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グローバルスタンダード最前線

2022年-2024年研究会における第1回 ITU-T TSAG会合結果報告

ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)における2022年-2024年研究会の第1回TSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)会合が、2022年12月12~16日にジュネーブのITU本部とオンラインのハイブリッドで開催されました。今回、本TSAG会合におけるメタバースのFocus Group設立等を含む主な結果について報告します。

荒木 則幸(あらき のりゆき)/長尾 慈郎(ながお じろう)
NTT研究企画部門

TSAGの概要

TSAG会合では、ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)におけるすべてのSG(Study Group)の標準化活動を検証するとともに、作業方法、会議規則や他の標準化機関との連携に関する手続きなどの見直しを行い、今後ITU-Tが取り組むべき標準化課題の分析を基に、次会期に向けたSG体制案の検討を行い、4年ごとに開催されるWTSA(World Telecommunication Standardization Assembly)(1)への提案を検討します。
2022年12月12~16日にITU-T)の2022年-2024年会期におけるTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)の第1回会合が52カ国から約257名の参加の下、ジュネーブのITU本部とオンラインのハイブリッドで開催されました。日本からは、総務省国際戦略局通信規格課を日本代表団団長(HoD: Head of Delegation)として、尾上誠蔵次期TSB局長を含む、国内各社・団体(NICT、TTC、NEC、NTT、NTTドコモ、OKI、日立)から13名の現地参加と、総務省、KDDI、NICT、日立、富士通、日本ITU協会の8名のリモート参加がありました。
初日のプレナリにおいてTSAGマネジメントチームより、TSAG会合の新組織体制が提案され、了承されました。新組織体制ではこれまで設置されていなかった、2つのWP(Working Party)を新たに導入し、WP1の配下に、Working Methods (RG-WM)、WTSA Preparations(RG-WTSA)の2つのラポータグループを、WP2の配下に、Work Programme and Restructuring、SG work、SG Coordination (RG-WPR)、Industry Engagement、Metrics(RG-IEM)の2つのラポータグループを設置しました(図)。TSAGマネジメントチームを表に示します。TSAG議長はサウジアラビアのAbdurahman AL HASSAN 氏が務め、また10名のTSAGの副議長の1人としてNECの永沼美保氏が就任し、RG-WPRのラポータを務めることになりました。ISO/IEC JTC1とのリエゾンオフィサーとして、日立の三宅滋氏が継続で務めることが了承されました。

FGとJCAの新設

(1) メタバース(Metaverse)に関するFGの新設提案
ITU-T SG16(マルチメディア)より提案のあったメタバース(Metaverse)に関するFG(Focus Group)の新設に際しては、どの組織を親SGとするのかが議論のポイントとなりました。このため、初日のプレナリにおいて、ToR(Terms of Reference)を作成するためのAHG(Adhoc Group)を構成することが提案され、AHGリーダには、TSAG副議長のGaelle Martin(カナダ)が選出されました。AHGで議論した結果、FG on Metaverse(FG-MV)をTSAGの配下に新設することがプレナリで合意されました。トレードマーク観点からメタバースという用語を使うべきではないとの意見については、ITUの法務担当に確認し、製品を売るということではないので、特に問題ないことが確認されました。

(2) JCA on Machine-Learning (ITU-T JCA-ML)の新設
SG13(次世代ネットワーク)からのリエゾンによる要望があり、MLに関する課題がSG間で多岐にわたることから、初日のプレナリにおいてエンドースされました。検討の重複を避けるため、同様のMLに関する標準化を扱っているISO/IEC等とのコラボレーションの必要性が留意点として指摘されました。

(3) JCA on Quantum Key Distribution Network(JCA-QKDN) の新設
量子通信に関するフォーカスグループFG on Quantum Information Technology for Networks (FG-QIT4N)が、2022年に活動終了したことを受け、Quantum Key Distribution Network関連の課題がSG間で多岐にわたり、JCAのような場において相互調整機能を果たすことが必要であるため、本JCAの設立が中国より提案され承認されました。

WP1の主な結果

(1) 作業方法 ラポータグループ(Work Methods: RG-WM)
RG-WMでは、ITU-Tにおける作業方法やITU-T Aシリーズ勧告(Organization of the work of ITU-T)の改訂等に関する議論が行われます。今会合では、電子会議 のガバナンスと管理を検討するアドホックグループAHG-GME(AHG on Governance and Management of E-meetings)の活動報告がされました。AHG-GMEの議長は英国のPhil Rushton氏で、前回TSAG会合以降、もっとも活発に活動したグループです。前回TSAG以降4回のAHG会合があり、各種課題およびE-meetingを開催する際のガイドラインをまとめたことが報告されました。エディティングセッションで各国の修正コメントを反映した後、関連する以下の補足文書が合意されました。
・A Supplement. 4 “Guidelines for remote participation”
また、テレコムイタリア等からの相互接続試験に関する補足文書A.Supplement2の改訂提案が合意される等、作業方法に関する勧告、補足文書の今後の対応方針について議論されました。

(2) WTSA準備ラポータグループ(WTSA Preparations: RG-WTSA)
RG-WTSAでは、WTSA-24に向けた決議の統合化や簡易・合理化に関する議論が行われます。今会合では、カナダから、Aシリーズ勧告および決議1にみられる有用なガイダンスの簡潔な要約と参照を手元に用意することで、WTSAセッションの議長が効率的に作業できるようにするワンページャーを作成する、という提案がありました。ワンページャーは、RG-WTSAの下で、RG-WTSAガイドラインとして作成することを想定しています。本提案に対して各国からは、有用である・必要なしとの意見が分かれ、さらなる議論が必要であるということから継続検討となりました。また、ロシアからのWTSA決議とPP決議の統合化や簡易・合理化に関する提案がありました。PP-22(全権委員会議)からのインストラクションに従い、統合化、簡易・合理化に関する活動を継続すべきであることから、どのように実現すべきかに配慮しながら、活動を継続することで合意しました。
その他の議論として、「WTSA決議をレビューするための原則」についてのガイダンスの策定およびWTSA決議の準備のためのガイドラインを策定することが合意されました。

WP2の主な結果

(1) 作業項目・再編、SG作業/調整ラポータグループ(Work Programme and Restructuring,SG work,SG Coordination: RG-WPR)
RG-WPRでは、作業計画・体制・SG作業/調整について、すべてのSGの活動報告の検証、SGが提案する課題構成案に対しての承認や、Regional Groupの調整、SG間・他のSDO間・セクター間の調整、Smart Submarine Cable system、IMT-2020、Climate changeに関する事項にかかる調整などが議論されます。
本会合では、各SGのステータスレポートの紹介、他のSDOの活動報告などが行われました。また、SG再編分析のためのアクションプラン作成については、米国の参加者をエディタとして検討してきましたが、このアクションプランは、実証分析に基づいて、ITU-Tの潜在的な再構築オプションの徹底的な見直しをめざすもので、WTSA-24でのSG再構築案を承認することを視野に入れており、今後のTSAG対応課題として対処が重要となります。アクションプランを進めるにあたって、収集・分析するKPI/メトリックの定義の明確化、収集するさまざまなKPI/メトリックの優先順位とその実装時期を明らかにすることとなっていることから、SG再編に関する分析を行うためのプロジェクトプラン(WTSA-24までの線表)が作成され、合意されました。

(2) 産業界とのエンゲージメント、メトリクスラポータグループ(Industry Engagement,Metrics: RG-IEM)
RG-IEMでは、産業界からのITU-Tへの参加を促進するための施策等についての議論が行われます。本会合では、カナダから、本RGのToRに、産業界からの次世代のITU-Tへの参加を促進し、また既存のCXO/CTO会議の調整プロセスを含む、現在の産業界関与プロセスを徹底的に見直す要件を加える提案がなされました。法務的な観点から、参加するための義務と得られる権利についても考慮することが重要であるとの意見や、CXO/CTO会議への出席は非常に良い経験であったという意見がある一方で、ITU-Tに産業界から人が集まらないという本質的な問題があり、未来のエンジニアの参加が増加するように根本的な問題を解決することが重要等のコメントがありました。
また、中国からの産業界からの参加を促すために、ITU-Tのメンバではない組織にPPの決議等を含む回状(Circular)を送るという提案がありました。ロシア、サウジアラビアなどから同調する意見がありましたが、提案は拙速との意見もあり、最終的には、今後のアクションプランの一部に含まれることとなりました。

今後の予定

本研究会期の第2回TSAG会合は、2023年6月5~9日にジュネーブで開催予定です。次回WTSAまでの期間が短いことから約半年ごとの開催が予定されており、第3回TSAG会合は2024年1月に予定されています。2024年11月にインドで開催予定のWTSA-24に向けて、今会期におけるTSAGの最終2会合は、IRM(Inter-regional meeting、地域会合)会合と連結して開催することが提案されました。

■参考文献
(1)  https://www.itu.int/en/ITU-T/wtsa20/Pages/default.aspx