グローバルスタンダード最前線
ITU-T SG2での電気通信番号の標準化状況
ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)SG(Study Group)2のWP(Working Party)1では、電気通信番号や識別子に関しての、管理・ネットワークへの適用・通信サービスへの展開にかかわるさまざまな国際間の課題への取り組みを行っています。特に、最近のネットワークのIP化やIoT(Internet of Things)サービス・OTT(Over The Top)サービス等の急速な展開、グローバル化により、課題が多様化するとともに、なりすまし等の電気通信番号を悪用した詐欺等の問題が増加し、番号の適正使用の課題への対応が急がれています。またWP2では、網管理の課題が扱われていますが、ここでは、電気通信番号や識別子を中心としたWP1の状況について、WTSA(世界電気通信標準化総会:World Telecommunication Standardization Assembly)決議(Resolution)と対応させつつ報告します。
一色 耕治(いっしき こうじ)
NTTアドバンステクノロジ
電気通信番号や識別子に関してのWTSA決議
ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)の最高決定組織であるWTSA(世界電気通信標準化総会:World Telecommunication Standardization Assembly)の成果文書、WTSA決議(Resolution)は、ITU-Tの活動に関する指針を与えるものであり、決議2で各SG(Study Group)の責任と義務が定められ、さらに具体化された決議が出されています。これらの中で、SG2のWP(Working Party)1で議論されている電気通信番号や識別子に関するWTSA決議(1)を以下に抜粋します。
■電気通信番号や識別子に関するWTSA決議の抜粋
決議20(国際電気通信番号・識別子等のリソースの割当と管理に関する手順)、決議29(国際電気通信網における代替的発呼手順)、決議49(ENUM*の管理)、決議60(IP化による識別子・番号の高度化)、決議61(国際番号使用の適正化)、決議64(IPアドレスの割当とIPv6への移行)、決議65(発番号識別の伝達)、決議70(人道的番号)、決議88(国際ローミング)、決議91(番号計画用のデータベース)、決議98(IoTサービス用番号)。
* ENUM(E.164 NUmber Mapping):IPアドレス~電話番号間でのマッピングの仕組み。
SG2 WP1で検討中の課題
ITU-TのSG(Study Group)2 WP(Working Party)1で検討中の電気通信番号や識別子を中心とした課題は多様であり、おおむね以下の①~⑮にカテゴライズされます。これらの個々の課題への細分化、およびWTSA決議との関係について図1に示します。これらの個々の課題の中で、特に活発な議論が行われているものとして、①IoT(Internet of Things)用の国際番号の割当および④番号使用適正化の状況について以降で紹介します。また、これらの課題の検討により作成された勧告、および作成中の勧告について紹介します。
■SG2で検討中の課題のカテゴライズ
①IoT用の国際番号の割当、②携帯加入者識別のためのIMSI(International Mobile Subscriber Identity)の割当、③人道的サービス用国際番号、④番号使用適正化、⑤既存の番号勧告メンテ・管理・割当、⑥国際番号割当手順の効率化、⑦番号ポータビリティ、⑧国際間のインターワーキング、⑨ENUM、⑩各国の国内番号の課題、⑪国際番号リソース(INR)からの収入、⑫WTSA20への入力、⑬IPv6、⑭災害救済への対応、⑮地域標準化組織との連携。
活発な議論が行われている課題の紹介
最近のネットワークのIP化やIoTサービス・OTT(Over The Top)サービス等の急速な展開、グローバル化により、課題が多様化する中においても、現在もっとも多くの検討項目があり、標準化に向けた活動が活発なのは、番号使用の適正化の課題となっています、また、IoT番号の課題も重要な課題となっています。以下、両課題について、直近の第9回会合(2021年5月31日~6月11日)での状況を中心に紹介します。
■番号使用の適正化の課題
現在もっとも多くの検討項目があり、標準化に向けた活動が活発なのは、番号使用の適正化の課題です。
(1) 国際間の発番号伝達勧告(E.157)の改訂に関する勧告案の決定
改訂E.157(International calling party number delivery)は、今会期の議論を進める中で従来版でのPSTN(Public Switched Telephone Networks)およびPLMN(Public Land Mobile Network)中心での規定の範疇を超え、インターネットやOTTなどとの連携による通信サービスの形態の出現を背景とした意見が出されるようになったことから、規定範囲・詳細さ・義務化の度合い等について意見が分かれるケースが増える状況になりました。こうした中で、エディタ(英国)が繰り返し調整と提案を進め、具体的な個々の事象やなりすましへの対策はテクニカルレポートに記載することで、E.157勧告本体についてはよりGeneral principlesによる記述をめざす方向で検討が進展し勧告案が決定さました。
(2) なりすまし対策テクニカルレポート(TR.spoofing)の同意
なりすまし対策に関するテクニカルレポートTR.spoofing(Countering spoofing)は、(1)で記載したE.157勧告本体から、なりすまし対策についての個々の事象や対策に関する部分を切り離して新規に作成されたものであり、OTT事業者等により国際間でSIM box等により引き起こされる発番号詐称のメカニズムや、発番号詐称の対策として米国で導入が進んでいるSTIR(Secure Telephone Identity Revisited)/SHAKEN(Signature-based Handling of Asserted Information Using toKENs)についてブロックチェーン技術等との比較等も含め取り上げています。国際通信における発番号詐称の例について図2に示します。
(3) ワンギリに関するテクニカルレポート作成の議論
新たにワンギリによる詐欺の抑制方法に関するテクニカルレポート作成の提案がスーダンよりありました。これにより、新たなワークアイテムTR.MMWF(Methodologies to mitigate Wangiri fraud)の作成が承認されました。現在methodologiesの検討のために挙げられている項目には、Interactive Voice Response (IVR) Facility、Using Artificial Intelligence TechnologyやNumbers Blocking、Sharing of Black Listsなどのワンギリ対策のための技術や、番号管理上の対策等が含まれています。
(4) OTT関連の議論の状況
インターネット上でのサービス展開が行われるOTTサービスへのE.164番号の使用に伴う詐欺ケースとして、WhatsApp等のアプリの認証・起動のために携帯番号・固定番号が使用されるケースに関する対応策の検討開始の提案がUAEから提出され、この問題の検討に向けてOTTアプリケーションプロバイダにTSB(Telecommunication Standardization Bureau)を通じて連絡することが合意されました。またこの件等に関して米国は、今後の議論へのWhatsAppの参加を促すことを提案しました。
■IoT用の国際番号の割当の勧告化
(1) IoT番号勧告(E.IoT-NNAI)の検討の背景
本課題は、今会期の主要な課題として、グローバルなIoTサービスの急増に対応して適切な国際番号の割当を行うための検討として、英国がエディタとなりスタートしました。当初は具体的なユースケースには欧州内での緊急通報の共通化を行うeCallサービスが想定され、UPT(Universal Personal Telecommunications Service)等に適用されている国際サービス番号(E.164-number for global services)の一環として規定する方向とされました。適用番号についても、すでにUPTサービス番号としてユーザへのグローバルなモービリティサービス用に使用されている878番号が、現状はUPTとしての使用が少ないため番号として転用することが適切ではないかとみなされています。ただし、IoT番号の検討が継続する中で、現状はすでに導入されているeCallや多種多様なグローバルIoTサービスに対しては、既存の国内携帯番号(E.164-number for geographic areas)のローミングや、883などの既存の国際ネットワーク番号(E.164-number for Networks)が使用されています。そうした番号との適用方法の違いなども検討すべき項目となっています。IoTサービス用の国際番号について図3に示します。
(2) 第9回会合の勧告案E.IoT-NNAIの議論状況
第9回会合では以下の寄書が提出され、これらを基に今後も議論の継続を行うこととされました。
・NTTからのIoT/M2Mサービスの番号ポータビリティに関する検討がAnnex-Aとして勧告案に盛り込まれることが合意され、さらにこの検討内容は次会期に向けて、サービスプロバイダのキャリアスイッチングの検討課題の出発点とすることが合意されました。
・マルタより、IoT番号の878を既存の音声・SMSサービスに使用すべきではない旨を、E.IoT-NNAI(Numbering Naming Addressing Identification)勧告に明記すべきとの主張が出され、さらなる検討を進めることとしました。
・ロシアより、用語の定義、IoT番号の各フィールドの規定、番号ポータビリティ、番号管理のグローバル・国内の役割等の課題リストが出され、さらに検討を進めることとされました。
課題検討により作成対象とされる勧告
前述した各種課題の検討のアウトプットとなる勧告について表に示します。また、それぞれの勧告に関連するWTSA決議も併せて表中に記載します。
今後の展開
電気通信サービスの新たな進展やネットワーク形態の変遷に伴い、番号・識別子が担う役割は変化してきており、SG2での活動も短期課題として即応が必要なものから、中長期にわたる課題の研究まで幅広いものとなっています。こうした動向を見極めながら、国内的にはTTC番号計画専門委員会での議論を進めながら、番号・識別子にかかわる標準化活動等、積極的な取り組みを今後も進めていきます。
■参考文献
(1) https://www.itu.int/pub/T-RES