グローバルスタンダード最前線
GSMA Open GatewayとCAMARA ProjectのネットワークAPI標準化最新動向
CAMARA Projectでは、GSMA Open Gatewayと連携し、3rd party事業者による通信キャリア網機能の利用を加速させるため、キャリア共通API(Application Programming Interface)仕様の策定を進めています。本稿では、キャリア共通APIの策定にある背景、CAMARA ProjectとGSMA Open Gatewayの関係をはじめとして、標準化団体としてのCAMARA Projectの特徴やプロセス、本Projectに対するNTTの今後の取り組みの方向性を紹介します。
鈴木 璃人(すずき りひと)
NTTネットワークサービスシステム研究所
CAMARA Projectについて
■概要
CAMARA ProjectはLinux Foundation配下のオープンソースプロジェクトであり、アプリケーション開発者が通信キャリア網の機能を、国や通信キャリアを問わずに利用するためのキャリア共通API(Application Programming Interface)の仕様策定を進めています(1)。
ここで利用される通信キャリア網の機能とは無線QoS(Quality of Service)、回線認証、キャリア課金等を指します。これまで通信キャリア網の機能を3rd party事業者が利用できるようにするため、通信キャリア各社で独自のAPIを提供する試みが行われてきたものの、各社の仕様が異なることもあり普及は進みませんでした。また3GPP(Third Generation Partnership Project)の4G(第4世代移動通信システム)や5G(第5世代移動通信システム)の検討においては、通信キャリア網の機能を提供するAPI標準としてNorthbound APIが策定されてきましたが、こちらは通信キャリアの実装が進んでいません。加えて、これらのAPIを利用するアプリケーションの開発を行うWeb開発者が通信キャリア網に関する専門知識を必要とするという課題も残されています。
このような背景から、CAMARA Projectは、キャリアごとの差分がなく、かつ通信キャリア網特有の専門知識を必要としないように抽象化されたAPIを策定することで、アプリケーション開発者の参入障壁を下げることに焦点を当てています。
CAMARA Projectには2024年11月時点で通信キャリア・ベンダ合わせて400社以上が参画し、31のAPI検討プロジェクトが立ち上げられており、多様なユースケース・ビジネスを想定したAPIの検討が活発に行われています。
■検討スコープ
CAMARA Projectでは、端末上で動作する3rd party事業者のアプリケーションや、システムが利用するAPIをスコープとしており、これらのAPIを提供する通信キャリア網側の機能ブロックや実装方式はスコープ外としています(図1)。これは、3rd party事業者に対してキャリアとして共通のAPIを提供することを重視し、その実現にあたっての実装方式に関しては、通信キャリアの網構成や実装状況を勘案して、その通信キャリアとして最適な方式を選択できることとし、通信キャリアにおける実装の広がりを可能とするためと考えられます。
■GSMA Open Gatewayとの関係
GSMA Open Gatewayは、通信キャリア網の機能を提供するためのキャリア共通API策定に向けて、GSMA(Global System for Mobile Communications Association)内で立ち上げられたプロジェクトです。2024年時点で、62のモバイル事業者が参画しており、策定中のキャリア共通APIの世界的な商用化に向けて活動しています。
CAMARA ProjectはGSMA Open Gatewayのサポートを受けており、CAMARA Projectが独自で立ち上げる検討もあるものの、基本的にGSMA Open GatewayがまとめたAPIのユースケースやサービス要求条件等を踏まえて、CAMARA Projectが具体的なAPI仕様の策定を行う関係となっています(2)。
GSMA Open Gatewayは、MWC(Mobile World Congress)でも積極的な広報活動が行われており、今後さらに多くのキャリア・ベンダが参画して活動規模が拡大することが想定されます。そのためGSMA Open Gatewayの策定するキャリア共通APIの詳細仕様であるCAMARA Projectのアウトプットも今後広く実装され、利用されることが見込まれます。2024年11月時点で、初期にリリースされたいくつかのAPIが、すでに複数の国で実装され商用利用されています(3)。
■プロジェクトの特徴
CAMARA Projectはオープンソースプロジェクトとして、主にGitHub*上でAPI仕様ドキュメントの管理・議論を行っています。基本的に対面での会合は行われず、定期的なオンラインミーティングはGitHubのIssueやPull Requestのやり取りで完結しない議論を行うなどの補助的な位置付けとなっています。また、意見の衝突がある場合には多数決や検討リーダの裁量で決定が行われます。こうした特徴は一般に厳格な意思決定プロセスを持ち、原則として会合中で全会一致となるよう合意形成を試みるデジュール系の標準化の営みとは大きく異なります。一方で各API検討を行うSub Projectごとに検討リーダを設け議長として調停を行うこと、レビューを行う権限のある者、一般の貢献者等のロール分けをルールとして明文化するなど、広く利用されるAPI仕様を策定する標準化団体としての性格も併せ持っています。
* GitHub:ソースコードのホスティングやバージョン管理を行い、複数のソフトウェア開発者によるコードレビューやプロジェクト管理を効率化するWebベースのプラットフォーム。
■プロジェクト構成
CAMARA Projectは運営組織であるGoverning Board / Technical Steering Committeeと、API提案の受付やリリースマネジメント、API策定ガイドラインの管理など特定のAPIに紐付かない活動を行ういくつかのWorking Group、各APIの仕様策定を行うSub Project群から構成されます。新たなAPI検討を立ち上げる場合、提案されたAPIについてAPI Backlog Working Groupで検討内容の議論が行われ、その後Technical Steering Committeeで検討開始の是非と担当するSub Projectの新設や選定について意思決定が行われます(図2)。Sub Projectの追加は継続しており、API策定ガイドラインのアップデートも続くなど、全体として活動規模は拡大傾向にあります。
■リリースプロセス
Sub Projectで検討している各API仕様は、Sub Projectごとに割り当てられたGitHubリポジトリ上で、Open APIフォーマットで記述され、構造化データやオブジェクトを文字列にするためのデータ形式の一種であるYAMLファイルとして管理されています。各API仕様は動作保証のされないPre-release期間を経て、ドキュメントの整備やバグの対処が完了すると、API仕様を記述したYAMLファイルと関連ドキュメントをまとめたものがPublicリリースとして公開されます。各APIのバージョン番号にはSemantic Versioningが採用されており、初期のPublicリリースはv0.y.zのInitial public APIとして公開され、商用利用可能な安定版に達したと判断されるとv1.0.0のStable public APIとなります。v1.0.0以上のバージョンについては特別に言及されない限り後方互換性を持つこととされています。
また、CAMARA ProjectはPublicリリースされたAPIのセットをmeta-releaseとして半年に一度プレスリリースしており、2024年9月に初回のmeta-releaseが行われました。
NTT研究所の取り組み
NTT研究所は、CAMARA Projectで策定するキャリア共通APIがサービス・アプリケーション開発者を巻き込んだ通信キャリア網の利用拡大に重要な役割を持つと考えており、2024年度より会合等に参加し動向把握を行っています。
特にWebRTC Sub Projectでは、WebRTCブラウザが通信キャリアのIMS(IP Multimedia Subsystem)と音声呼の発着信を行うAPIを検討しており、通信キャリアがWebRTCサービスを広く展開するための重要なソリューションの1つとして着目しています。これは将来的に音声呼に限らず、没入型メディアを含む次世代のリアルタイムコミュニケーション(Immersive RTC)への適用拡大も考えられるためです。標準化の観点では、IETF (Internet Engineering Task Force)やW3C(World Wide Web Consortium)では策定されていないシグナリングも含めてキャリア共通のAPI仕様として定める試みであり、NTTとしても通信キャリアとしてこれまで培ってきた知見を踏まえた共通API仕様化に貢献していきます。
■参考文献
(1) https://camaraproject.org/
(2) https://www.gsma.com/solutions-and-impact/technologies/networks/wp-content/uploads/2023/03/MWC23-Barcelona_5G-Futures-Summit_Session-1-Slides.pdf
(3) https://open-gateway.gsma.com/