特集
「NTT Technology Report for Smart World 2022」の公開について
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NTT研究企画部門では、2019年に始動したIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とともに、より人々が豊かに生きていく世界を実現するためのテクノロジーについてまとめた「NTT Technology Report for Smart World」を発表しています。このたび、新たに2022年度版を公開しましたので、本稿では、その概要と更新のポイントについて紹介します。
兼清 知之(かねきよ ともゆき)/白井 大介(しらい だいすけ)
井上 鈴代(いのうえ すずよ)
NTT研究企画部門
持続可能な社会を創り、世界を“再生”させるためのイノベーション
これまでの技術革新は、多くの歪みも生み出してきました。持続可能な社会の実現には、人間中心の世界観から脱して、「環世界」をとらえられる、より膨大な量の情報を扱うための新たな情報処理基盤が求められます。わたしたちは光技術の拡張に可能性を見出し、2019年より「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)」と名づけた構想の実現へ歩みを進めています。このIOWN構想は、現在さまざまな領域のイノベーションへと発展しながら着実に2030年の実装へと進み出ています。本稿では、IOWN構想の実装へ向かってさらに進んでいくために必要とされる基盤テクノロジー、および国内外の多くの企業と連携してフィールドでの技術実証を行うIOWN導入への取り組みについて紹介します。これらのIOWNの取り組みにより、わたしたちは世界を「再生」するためのイノベーションを実現していきます。
IOWN構想実現に向けた光電融合技術、2つの社会インフラ、5つの価値
IOWN構想の実現は、光と電気を一体に集積してより効率的な動作を可能とさせる「光電融合技術」、それにより構築可能となる「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」「ディスアグリゲーテッド・コンピューティング」の2つの社会インフラによって支えられています。これらの技術や新たなインフラにより、IOWNは「次世代データハブ」「4Dデジタル基盤®」「セキュア光トランスポートネットワーク」「5G evolution / 6G 無線技術」「宇宙統合コンピューティング」という5つの価値を創出しています。NTT Technology Report for Smart World 2022では、これらの光電融合技術、2つの社会インフラ、5つの価値についてそれぞれ解説します。
光電融合技術
IOWNは、長距離間だけではなくデータセンタに設置されているサーバ間、さらにコンピュータをネットワークと接続するボード内、ボードに搭載されたチップ間、さらには半導体内部と、よりミクロな領域へ光による情報伝送を導入することで、超大容量・超高速・低消費電力の通信基盤を実現していきます。より短距離の通信に光技術を導入するためには、光を操るデバイスの圧倒的な小型化や経済化、性能向上が求められます。そこでわたしたちは光と電気を一体に集積し、より効率的な動作を可能とさせる「光電融合技術」の確立に取り組んでいます。IOWNの究極の理想形を実現し、革新的な情報通信のプラットフォームを提示すべく、光電融合技術の5つの世代を設定したロードマップを策定し、パートナー企業との共創を通じて研究・開発を進めています。
2つの社会インフラ
■オールフォトニクス・ネットワーク(APN)
わたしたちはAPNを「DX/デジタル流通時代のさまざまなICT基盤のインフラ・オブ・インフラ」とすべく開発に取り組んでいます。このために、APNは通信ビルだけでなくユーザ施設やデータセンタ間をエンド・ツー・エンドで広帯域な光ネットワークや無線アクセスでつなぎ、誰でも超高速の光伝送や無線伝送を利用できる共用ネットワークの構築をめざしています。また基盤技術の開発はもちろんのこと、近年はAPNの実現に向けてさまざまな技術の実証が進んでいます。例として、2021年度には「ゲーミングUXを変革するL1通信パス遅延調整技術」「非圧縮8K120p対応超低遅延映像伝送技術」「次世代の高安全な暗号技術を適用した光トランスポートネットワーク技術」といった技術の実証に取り組みました。
■ディスアグリゲーテッド・コンピューティング
APNを最大限効果的に活用するためには、これまで専用装置で実現されていたルータや携帯基地局等の機能を、高いコンピューティング能力を有するハードウェアとソフトウェアで実現する必要があります。そこでわたしたちが生み出したのが「ディスアグリゲーテッド・コンピューティング」という概念です。コンピューティングの領域では、これまで箱に閉じられたコンピュータをネットワークでつなぐことが前提とされていましたが、ディスアグリゲーテッド・コンピューティングは、CPUやメモリを直接光で接続することで、ラックやデータセンタを1つのコンピュータとして扱うことを可能にします。光の持つ高速性・低消費電力性・低損失性を最大限引き出す物理構成(ハードウェアアーキテクチャ)と論理構成(ソフトウェアアーキテクチャ)、制御方式という3つの観点から変革を起こし、これまでのコンピューティングを遥かに上回る性能を実現していきます。
5つの価値
■次世代データハブ
IoT(Internet of Things)デバイスの普及や通信ネットワークの発展により、世界中で流通するデータの量は増加の一途を辿っており、AI(人工知能)の発展などに伴い今後あらゆる領域でデータの利活用は進んでいきます。一方、従来のストレージやネットワークの圧迫や、データの二次流通や目的外利用を防止する技術的仕組みが確立されておらず、自由なデータ流通が阻害されていることが課題となっています。これらの課題の解決に向け、わたしたちは次世代データハブの研究開発に取り組んでいます。「仮想データレイク」「データブローカー」「データサンドボックス」という3つの技術から構成されている次世代データハブにより、社会のデータ利活用を加速させていきます。
■4Dデジタル基盤®
4Dデジタル基盤®とは、「人・モノ・コト」のさまざまなセンシングデータをリアルタイムに収集し、緯度・経度・高度・時刻という四次元の情報を高い精度で一致・統合させ、多様な産業基盤とのデータ融合や未来予測を可能とする基盤です。わたしたちは既存の地図データにMMS(Mobile Mapping System)など高度な3D空間情報を統合するとともに、都市部での測位・時刻同期精度を高めるスマート・サテライト・セレクション®などを活用し位置・時刻が高精度なセンシングデータを収集し、そこにAIをかけ合わせることで高度な未来予測を実現します。4Dデジタル基盤®は道路交通の整流化や都市アセットの最適化、社会インフラ保全、地球環境の精緻な理解など、さまざまな価値を提供していきます。
■セキュア光トランスポートネットワーク
わたしたちは極めて高度な計算が可能となる量子計算機に対して安全なネットワークの実現をめざし、セキュア光トランスポートネットワークの研究・開発に取り組んでいます。実現の鍵を握るのは、量子技術の活用とアーキテクチャ設計における新たな攻撃者への対策です。量子技術の活用として、「量子鍵配送(QKD)」と「耐量子計算機暗号による鍵配送(PQCまたはPQKD)」という2種類の鍵暗号・鍵配送の開発に取り組んでいます。アーキテクチャ設計における新たな攻撃者への対策は、より低レイヤで暗号化の機能を実装することで、IOWN/APNの低遅延性を阻害することなくセキュリティを付加できることが期待されます。
■5G evolution / 6G 無線技術
わたしたちは2030年までの6G実現に向け、「超高速・大容量通信」「超カバレッジ拡張」「超多接続&センシング」「超低消費電力・低コスト化」「超低遅延」「超高信頼通信」の6つの条件を満たさなければいけないと考えています。他方で、利用エリアの拡大やニーズの複雑化により1人ひとりの状況に合わせたネットワークの提供としてマルチ無線プロアクティブ制御技術「Cradio®」の開発を進めています。2030年までの実用化をめざし現在は農機の圃場間自動走行と遠隔監視制御など実証実験を重ねており、よりナチュラルな通信環境の実現が近づいています。
■宇宙統合コンピューティング・ネットワーク
わたしたちが現在構想を進めている宇宙統合コンピューティング・ネットワークは、地球環境の影響を受けず、宇宙で独立して脱炭素かつ自立可能な宇宙インフラをつくるものです。宇宙センシングと宇宙データセンタ、宇宙RAN(Radio Access Network)という3つの機能を通じ、地上から高高度の成層圏に浮かぶHAPSや宇宙空間の低軌道・静止軌道に浮かぶ衛星まで複数の軌道を統合するとともに、地上と光無線通信ネットワークで結びながら全く新たなICT基盤を整備していきます。
世界に広がるIOWNのネットワーク
幅広い研究・技術分野の専門家やグローバルビジネスパートナーとの連携を進めていくべく、IOWN構想に賛同するソニーとインテルとともにIOWN Global Forum(IOWN GF)を2020年1月に立ち上げました。2020年3月からメンバを募集し、2022年3月時点で93社の組織・団体がIOWN GFへと参加しています。従来の国際団体とは異なり高頻度で議論を重ねることで、2020年4月にはホワイトペーパーを、2021年にはユースケース中間レポート(2月と6月)、Technology Outlookレポート(4月)、ユースケースRelease1(10月)を公開し、12月にはIOWNの技術開発ロードマップに則り、6つのリファレンス文書を公開しました。2022年からはIOWN GFメンバとともに、発行された文書に基づくPoC(Proof of Concept)や技術検討に取り組んでいきます。
おわりに
NTT研究企画部門では今後もテクノロジーの動向とNTT R&Dの取り組みについて発表していきます。今回発表した資料はNTT持株会社HP(1)よりダウンロードしていただくことが可能ですので是非ご覧ください。
(左から)兼清 知之/白井 大介/井上 鈴代
問い合わせ先
NTT研究企画部門
R&Dビジョン担当
E-mail technology_report-ml@ntt.com
テクノロジーとNTT R&Dの動向をまとめた「Technology Report for Smart World 2022」のオンラインPDFを発行しています。お客さまとのコミュニケーションへご活用いただければと思います。