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from NTTアーバンソリューションズ

NTTアーバンソリューションズが推進する「街づくり×デジタル」の取り組み

NTTアーバンソリューションズ発足から5年、街づくりにデジタルの支えを付加して価値を高めていく「街づくり×デジタル」の取り組みを進めてきました。ここでは「街づくり×デジタル」を実装した第1号物件であるアーバンネット名古屋ネクスタビルでの取り組みや、NTTグループと連携した将来の街づくりに向けた実証について紹介するとともに、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)も活用した今後の日比谷や品川に向けた取り組みについて述べます。

はじめに

NTTアーバンソリューションズ(NTT-US)は、「街づくりに関するNTTグループの窓口」であり、「あなたと、まちと、みらいをつなぐ。」をグループスローガンに掲げ、全国で街づくり事業に取り組んでいます。
私たちは、NTT-USの設立当初から不動産にICTを取り入れる取り組みをスタートしました。その後、いくつかの案件を経て「街づくり×デジタル」として①~③をコンセプト設定し取り組んできました。
① ひと中心:どんな人にどんな価値を提供するかデザインして実装する
② 成長し続ける街区:竣工後も運営・デジタルを通じて成長し続ける
③ 「その街ならでは」をデジタルがナチュラルに支える:デジタルは主役ではなく街の支え
NTT-USは、街に集う人、働く人、住まう人に、常に新たな価値を提供すること、活き活きワクワクと暮らす体験の提供をめざしており、ここではNTT-USグループならではの「街づくり×デジタル」の取り組みについて紹介します。

NTT-USがめざす「街づくり×デジタル」の実現に向けて

不動産・街区の開発は企画~竣工・開業まで10~20年と非常に長いスパンにわたる営みです。NTT-US設立当初、「不動産開発」に「ICT」をいかに活用するかを手探りで進めてきましたが、アーバンネット名古屋ネクスタビルや内幸町一丁目街区(日比谷)など実案件に取り組む中で、人や街の営みを含めた「街づくり」の世界を「デジタル」がナチュラルに支える「街づくり×デジタル」を提唱し、さらにその羅針盤となる「めざす将来」を設定しました。その内容をまとめたものが「Future City Forecast」「日比谷・品川におけるUX(User eXperience)」「わがまちみらい」になります(1)(図1)。
「Future City Forecast」は、NTT-US設立以降にグループ各社から集まった各分野で経験を持つ社員、NTT都市開発やNTTファシリティーズの不動産事業を牽引する若手社員が、クリエイターやSF作家等とともに、2035年(Vol.1)、2040年(Vol.2)の理想の未来の「街づくり」を、NTT研究所の研究員へのインタビューを踏まえて、具体の街づくり案件も想定しながらまとめました。ここでは「コミュニティ」「イノベーション」「ダイバーシティ」「レジリエンス」という4つの価値と「グリーン」「モビリティ」「ナチュラル」という3つの領域における変革から見える未来を提起しており、これらをまとめて「Future City Forecast Vol.1,2」として冊子化し、「わがまちみらい」のWebサイトでもPDF公開しています。
日比谷では開発を推進する10事業者で、他の街区にはない「比類なき街」をコンセプトに設定し、それを支えていく5つのUXの実現をめざしています。また、同様に品川港南エリアを大きく活かすための8つのUXを設定しています。「日比谷・品川におけるUX」は、将来必要となる技術やサービスを具体化し、NTT研究所やNTTグループ各社との実証につなげています。
「わがまちみらい」は、鉄腕アトムをキャラクターに、「Future City Forecast Vol.1,2」や「日比谷・品川におけるUX」をまとめて、めざす未来の姿とその取り組みをWebで公開しているものです。
この「めざす将来」の実現に向けて、私たちは、かつて電電公社・NTTの本社等があり、NTTグループを象徴する日比谷・品川を重要なマイルストーンと位置付けました。そして、2035、2040年の「めざす将来」を今にバックキャストし、NTT-USの次世代型オフィスビル第1号物件であるアーバンネット名古屋ネクスタビルの開発に取り組みました。この開発では「めざす将来」からのバックキャストを常に意識しつつ、現在の技術で実現できる価値提供と、その世界を実現するには不足する技術・経験・価値の獲得への実証を盛り込んでいます。その後も、2024年3月に開業したアーバンネット仙台中央ビル、続いて6月に開業するアーバンネット御堂筋ビル、さらには2025年の大阪・関西万博等に対しても、それまでの成果と新たなチャレンジを次々にフォアキャスト(展開)することで、実益に通じるデジタルを創出していきます(図2)。
次に、具体的な街づくり案件におけるフォアキャストの取り組み、バックキャストでチャレンジしている取り組みを紹介します。

「街づくり×デジタル」のこれまでの取り組み――アーバンネット名古屋ネクスタビル

アーバンネット名古屋ネクスタビル(名古屋市東区東桜)では「時間と空間からの解放(ABW)」をコンセプトの1つとして、街区開発を進めてきました。このコンセプトをナチュラルにデジタルが支えられるように、「ひと中心」をモットーに、テナントをはじめとする利用者の皆様とともに「成長し続ける街区」の実現をめざし、NTTグループの次世代型オフィスビル第1号物件として取り組んできました(図3)。
「ひと中心」の世界を提供するには、利用者にどのような価値を提供するのかを日々の生活・カスタマージャーニーにまとめて検討を進めました。これを空間(建物)・デジタル(ICT)・運営がどう実現するかをジャーニーとして描きデザインするという方法です。
また、「時間と空間からの解放」では、朝の混雑時でもエレベーターでストレスなくタッチレスでオフィスフロアまで行けて、日中時間帯は仕事の内容や気分に応じてラウンジや屋上テラスで働ける、夕方は帰りに夕食を買って帰ろうというときにお店からクーポンが届いてお得に買い物して帰る、といったジャーニーを空間・デジタル・運営で実現していく、といった具合です。
実際に竣工、開業した際には、ビジョンに共感いただいたテナント様にご入居いただき、おかげさまでほぼ満床と好調に滑り出しました。さまざまな種類のセンサを多数設置し、人流把握、混雑予測等実施しています。一方で一部正確に計測できないセンサが見つかり、代替手段を講じたり、顧客接点の1つであるアプリ「tocoto」も当初はなかなか認知、利用が進まなかったりと課題が発生し、街区の運営を担当するNTTアーバンバリューサポートとともにイベントの企画や機能追加などの対応策を実行し利便性の向上を図りました。
その結果、アプリの利用数では1年で3倍程度増加、満足度も9割を超える等の改善につながりました。それらは、あとに続くアーバンネット仙台中央ビル・アーバンネット御堂筋ビル等の物件においてノウハウとして展開し、今後のプロジェクトにも標準化したうえで、知見・武器としてフォアキャストしていきます。
「成長し続ける街区」の実現については、竣工後もデジタルと運営が当初企図したビジョンの実現に貢献できているかをしっかり把握、改善し続けることが重要だと考えて取り組みました。ここでは、国際標準として規定しているスマートシティISO(ISO37106)の取得にもNTT持株会社・NTTデータ経営研究所とともにトライし、私たちが取り組んでいる内容に抜けや漏れがないか、改善できないかを確認しました。
その結果、日本初、世界2例目となるスマートシティISO(Level4)の取得ができました(2)。私たちはそのフレームをしっかり活用することにより、「成長し続ける街区」を実現するためのノウハウの標準化に取り組んでいます。実際に利用いただいて価値を実感いただくこと、実際にどう感じるかのフィードバックを獲得し、運営の改善や新たな価値創出につなげていくことは、当たり前のようでなかなか難しいことだと実感していますが、「街づくり×デジタル」によって、価値を創出し続ける運営のプロセスは非常に重要で、それを標準化、展開して、NTT-USグループの武器にしていくこと、これも将来にフォアキャストしていくべきものと考えています(図4)。

NTTグループと連携した将来の街づくりに向けた実証の取り組み

NTT-USでは、前述の「めざす将来」で描いた2035、2040年の未来像を今にバックキャストすることによって、現時点で実証すべきサービスや技術を見極め、NTT研究所を含めたNTTグループ各社と連携した実証に取り組んでいます。各実証においては、NTT-USグループが保有するアセット(不動産等)を実証の場とし、NTT研究所のIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)技術を活用した「街づくりDTC®」や、NTTグループ各社が有するサービス・プロダクトを活用して推進しています。ビルや街区の空間に、いかにデジタルを掛け合わせてナチュラルに「ひと中心」の価値を創出できるかについて、NTT-USと実証参画各社で議論を重ね、企画、実施、評価のサイクルを回しています。
これらの実証は、現在、品川シーズンテラスをはじめNTTグループの不動産アセットが集積する品川港南エリアを中心に実施しています。本実証の取り組みによって「街づくり×デジタル」が認知され、ここが情報発信の拠点となるよう、引き続きグループと連携して「めざす将来」への取り組みを推進していきたいと考えています。
以下に最近の実証の取り組み事例を3点紹介します。
(1) 屋内環境予測AIを用いた空調制御
一般的なオフィスビルにおいてはエネルギー消費の約5割を空調が占めています。NTTグループが掲げる2040年のカーボンニュートラルを実現するうえで、空調の省エネ化が非常に重要です。そこでNTT-USグループでは、NTT研究所、NTTコミュニケーションズとともに、アーバンネット名古屋ネクスタビルの共用部空調を対象に、「街づくりDTC®」技術による人流予測に基づく快適性を担保した空調の自動制御実証を実施しました。その結果、エネルギー消費の約3割削減を達成しました。AIを用いた空調制御は、NTTコミュニケーションズおよびNTTデータによって商用サービス化され、現在、NTT-USグループが所有する複数のビルへの導入を進めています。また、共用部だけでなく専有部の空調制御についても検討を進め、ビル全体の空調制御にも取り組んでいます。
(2) オフィスビルにおけるロボット活用
近年の減少する労働人口へ対応したビルや街区マネジメントが求められる中、NTT-USグループでは、警備、清掃、配送といったビル内業務へのロボット活用について、実証や商用導入を積極的に推進しています。こうしたロボット活用の流れは今後一層高まると想定しており、ビルや街区で、複数用途のロボットが自由に移動し、活動できる環境を実現していくことが必要であると考えています。そこでNTT-USでは、NTT研究所、NTTコミュニケーションズ、NTTドコモとともに、ロボットのより効率的かつ安全な運用制御についての実証を進めています。2023年度は、NTT研究所が研究開発を進めるロボット最適制御技術(「街づくりDTC®」技術の1つ)やマルチ無線プロアクティブ制御技術(Cradio®)を、NTTコミュニケーションズが提供するSmart Data Platform for City/マルチロボット最適化ソリューションに適用することで、異なるロボットプラットフォームを統合的に管理し、複数・異種の配送ロボットに対して、到着時間の正確性向上、配送時間の短縮、安定した無線通信環境内でのロボット走行経路制御の実現を検証しました(3)(図5)。
(3) 街区におけるXRを活用した回遊性向上・賑わい創出
「街づくり」においては、街区内の回遊性を向上し、エリア内の魅力の再発見や賑わいの創出によりエリアの価値を高めるための取り組みも重要となってきます。そこでNTT-USでは、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェア、NTTコノキューとともに、XR(eXtended Reality)を活用した新たな体験創出および飲食可能なポイントを組み合わせた回遊性向上に向けた取り組みを、2023年12月に品川港南エリアで開催されたイベント(品川イルミネーション2023 with XR City)(4)にて実施しました。同エリアの魅力となる高浜運河の水辺空間や品川シーズンテラスをはじめとした緑地などのスポットを中心に、品川港南エリアにゆかりのあるXRコンテンツを配置するとともに(全6カ所)、夜はイルミネーションとXRがコラボした体験型のXRコンテンツをお楽しみいただきました。さらに、各スポットに隠されたコンテンツを見つけるとポイントが付与され、品川シーズンテラス内の一部飲食店舗にて利用可能とすることで、ポイントのインセンティブ効果を含めて、XRを活用した回遊性向上の効果を確認しました(図6)。

おわりに

NTT-US発足から5年間はチャレンジの連続でした。アーバンネット名古屋ネクスタビルに始まった「街づくり×デジタル」の取り組みを通じて、①街にいかにデジタルをナチュラルに組み入れていくのか、②未来に向けていかにグループの総力を結集した取り組みができるのか、③街に組み入れたデジタルをいかにしっかり利用して利用者の利便や街区を支える方々の力となることができるようになるか、などをめざし、IOWNでつくられていく世界の技術も活用しつつ、追求してきたところです。
品川港南エリアにおける「街づくり×デジタル」の実証のチャレンジにも、引き続きNTT研究所やグループ各社と連携して取り組んでいくとともに、その過程で得られた技術、サービス、プロダクト、知見を活用し、自社だけでなくNTTグループを通じて各社の事業にも貢献することによって、NTTの価値創出を拡大していきたいと考えています。

■参考文献
(1) https://www.ntt-us.com/waga-machi-mirai/
(2) https://www.ntt-us.com/news/2023/06/news-230626-01.html
(3) https://www.ntt-us.com/news/pdf/news_us240326_001.pdf
(4) https://www.ntt-us.com/news/2023/11/news-231128-01.html

問い合わせ先

NTTアーバンソリューションズ
デジタルイノベーション推進部
E-mail info-digital@ntt-us.com

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