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特集

IOWN実用化に向けたトランスポートネットワーク技術

ネットワーク運用の高度化に向けたネットワークコントロールシステム構成技術

従来よりも遥かに大容量かつ低遅延なトラフィックを扱うオールフォトニクス・ネットワーク(APN)上でのサービス提供へ向けて、さらなるネットワークの品質管理・運用の高度化が必要となります。本稿では、NTTネットワークイノベーションセンタにて研究開発を進めている、フロー統計情報やテレメトリ、遅延情報を効率的に収集し運用に活用するネットワーク情報収集基盤、および運用・制御の自動化・高度化に向けたコントロールシステムを構成する技術について解説します。

林 裕平(はやし ゆうへい)/木原 拓(きはら たく)
須藤 篤史(すとう あつし)/武井 勇樹(たけい ゆうき)
渡辺 裕太(わたなべ ゆうた)
NTTネットワークイノベーションセンタ

はじめに

NTTが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を実現する3本の柱の1つとしてネットワークから端末まですべてにおいて光をベースとするオールフォトニクス・ネットワーク(APN)があります(1)。APNは従来のネットワークインフラと比べ、圧倒的な大容量・低遅延を誇るものとなっており、扱うトラフィックも劇的に増加し、求められる通信品質も従来とは一線を画すレベルで高くなります。こうしたネットワーク上で利用ユーザへサービスを提供していくためには、より効率的かつ高い水準での品質管理・運用が求められることとなります。

ネットワーク情報収集分析・制御による運用高度化の取り組み

ネットワーク品質管理・運用の高度化へ向けては、例えば、遅延やトラフィックなどのネットワーク情報を収集・分析し、品質低下の兆候がみられる場合にはユーザトラフィックを品質影響がない経路に退避させるなど、ネットワークの状態を把握したうえで適切な対処(制御)を行う必要が出てきます。特にAPNにおいては、多くのユーザトラフィックに対し、厳格な品質要件を満たすべく管理しなければならず、ネットワーク情報収集の観点では、高い効率性やリアルタイム性が、ネットワーク制御の観点では、きめ細やかな制御が強く求められます。
こうした要件を満たすべく、APNにおけるネットワーク情報の収集分析・制御に寄与する技術として、私たちは図1に示すネットワーク情報収集分析・制御連携技術の研究開発を進めています。
本稿では、ネットワークのフロー統計情報やテレメトリ、遅延情報を効率的に収集・分析して運用に活用するネットワーク情報収集分析基盤技術や、ネットワーク運用・制御の自動化・高度化に向けたネットワーク制御基盤を構成する技術を解説します。

ネットワーク情報収集分析基盤技術

将来的なAPNへの適用を見据え、種々のネットワーク情報を収集可能な技術として図2に示すネットワーク情報収集分析基盤技術の研究開発を進めています。本技術は、基盤の名のとおり、収集および分析に寄与する複数の要素技術を容易に組み合わせて利用することができます。例えば、フロー統計情報、遅延情報に対応する要素技術を搭載し組み合わせることでVPN(Virtual Private Network)サービス監視としての活用や、あるいは、フロー統計のみの分析など一部のみの利用も可能です。さらに、要素技術を追加していくことで、収集対象項目の拡張も容易に実現できます。
将来的には種々の情報収集・分析に対応予定ですが、ここでは現在実用化を進めている遅延情報や導通性、フロー統計情報の収集分析技術に焦点に当て解説します。

■遅延情報・導通性

5G(第5世代移動通信システム)で規定されているサービスの遅延量は多くがミリ秒オーダであり、APNにおいては、より厳しいマイクロ秒オーダの遅延要件が想定されます。そのため、遅延測定において一層高い精度が求められます。また、キャリア網の品質管理を行ううえでは、全国規模を対象とした測定ができる必要もあります。
これらの課題を解消するため、私たちは高精度インライン試験技術を研究開発しています。本試験技術では、SR(Segment Routing)技術を活用し測定用パケットを生成、測定経路を即時導出して生成したパケットを送出することでネットワーク中のあらゆる経路に対し、瞬時に遅延や導通性を測定することが可能です。DPDK(Data Plane Development Kit)を利用することで従来よりもさらに精度の高いマイクロ秒精度(分解能としてはナノ秒精度)も実現します。加えて、一般的な遅延等の測定方法の1つであるプローブ対地測定のように測定用機器をネットワーク内の多数個所に設置することなく、ネットワークの単一個所に接続するだけで全国規模の測定を実現します(図3)。
本試験技術における所望の経路に対する測定が可能という特徴を利用し、例えば、ユーザ通信が不通になっていないかといったVPNのサービス正常性監視などへの活用が可能です。

■フロー統計情報

IOWN APNはもとより、昨今のキャリア網では、帯域要求が異なるユーザ通信を多数重畳しています。そのため、網内でユーザ通信を要求どおり転送できているか確認することは、網運用上ますます重要となっています。
そこで私たちは、転送パケット制御基盤・トラフィック情報可視化技術のコア技術であるFast xFlow Proxy(2)という技術を研究開発してきました。本技術では、ルータからヘッダサンプルやパケットを収集し、プロトコル解析やグルーピング、ヘッダ除去やトラフィック集計を行います。その結果を、フロー統計情報として市中の分析技術の入力とすることで、さまざまなフロー分析が可能となります(図4)。なお、これら処理をFPGA(Field Programmable Gate Array)やDPDKを用いて高速化している点が、本技術の特徴です。具体的には、ハードウェアとソフトウェアでの適材適所な機能配備、ハードウェアからソフトウェアへメタデータを渡す処理連携、スケール性向上のための振り分け機能の具備等により、キャリアレベルの大容量通信の監視を可能としています。
本技術を用いることで、例えばSR-MPLS(Multi-Protocol Label Switching)上でVPNをユーザに提供する網で、ユーザ通信の帯域や実際に経由した経路の監視が可能となります。また、あるユーザ通信のトラフィックの現在・過去の値の比較、ユーザ間トラフィックの比較分析を通じ、通信不可事象が発生した際に原因がユーザ・キャリア網のどちらにあるか切り分ける応用も可能となります。

ネットワーク制御基盤技術

APNの実用化に向けてネットワーク情報収集分析基盤と連携して、ネットワークを効果的に制御するネットワーク制御基盤技術に関する研究開発を行っています。本技術では主に加入者収容を担うネットワーク装置(収容装置)の①仮想化によりリソースを集約管理(リソースプール化)し、全体を俯瞰した収容制御による加入者高収容化、②大規模な障害時の迅速なサービス復旧、③多様なネットワーク装置への制御の容易化の3点に取り組んできました。

■リソースプール化による加入者高収容化

これまで加入者管理システムや装置のリソース管理システムから収容装置まで固定した収容識別情報(装置やインタフェース)を一貫して利用することで、非常に多くのユーザを誤りなく収容していました。一方で、広い地域に展開している加入者を効率的に収容することが困難で、高価な収容装置の利用効率が低水準であることが課題となっていました。ネットワーク制御基盤では各収容装置のリソースをプール化して一元的な管理を行います。加入者管理システム等ではリソースプール内の仮想的な収容識別情報を用いますが、本基盤が効率的に収容できる位置を決定、物理的な収容識別情報への変換を担うことで広範囲のユーザを効率的に収容することを可能としました。

■迅速なサービス復旧

従来のサービス提供においては収容装置が冗長構成をとれなかったり、冗長系の配置に物理的な距離の制約があったりするなどして、ビル罹災などの大規模な障害時にはサービス提供が停止することが課題となるものがありました。本技術ではネットワークの運用情報などから大規模罹災時には引き続きサービス提供が可能なリソースプール内の別リソースへの収容替え制御により迅速なサービス再開を可能としました。

■多様な装置への制御の容易化

機種ごとに収容装置のインタフェースの実装状況やコンフィグレーションが異なることから、これまでは個々の機種への対応が必要であり、マルチベンダでの加入者収容が困難であることが課題となっていました。本技術では各装置への設定を行うコンフィグレーションをプラグインモジュール化することや仮想的な収容識別情報と物理的な収容識別情報の変換ロジックを柔軟化することで多様な装置への制御の容易化を実現しました。

制御対象の拡張・制御技術の高度化

前述のネットワーク制御基盤技術の対象拡張・高度化を目的に、以下の制御技術に取り組んでいます。

■ネットワーク情報・制御連携技術

ネットワーク制御は突発的なネットワーク障害等に対して迅速かつ適切な対処が求められます。そこで、私たちは、ネットワーク情報収集分析基盤と連携し、リアルタイム情報を用いたネットワーク制御の自動化検討を行っています。例えば、品質劣化を抑えるようトラフィックを最適パスに配置する場合、その経路計算時間の短縮に加え、制御対象外の通信への影響も考慮する必要があります。そこで、アプリケーション単位でのネットワーク利用率の最適化に加え、経路変動による通信影響を最小化するロジックを実装しました。このようなトラフィックエンジニアリングだけでなく、特定トラフィックに対する能動的な対処も検討しています。本技術により、運用コストを抜本的に改善する情報収集・分析からネットワーク制御の自動化をめざします。

■ネットワーク間接続制御技術

ネットワーク制御対象の拡張を目的とし、異なるネットワーク間を相互接続する技術にも取り組んでいます。現状のネットワークは固定・モバイル、マス系・ビジネス系と個々に独立しており、ユーザの用途に合わせ、柔軟に組み合わせたネットワーク提供が困難です。異なるネットワークをまたがるリソース情報を管理することで、低遅延経路などの最適なネットワーク間の相互接続点位置を決定します。またユーザごとの閉域性を考慮した接続点制御を行うことで、ネットワーク間相互接続のセキュアかつワンストップ提供をめざします。

■ホワイトボックス制御技術

ホワイトボックススイッチに対応したネットワーク構築自動化やネットワーク試験機能を拡張する技術検討も実施しています。トポロジ情報や払い出し可能なリソース状態の管理により、ユーザごとのVPNの構築を自動化します。さらにネットワーク内の任意個所に情報収集分析基盤のエージェントを配備させる機能により、ネットワーク試験や情報収集の拡張に取り組んでいます。

今後の展望

ネットワーク情報収集分析基盤機能については現在、ルータやスイッチから構成される転送系ネットワークを対象とした遅延・導通性やフロー情報を含めたトラフィック情報の収集分析機能について実用化を進めているところですが、今後に向けては、伝送系ネットワークにおける光遅延情報の収集を通した遅延マネージド伝送システムへの要素技術適用や、同じく伝送系ネットワークから収集した各種PM(Performance Monitoring)情報と転送系ネットワークから収集した情報の関連付けによる光レイヤ・サービスレイヤの統合可視化等の技術確立による運用高度化を考えています。
またネットワーク制御基盤技術においても今後、遅延マネージド伝送システムとの連携など光レイヤの制御技術の拡充を図り、IOWN実現への貢献をめざしています。

■参考文献
(1) https://iowngf.org/wp-content/uploads/formidable/21/IOWN-GF-RD-System_and_Technology_Outlook_1.0-1.pdf
(2) S. Kamamura, Y. Hayashi, Y. Miyoshi, T. Nishioka, C. Morioka, and H. Ohnishi:“Fast xFlow Proxy: Exploring and Visualizing Deep Inside of Carrier Traffic,”IEICE Trans. Commun., Vol. E105.B, No. 5, pp. 512-521, 2022.

(左から)林 裕平/木原 拓/須藤 篤史/武井 勇樹/渡辺 裕太

APNを通したサービス提供へ向け、トランスポートネットワークにおける新たな収集分析・制御技術の確立を達成し、ネットワークのさらなる運用高度化へ貢献していきます。

問い合わせ先

NTTネットワークイノベーションセンタ
光トランスポートシステムプロジェクト
TEL 0422-59-3506
E-mail ntop-manager-p-ml@hco.ntt.co.jp