練っていかないといけないと考えています。

NTT研究所のアプローチ

NTTがAIに対してどういう戦略を打っているかを図1で紹介します。AIの実行環境、すなわち開発や推論を動かすための環境自身を効率化する意味でのIOWN。それからAI自身を軽量化し効率化していく意味でのtsuzumi。まずこの2つを基本的なアプローチとして考えています。ただこの2つのアプローチは現在の情報処理、いわゆる古典情報処理と呼ばれる領域においてのアプローチとなっています。
さらにこれが加速していった場合に、古典情報処理では、なかなか解決が厳しいのではという声もあります。そこでNTTは、古典情報処理から量子情報処理の領域まで拡大し、計算性能の飛躍的、圧倒的な向上をめざす光量子コンピュータ。それと人間の脳に近い効率性を持つAI、すなわち量子AI。この4つを大きな柱として、これからの巨大なリソースが必要になるAIの進化に対する研究開発の戦略アプローチを考えています。

■IOWN

IOWNを語るうえで、まず電気と光の性質の違いを説明します。電気配線の場合、伝送距離が15cmを超えたあたりから急激に消費電力が増加します。さらに10GHzから20GHzと動作周波数を高めれば、さらに消費電力が増えるという特性があります。一方光の配線は、距離が伸びてもほとんど消費電力が変わらない、さらに動作周波数を高めてもあまり変わらないという非常に優れた特性があります。この特性を活かしてIOWNをつくり上げていますが、IOWNを一言でいうと「電気から光への転換による情報通信処理の限界打破」という言葉で表現できると考えています。伝送性能と消費電力、この2つの相反する要求条件に対する両立手段と考えています。
IOWNでは、どこで電気を光に置き換えるのかが非常に重要になります。どこの部分を光に変えるのかによって、IOWNは4つのステップに分かれています(図2)。まずIOWN 1.0、これはネットワークの中における光の活用です。データセンタ間を完全光化するのが1.0です。2.0以降はいよいよコンピュータの中に光が入ります。まず2.0ではサーバ、つまりデータセンタの中のサーバのボード間の完全光化。そして3.0はボード上のチップ間の完全光化。そして4.0は、チップの中のダイと呼ばれる最小単位のチップ、そのダイ間を完全光化し、局所的にかなり細かいところまで光を入れて、先ほどの両立をめざしていきたいと考えています。
この1.0、すでに2023年にはNTT東日本・西日本、NTTドコモビジネスから商用サービスとして提供を開始しています。1.0のAPN(All-Photonics Network)のユースケースでは、特に超低遅延性を活かしたエンタープライズサービスがさまざまな場面で活用されています。
このAPNは、エンド・ツー・エンドのエンタープライズサービスだけではなく、データセンタのビジネスにも非常に有効と考えています。データセンタについて今1番の課題は用地不足です。現在、日本の88%のデータセンタがいわゆる首都圏、大阪圏に集中しているといわれています。ここで、新たなデータセンタをつくる用地の確保が大きな課題となっています。
そこで今注目されているのがワットビット連携です(図3)。データセンタはどうしても都市側、つまりユーザの近い地域に置きたい要望が強く、都市圏にデータセンタを配置します。これにより、赤い線のとおり、電力線、いわゆるワットの部分は非常に長距離を飛ばす必要があり、この電力線が非常に高いということが課題になっています。これに対し、APNで遅延時間を極限まで削減することで、例えばデータセンタを郊外に置くことができますし、発電所の近くに置くことができます。赤の部分の電力線の距離を短くすることで、トータルのケーブル敷設コストを削減できます。一説によると100分の1ぐらいになるのではといわれており、ワットビット連携、いわゆるデータセンタの郊外設置が大きく期待されています。
これを発展すると、先ほどは静的なワットビット連携であったものが、ダイナミックなワットビット連携もできるのではないかと期待が高まっています。例えば、九州、北海道、関東にデータセンタがあった場合に、九州での発電量が少ない場合には北海道に処理を移して、北海道で処理を継続するということです。これによって、例えば再生可能エネルギーのトータルな利用率を圧倒的に高めることができ、ここにもAPNの大容量、低遅延性が効いており、今さまざまな実証実験を行っているところです。
続いてIOWN 2.0、いよいよコンピューティングの中に入ってきている状況を紹介したいと思います。AIデータセンタの中にはこのIOWN 2.0が使われるのではないかと期待を持っています。
大規模なAIを開発するシステムには、非常に多くのGPU(Graphics Processing Unit)をまとめてスイッチする構成が必要になってきています。GPUが1000台あったとし、1000台それぞれが他の999台と毎回コミュニケーションを取る際に、1000の2乗ぐらいの通信量が発生します。これを非常に高速にスイッチすることが全体性能の課題になってきます。AIデータセンタ用の超高速スイッチは、現在はNVIDIAのInfiniBandやUltra Ethernetが使われています。ここにIOWN 2.0の光電融合デバイス(PEC)を使ったスイッチであるPEC-2スイッチをつくり、圧倒的な低消費電力と圧倒的な高速処理を実現しようと考えています。
この私たちがつくるPEC-2スイッチが、なぜ低消費電力にできるのかを説明します(図4)。図左側は従来の光スイッチを横から見た絵と思ってください。スイッチの前面に挿してあるのがトランシーバで、ピンクのところがスイッチ用のASICです。トランシーバまでは光配線ですが、トランシーバからASICまでの30cmに電気配線が残っています。この30cmは、前述のとおり10Tbit/sを超えると消費電力が莫大になってきます。図右側の私たちNTTのPEC-2のスイッチは、この電気配線をわずか3cmに抑えることによって、消費電力を削減するというアプローチをとっています。2026年度末に商用版を提供予定で、ASICのチップをBroadcom社、光エンジン・スイッチのモジュールをNTTイノベーティブデバイス社、それを組み上げたスイッチのボックスをAccton社が担当し、商用化を予定しています。

■tsuzumi

続いて、AI自身の効率化でtsuzumiを紹介します。2023年にNTT独自のLLM、tsuzumiを開発しました。当時は7Bという70億パラメータのサイズでしたが、より性能を上げるべく30B、300億パラメータの生成AI「tsuzumi 2」を開発しました。なぜこの30Bにこだわったかといいますと、30Bは現在のGPU1台に載るといわれているからです。1台のGPUで済むということは、オンプレミス、つまり企業が自分のサーバを立てて、そこで容易に動かすことができる。そうすると、コストや消費電力が下がりますし、さらに情報を外に出しませんので、非常に高セキュアなAIを実現できるのではということで、この30Bという数字にこだわって開発しました。
小さいと性能が出ないのではないかといわれるのですが、私たちは、小さいながらも日本語に特化することで、日本語の性能は世界トップクラスを実現しています。日本語の知識、解析能力、指示遂行能力、安全性のベンチマークを取った結果、tsuzumi 2と同じぐらいの大きさの世界的に有名なLLMと比べて勝っていますし、tsuzumi 2よりも数倍以上大きなGPT-5に対しても引けを取らないようなレベルを実現しています。
また今回のtsuzumi 2は、金融、自治体、医療という分野に賢く性能が出るような特化モデルとして考えています。例えば金融のファイナンシャルプランニング技能検定、FP2というテストがあるのですが、どれぐらい追加学習したら合格するかという評価をしました。GoogleのGemmaですと約1900問予習した段階で合格できたのですが、tsuzumi 2ですと200問ぐらい予習しただけで合格スコアが出たということで、約10倍学習効率が向上していると考えています。
また、2026年5月19日に、tsuzumi 2のアップデートとして、視覚読解機能を追加したものを発表しました(図5)。視覚読解とは、図の下のとおり、図表入りドキュメント、図表入りのスライド、あるいはグラフやチャート、こういったものも含めて解析をしてくれるLLMです。こちらも同図のとおりさまざまなベンチマークを測った結果、同クラス帯ではナンバーワン、それから大きなものを含めても引けを取らない性能レベルまで達成しています。
最後の特徴は国産AIです(図6)。最近ソブリンという言葉がよく使われていますが、ここにもtsuzumiは非常にこだわっています。最近、AnthropicのMythosというすごく性能の高いAIが出て、いろいろなソフトウェアの脆弱性が発見されやすくなったといわれています。今はその安全性を考慮して、一部の企業にしか提案、開示しておらず、日本ですと3つのメガバンクがこのMythosを使えるようにと、政府を含めて交渉しているニュースも聞いたことがあると思います。これを踏まえて、例えばもし他国のAIの利用を一方的に制限されたらどうしましょう? また、もし日本の文化や言語、こういったものが他国のAIによって操作干渉されたらどうでしょうか? そして、もし日本にAIを開発できる会社、あるいは技術者が少なくなる、あるいはいなくなったらどうでしょうか? というところを、経済安全保障の観点から真剣に考えないといけないと感じています。私たちは国産AI、ソブリニティを非常に重要視しています。言語、文化を自分たちでちゃんと守っていく主権。学習データを自分たちで選んで学習させていく主権。開発のプロセス、どういう順番で開発するか、いつ開発するかという主権。それから利用のライセンスに関する主権、つまり、いつ何時使わせない、あるいは非常に高額な請求をされるような戦略的なリソースになっていますので、そういった主権もやはり守りたい。そして技術の伝承、あるいは技術を守っていきたいという意味での主権。こういったところを大事にしながら、tsuzumiはNTTとして独自にスクラッチからつくり、日本の経済安全保障を守っていきたいと考えています。

■光量子コンピュータ

最後に、私たちが研究開発している光量子コンピュータについて説明します。量子コンピュータにもいろんな種類がありますが、そのうち私たちは光量子コンピュータという方式を研究しています。この基本動作を紹介したいと思います。まず、量子光をつくります。これには量子光源というデバイスが必要です。この量子光は光パルスで、次にこの量子もつれをつくって、これを例えば糸を編んで布をつくるようなイメージで量子もつれのクラスタをつくっていきます。そこに0か1のようなプログラミングを行い、それを測定することによって一気に計算ができるという、ラフな動作になっています。
量子コンピュータの性能を上げるためには、この光源を非常に高品質で高スピードのものをつくらないといけない。また、もつれのクラスタを大規模にできれば、一気に処理できる計算量が増え、大規模計算ができます。また測定器がどんどん速くなればなるほど、計算のスピードも上がっていく。この3つが光量子コンピュータの中では非常に大きな課題となっています。
実際にこの光量子コンピュータをつくるのにどんなハードウェア構成になっているか、ソフトウェア構成になっているかを図7に示します。左に量子光源、その右の赤い線が光ファイバやミラーなどを組み合わせた光学系の装置です。観測制御装置があって、量子特有の計算機能とソフトウェアで構成されています。青色の部分がキーポイントになります。NTTがこの中でどこを強みとしているかというと、量子光源と観測装置です。ここに使われるデバイスが光パラメトリック増幅器で、実は元々光通信の中継、増幅、それから波長変換のために使っていたデバイスです。これが、量子コンピュータには非常に良いと、量子コンピュータ用に少し改造して適用してみたらすごい性能が出て、東京大学の古澤先生と組んで、今、世界ナンバーワンのデータを出しているところです。
量子コンピュータにはさまざまな方式があります(図8)。例えば超伝導方式、中性原子、イオントラップ、そして私たちがやっている光です。これらを比べたときに光が圧倒的に良いのは、動作環境と書いているところです。超伝導ですと超低温、極低温、それから真空という条件があります。よく量子コンピュータとしてシャンデリアみたいな物がありますが、あれはすごく大きいです。ほとんど冷却装置で、その中に小さい量子チップがあります。超伝導方式ですと、どんどん量子ビットを増やそうとすると、あの装置ごと増やさないといけないので、例えばテニスコートの何面も使って1000量子ビットをつくるようなかたちで、スケーラビリティに非常に課題があるだろうといわれています。一方、光は常温、常圧で動作しますので、スケーラビリティのメリットは非常に大きいといわれています。
また、光通信技術との高い親和性も武器となっています。光通信技術である光源技術、波長変換技術、そして低損失の光ファイバやマルチコアファイバ、それから波長の分割多重伝送技術もこの光量子コンピュータに使えますし、光通信の受信機で使っている光の高速検出も量子コンピュータの観測に使えますので、光通信に投資していた技術が少し改造するだけでこの光量子コンピュータに活用できることも大きなメリットです。
この光量子コンピュータの実用化に向けて、先ほどの東京大学の古澤先生という光量子コンピュータの大家がつくられたOptQCというベンチャーとNTTが業務提携を行い、2027年、2030年、それから2040年というマイルストーンで光量子コンピュータの実用化をめざしていきます(図9)。まず2027年には1万量子ビットということで、大規模な通信、交通等の最適化問題が解けます。2030年の100万量子ビット、これができると肥料の生産、環境負荷の問題を低減することができます。そして1億量子ビットまでいくと、新薬を80億人レベルでそれぞれカスタマイズすることができます。このような社会課題が解けてくると期待されています。

■IOWNと量子の関係

最後にIOWNと量子の関係について整理します(図10)。先ほど紹介したIOWN 1.0から4.0、これは光伝送の領域でした。データセンタ間、あるいはチップの中というように、どんどん小さくなっていきますが、あくまでも光を伝送するという領域でした。この次、光を使った演算に発展していくと思われます。ここでは、NTTでも光のトランジスタや光の論理ゲート、ニューラルネットワークなどを研究開始しています。ただここも光の演算といいながら、実は古典演算が中心です。さらに圧倒的な性能を求めるにはやはり量子性が必要なので、光の量子演算となると、先ほど紹介した光量子コンピュータとなります。今IOWNで定義している4.0からこういった方向に発展し、光を演算領域まで活用していくことを考えています。

おわりに

将来のAIの進化に向けて、非常に大きなリソースが必要となっている現状ですが、NTTの研究開発としては、AIの実行環境自体の効率化としてのIOWN、次にAI自身の効率化としてのtsuzumi、それから量子領域において計算性能を飛躍的に向上させる光量子コンピュータ、さらに今日はあまり説明できませんでしたが量子AIと、こういった古典、量子にまたがる幅広い研究開発をすることで、これからのAI社会に貢献していきたいと考えています。

■参考文献
(1)https://www.rd.ntt/ai_tech/

DOI
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