2026年4月号
特集
技術協力センタの沿革と4つの技術担当の紹介
- 難解故障
- 試験研究
- 技術開発
NTT東日本技術協力センタは前身組織である電気通信研究所 技術協力部として昭和38年の発足以来、多様な現場課題の解決に向けた試験研究や技術開発を進め、その知見を展示会やホームページで発信するなど、広範な技術協力活動を行ってきました。本稿では技術協力センタの沿革と、技術協力センタを構成する4つの技術担当のミッションおよび技術協力活動例を紹介します。
大串 幾太郎(おおぐし いくたろう)/家高 秀行(いえたか ひでゆき)
清水 茂喜(しみず しげき)/光井 隆(みつい たかし)
NTT東日本
技術協力センタの発足
NTT東日本技術協力センタは昭和38年に日本電信電話公社における電気通信研究所 技術協力部として発足しました。当時の技術協力部は、機構部品技術研究室、回路部品技術研究室、電子管技術研究室、固体部品技術研究室、有機材料技術研究室、金属材料技術研究室、および庶務係からなる6研究室・1係で構成され、部材の改良・実用化や研究所内の各研究室へ技術協力を行うことが役割とされていました。
昭和60年における日本電信電話公社の民営化後、研究開発体制の大規模な再編の結果、昭和62年に技術協力部は技術協力センタへと名称を変更しました。こうして技術協力センタは、当時の技術協力部員数の3分の1にあたる約60名の構成メンバによる、NTT社内に対する技術協力・独自分野の研究開発などを担う組織として誕生しました。
さらに平成11年のNTT再編とともにNTT東日本 サービス運営部の所属となり、その間に行われた複数部門の統廃合を経て、現在の「アクセス技術」「材料技術」「EMC技術」「ネットインタフェース技術」の4技術担当体制になりました。なお、技術協力の西日本への効率的運用を図るためNTTネオメイトブロードバンドエンジニアリング部内に技術協力担当が平成19年に新設されたことを契機に、現在は高度保全技術者の育成と技術支援強化を目的としてNTT西日本社員が技術協力センタ内に常駐し、NTT東日本社員と協働して技術協力活動に取り組んでいます。
技術協力センタの所在は平成13年に東京都武蔵野市から品川区東五反田の旧関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)職員寮と研究棟へ移転し、さらに蒲田電話局跡地の一部を再開発したネクストサイト蒲田ビル(大田区蒲田本町)へ平成22年に再移転し現在に至っています(図1)。

技術協力活動の変遷
発足当初の技術協力部は電気通信研究所内外を対象に技術協力活動を行っていました。研究所外からの依頼に対しては当時の技術局を通して実施していましたが、現地で生じる技術的問題の件数が昭和40年ごろから増加するとともに、内容の高度化・多様化に対して迅速な対応が求められるようになったため、地域の11電気通信局(東京・関東・信越・東海・北陸・近畿・中国・四国・九州・東北・北海道)から直接依頼を受けるルートを新たに設けました。この結果、これら電気通信局を含む事業部門からの依頼件数が急増し、さらに昭和55年度ごろからは技術協力活動成果報告会・各地域における技術相談会・各種展示会への出展などの広報活動を強化したことで、依頼件数は増加しました。そして昭和57年度以降は地域の電気通信局からの依頼件数が本社からのそれを上回るようになり、現場機関への技術的サポートという技術協力部のミッションがより鮮明になりました。特にこのころは加入電話の積滞解消が進み、通信設備の建設が一段落した時期であったため、既存設備の劣化診断・腐食対策等の維持管理の必要性が高まるとともに、宅内機器においては機能の多様化・電子化に伴う通話トラブルが発生するなど、技術協力部が現場へ果たす役割はますます重要になりました。
昭和60年代から平成初期にかけての依頼内容は線路分野と宅内分野とで全体の70%を占め、老朽化が進む屋外設備の維持管理に関する相談の伸び率も高くなりました。昭和63年に開始されたISDN(Integrated Services Digital Network)サービスを契機に通信サービスは多様化し、再現性の低い特異故障やEMC対策(電磁雑音・雷対策)などの複雑な問題を含む依頼案件が増加しました。現場からのこのような要請にこたえるため、昭和62年度から平成5年度の間、TASC(Technical Assistance & Support Center)フォーラムと題したイベントを開催し、技術協力事例や技術協力センタ開発品の紹介を通して現場の技術力向上に努めました。平成8年には、これら技術協力事例等を掲載した故障対策ホームページをNTTグループ会社向けに開設しました。
平成10〜20年代のNTTの通信サービスではBフレッツやフレッツ光ネクストといったサービス名で知られるように、通信速度を高速化したサービスが次々に登場しました。また、これまでの音声通信・データ通信だけでなく、ひかりTVやフレッツ・テレビといった映像配信サービスも登場しました。高速通信・映像配信に対応した機器や光ファイバケーブルがお客さま宅内やアクセス網へ広まった結果、パケットロス等のIP通信トラブルや光ファイバケーブルの端末処理・接続工事に起因する故障、映像の品質評価の相談が増加しました。近年は新たな無線通信方式であるローカル5G(第5世代移動通信システム)が普及し始めており、それを対象とした電波干渉等のトラブル相談なども寄せられるようになりました。このように、新たなサービス・設備・技術の導入に応じてそれらに関する新たなトラブル・相談が生まれる一方、長期利用が求められる鉄塔などの大規模構造物やメタルケーブルなどのレガシー設備を対象とした相談も引き続き存在します。技術協力センタは発足以降、技術のプロフェッショナル集団として新旧さまざまな技術分野のトラブル・相談に対して技術協力活動を行っています。
技術担当の取り組み
NTTグループは電気通信サービスをお客さまへ提供するために、お客さま宅とNTT通信ビルとをつなぐ区間にさまざまな通信設備を構築しています。サービスの多様化に応じて設備の種別は多岐にわたり、また、複数サービスを混在利用するなど通信環境が複雑化する状況もあるため、通信トラブル発生の際に原因究明は難解となるケースがあります。また、所外の設備は日本全国津々浦々にわたり面的に存在するため、厳しい所外環境に曝される設備もあります。そのため、思いもよらないトラブルが発生するケースもあります(図2)。
このような種々の難解故障に対峙するため、現在の技術協力センタは13の専門技術分野を扱う4技術担当、すなわち、「光」「メタル」「生物被害」を専門とするアクセス技術担当、「ビジネスフォン」「宅内IP」「レガシー回線」を専門とするネットインタフェース技術担当、「電柱」「環境評価・分析」「材料劣化・分析」を専門とする材料技術担当、「無線」「電磁誘導」「電磁ノイズ」「雷・過電圧」を専門とするEMC技術担当と、センタ内の企画・総務系業務を支える企画支援担当とで構成され、難解故障の原因究明や解析ツールの開発などに取り組んでいます(図3)。
ここからは各技術担当のミッションと技術協力活動例を簡単に紹介します。


■アクセス技術担当
アクセス技術担当は、NTT通信ビルとお客さま宅をつなぐアクセス区間における、メタル・光ファイバの通信ケーブル・OLT(Optical Line Terminal)、ONU(Optical Network Unit)等の伝送装置・ケーブル接続部におけるクロージャ等の線路設備などで発生した難解故障の原因究明と対策方法の確立を主なミッションとしています。
近年の技術活動例としては地下メタルケーブルの引き戻しが挙げられます。地下管路内に敷設された通信ケーブルは地上を走行する車両の振動の影響を受けて徐々に移動する場合があります。この現象はクリーピングと呼ばれ、移動に伴いケーブルが過度に曲がる等の異常を引き起こし、ひいてはケーブル破損を発生させる可能性があります。そこでアクセス技術担当では、移動してしまったケーブルを元の場所に引き戻すためのケーブル引き戻し装置を開発しました(図4)。本装置はケーブル移動を生じたマンホール内の壁面に取り付けて使用します。装置に組み込まれた油圧シリンダに油圧ポンプから圧力を加えることで、ケーブルをマンホール壁面から遠ざける方向へ引っ張り、移動したケーブルを引き戻すことができます。本装置は全国の現場で利用され始めており、深刻な設備トラブルの防止や現場の保守稼働の削減に寄与しています(1)。

■ネットインタフェース技術担当
ネットインタフェース技術担当は、お客さま宅内機器におけるPSTN・ISDN・IPネットワークを介した通信トラブルの原因究明と対策方法の確立を主なミッションとしています。IPを用いた通信方式が主流となった現代においては、ビジネスフォンにおけるひかり電話サービスの通話トラブルや、VPNルータを介した拠点間通信トラブルなど、IPサービスでの難解な故障相談が現場から多く寄せられています。
IP通信のトラブルに対する原因究明では、通信ネットワーク内を疎通するIPパケットの解析が有効です。そのためにはパケットキャプチャ装置等を用いた解析対象パケットの取得が必要であるとともに、トラブルが発生している現場のネットワーク構成を把握することが欠かせません。しかしIP通信の導入当時はパケット取得に技術的スキルを要し、また、目視でのネットワーク構成の確認は見落としのリスクがあるなどの現場課題がありました。そこでネットインタフェース技術担当は専門的なスキルがなくても容易に使用できるパケットキャプチャ装置やネットワーク構成を自動作成するアプリケーションを開発し、現場の保守業務課題の解決に貢献しています(2)。
■材料技術担当
材料技術担当は、電柱・鉄塔などの通信設備や部材の腐食劣化に起因する破損等のトラブルに対して材料的な観点から原因究明や対策立案を行っています。
腐食のトラブル事例としては、海岸付近に設置された鋼管柱において海上から飛来する海塩粒子が柱表面の腐食を促進させる事案や、温泉地帯のお客さま宅内で利用されているONUにおいて、近辺の噴気孔から発出された硫化水素ガスがONUの内部基盤を腐食させる事案が挙げられます。通信設備は長年にわたって利用されるとともに屋外の厳しい自然環境下に設置されることも少なくないため、材料劣化に関するさまざまなトラブルが起こり得ます(3)。このような事態を防ぐため、設備の定期的な点検や長寿命化対策は重要であり、材料技術担当では効果的な点検方法の確立や防食性に優れた材料を用いた設備開発にも取り組んでいます。
■EMC技術担当
EMC技術担当は、落雷に起因した通信機器の破壊などの雷サージ、可聴雑音や機器のリンクダウンを引き起こす通信線等からのノイズ、送電線や電鉄での地絡等による通信線への電磁誘導、無線通信にかかわる電波干渉などのトラブルに対する原因究明や対策立案を主なミッションにしています。
近年では5Gの一形態であるローカル5Gが知られていますが、この利用にあたっては電波起因のトラブルを生じぬよう事前の電波調査等が求められます。電波調査では電波強度や信号対ノイズ比などの、電波品質にかかわるさまざまな指標を測定しますが、一般的に電波調査が可能な測定器は高価であり、また、測定結果の解析に高度な専門スキルを必要とします。そのためローカル5Gのトラブルが現場で発生した場合、容易に解決できない事態が想定されました。そこでEMC技術担当ではローカル5Gの普及に先駆けて、安価でかつ簡易に電波品質の測定と解析を可能とする測定器「ローカル5Gテスタ」を開発しました(図5)。本測定器は市販のノートPCとローカル5G対応端末で構成され、技術協力センタ開発のソフトウェアをPCにインストールして使用します。受信電力等の無線通信の各種指標を測定でき、良否判定機能も具備しているため電波トラブル発生時の原因を容易に究明できるようになりました(4)。

技術協力センタのこれから
技術協力センタは昭和38年に技術協力部として発足以来、試験研究・技術開発・技術普及等の広範な技術協力活動を60年以上にわたって行ってきました(図6)。各々の活動で得られた技術的知見は技術協力センタ内でデータベース化され、在籍メンバの技術協力活動に活かされています。また、これらの技術的知見にかかわる基礎知識や故障事例は技術協力センタ著作の書籍『全国の現場で役立つ 通信設備のQ&A』で分かりやすく解説しており、2025年8月には第4版として改訂版を約9年ぶりに発行しました(図7)。最新の活動事例は定期的に故障対策ホームページ上でも発信し続けており、つくばフォーラムやマイスターズカップなどの展示会へも継続的に出展することで現場保守者の故障解決スキル向上に努めています。さらに2024年度の現場力向上フォーラムおよび2025年度のマイスターズカップからは、「技協まつり」と題して各技術担当者が携わった故障事例を現場保守者向けに発表するイベントを開始し(5)、技術協力センタのノウハウをより一層展開できるよう企画・実践しています。技術協力センタはこれからも、先人たちが築き上げてきた知見を活かし、そしてさらなる磨きをかけて、現場課題に対峙する技術のプロフェッショナル集団として技術協力活動を行っていきます。


■参考文献
(1) テクニカルソリューション:“移動した地下メタルケーブルの引き戻しの取り組み,”NTT技術ジャーナル,Vol.33,No.10,pp.88-91,2021.
(2) テクニカルソリューション:“宅内設備のネットワーク構成を自動作成支援するツール「NeST」,”NTT技術ジャーナル,Vol.34,No.1,pp.76-77,2022.
(3) テクニカルソリューション:“最新の故障事例の紹介─設備の材料劣化に関するトラブル,”NTT技術ジャーナル,Vol.33,No.4,pp.114-117,2021.
(4) https://journal.ntt.co.jp/article/29973
(5) 上西・土田・阪口・橋本:“技協まつりの開催─難解故障解決の知見共有,”NTT技術ジャーナル,Vol.38,No.4,pp.10-12,2026.

(左から)大串 幾太郎/家高 秀行/清水 茂喜/光井 隆

技術協力センタは通信設備の保守・運用に携わる現場の方々のために、技術サポートを通して現場の課題解決に貢献していきます。