特集1
固定網関連技術の標準化動向
- 固定網
- 光ファイバ
- 光コネクタ
近年、クラウドコンピューティング、第5世代移動通信、遠隔医療、高精細映像伝送などの多様なサービスの進展と固定網トラフィックの増大に対応するため、国際標準化団体やフォーラム団体により固定伝送網および光部品の仕様拡充や相互接続性確保に向けた標準化活動が行われています。これらのうちITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)、IEC(International Electrotechnical Commission)、BBF(Broadband Forum)、Open ROADMMSA(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer Multi-Source Agreement)におけるNTTの活動の一例を、本稿で紹介します。
浅香 航太(あさか こうた)†1/王 寛(おう ひろし)†1
鬼頭 千尋(きとう ちひろ)†1/胡間 遼(こま りょう)†1
小山 良(こやま りょう)†1/近藤 芳展(こんどう よしひろ)†2
坂本 泰志(さかもと たいじ)†1/曽根 由明(そね よしあき)†3
NTTアクセスサービスシステム研究所†1
NTTアドバンステクノロジ†2
NTT未来ねっと研究所†3
固定網関連技術の国際標準化の概要
ITU(International Telecommunication Union)は国連機関の1つであり、国連加盟国・地域により構成される国際標準化機関です。ITUのうち、情報通信の国際標準化を担当する部門がITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)であり、対象とするスコープごとに11のSG(Study Group)に分かれて活動しています。その中でSG15(Transport、access & home)は通信の基盤となる伝送網に関連する複数の技術領域(課題)を担っています(1)。本稿では、ITU-T SG15における伝送網技術および光部品技術の国際標準化動向についてNTTの活動を含めて紹介するとともに、関連する国際標準化団体IEC(International Electrotechnical Commission)とフォーラム団体BBF(Broadband Forum)およびOpen ROADMMSA(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer Multi-Source Agreement)における活動状況も合わせて紹介します。
伝送網技術の動向
本章では、アクセス網、ホーム網、メトロ網およびコア網に関する標準化動向を概説します。
FTTH(Fiber To The Home)サービスを提供するアクセス網については、ITU-T SG15課題2とIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:米国電気電子学会)において、それぞれ国際標準化が進められています。FTTHでは、通信ビルに配置されたOLT(Optical Line Terminal)と各ユーザ宅に配置されたONU(Optical Network Unit)とを光スプリッタを介して1対多接続するPON(Passive Optical Network)システムが活用されています。国内では、各ONUが異なる時間スロットでOLTと通信するTDMA(Time Division Multiple Access:時分割多重アクセス)-PONにより、最大伝送速度10Gbit/s級のサービスが提供され始めています。IEEEでは802.3caタスクフォースにおいて、上下通信で最大伝送速度25Gbit/s、50Gbit/sの通信サービスを提供可能な25G-EPON(25 Gb/s Ethernet Passive Optical Networks)、および50G-EPON(50 Gb/s Ethernet Passive Optical Networks)が2020年に標準化されました。50G-EPONでは、TDMA方式に加え、波長多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)を前提とし、波長当り25Gbit/sの信号を2波長結合することで伝送速度50Gbit/sを提供する方式が採用されました。
一方、ITU-T SG15課題2では、50Gbit/s級PONシステムとして50G-PON(50 Gigabit-capable Passive Optical Networks)が2021年に標準化されました。50G-PONは、従来と同様に単一波長で伝送速度50Gbit/sを提供する構成を基本としています。加えて、時間スロット、および波長をユーザごとに柔軟に割り当て可能なTWDM(Time and Wavelength Division Multiplexing:時間・波長分割多重)方式を採用した構成の仕様策定を行っています。これらに対しNTTは、DSP(Digital Signal Processing)の適用に伴う信号引き込み時間の拡大を想定したフレーム構成や、TWDM化に伴うコスト分析に関する寄書提案などの貢献をしています。さらに現在は、波長当り50Gbit/sを超える広帯域化を提供するG.VHSP(G.Very High Speed PON)の策定に向け、サービス要件・要素技術をまとめた補足文書の検討が2024年7月の合意をめざし行われています。NTTは引き続き、通信事業者としてサービス・技術要件を提案し、議論をけん引していきます。
ホーム網に関する国際標準化は有線(電話線、電力線、同軸線、光ファイバ)のほか、可視光を使った光無線通信トランシーバの標準化がITU-T SG15 課題3で進められ、スマートメータをはじめとするスマートグリッド応用も含めホームや構内におけるブロードバンドサービス提供を実現する伝送技術やホーム網全般のアーキテクチャに関する標準を作成しています。近年では、スマートグリッド応用として欧州の電力事業者が提案した、電力線通信用の使用帯域が狭い環境における伝送効率を高めるためにサブキャリア間隔を小さくした新規OFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing:直交周波数分割多重方式)パラメータを規定するブロードバンド向け仕様をG.9964として改訂標準化した一方、欧州の別の電力事業者が提案した狭帯域OFDM電力線通信規定をG.9901およびG.9903として標準化し、それぞれ欧州において実運用に供されています。G.vlc(Visual Light Communication:可視光通信)に関しては10Gbit/s超えの伝送速度を可能とする次世代向け光通信の実現に向け、サブキャリア数を増やすことによる帯域拡張方式のほか、Narrow beam OWC(Optical Wireless Communication:挟角光無線通信)トランシーバの標準化に向けユースケースおよびその要件に関する検討を進めています。また、光ファイバを使ったFTTR(Fiber To The Room)に向けた高速屋内トランシーバ規定に関してはシステムアーキテクチャ規定の標準化が完了し、今後は物理層、データリンク層、制御・マネジメント層に関する議論を進める予定です。さらに、アクセス網におけるPON技術との比較検討や相互連携、アクセスネットワークから端末(Wi-Fi等)までの伝送品質を踏まえたOMCI(ONU Management and Control Interface:ONU管理制御インタフェース)プロトコルの拡張や管理運用を対象とするアーキテクチャ全般に関する議論を行っています。
アクセス網の管理制御技術は、BBFにて標準化が進められています。BBFは、ブロードバンドサービスの普及促進、システム管理・制御プロトコル仕様および相互接続仕様策定を推進するグローバルなフォーラム団体です。近年は、SDN(Software Defined Network:ソフトウェア定義ネットワーク)・NFV(Network Function Virtualization:ネットワーク機能仮想化)などの仮想化技術を導入したアクセスシステムの各種仕様策定に加え、管理・制御の自動化に関する仕様策定にも取り組んでいます。本項では、BBFにて仕様化されたアクセス網の管理・制御の自動化を実現するAIM(Automated Intelligent Management:自動化インテリジェント管理)について紹介します。
AIMは、TR(Technical Report:技術報告)-436 “Access & Home Network O&M Automation/Intelligence”として仕様化されました(2)。図1に、AIMのフレームワークを示します。AIMでは、管理制御対象のノードの状態・情報を収集し、その変化に基づき、あらかじめ決められたポリシーに従って適した設定を分析し、管理制御対象を自動制御します。AIMを実現するための主要構成機能は以下のとおりです。
① 収集・分析部:状態・情報の収集およびポリシーに基づく分析を行う
② E2E(エンド・ツー・エンド) AIMオーケストレータ、ドメインAIMオーケストレータ:通信事業者により指定される分析用ポリシーを収集・分析部に設定する
収集・分析部は仮想化リソース上に実装されます。また、分析結果(新たな設定)はSDNコントローラを介して管理制御対象に投入されます。本技術により、例えばアクセスノードの故障を検知し、迂回経路の設定を行う等の管理制御の自動化の実現が期待できます。TR-436ではAIMのためのアーキテクチャおよび機能要件が定められています。現在BBFでは、AIMのためのインタフェース要件およびAIMの拡張に向けた検討を進めています。NTTは、AIMの拡張として光アクセス網や無線アクセス網等の異なるドメインをまたいだリアルタイムでの自動管理制御技術の提案活動に取り組んでいます。
メトロ網、コア網の光波長多重伝送に関しては、Open ROADMMSAにて、オープンでフレキシブルなROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)網の実現をめざした、相互接続仕様の規定が進められています。Open ROADMMSAは2016年に発足し、2023年10月時点で15社の通信事業者メンバと、16社のOEM(Optical Equipment Manufacturer)メンバの計31社がメンバとして活動に参画しています。規定する相互接続仕様は、光伝送インタフェース(物理レイヤ)の規定と、コントローラ向けのAPI(Application Programming Interface)との2つの領域があります。Open ROADMMSAのターゲットは、オープンな標準インタフェースを規定することにより、従来の通信事業者網で課題となっていた垂直統合型のシステムによる特定ベンダへのロックインを回避し、オープンで柔軟なネットワークを実現することです。
Open ROADM MSAで想定されるROADMの網構成および、インタフェース定義を図2に示します。Open ROADMの規定する仕様には、物理レイヤの光インタフェース仕様と、コントローラと装置の間のAPIインタフェースがあります。コントローラのAPIはYANGモデルを使いモデルドリブンで規定されています。光インタフェース仕様は、Open ROADMのWebサイト(3)からスプレッドシート形式のドキュメントとして、またAPIインタフェースに関しては、Open ROADMのOpen Git Hub(4)からYANGモデルの最新版を入手することができます。また、MSA仕様を開設するホワイトペーパもWebサイトから入手可能です。
Open ROADMの物理レイヤではROADM、X-ponder(Transponder、Muxponder、Switch-ponder)、ILA(In-Line Amplifier)といった機能ブロックが想定されていて、その間に相互接続インタフェースを規定しています。ROADM、およびILA間を接続する光波長多重伝送信号の接続は、MW(Multi-Wavelength)インタフェースとして規定されます。また、X-ponderからROADMのAdd/Dropに接続される単一波長の光インタフェースはW(Wavelength)インタフェースと呼ばれます。表1に現時点で公開されているW仕様(Optical specification ver. 5.1)を示します。標準化された軟判定FEC(Forward Error Correction)であるoFEC*1を複数の変調方式に適用し、メトロ光波長多重伝送においてマルチレートを実現する光仕様が実現されています。Open ROADMMSAの開催した公開パネル討論によると、次世代のBeyond 400G仕様の議論を活発に行っていることが報告されています。
Open ROADMMSAではコントローラ制御用APIのモデルとしてサービスモデル、ネットワークモデル、デバイスモデルの3つが定義されています。サービスモデルは上位オペレーションシステムからのサービスリクエストに対応するためのモデルが規定されています。ネットワークモデルは、物理レイヤの設備情報を抽象化してトポロジー情報として管理するためのモデルが規定されています。これにより上位に影響を与えずデバイスを入れ替えることが可能となっています。デバイスモデルはデバイスパラメータを管理するテンプレートになっています。これによりデバイスのPlug-and-playの機能の実現に寄与しています。YANGモデル*2はVer. 7.1で商用網での400Gbit/sシステムの運用をカバーできるモデルが実現されています。その後も機能拡張が続けられ2023年8月時点での最新のリリースはVer. 13.1です。
IOWN Global Forum(IOWN GF)のAPN (All Photonics Networks)検討ではOpen ROADMMSA仕様が候補として挙がっています。これと合わせ、APNの要求の実現のために、Open ROADMに拡張すべき機能が明確化されています。NTTは他のIOWN GFメンバとも連携し、APN折り返し機能、リモートトランスポンダ監視機能の拡張の議論を進めています。折り返し機能のデバイスモデルは、2023年3月にRelease 13.0の一部として発行されました。NTTは、IOWN GFとOpen ROADMMSA仕様の円滑な連携を実現する標準化を今後も進めていく予定です。
また、Open ROADMMSAだけでなく、ITU-T SG15の複数課題において、メトロおよびコア網に関する光波長多重伝送、時分割多重伝送、パケット伝送、同期信号伝送等の技術について国際標準化が行われています(1)。
* 1 oFEC:Open ROADM MSAにより標準化された軟判定誤り訂正方式。
* 2 YANGモデル:ネットワーク設定と状態のモデリング言語であり、Netconf 等の装置制御プロトコルで利用されます。
光部品技術の動向
本章では、光ファイバ・ケーブル、光海底ケーブルシステム、および屋外光設備の保守運用に関する標準化動向を概説します。
光ファイバ・ケーブルに関する標準は、主としてITU-T SG15にて制定されるITU-T勧告とIEC SC86A(Subcommittee 86A; Fibres and cables)にて制定されるIEC標準があります。ITU-T勧告は、通信事業者にとっての相互接続性とサービス品質の担保に寄与し、IEC標準はネットワークを構成する製品規格のデジュール標準として広く認知されています。近年のトピックとして、2022年9月、光ファイバに関するITU-T勧告を所掌するSG15 課題5にて、SDM(Space Division Multiplexing:空間分割多重)光ファイバ・ケーブルの技術レポートが合意されました(5)。本技術レポートは、図3に示すSDM光ファイバについて、技術の成熟度と課題を網羅的に記述したドキュメントです。本技術レポートは、将来におけるSDM光ファイバの国際標準化および実用展開のロードマップとなることが期待されており、ITU-NewsやFlyerを通じて広く周知されています。
光ケーブル技術では、図4(a)に示す複数光ファイバを整列・固定した従来のテープ心線から、図4(b)の部分的に接着固定し、曲げ方向への柔軟性を高めた間欠接着テープ心線への移行が進んでいます。間欠接着テープ心線はNTTが提案・実用化した技術で(6)、2017年発行のIEC標準(IEC 60794-1-31 Optical fibre cables - Part 1-31: Generic specification - Optical cable elements - Optical fibre ribbon)にも採用されています。間欠接着テープ心線を用いることで、光ケーブル構造を簡素化しメタル心線と同じような高密度ケーブル実装が可能となります(7)。
一方、海底ケーブルでは大陸間横断通信システムの容量需要の拡大に伴ってケーブル内光ファイバ心線数の拡大が望まれており、海底長距離通信用SMF(Single Mode Fiber:シングルモード光ファイバ)の被覆径を従来の245μmから200μmに縮小した細径被覆SMF(クラッド径は従来と同様に125μmを維持)の適用がさかんに検討されています。IECでは細径被覆SMFの実用展開をサポートするため、IEC標準(IEC 60793-2-50: Optical fibres - Part 2-50: Product specifications - Sectional specification for class B single-mode fibres)の改訂作業を進めており、改訂文書は2024年度に発行される予定となっています。今後、光ファイバ・ケーブル技術では、間欠接着テープ心線、MCF(Multi Core Fiber:マルチコア光ファイバ)、並びに細径被覆などの技術を活用した、空間分割多重による高密度化および大容量化の検討が進展していくと期待されます。
光海底ケーブルシステムを海洋モニタ・地震検知等の光センシングに活用することをめざし、世界気象機関やUNESCO(United Nations Educational、Scientific and Cultural Organization:国際連合教育科学文化機関)とのジョイントタスクフォースにて検討が進められています(8)。その実現に向け、ITU-T SG15課題8ではセンシング専用海底ケーブルシステムと通信・センシング併用海底ケーブルシステムの2つの新規ITU勧告化作業を進めており、2024年に制定される見通しです。これらのセンシングシステムでは、温度、圧力、および加速度などを計測し、地震や津波の検出、ならびに気候変動などに関する情報収集が期待されています。
屋外光設備の保守・点検は、これまで、各通信事業者独自の運用スキームに委ねられていました。しかし、光通信の普及に伴い社会インフラとしての重要性が増すとともに、屋外光設備の持続的・効率的な運用に対する関心が高まっています。ITU-T SG15 課題7では、NTT提案に基づき屋外設備の点検に関する国際標準を体系的に整備することに合意しました。2020年には、基本的な点検業務の要件とフローのほか、点検対象とすべき17の屋外光設備を定義した、勧告L.330(屋外光設備マネジメント)が制定されました。本勧告では、各設屋外光備種別に対して目安となる点検周期、確認項目、および精密点検時に要求される劣化事象の測定精度を網羅的に示しています。2023年には、地下設備を対象とする具体的な点検手段、関連技術、および作業安全にかかわる事項を記載した勧告L.340の改訂作業が完了しています。引き続き、架空設備や橋梁添架管路などを対象に、保守関連勧告群の新規制定と既存勧告の改訂作業が順次進められていく予定です。
また、C-RAN(Centralized Radio Access Network:集中型無線アクセスネットワーク)等、FTTH以外のネットワークサービスを含めて収容する配線トポロジーに対する要件定義に向け、ITU-T SG15 課題7においてL.250(光アクセスネットワークトポロジー)改訂作業が進められています。多様なネットワークサービス要件にこたえるためには高信頼なアクセストポロジーが不可欠であるとの考えの下、サービス収容エリア隅々まで信頼性の高い冗長経路を確保する有効な手段として、多段ループ型光アクセス網トポロジー(9)が本文に反映される見通しです。
光コネクタは光伝送網において光ケーブルどうしを接続する用途に加え、光通信装置や光測定器、光通信サービスのインタフェースとして利用されるなど、多様な用途で使われています。数多くの製造者で生産された光コネクタが誰でも簡単に着脱できなければいけないため、国際標準化による光コネクタの互換性の保証が非常に重要です。光コネクタの国際標準化は主にIEC SC86B(Subcommittee 86B; Fibre optic interconnecting devices and passive components)で行われます。2023年8月時点でSC86Bは187あるIECの委員会の中で最多の発行文書数、第5位の作業中文書数であり、近年の光通信の広がりを受けて光コネクタの標準化は極めて活発に行われています。NTTは世界に先駆けて光ネットワークを商用化するにあたり、必要な光コネクタを数多く開発、標準化してきました。その中で1986年、1991年に開発したSC(Single-fiber Coupling)コネクタ、MPO(Multi-fiber Push-On)コネクタは取扱性と互換性に優れ、それぞれ単心コネクタ、多心コネクタとして現在も世界でもっとも普及し、2021年には社会の発展に多大な貢献をした歴史的偉業を表彰するIEEE Milestoneを受賞しました。
ここでは、図5に示したSCコネクタ、MPOコネクタの構造を基に光コネクタ標準化の要点を解説します。光通信システムでは光コネクタで許容される光損失と反射減衰量*3が決められており、一般に光損失は0.5dB以下、反射減衰量は40dB以上が求められます。光コネクタの損失は主にコアの軸ずれに依存し、0.5dB以下とするためにはコア軸ずれ量は0.75μm以下でなければいけません。これは外力による部品の弾性変形が許されない精度です。そこで、図5(b)、(d)に示すとおり、光コネクタは光ファイバを接続するフェルールと呼ばれる極めて高精度な部品のかん合と、光コネクタを安定的に接続するための部品であるハウジングのかん合の二重かん合構造となっています。コネクタ接続中、フェルールはプラグハウジングに内蔵されたバネで互いに押し付けられ、かん合状態が維持されます。かん合したプラグハウジングとアダプタハウジングはフェルールかん合部を外力から守り、フェルールの弾性変形による損失変化を防ぎます。一方、光コネクタの反射減衰量はコネクタ接続点でのフレネル反射*4に大きく依存します。ガラスと空気の境界面では大きなフレネル反射が生じるため、反射減衰量40dB以上を達成するためにはコアどうしを密着させてコア間に空気が存在しない接続状態(Physical Contact:PC接続)とする必要があります。PC接続を実現するために、研磨加工によりフェルールの接続端面を球面状にし、コアどうしが接触しやすい構造としています。以上のコネクタ構造において接続互換性を保証するためには、表2に示すとおり、①フェルール寸法、②ハウジング寸法とバネ力、③光コネクタ製品の性能、④以上の3項目で規定を満たすことを確認するための試験法の4つを規定する必要があります。すでに述べたとおり、フェルールは光ファイバコアの軸調心に使う部品であり、①フェルール寸法は同じ種別のフェルールであっても光ファイバ種別ごとに規定が必要です。一方、②ハウジングはコネクタ種別ごとの規定、③コネクタ性能は用途ごとでの規定となります。こういった技術背景を踏まえ、IECでは①接続する光ファイバ種別、②コネクタ種別、③用途に応じた3つの文書を組み合わせて1つの光コネクタ製品が規定される体系となっています。それぞれ、①光学互換標準(IEC 61755、623267シリーズ)、②かん合標準(IEC 61754シリーズ)、③性能標準(IEC 61753シリーズ)、④試験法(IEC 61300シリーズ)という文書で規定しています。
最後に、最近の標準化動向について紹介します。近年、SMFを超える大容量伝送が可能なSDM光ファイバの研究開発がさかんに行われており、その中でNTTではMCFの実用化を見据えてMCFコネクタに関する標準化作業に着手しています。光コネクタの試験法(IEC 61300シリーズ)では文書改訂を契機にMCFコネクタ試験の追加を進めています。第一弾として今年改訂された損失測定法(IEC 61300-3-4:2023)にMCFコネクタの測定法が追加されました。また、実用化にもっとも近い125μmクラッド外径4コアMCFについては単心コネクタの標準化を開始しました。図6に4コアMCFの概要を示します。すでに述べたとおり、①フェルール寸法のみが光ファイバ種別ごとに規定が必要ですが、4コアMCFは光ファイバ自体がまだ標準化されていないため、フェルール寸法のうちコア軸ずれ量を規定することがまだできません。一方、PC接続を実現するための球面形状の条件はすでに報告されており(10)、この報告に基づいて端面形状のみを規定した公開仕様書を今年中に発行予定です。図6に示すとおり、4コアMCFではより広い光ファイバ端面が密着する必要があり、端面形状の条件はより厳しくなります。その結果、フェルール端面の研磨加工を変えなければいけない可能性があります。そこで、フェルール端面形状の規定を公開し、今後の4コアMCFコネクタの早期実用化を推進したいというねらいがあります。
*3 反射減衰量:反射光の弱さを表す指標。
* 4 フレネル反射:媒質の屈折率変化に起因して伝搬光の一部が反射する現象。
今後の展望
今後、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)のようにさまざまなサービスを収容する大容量の基盤として固定伝送網および光部品の役割がますます重要になってきています。そのため、国際標準化団体やフォーラム団体における国際標準化による仕様拡充や、仕様共通化による開発期間の短縮や相互接続性の確保が期待されます。今後もNTTは多様なサービス要件に対応する固定伝送網分野の国際標準化に向けて積極的に活動していきます。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/17779
(2) https://www.broadband-forum.org/pdfs/tr-436-1-0-0.pdf
(3) http://openroadm.org/
(4) https://github.com/OpenROADM
(5) https://www.itu.int/dms_pub/itu-t/opb/tut/T-TUT-HOME-2022-1-PDF-E.pdf
(6) https://group.ntt/jp/newsrelease/pdf/news2012/1207/120704a.pdf
(7) https://journal.ntt.co.jp/backnumber2/1212/files/jn201212048.pdf
(8) https://www.itu.int/en/ITU-T/climatechange/task-force-sc/Pages/default.aspx
(9) https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/06/18/210618a.html
(10) 松田・今泉・長瀬:“標準外径マルチコアファイバフェルール端面の微小変形解析,” エレクトロニクス実装学会誌, Vol.24, No.1, pp. 148-153, 2021.
(上段左から)胡間 遼/鬼頭 千尋/王 寛/坂本 泰志
(下段左から)曽根 由明/近藤 芳展/小山 良/浅香 航太
問い合わせ先
NTT研究企画部門
標準化推進室
E-mail std-office-ml@ntt.com
対面での会合審議の効率の良さや重要性を再認識する日々です。より高速で柔軟な固定網の早期普及に向けて、タイムリーな国際標準化活動により固定網の進化に貢献していきます。今後の展開にご期待ください。