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特集1

国際標準化動向特集

国際標準化動向特集発行にあたって

本稿では特集記事の導入として、国際標準化について、その歴史的な背景や経済的な利益について、また昨今の国際標準化を取り巻く動向やNTTグループの取り組みの全体概要について紹介します。2023年1月より尾上誠蔵氏が、ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)のトップ〔TSB(Telecommunication Standardization Bureau)局長〕に就任され、G7デジタル・技術大臣会合の閣僚宣言においても国際標準化の協力体制がうたわれるなど、国際標準化にかかわる気運がこれまでにないレベルで高まっており、この機会に最新動向やNTTグループの取り組みについて紹介します。

山本 浩司(やまもと ひろし)/長尾 慈郎(ながお じろう)
小鯛 航太(こだい こうた)
NTT研究企画部門

国際標準化の必要性とその意義

■国際標準化の必要性

情報通信分野のサービスが成り立つためには構成機器が相互に接続され、設計されたとおりに動作することが大前提であり、端末とネットワークやネットワーク事業者間のインタフェースの取り決めが不可欠です。情報通信は非常に広い技術分野から構成されるため、ある特定の1社がすべての技術や機器を提供することは実質的には不可能であり、物理インタフェースや信号変換プロトコルなどの標準化が不可欠となっています。情報通信分野においては、当初は国をまたいで電信電話サービスを提供することを目的に国際標準化が進められ、標準化トピックの中心はインタフェース規定や電気通信番号、料金精算などでした。しかし現在では、環境・気候変動対策やマルチメディア、セキュリティなど、その検討スコープは多岐にわたっています。参考情報として電気通信分野の国際標準化を所掌する国連機関であるITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector:国際電気通信連合 電気通信標準化部門)の課題構成を表1で紹介します。
情報通信サービスが高度・複雑になるにつれ、国際標準化の必要性は高まってきた歴史があります。NTTグループが実現をめざすIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の普及展開において、今後ますます国際標準化の重要性が高まっていくと考えられます。

■国際標準化がもたらす経済的恩恵

国際標準化によって相互接続性が高まることが最初に連想されますが、(1)装置インタフェースが規定されることで装置提供者間の競争が拡大し品質向上と価格低減が期待できる、(2)標準化された技術が多くの製品に搭載されることで技術開発がもたらす収益の期待値や研究開発の効率性が高まる、(3)標準化が品質と安全の基準を定め公正な競争環境の確立に寄与する等、このほかにもさまざまな恩恵が期待されます。
国際標準化がもたらす経済的恩恵を具体的な数字で示すのは困難ですが、諸外国での試算例を紹介します(表2)。
上記は諸外国においてなされた分析の一例でありますが、国際標準化を通じて巨額の経済的利益が創出されていることが伝わるのではないかと思います。

■WTO協定

自由で公平な貿易を維持するという観点からWTO(世界貿易機構:World Trade Organization)は加盟国に対し、各国の規制などで用いられる強制規格や任意規格、適合性評価手続きを国際標準に整合させるよう義務化する「TBT協定(Agreement on Technical Barriers to Trade)」を1995年に発効させました(1)。また、WTO協定ではITU等のデジュール標準を念頭に、政府およびその関連機関が調達する物品の性能に関する技術仕様については、すでにそれが存在する場合、国際標準に基づいていなければならないことを規定した「政府調達協定(Agreement on Government Procurement)」についても定められています。
さらに、政府調達協定が適用されるのは、中央政府や地方政府機関だけでなく、その関連機関も対象となっており、NTT持株会社、NTT東日本、NTT西日本は同協定の附属書に対象としてリスト掲載されています。このため、仮に前記の3社が国際標準に準拠しない通信機器等の調達を行った際には、WTO協定違反として指摘されるリスクがあります。NTTグループの事例ではありませんが、JR東日本が当時はデジュール国際標準となっていなかったFelica方式の電子マネーの採用を発表した際に上記協定違反として当該対応委員会に提訴されたなどの事例もあります(2)
国際標準化は経済的な恩恵をもたらす一方で、これが原因でWTO協定違反となるリスクもはらんでおり、これまで以上に重要な取り組みになってくるものと思われます。

国際標準化を取り巻く動向

■国際標準化機関・団体

国際標準化機関・団体には、その成り立ちや標準制定プロセス、標準の位置付けの観点で以下の3つのカテゴリーに分類されます。
① デジュール:公的で明文化された手続きによって作成された標準で、その効力は全世界に及びます。WTOの協定によれば、ITU、IEC、ISOの3つの機関のみがこのカテゴリーに属します。
② フォーラム:特定分野に関心のある企業等が集まってフォーラムを結成して作成した標準で、その効力はフォーラムの加盟メンバーに閉じた範囲であるものの、参加者が限られていることからより早く適切な粒度の標準を制定することができます。代表的な例として、3GPP(Third Generation Partnership Project)やIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)などがあります。
③ 地域・国内標準:特定の地域内や、各国内のみで適用される標準が制定されます。またITUなどのデジュール団体に対して各地域としての政策提案の連携の場としても活用されています。代表的な例として、ETSI(欧州電気通信標準化機構)、APT(アジア・太平洋電気通信共同体)や国内標準団体としては情報通信技術委員会(TTC)、電波産業会(ARIB)があります。
上記3つのカテゴリーの標準化機関・団体にはそれぞれ一長一短の特色があり、3つのカテゴリーの活動のバランスを取りつつ、必要に応じて連携していくことが重要となります。一例を紹介しますと、比較的検討スピードが速いフォーラムにおいてフォーラム標準を制定、それをデジュールに提案し公的標準化を進めるなどのプロセスがよく知られており、この実現には各団体の状況を的確に把握したうえで、連携に向けたチャネルを構築・維持することが極めて重要となります。

■G7デジタル・技術大臣会合の閣僚宣言

2023年4月に群馬県高崎市で開催されたG7デジタル・技術大臣会合において、安全で強靭なデジタルインフラに関する議論が行われ、その成果文書の中で国際標準化に関する提言が行われました(3)。下記にその一部を紹介します。
・付属書2:現在のデジタルインフラの安全性と強靭性を向上させるこれらの取組に加えて、我々は、Beyond 5G/6G時代の次世代ネットワークのビジョンを共有することの重要性に留意し、Beyond 5G/6G時代の将来のネットワークに関するG7ビジョンを承認する。我々は、2030年代以降のデジタルインフラの構築に向けて、研究開発及び国際標準化に関する協力を強化することを約束する。
・付属書3:我々は、安全で強靭性のあるデジタルインフラを構築するための上記の取組をまとめた安全で強靭なデジタルインフラの構築に向けたG7アクションプランを承認する。発展途上国における安全で強靭なデジタルインフラを支援するために、我々は世界銀行やITUなどの国際機関や開発機関と協力することを目指す。
G7閣僚級会合においても国際標準化の重要性と今後の協力方針が示されるなど、大臣クラスが集まる場においても国際標準化、特にデジュール標準の重要性が改めて認識されつつあることがうかがえます。

■NTTグループの取り組み

図にNTTグループが主に参画・関連している標準化団体を上記のデジュール、フォーラム、地域・国内標準のカテゴリーで分類整理しました。
デジュールにおいては特にITUにおいて、固定網、無線網、環境・運用、アプリケーション・サービスで幅広く活動が行われています。
地域標準化団体においては世界最大の地域団体であるAPT(Asia-Pacific Telecommunity)を活用し、アジア太平洋地域の提案をとりまとめITUへ提案を行うなどの活動を進めています。また日本国内においては、TTCやARIBなどの国内標準化団体においてITU標準の国内標準化(ダウンストリーム)などの活動が進められています。
フォーラム団体においては、NTTが設立メンバーの1社として加わったIOWN Global Forumや、モバイル系の技術標準を議論する3GPPにおいて特に活発に活動が進められています。
今後、IOWNや6Gの世界の実現に向けて、各機関や団体内の活動を充実させつつ、団体間の連携に向けたNTTグループ横通しの標準化活動の強化を図っていく予定です。

特集号発行にあたって

2023年1月よりNTTドコモでCTOを務められ、持株会社においてもCSSOも務められた尾上誠蔵氏が、ITU-T のトップ〔TSB(Telecommunication Standardization Bureau:電気通信標準化局)局長〕に就任され、G7デジタル・技術大臣会合の閣僚宣言においても国際標準化の協力体制がうたわれるなど、国際標準化にかかわる気運がこれまでにないレベルで高まっており、NTTグループのさらなる国際競争力強化に資するため、NTTでは標準化推進室の組織強化とグループ横通しの連携体制の強化を進めています。
本特集記事では、NTTグループの国際標準化の全体像とその最新状況を広く知っていただくために、記事2において固定網関連技術(4)、記事3では無線網関連技術(5)、記事4では環境・運用等に関連する技術(6)、記事5ではアプリケーション・サービスに関連する技術の国際標準化動向(7)について国際標準化の最前線で活動されている方々に執筆いただきました。読者の皆様の国際標準化に関するご興味とご理解を深めることに少しでも貢献できれば幸いです。

世界に真価をもたらす国際標準化をめざす

尾上 誠蔵
国際電気通信連合(ITU)電気通信標準化局(TSB)局長

2023年1月にITU TSB局長に就任してから、早くも8カ月が経とうとしています。選挙中の日本政府やNTTグループを含む皆様のご支援に深く感謝申し上げます。
ICTの標準化は多くの標準化団体が存在し、それぞれの強みを活かして連携することがますます重要になっています。ITUは発展途上国を含む世界中にリーチすることが最大の特徴であり、その役割を果たしていきたいと考えています。
ITUの戦略的目標:1. Universal Meaningful Connectivity, 2. Sustainable Digital Transformationに対して、ITU-Tとして標準化を通じて貢献していきます。
標準化は、その技術標準が広く普及して初めて本当の価値が生まれます。世界への技術標準の普及で市場は拡大し、競争原理も働き、コスト・価格が低下し、さらに普及が進む好循環で、手ごろな価格のサービス提供の実現に近づきます。技術標準を実装し展開する産業界の役割も大きく、NTTおよび民間企業の皆様には、今後もITUを活用した実装可能な標準の開発に加え、技術標準の普及を通じて、企業の発展とともに世界中の人々の生活や社会にも価値をもたらすITUの活動をご支援いただければ幸いです。

TTCの取り組みと標準化活動への貢献

岩田 秀行
一般社団法人情報通信技術委員会(TTC) 代表理事専務理事

情報通信の国際的なルール形成の場は、取り扱う課題やテーマの広がりによって、 ITU等の標準化団体に加え、フォーラムやコンソーシアムといった業界団体や、オープンソースコミュニティ等、多様化の流れが加速しています。
このような状況において国内標準化団体である一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)が、国内議論の場としての役割を果たすために、従来のITU-Tに対応した専門委員会の活動に加えて、分野・業界横断的な活動を支援する「業際イノベーションワーキングパーティ(WP)」の取り組みを強化しています。WPでは、複数の企業や団体が連携して、新たな取り組みに対しての議論、検討、調査、開発、実証等を行う環境を用意しています。
また、国内外の標準化団体との連携のほか、関連する産業として自動車、医療、農業等さまざまな業界、団体とさまざまな方法で連携も進めています。社会課題解決に向けた取り組みとしては、東南アジアでのICTの利活用と標準化の推進・普及活動に、各国政府機関等との信頼関係を築きつつ10年以上継続して取り組んでいます。
最後に、TTCでは継続して人材育成にも取り組んできましたが、社会変化と対応の緊急性を踏まえ、人材育成を扱う時限的なアドバイザリーグループを新設し、具体的な対応策を検討しています。
IOWNをはじめ、日本発の情報通信技術がさまざまな産業で活用され、国際ルールを形成していく過程に、国内議論や連携、人材育成の場として、TTCも貢献していきます。

■参考文献
(1) https://www.wto.org/english/docs_e/legal_e/17-tbt_e.htm#art1
(2) https://www.jisa.or.jp/Portals/0/resource/activity/standard/important_4.html
(3) https://www.soumu.go.jp/joho_kokusai/g7digital-tech-2023/topics/topics_20230430.html
(4) 浅香・王・鬼頭・胡間・小山・近藤・坂本・曽根:“固定網関連技術の標準化動向,”NTT技術ジャーナル,Vol.35,No.11,pp.14-19,2023.
(5) 小鯛・永田・立木・岸田・岩谷・大槻・山田・中谷・坂本:“無線通信関連の標準化動向,”NTT技術ジャーナル,Vol.35,No.11,pp.20-24,2023.
(6) 奥川・原・堀内・山岸:“環境・オペレーション関連技術の標準化動向,”NTT技術ジャーナル,Vol.35,No.11,pp.25-28,2023.
(7) 杉本・長尾・安田・菊池・市川:“アプリケーション・サービス関連技術の標準化動向,”NTT技術ジャーナル,Vol.35,No.11,pp.29-33,2023.

(左から)山本 浩司/長尾 慈郎/小鯛 航太

国際標準化活動は多岐にわたっており、記述すべき活動内容が非常に多く、特集記事として非常に分量の多い構成となってしまいましたが、ご興味のある技術分野のパートだけでも読んでいただき、皆様の理解の一助となりましたら大変嬉しく思います。

問い合わせ先

NTT研究企画部門
標準化推進室
E-mail std-office-ml@ntt.com

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