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Event Reports

DOCOMO Open House 2020 ―― ようこそ、5Gリアルワールドへ。そしてその先へ。 ――

2020年1月23、24日の2日間にわたり、東京ビッグサイトにて「DOCOMO Open House 2020 ―ようこそ、5Gリアルワールドへ。そしてその先へ。―」が開催されました。ここでは、本イベントの開催模様の紹介、ならびに主だった展示の詳細について解説します。

※ 本記事は「NTT DOCOMO テクニカル・ジャーナル」(Vol.28 No.1、2020年4月)に掲載された内容を編集したものです。

玉置 真大(たまおき まさひろ)

NTTドコモ

ま え が き

NTTドコモは、2020年1月23、24日の2日間にわたり、東京ビッグサイトにて「DOCOMO Open House 2020 ─ようこそ、5Gリアルワールドへ。そしてその先へ。─」を開催しました(写真1)。
ドコモは2020年のさらにその先を見据え、ビジネスパートナー(以下、パートナー)の皆様とともにお客さまの期待を超えることにより、お客さまへの「驚き」と「感動」の提供、パートナーとの「新しい価値」の協創をめざしています。本イベントは従来、さまざまな分野のパートナーとの協創事例などを基に先進性・技術力を世の中に広く伝え、新たな協創を生む場という位置付けでしたが、今回はこれに加え、来場者に利用者目線でドコモの描く未来観が伝わるよう趣向を凝らしました。会場では、協創を進めているパートナーの皆様とともに、5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things)などの最新技術と、それらを活用したビジネスソリューションについて紹介し(写真2)、また多彩な講演やプログラム、ドコモの考える未来の暮らしを体現した「DOCOMO 202X CONCEPT」も紹介しました。5G商用サービスの提供元年ということで本イベントは注目され、来場者数は昨年度と比較し、約1万人増の約2万4000人と盛況でした。
本稿では、本イベントにおける主だった展示の詳細について解説します。

写真1 DOCOMO Open House開催模様

写真2 事業創出

イベント概要

展示は286件にのぼり、「AI」「デバイス・UI/UX」「デジタルマーケティング」「IoT」「事業創出」「グローバル」「5G Vision」「5G Lifestyle」「5G Business」「5G Future & Technology」の10カテゴリに分類しました。各展示では、実際に動作可能な実機による体験やデモを通して、来場者にドコモの描く未来観を伝えました。
講演においては、初日の基調講演にて、吉澤和弘NTTドコモ代表取締役社長が「5G、より豊かな未来の到来」と題して、5G時代に向けたドコモがめざす未来や中期戦略について紹介し(写真3)、2日目には、中村寛取締役常務執行役員が「5G時代の幕開けとサスティナブルな社会の実現」と題して、5G、およびその先の通信技術やAIなどが普及するであろう未来において、現実世界とサイバー空間が融合することで実現される社会について講演しました(写真4)。その他、ドコモだけではなく、冨田直美氏(hapi-robo st社、ハウステンボス株式会社)、Rony Abovits氏(Magic Leap社)、大畑大介氏(元ラグビー日本代表、神戸製鋼コベルコスティラーズ、アンバサダー)などによる、多彩なテーマに沿った講演も開催しました。

写真3 吉澤社長による基調講演

写真4 中村常務による特別講演

DOCOMO 202X CONCEPT

本パビリオンは、会場内の展示の一部をピックアップして、ドコモの考える未来の暮らしを「HOME」「MOBILITY」「CAFE」「LIBRARY」「HALL」「ARENA」の6シーンで表現しました。技術的な説明は極力省いた体験型展示とし、各シーンそれぞれが組み合わさった際に、いったいどのような未来のユーザ体感が得られるのかを紹介しました。
例えば「HOME」では、居住者が朝起きるとAIが体の状態を把握し、気分や状態に合わせて室内の環境を心地良いものに切り替えるシーンがあります。これらは、下記の展示物が組み合わされています。
① 「高齢者見守りソリューション」:プライバシーに配慮し、ビデオカメラを使わずに居住者の健康状態・位置・姿勢を取得可能とするソリューション。
② 「スマートホーム」「未来の家プロジェクト」:各種IoTセンサが居住者のデータを集め、AIに基づいてユーザへのリコメンドやIoTデバイスを制御するソリューション。
その他にも、「カフェ」に入店すると「長距離ワイヤレス充電*1技術」を用いて自動でスマートフォンの充電が始まり、UWB(Ultra Wide Band)*2と各種無線規格を連携させた「おサイフケータイのタッチレス対応」技術により、レジの前に立つだけでポケットの中のスマートフォンが支払いを完了させるシーンがあります。
このパビリオン内で示したすべての生活シーンは決して夢物語ではなく、ドコモとパートナーが持つ技術を基にすることで実現可能な未来です(写真5)。

*1 ワイヤレス充電:電気的な接点を介さずに電力を送る技術。電磁気的な方式、光による送電、音波による送電などがあります。
*2 UWB:500 MHz以上の広い周波数帯域に拡散して送受信を行う無線通信方式。

写真5 DOCOMO 202X CONCEPT スポーツ観戦

カメラで人の動きを三次元デジタル化「VMocap」

本ブースでは、会場内に設置された円形のステージ上で、特殊な装置やスーツを用いずに、広い空間における複数人のモーションキャプチャを行うデモを行い、多数の来場者の関心を集めました(写真6、図1)。
本技術は東京大学 情報理工学系研究科 中村・山本研究室との共同研究で開発された技術で、同研究室の開発したカメラ映像だけからモーションキャプチャを行う技術「VMocap(ブイモーキャプ)」を応用することでこちらを実現しています。
一般的にモーションキャプチャを行うためには特殊な装置やスーツが必要で、計測場所や利用シーンが限定されるが、本技術は解析に用いるべき最適な映像を、複数のカメラから自動的に選択して切り替えることで、広い空間における複数人のモーションキャプチャを行います。また、人どうしの体が映像上で重なって見える状況下でも、人の骨格構造と運動の連続性、そして最新の画像認識技術を活用することで頑強に運動を推定することができ、フットサルのように複数の選手が激しく動き回るようなシーンでも、高精度で滑らかなモーションデータや骨の動きを取得できます(図2)。
今後は本技術を、サッカー・野球・体操・フィギュアスケートなどのスポーツに適用し、トレーニングや戦術解析、けがや故障の予防、運動のアーカイブ化などに役立てます。また、エンタテインメント領域における3Dアニメーション作成や、介護・リハビリ現場での運動評価などにも活用していく予定です。

写真6 デモンストレーションの様子

図1 ビデオモーションキャプチャのイメージ

図2 VMocap概略図

ARクラウドで実現する未来の生活スタイル

新体感コミュニケーションとして期待されるAR(Augmented Reality)*3/MR(Mixed Reality)*4について、「ARクラウド」の技術を活用し、未来の生活スタイルを想起させるデモの展示を行いました。
ARクラウドとは、あらかじめ展示ブース内の空間構造データを収集し、現実空間のコピーであるデジタルツイン*5を構築、特徴点群マップ*6による現実空間とデジタルツイン内の位置合わせを行う自己位置推定技術により、ARグラス/VR(Virtual Reality)*7ゴーグル/タブレットなどの異なる複数のデバイス間で共通のAR/MR体験を提供可能とする技術です。
展示では、古都をイメージした屋外の街並み、屋内のリビングの2つのエリアを模擬しました(図3)。来場者には、自分の位置に応じて近くの(模擬)店舗などのクーポンを提供する、複数の折り鶴がのれんから飛び出してくる、バス停の上に渋滞情報などを加味した到着予定時刻を表示する、人の動きに追従して頭の上にテキストメッセージを表示する、バーチャルペットや、リビングが一瞬にして美しい砂浜に変化するなど、さまざまなコンテンツをMagic Leap1*8、Mirage Solo、iPad*9の3つの端末でサイバーとフィジカルが融合した体験をしてもらいました(写真7、図4)。
来場者からは、Magic Leap1を体験したいとの要望が多く、最先端の空間コンピューティングデバイスで体験するARクラウドの世界観に、共感の声が多く聞かれた。

*3 AR:現実世界を写した映像に、電子的な情報を実際にそこにあるかのように重ねて、ユーザに提示する技術。
*4 MR:現実世界を写した映像に、電子的な情報を重ねて、ユーザに提示する技術。ARと異なり、自由視点での表示など情報を実際にそこにあるかのように提示します。
*5 デジタルツイン:現実世界のありとあらゆるものの位置や形状、各種センサ情報などをデジタルの世界にリアルタイムに再現されたもの。
*6 特徴点群マップ:現実空間とデジタルツインとの位置合わせ(自己位置認識)を行うために必要となる、カメラ画像が抽出された、画像の特徴点の集まり。
*7 VR:まるであたかも仮想世界にいるかのように錯覚を与える技術。近年はHMDを用いて主に視覚に働きかけ、このような錯覚を実現する手法が主流です。
*8 Magic Leap 1:「MAGIC LEAP」「MAGIC LEAP 1」、Magic Leapのロゴおよびその他のすべての商標は、Magic Leap, Inc. の商標。
*9 iPad:Apple、Appleのロゴ、iPadは、米国および他の国々で登録されたApple Inc. の商標。TM and © 2020 Apple, Inc. All rights reserved.

図3 展示ブース全体概要

写真7 デモを体験いただいたお客さまの様子

図4 iPadに表示された実際のコンテンツ

透明動的メタサーフェスによる柔軟な5Gエリア形成

5G以降の世代で利用されるミリ波帯の柔軟なエリア整備に向けて、ドコモとAGC株式会社が開発した「透明動的メタサーフェス*10」のプロトタイプを展示するとともに、実証実験の様子を動画で紹介しました。ドコモは昨年、同イベントで反射波の方向やビーム形状が設計可能なメタマテリアル*11反射板の展示を行いましたがいくつかの課題がありました。まず、メタマテリアル反射板はエリア拡大に有効である一方、設置場所に合わせた設計が必要となる点、反射板の裏が見通し外となり通信品質が劣化する点、加えて景観に影響を与える点です。そこで、ドコモが新たに原理提案・設計をし、AGCが材料・微細加工技術の検討および製造を行ったのが今回展示した「透明動的メタサーフェス」です。
本透明動的メタサーフェスは、透明化したメタサーフェス基板に重ねたガラス基板のμmオーダの微小な動きによって、メタサーフェス基板の透過/反射特性が大きく変化するよう設計することにより “透明性を維持したまま透過/反射率の動的制御” および “基板の大面積化” を実現しています(写真8)。
会場では、2020年1月に実証した28 GHz帯における400 MHz以上の帯域幅の電波をほぼ損失なく透過/反射制御した際の動画展示も実施し、透明動的メタサーフェスにより景観を損なうことなく動的に電波伝搬を制御することで、よりきめ細やかで柔軟な5Gエリア構築が可能となることを示しました。

*10 メタサーフェス:波長に対して小さい構造体を周期配置して任意の誘電率・透磁率を実現する人工媒質(メタマテリアル)の一種で、構造体の周期配置を2次元とした人工表面技術。
*11 メタマテリアル:電磁波に対して自然界の物質にはない振舞いをする人工物質のこと。

写真8 展示した透明動的メタサーフェス

あ と が き

ここでは、2020年1月23、24日に開催された「DOCOMO Open House 2020 ―ようこそ、5Gリアルワールドへ。そしてその先へ。―」の開催模様の紹介、および展示について解説しました。
ドコモでは、5Gの本格商用サービスを開始しており、将来に向けてお客さまの生活スタイルやコミュニケーションを革新する、楽しさ、驚きのあるサービスを創り出し、また、日本の成長と豊かな社会の実現をめざして、社会課題の解決に取り組んでいきます。

問い合わせ先

◆問い合わせ先
NTTドコモ
R&D戦略部
TEL 03-5156-1749
E-mail dtj@nttdocomo.com