グローバルスタンダード最前線
ITU-T SG5(Environment, climate action, circular economy and electromagnetic fields)第1回会合
ITU-T SG5は、電磁界に対する人体ばく露、電磁両立性(EMC:Electromagnetic Compatibility)、雷防護、中性子の影響などの電磁的現象と、気候変動に対するICT(Information and Communication Technology)効果の評価方法について検討しています。本稿では、2025年6月3~12日にジュネーブ(スイス)で開催された、2025-2028会期の第1回会合の審議内容を報告します。
小林 栄一(こばやし えいいち)†1/小林 隆一(こばやし りゅういち)†1
井山 隆弘(いやま たかひろ)†2/原美永子(はら みなこ)†3
NTTアドバンステクノロジ †1
NTTドコモ †2
NTT情報ネットワーク総合研究所 †3
ITU-T SG5 第1回会合の概要
2025年6月3~12日にITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector) SG(Study Group)5 第1回会合(2025-2028会期)が、ジュネーブ(スイス)で開催されました。出席者は42カ国228名で日本から12名(6名は現地参加、6名はリモート参加)が参加しました。
寄書件数は187件(うち、日本から9件)で、合意(Consent)された勧告案は新規16件、改訂8件、同意(Agreement)された文書は2件でした。ここでは第1回会合の審議内容について報告します。
審議結果
今会合では、EMC(Electromagnetic Compatibility)、雷防護、電磁界に対する人体ばく露等を所掌するWP1(Working Party 1)の課題1から4にて、新規1件、改訂5件の勧告案について勧告化手続きを開始することが合意されています。新しい電気通信/ICT設備およびアプリケーションの環境効率を所掌するWP2の課題6、7、13においては、新規12件および改訂2件の勧告案について勧告化手続きを開始することが合意、1件の補足文書(Supplement)の発行が同意されました。
ネットゼロ排出に向けた気候変動対策のための新しい電気通信/ICTソリューションを所掌するWP3の課題9、11、12では、新規3件および改訂1件の勧告案について勧告化手続きを開始することが合意されました。
WP1(EMCと雷防護、電磁界に対する人体ばく露)における審議動向
■課題1(ICTシステムの電気的な防護、信頼性、安全およびセキュリティ)
本課題では、雷撃や接地、電力システムの妨害波に対する通信システムの防護要件を検討しています。また、高高度電磁パルス(HEMP)や高出力電磁パルス(HPEM)攻撃に対する防護方法、電磁波による情報漏洩リスク評価およびリスク低減方法等の電気通信設備の電磁波的なセキュリティ課題の検討、粒子放射線による通信装置のソフトエラーに関する試験方法や規定を検討しています。
今会合では、新規勧告K.158「物理的に大規模な建物内でのモバイル通信用分配システムの防護のための実用的なガイダンス」が合意されました。K.158は、大規模ビルの構内にモバイル通信の電波を引き込むための分配システムの防護に関する勧告ですが、NTTからは、他標準との重複規定を避けること、勧告案がリクワイヤメントではなくベストプラクティスを紹介するガイダンスであることから離隔距離など具体的な値はAppendixに移すこと、法令の逸脱を推奨するかのような規定は避けるべきであること等のコメントを行い、それらが反映されたうえで合意されました。
通信ケーブルの防護や、成立後に時間が経過している勧告のメンテナンスに関する新規ワークアイテムが次回会合で追加予定となっています。
■課題2(雷および他の電気的事象に対する装置およびデバイスの防護)
本課題では、過電圧や過電流に対する防護のための通信装置の防護要件や防護素子、デバイスの検討を行っています。また、前会期では課題1で検討されてきた、粒子放射線による通信装置のソフトエラーに関する既存勧告(概要、試験、品質推定、設計、信頼性要件)および補足文書は、今会期より課題2で検討されることとなりました。
今会合では、既存勧告K.147「平衡導体ペアが接続されるデジタルポートの防護」の改訂が合意されました。K.147は、Ethernetを含む平衡導体ペアを用いる有線通信の防護に関する勧告であり、防護に必要となるEthernetの仕様や性能に関する情報をIEEE 802.3「Ethernet」とさらに整合させるために、NTTとIEEE 802.3 Ethernet Working Groupが協力して改訂を実施しました。
既存勧告K.21「顧客宅内に設置される通信装置の過電圧・過電流に対する耐力」とK.20「通信センタ内に設置される通信装置の過電圧・過電流に対する耐力」の改訂草案の審議も行われて継続審議となりました。審議では、NTT提案による、同一筐体内でのみ用いられるEthernet接続に対する耐力試験の適用除外の追加が、課題2内での合意事項となりました。また、外国提案により、K.21での内線Ethernetポートのコモンモード雷サージに対するBasic耐力レベルが1kVに引き下げられますが、Enhanced等のほかの耐力レベルは現行の値が維持されることも、課題2内での合意事項となりました。
新規サプリメント草案K.supple_TOV「DC電源供給を受けるICT装置の過渡的過電圧への防護」、および既存サプリメントK.Suppl.25「長距離シングルツイストペアEthernetポートに対する耐力試験」の改訂草案の審議も行われ、継続検討となりました。
■課題3(電磁界に対する人体ばく露の評価)
本課題では、携帯電話、無線システムのアンテナ周辺における電磁界強度の推定手順、計算方法、測定方法について人体ばく露の観点で検討を行っています。
今会合では、既存勧告K.113「無線周波数電磁場レベルマップの生成」および既存勧告K.61「電気通信設備の人体ばく露限界への適合のための電磁界の測定および数値予測に関するガイダンス」について改訂草案の審議が行われ、合意されました。新たな作業項目として勧告案K.Actual_Max「RF EMFの評価、検証、適合性、および監視のための実際の最大値アプローチの実装に関するガイダンス」の検討開始が決定され、ベースラインテキストが作成されました。既存補足文書K.Suppl.32「RF-EMF評価の事例」および既存勧告K.83「電磁界レベルのモニタリング」について、測定事例を追加すべく改訂草案の審議が行われました。新規勧告案K.AI-EMF「5G NR基地局近傍における人工知能を用いたEMF評価手法」について、技術的位置付けを含めて新規草案策定に向けた審議が行われました。そのほか、既存勧告K.91「無線周波数電磁界への人体ばく露の適合性、評価およびモニタリングのためのガイダンス」の改訂草案の審議が行われ、また、K.calibr「EMF評価用機器の校正」、K.devices「人体に近接して動作するデバイスのRF-EMFばく露評価」、K.reflection「EMFばく露に対する金属構造物の影響」、K.Small「小型基地局 – 全体的なばく露レベルへの影響」、およびK.Suppl.MethDataEMF「RF-EMF評価のための方法論に関するガイダンスおよび電気通信設備からのRF-EMFへの人体ばく露に関する社会的懸念への対応」の新規草案策定に向けた審議が行われました。
■課題4(ICT環境におけるEMC問題)
本課題では、新たな通信装置、通信サービスや無線システムに対応したEMC規格の検討と既存勧告のメンテナンスを行っています。
今会合では、既存勧告K.49「デジタル携帯電話の電波による音声通信端末への影響に関する規定と性能判定基準」、およびK.54「電源基本周波数に関する伝導イミュニティ試験方法と試験レベル」の改訂が合意されました。
K.49は、有線の音声通信の携帯電話からの電波へのイミュニティ規定に関する勧告であり、定義と参照規定、各国の携帯電話周波数情報の最新化が行われました。K.54は、通信装置の電源基本周波数に対するイミュニティ規定に関する勧告であり、定義と参照規定の最新化が行われました。
新規勧告草案K.emc_satellite_ES「衛星通信用地上局のEMC規定と試験方法」、K.RIS_EMC「自己構成型スマートサーフェスのEMC」、K.emcUWB「UWB機器のEMC規定と試験方法」、K.PLC_emc「電力線通信技術を使用した屋外機器の電磁適合性要件と測定方法」の審議も行われて継続検討となりました。
WP2(新しい電気通信/ICT設備およびアプリケーションの環境効率)における審議状況
■課題6(電気通信/ICTの環境効率)
本課題は、前会期の課題6および課題11、12の一部を含む、電気通信/ICTやメタバースなどの新規先端技術に対する環境効率に関する課題の検討を行っています。環境効率と要求条件の明確化や技術的なソリューション、指標、KPI、関連する測定法に加え、スマートエネルギーシステムの開発、ソリューションの応用、地方における低コスト、ポータブルかつ環境効率の高いICTインフラに関する要件および技術仕様に関する勧告の策定を行っています。
今会合では、既存勧告L.1206(AC、-48VDC、400Vまでの直流の複数入力電源によるICT機器アーキテクチャへの影響)の改訂、および新規勧告L.1311(異種サーバに対するエネルギー効率測定手法とメトリクス)、L.1395(通信網で使われる電力、冷却、ビル環境システム等のインフラ機器向け監視制御インタフェース‐汎用インタフェース)、L.1396(通信網で使われる電力、冷却、ビル環境システム等のインフラ機器向け監視制御インタフェース‐ICT機器の電力/エネルギー/環境パラメータ監視に関する情報モデル)、およびL.1397(通信網で使われる電力、冷却、ビル環境システム等のインフラ機器向け監視制御インタフェース‐統合制御監視情報モデルを持つバッテリシステム)が合意されました。
L.1206改訂では、ICT機器内の電源アーキテクチャ、異なる電源を組み合わせた場合のバッテリーテスト機能への影響、すべての電源の組み合わせにおける電圧逆流のリスクを回避するための要件および絶縁要件の規定について、2024年改訂のETSI TS 103 531(1)と技術的に整合させる改訂を行いました。L.1311は、CPUとGPU、CPUとFPGA、CPUとASIC(Application Specific Integrated Circuit)の各カテゴリのサーバ調達の選定プロセスでの、ETSI EN 303 470(2)を基本としたエネルギー効率の測定方法、メトリクス/KPIを規定するものです。L.1395は、局舎機器マップ、制御インタフェース、情報モデル、プロトコル、ネットワークアーキテクチャ等の最小要件などを含む、各種インフラ機器の監視制御用の汎用インタフェースを規定しています。L.1396は、電力消費およびトラフィック伝送等の動作とエネルギー監視との相関の改善のため、各種値の測定方法、情報モデル、局舎とオペレーションセンタ間でのデータ転送プロトコル等を規定しています。L.1397は、ICT機器の統合制御および監視機能を備えたバッテリシステム(IBS)の構成および情報モデルを規定しています。
このほか新規ワークアイテムとして、L.DSEC(データセンタにおけるデータストレージのエネルギー効率管理の要件)、L.MF_ACinDC(データセンタにおける低電圧AC電力供給システムの監視フレームワーク)、L.Suppl_SBS(オフグリッド遠隔地域における持続可能な基地局サイトのためのソリューションおよび実践)、L.Testing_LCR(データセンタにおける冷却プレート液冷キャビネットのテストガイドライン)、L.TR_750VDC(データセンタ向け750VDC電力供給システム)、L.Water_DC(データセンタにおける水資源保全戦略に関するガイダンス)の合計6件の検討開始が合意されました。
■課題7(電子廃棄物、循環経済、持続可能なサプライチェーン管理)
本課題は、前会期の課題7、および課題13の検討内容の一部を含む、循環型経済の考え方、サプライチェーン管理の改善をベースとした電気通信/ICTに対する環境要件、および、製品・ネットワーク・サービスに関する環境性能に対するeco-ratingやデジタル製品パスポート(DPP)などについて、プログラムの検討を行います。シティおよびコミュニティに対して循環社会の考え方を応用させるための要件・技術的な仕様・効果的なフレームワーク、および循環型シティ/コミュニティに向けたベースラインシナリオを確立するために必要となる指標とKPIに関する勧告を策定しています。
今会合では、新規勧告L.1004(モバイル端末向けユニバーサル高速充電ソリューション)、および既存勧告L.1011(リチウムイオン電池の耐久性評価に向けたガイドライン)、L.1018(モバイル通信端末の耐久性評価に向けた規定)の改訂、L.1025〔ICTネットワークインフラ機器の原材料効率評価(サーキュラーエコノミー)、Part 2:サーバおよびデータストレージ向け安全なデータ消去機能〕、L.1080〔ICTネットワークインフラ機器の原材料効率評価(サーキュラーエコノミー)、Part 3:サーバおよびデータストレージ向けファームウェアおよびセキュアなファームウェア更新の可用性〕、L.1037(電子廃棄物に対する収集、事前処理、分解、価格安定、最終廃棄に向けたガイドライン)、L.1081(ICTのEoL端末における情報媒体の機密性に関する事例)、L.1621(循環型都市におけるKPI)が合意されました。また、既存勧告L.1007(携帯型ICTデバイス向け外部ユニバーサル電源アダプタソリューションの評価のためのテストスイート)の訂正が合意されました。さらに、Technical Report to L.1071(ICT製品のL.1071*およびETSI ES 204 082基準への適合性評価に関するガイダンス)が同意されました。
L.1004は、モバイル端末向けユニバーサル高速充電ソリューション(UFCS)全体のフレームワーク、主要構成要素の役割、レイヤ、通信フロー、システム要件、安全要件、環境要件、エネルギー効率要件などを定義、規定しています。L.1011は、リチウムイオン電池の耐久性を向上させるために、製品ライフサイクルの各段階での耐久性評価方法を使用条件に応じた電池性能、環境適応性、安全性、メンテナンス性などの観点から規定するものです。L.1018は、モバイル通信端末の耐久性を向上させるためのガイドラインを提供し、製品ライフサイクルの各段階における、環境適応性・メンテナンス・リサイクル・データセキュリティなどの観点からの耐久性の評価方法を規定しています。L.1025は、その消去機能と、評価方法、文書化、およびサーキュラーエコノミーへの配慮すべきことなどを規定しています。L.1080は、ICTネットワークインフラ機器の製造業者がファームウェアとセキュリティアップデートを適切に提供していることについて検証方法を規定し、その技術要件やアップデート提供状況の各国当局による確認方法などが含まれています。L.1037は、特に開発途上国におけるリサイクル率と資源回収率の向上をめざし、その収集・輸送・保管・解体・価値化・最終処分を、安全かつ環境に配慮した方法で行うための包括的なフレームワークを提供します。L.1081は、製品のライフサイクルが終了した状態にあるICT端末の情報記録媒体消去のための手順と事例を提供し、再調整、改修(リファービッシュ)、リサイクル施設での消去にも適用でき、データの機密性レベルに応じた消去方法をサポートして、情報漏洩リスクを最小化します。L.1621は、都市の政策立案者、市民、評価機関向けに、共有・リサイクル・改修・再利用・置換・デジタル化・削減の各観点について主要なKPIを定義して、都市の循環性を測定するためのフレームワークを提供します。L.1007は、そのソリューションのエネルギー効率、相互運用性、安全性、EMCにわたる機能的側面の評価に必要な試験リストを規定するものであり、今回の訂正では参照規格の更新が行われました。Technical Report to L.1071は、L.1071を基とするデジタル製品パスポート(DPP)の情報モデルを活用して、ICT製品の環境情報に関する適合性評価のガイドラインを提供します。
このほか新規ワークアイテムとして、L.1022rev(サーキュラーエコノミー:ICTにおけるサーキュラーエコノミーの定義および概念)、L.SPV_EOL(太陽光発電パネルの持続可能な廃棄管理のためのフレームワークおよび要件)、L.EW_INT_ACT(電子廃棄物のライフサイクルの完全性および責任)、L.GDSR(廃棄ストレージデバイスのデータ消去および資源回収に関するガイドライン)、L.DPIS(ICT製品向けのデジタル製品情報システム(DPIS)のモジュール化およびスケーラブルなデータシステム設計に関するガイドライン)の合計5件の検討開始が合意されました。
* L.1071:持続性と循環性に関するデジタル製品情報向け情報モデル。
WP3(ネットゼロ排出に向けた気候変動対策のための新しい電気通信/ICTソリューション)における審議状況
■課題9(他セクターへの影響を含む、電気通信/ICTが気候変動、生物多様性、環境に及ぼす影響の評価)
本課題は、前会期の課題9を継続し、パリ協定および国連による持続可能な開発目標と整合した開発トラジェクトリとするために、電気通信/ICT、AI、IMT-2020(5G)等に対する持続性影響に関する評価手法およびガイダンスの開発を行っています。気候変動と生物多様性課題の重要性を踏まえて、これらの課題に焦点を当てた検討を進めています。経済、環境、社会的な観点での評価を含む、より広い持続性を持つ開発評価の中で環境評価手法がどのように使われるかについての検討を行います。
今会合では、既存勧告L.1480(ネットゼロに向けた排出量削減:ICTソリューションの使用が他セクターのGHG排出量にどのようなインパクトを与えるかに関する評価手法)の改訂が合意されました。
L.1480は、GHG(Greenhouse Gas)排出量の公正で透明かつ包括的な評価を可能とするために、ICTソリューションの正味の二次効果を定量的に評価する方法論を提供します。
このほか新規ワークアイテムとして、L.1470rev(UNFCCCパリ協定と互換性のあるICTセクターの温室効果ガス排出トラジェクトリ)、L.ITservices_footprint(データセンタITホスティングサービスとクラウドサービスの環境フットプリントを評価する方法論)、L.Transition Plans(国および業界レベルでのICTセクターの移行計画に関するガイダンス)の合計3件の検討開始が合意されました。
■課題11(気候変動緩和およびスマートエネルギーソリューション)
本課題では、前会期の課題11の一部である、運輸、建築、製造などの他業界向けの電気通信/ICTを用いた気候変動緩和の促進のためのスマートエネルギーソリューションの要件、およびスマートグリッド・スマートエネルギーソリューションへの相互接続を考慮した給電システムのインタフェース仕様およびプロトコル仕様に関する勧告を策定しています。
今会合では、新規勧告L.1328(通信局舎およびデータセンタにおける廃熱再利用に関する規定)とL.1491(工業団地におけるネットゼロに向けた脱炭素化に対する電力消費測定方法およびベストプラクティス)が合意されました。
L.1328は、通信ビルおよびデータセンタにおける廃熱再利用技術に焦点を当て、現在直面している開発上の問題を踏まえ、廃熱再利用に関する評価指標や測定方法などを規定します。L.1491は、工業団地が高度なICTを用いてネットゼロを達成する方法に焦点を当て、ネットゼロに向けた評価プロセスとICTツール、ネットゼロを可能にするICTのベストプラクティスを提供します。
このほか新規ワークアイテムとして、L.MMOC(GHG低排出をめざしたマルチマイクログリッドスケジューリングアーキテクチャおよびシナリオ要件)、L.TLB(液浸型温度制御リン酸鉄リチウム電池システム)、L.ups_framework(インフラ向けのリチウムイオン電池を用いたUPSの管理システムフレームワーク)、L.ESS-adapt(環境適応型運用を支援するコンテナ型ESSの管理システムアーキテクチャ)、L.TR_GHG_DR(GHG排出係数に基づく電力網デマンドレスポンスのメカニズムおよびフレームワーク)の合計5件の検討開始が合意されました。
■課題12(持続可能でレジリエントな電気通信/ICTによる気候変動対策および気候変動適応)
本課題では、前会期の課題12と課題13それぞれの一部である、地方およびシティにおける気候レジリエンスの強化に向けた気候変動の緩和と適応、および低コストかつポータブルなICTソリューションの技術的な仕様、エネルギー効率の要件、指標、KPI、測定法に関する勧告を策定します。シティおよびコミュニティに対して循環社会の考え方を応用させるための要件、技術的な仕様、効果的なフレームワーク、および循環型シティ/コミュニティに向けたベースラインシナリオを確立するために必要となる指標およびKPIに関する勧告を策定します。
今会合では、新規勧告L.1510(気候変動に適応するデジタルインフラ向け環境KPI)が合意されました。
L.1510は、GHG排出量、水使用量、電力供給、生態系、廃棄物などをKPIとして規定し、インフラ事業者が業界全体で統一されたKPIにより、持続可能性目標に対する進捗を測定および報告可能とするものです。
このほか、新規ワークアイテムとして、L.Carbon_SLP(島の生物多様性に適応したスマート低炭素電力供給施設の構築に関するガイドライン)と、L.ICT4LGTL(物流輸送のグリーン管理を支援するためのICT利用方法論)の合計2件の検討開始が合意されました。
各WPで共通となる課題での審議状況
■課題8(環境に関するガイドと用語)
本課題では、勧告Kシリーズ、Lシリーズの中で使用されている用語の定義の検討、作成を行っています。また、これまでに制改訂された勧告の活用方法や用語の定義についてまとめたKシリーズ、Lシリーズ勧告のガイドの検討、作成を行っています。
今会合では、新規サプリメントL.Suppl.61(環境効率を確保するためのAIや他の新技術に関する標準化された用語集)が同意されました。
L.Suppl.61は、AI等の新技術での環境効率に関する用語集です。
会合の主なトピック
SG5開会プレナリーでの情報共有として、ITUのCOP関連の活動報告および前会合(2024年6月)以降に発行されたSG5関連の報告書の紹介が行われました。
■ITUのCOP関連の活動報告
COP29(2024年11月11~24日)のハイライト、COP30(2025年11月10~21日)に向けた準備について、SG5事務局より共有されました。COP29ではGDA(Green Digital Action)に関する閣僚級会議において、気候変動対策におけるデジタル技術の重要な役割を確認し、デジタル技術が気候変動対策をどのように変革できるかについて議論が行われた、との報告がありました。
■前会合(2024年6月)以降に発行されたSG5関連の報告書の紹介
① AIと環境 ― 2024年ITUレポート(2024年7月)
AIと環境の持続可能性に関する国際標準の重要性を強調し、ITUの役割と活動として、AI for GoodやGreen Digital Action (GDA)の取り組み、ITU-T SG5やFG-AI4EEの標準化状況をまとめた文書です。主な勧告を以下に示します。
・環境効率:L.1310、L.1320、L.1390
・環境影響評価:L.Suppl.41、L.Suppl.42、L.Suppl.55
・AIを活用した気候ソリューション:L.1326、L.1480、L.Suppl.48
・SDGsに向けたAI活用:FG-AI4EE-D.WG2-04、FG-AI4EE-D.WG1-10、FG-AI4EE-D.WG1-11
② AIの環境持続可能性のための標準化(2025年2月10~11日に開催されたParis AI Action Summitの発表資料)
AIの環境影響を評価し、環境影響を軽減するための国際的な標準化の取り組みをまとめた文書です。AIの環境持続可能性を向上させるため、ITU-T、ISO/IEC、IEEEにおける主な取り組み、標準化の範囲・課題・具体的な計画が含まれます。また、付録(Appendix 1、2、3)として、ITU-T、ISO/IEC、IEEEにおけるAIの環境持続可能性に関する標準化状況と今後の予定に関する情報も含まれます。
③ 通信局舎向けリチウム電池に関するホワイトペーパ(2025年3月)
ITUとHuaweiが共同で作成したホワイトペーパです。通信局舎におけるリチウム電池の重要性と役割、安全性の課題を踏まえ、リチウム電池の品質を確保するためには材料選定から設計、製造、テスト、展開までの包括的なアプローチが必要であり、国際標準の使用と持続可能なリチウム電池の廃棄・リサイクルを推進するとともに、ITU-T SG5の役割と標準化活動に参加することの重要性について説明した文書です。
④ データセンタにおけるリチウムイオン電池の安全性に関するホワイトペーパ(2025年5月)
ITUとHuaweiが共同で作成したホワイトペーパです。リチウムイオン電池は高いエネルギー密度とエネルギー効率を持つ一方で、火災や爆発のリスクが高く、データセンタ業界の関心が高まっていることを背景とし、リチウムイオン電池システムの内在的安全要件、火災安全要件、輸送安全要件、設置要件、保守・運用要件、緊急時に備えた計画・訓練、緊急対応の手順などの必要性を踏まえ、リチウムイオン電池の安全性向上と持続可能な管理に向けた国際標準の重要性を強調し、ITU-T SG5の役割と標準化活動に参加することの重要性について説明した文書です。
おわりに
今会合は、2025-2028会期の第1回会合として実施されました。今後は、2025年10月から11月にかけてジュネーブ(スイス)での第2回会合の開催が予定されています。
■参考文献
(1)https://www.etsi.org/deliver/etsi_ts/103500_103599/103531/01.02.01_60/ts_103531v010201p.pdf
(2)https://www.etsi.org/deliver/etsi_en/303400_303499/303470/01.01.01_60/en_303470v010101p.pdf