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グローバルスタンダード最前線

ITU-T TSAG(電気通信標準化諮問会議)、およびITU-T Industry Engagement Workshop 2026参加報告

ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector:国際電気通信連合電気通信標準化部門)のTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)が、2026年1月26~30日の期間にスイス・ジュネーブのITU本部とオンラインのハイブリッドで開催されました。また、IEW(Industry Engagement Workshop)が2026年3月27日にフランスのソフィア・アンティポリスにあるETSI本部で開催されました。本稿ではTSAGとIEWの概要と主な議論内容について紹介します。

山本 浩司(やまもと ひろし)/井上 朋子(いのうえ ともこ)
小鯛 航太(こだい こうた)
NTT研究企画部門

TSAGについて

2025〜2028年研究会期における第2回TSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)会合が、2026年1月26~30日にかけてスイス・ジュネーブで開催されました。世界各国から計308名(現地参加209名、オンライン参加99名)のエキスパートが結集し、新会期の本格始動に向けた戦略的議論が行われました。日本からは総務省をはじめ、主要ベンダ、キャリア、研究機関(NEC、NICT、NTT、KDDI、日立、OKI等)が参加し、作業方法の改善や組織の効率化について議論が行われました。

TSAGマネージメント体制

会合冒頭、アフリカ地域内の合意に基づき、新たな副議長としてAminata Drame氏(セネガル)が任命されました。日本からは、永沼美保氏(NEC)が副議長として出席し、議論を先導しました。また、三宅滋氏(日本)によるISO(International Organization for Standardization)/IEC(International Electrotechnical Commission) JTC(Joint Technical Committee) 1との連携報告も行われ、他機関との役割分担の明確化(デジタル製品パスポート、メタバース、スマートシティ等)について日本からメッセージを発信しました。

主要な決定事項と議論状況

今回の会合では、今後のITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector:国際電気通信連合電気通信標準化部門)の効率性を左右する重要な「決定(Determination)」および「合意(Agreement)」がなされました。
(1) 作業方法の抜本的改善(WP1/RG-WM)
① 勧告A.1(SGでの作業方法)の改訂決定:SGの作業効率を高めるための改訂案が「決定(Determination)」されました。
② 新勧告A.19(登録機関の運営)の策定:登録機関(RA)の指定と運営に関する新ルールが決定されました。
③ リモート参加ガイドライン(A.Sup4)の改訂:途上国の参加をより促進するため、ハイブリッド会議の運用指針が合意されました。
(2) 産業界連携と戦略(WP1/RG-IES)
① 成功事例の可視化:標準化がビジネスに与えた影響を示す「成功事例(Success Stories)」の収集・発行スキームが議論され、各SGへの協力要請が継続されました。
② CxO Roundtableの活用:2025年11月にミュンヘンで開催されたCxO会合の成果が共有され、産業界のニーズを迅速に反映させるためのプロセス改善が進められました。
(3) 組織再編とJCAの整理(WP2/RG-WPR)
「重複の排除と効率化」を旗印に、既存の調整メカニズムの大胆な整理が行われました。
① JCG(共同調整グループ)の廃止:IoT(Internet of Things)セキュリティ(JCG-IoTSec)およびトラスト(JCG-Trust)の各JCGを閉鎖し、既存のSG間連携メカニズムへ統合することが決定されました。
② JCA(共同調整活動)の移行:
・JCA-IdM(アイデンティティ管理)、JCA-QKDN(量子鍵配送)、JCA-VHC(検証可能健康証明書)は、次回会合までにSG17へ作業を順次移行します。
・JCA-AHF(アクセシビリティ)はSG21へ、JCA-IoT/DT/SSC&CはSG20へそれぞれ会期末までに移行予定です。
・JCA-QKDNの親グループには、日本から剣吉薫氏(NICT)が新たな副議長として指名されました。
③ JCA-AIの強化:TSAG直轄のJCAとして名称と職務範囲(ToR)を更新し、AI標準化の司令塔としての役割を強化しました。
(4) その他
① デジタルトランスフォーメーション(DX)(RG-DT):WTSA-24決議58(DX推進)および決議86(地域的DX)の実行に向けた連絡文書が承認されました。
② 人権と標準化:標準化プロセスにおける人権配慮に関する調査結果が報告されました。日本を含む各国からの寄書に基づき、標準化と人権に関するトレーニングの実施などが検討されています。

今後の展望

次回の第3回TSAGプレナリ会合は、2027年2月1〜5日にジュネーブで開催される予定です。それまでの間、RG-IESやRG-WMなどは計5回ずつのオンライン中間会合(RGM)を開催し、今回「決定」されたAシリーズ勧告の最終承認や、具体的なDXギャップ分析の深化を進める計画です。
日本としては、JCA-QKDNでの指導力発揮や、SG17におけるAIセキュリティ関連の新規課題(Q16/17等)の承認に向けたMember State Consultationへの対応など、実務レベルでの貢献が期待されます。

IEWの概要

TSAGのRG-IES(Industry Engagement and Strategic and Operational Planning)の具体的な取り組みとして、「ITU-T Industry Engagement Workshop 2026:Making industry successful through standardization」が、2026年3月27日、フランスのソフィア・アンティポリスにあるETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州電気通信標準化機構)本部にて開催されました。本ワークショップは、ITU-Tが、DXが加速する産業界のニーズをいかに迅速に反映し、企業のビジネス成功を標準化の側面からいかに支援できるか検討することを目的としています。
会場にはITU 尾上誠蔵TSB局長やETSIの幹部をはじめ、世界各国の主要通信事業者、ベンダ、研究機関の専門家が集結しました(写真1)。日本からはNTT、NTTドコモ、TTC(情報通信技術委員会)などの代表者が登壇し、標準化活動における日本のプレゼンスと貢献を強調しました。

IEWのマネージメント体制および基調講演

(1) オープニング
本ワークショップは、ITU-Tの産業エンゲージメントおよび戦略・運用計画のラポーターであるScott Mansfield氏(Ericsson、Canada)による開会の辞で幕を開けました。同氏は、技術革新のスピードに標準化プロセスを適応させることが、産業界の投資を保護し、グローバル市場を拡大させる鍵であると述べました。
(2) 基調講演
基調講演では、主催者としてのITU電気通信標準化局長によるスピーチに続き、下記2名から標準化の将来像と産業界とのかかわりについてキーノートスピーチが行われました。
・Jan Ellsberger氏(ETSI事務局長)は、標準化は経済成長を支える戦略的な基盤であり、今後はソフトウェアや相互運用性テストと連携した、より迅速で柔軟な進化が必要であると強調しました。
・Christian Hoymann氏(Ericsson、Germany)は、標準化を単なる技術仕様策定ではなく、エコシステム構築のためのビジネス戦略と定義し、市場競争力と投資保護の鍵であると強調しました。

各セッションの議論内容

(1) セッション1:デジタルテクノロジへのITU-Tの焦点転換(Transforming ITU-T’s focus to Digital Technologies)
本セッションでは、ITU-Tがデジタルエコシステムへの移行をいかに支援すべきかが議論されました。
① セッション議長:Dao Tian氏(ZTE)
② 主な議論:
・David Boswarthick氏(ETSI)は、イノベーションを阻害しない「軽量な標準化」を提唱し、迅速な市場投入とOSS等の外部エコシステムとの連携の重要性を強調しました。
・Weiqiang Cheng氏(China Mobile)は、AIデータセンターネットワークを例に、新しいインフラ要件に対する迅速な標準策定の重要性を述べました。
・Arnaud Taddei氏(Broadcom)は、グローバルサプライチェーンにおけるセキュリティ標準の重要性を説き、デジタルエコシステムの信頼性確保に向けた統合的なアプローチを提唱しました。
(2) セッション2:産業界における標準の活用と成功事例(Industry Use of Standards and Success Stories)
本セッションでは、実際に標準がどのようにビジネスに貢献しているか、具体的な成功事例が共有されました。
① セッション議長:山本浩司氏(NTT)
② 主な議論:
・西沢秀樹氏(NTT)は、TIP等の外部団体と連携したディスアグリゲーション型光システムの標準化事例を紹介し、オープンな仕様策定と社会実装によるエコシステム構築の重要性を述べました。
・Vince Ferretti氏(Corning)は、光ファイバ等の物理層標準が市場の公平性を担保し、DXを支える持続可能なネットワーク基盤に不可欠であると強調しました。
・岩田秀行氏(TTC)は、日本国内の標準化活動(TTC)がいかに国際標準(ITU-T)へ働きかけ、国内企業のグローバル展開やビジネス成功を支援しているかのスキームを紹介しました。
・Uwe Baeder氏(Rohde&Schwarz)は、計測技術における標準化が、複雑なデジタルエコシステムにおける公平な競争環境の維持や、品質と信頼性の確保に不可欠であることを強調しました。
(3) セッション3:標準化とオープンソースの相互作用(Interplay between standardization and open-source)
伝統的な標準化と、近年のオープンソース(OSS)開発手法の融合について議論が行われました。
① セッション議長:Julien Maisonneuve氏(Nokia)
② 主な議論:
・増田昌史氏(NTTドコモ)は、Open RANの商用展開においてOSSを活用する利点を挙げ、AI/ML統合によるネットワーク運用の効率化とマルチベンダーエコシステムの加速について述べました。
・Debora Comparin氏(Thales)は、オープンソースと標準化の補完関係を整理し、IP管理やガバナンスが確立された標準化の重要性を説きつつ、OSSから迅速な開発手法を学ぶべきだと強調しました。
・Mustapha Tagredj氏(Orange)は、標準化とOSSの相乗効果を強調し、OSSによる迅速なプロトタイプ作成や検証が、標準の策定加速と実用性の向上に不可欠であると説明しました。
・Silvia Almagia氏(ETSI)は、標準化を支援するソフトウェア開発グループ(SDG)の枠組みを紹介し、コードベースの仕様策定や迅速な試作を通じて、標準の質と普及を向上させる手法を提唱しました。
(4) セッション4:総括、成果および今後のステップ
本ワークショップの最後には、各セッションの議長によるパネルディスカッションが行われ、通信コスト削減や新産業創出における国際標準の貢献と、その重要性が改めて確認されました(写真2)。一方で、業界が価値を見出す技術領域や成果の出し方を絶えず進化させる必要性も再確認されました。これらの成功事例を糧に、将来へ向けた具体的な変革の必要性についても確認されました。

今後の想定アクション

ワークショップで示された「標準化成功事例」の収集スキームに基づき、国内の優良事例を整理し、次回TSAG/RG-IESへ提案します。また、セッション3で議論されたOSS活用の動向を踏まえ、国内の標準化委員会におけるソフトウェア連携のあり方を検討します。

さいごに

今回のTSAG会合およびIEWワークショップからも分かるように、ITU-Tは技術標準の策定にとどまらず、「産業界のビジネス成功に直結する機敏な組織」への変革を推進しているように感じられました。
今回の議論の進捗は、2027年2月の第3回TSAGプレナリ会合にて改めて確認される予定であり、次回TSAGに向け今回紹介した各ラポータグループによる中間会合が複数回開催される予定です。