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特集

NTTグループの食農特集──一次産業を日本の成長産業へ

「BLOFwareⓇ.Doctor」で実現する高品質・多収穫な有機農業

近年、持続的な農業として国内外で関心が高まっている有機農業ですが、品質や収量にばらつきがあり、生産が安定しにくいといった課題を抱えています。有機栽培技術「BLOFⓇ(Bio Logical Farming)理論」は、これらの課題を解決し、有機農業でも安定して高品質・高収量な生産を実現することができます。NTTコムウェアでは、このBLOF®理論のノウハウをシステムに取り込み、BLOF®理論に基づいた有機農業を誰でも簡単に実践できる営農支援クラウドサービス「BLOFware®.Doctor」として提供を開始しました。本稿では、BLOFware®.Doctorのサービス内容と今後の展開について紹介します。

梅下 博史(うめした ひろふみ)/宇野 真太郎(うの しんたろう)
小林 豊(こばやし ゆたか)/齋藤 剛(さいとう たけし)
鹿嶋 雅(かしま まさし)/和田 真里奈(わだ まりな)

NTTコムウェア

有機農業を取り巻く環境

近年、SDGs(持続可能な開発目標)が広く浸透し、地球環境を保全するための持続可能な農業として有機農業に対する関心が世界中で高まっています。
日本においても有機農業を推進する取り組みが活発で、農林水産省は、耕地面積に占める有機農業の取組面積を2050年までに25%(100万ha)まで引き上げる目標を掲げています(図1)。しかし、現在の耕地面積に占める有機農業の取組面積はわずか0.5%(23.7千ha)にとどまっており(2018年時点)(2)、これを約30年間で25%まで増やすことは、とても挑戦的な目標であることが分かります。また一般的な有機農業には、慣行農業*1よりも労力がかかるうえに品質や収量にばらつきがあり、生産が安定しにくいという課題があります。先の目標を達成するには、有機農業のこうした課題を解決し成功に導くために有効な技術をいかに確立し、普及させていくかが重要となっています。

*1 慣行農業:害虫駆除や除草などのために化学肥料や農薬を用いる農業のこと。

有機農業の課題を解決する「BLOF®理論」

その解決策となるのが、株式会社ジャパンバイオファームの小祝政明氏が提唱する有機栽培技術「BLOF®(Bio Logical Farming)理論」です*2。BLOF®理論は、科学的・論理的に土づくりを行うことで有機農業でも安定して高品質・高収量な生産を実現することができます(図2)。農作物が育つうえで最適な土壌をつくるためには、①細胞をつくるアミノ酸、②生命維持に不可欠なミネラル、③根の生育を促す中熟堆肥の大きく分けて3つの分野の条件を整える必要があります。
一般的に植物は、生育するために必要なアミノ酸(有機態窒素)を、光合成で作成した炭水化物と、根から吸収した無機態窒素を合成することでつくり出していますが、研究によって根から直接アミノ酸(有機態窒素)の吸収が可能であることも明らかになっています。
BLOF®理論では、この研究結果を応用して、農作物の生育を促すアミノ酸(有機体窒素)を肥料として与え根から直接吸収させることで、一般的な農作物よりも高品質・高収量を実現します。また高品質・高収量を促すために大量に消費した土壌中のミネラルを、現状の土壌の成分バランスを分析したうえで施肥*3によって適切に補充することで、翌年以降も安定した生産につなげることができます。さらに微生物の働きを利用した中熟堆肥を活用することで、ふかふかな団粒構造の土壌をつくります。これにより、根を地中まで深く張ることができるため、農薬を使用しなくても病害虫を寄せ付けない丈夫な農作物が育ちます。
このように、有機農業における課題ひいては有機農業の取組面積拡大の解決策となり得るBLOF®理論は、年々その技術が進化していますが、実践するには高度な専門知識やスキルが必要であり、なかなか普及が進まないという実情がありました。

*2 「BLOF®」、「BLOFware®」は、株式会社ジャパンバイオファームの登録商標です。その他、記載されている会社名、製品名、サービス名は、各社の商標または登録商標である場合があります。
*3 施肥:土壌に肥料をまくこと。

営農支援クラウドサービス「BLOFware®.Doctor」

そこでNTTコムウェアでは、ジャパンバイオファームと業務提携のうえ、BLOF®理論のノウハウをシステムに取り込んだ営農支援クラウドサービス「BLOFware®.Doctor」を2020年8月に提供開始しました。
BLOFware®.Doctorの開発においては、アジャイル手法を採用し構想段階からジャパンバイオファームと共同で取り組んできました。プロトタイプを基にBLOF®理論の有識者や生産者にヒアリングを行い、そこで得たBLOF®理論実践における課題感や要望を柔軟に仕様に反映することで、ブラッシュアップを重ねました。2019年8月には生産者協力の下、BLOF®理論に基づいた有機栽培実践の実証実験を行い、BLOF®理論に基づいた有機栽培の実践にBLOFware®.Doctorが貢献できることを確認、本実験で得た生産者からの操作性や機能性などに対する要望を取り込んだうえで、本格的なサービス提供に至りました。
開発と同様に、提供においてもジャパンバイオファームと共同体制を組んでいます。システムの構築や提供はNTTコムウェア、BLOF®理論のノウハウ・ナレッジ提供や実践におけるユーザ指導はジャパンバイオファームといったように、2社の強みに合わせた役割分担をすることで、生産者に密着したサービス提供を実現しています。
これまでBLOF®理論に触れたことがない生産者でも、簡単にBLOF®理論に基づいた有機農業が実践できるBLOFware®.Doctorには、大きく3つのポイントがあります。

■ポイント1 BLOF®理論が基礎から学べる

1番目はBLOF®理論を基礎から学ぶための機能が充実している点です。
BLOFware®.Doctorでは、BLOF®理論のコツを写真付きで分かりやすく解説する「グローイングマップ」を提供しています(図3)。各農作物の生育段階に応じた作業ポイントがまとまっている「BLOF®理論の教科書」として、BLOF®理論習得に向けた学習や、実際に農作業をする際のガイドとして活用することができます。
また、定期的にジャパンバイオファームによるBLOFware®.Doctorユーザ限定のオンラインセミナーを開催しています。ユーザ向けに特化した特別プログラムで、BLOFware®.Doctorの具体的な活用方法のレクチャーやそのとき必要な農作業がテーマとなっているため、セミナーで学んだことをすぐに実践することができます。
グローイングマップはクラウド上で何度でも参照可能、セミナーもアーカイブとしていつでも見直せるようになっており、普段の農作業の合間など好きなときに学習することができます。農業法人などの複数の生産者が所属する組織では、全員が同じ時間に集まることが難しい場合でも同じ内容を学ぶことができるため、共通言語の確立に役立ちます。

■ポイント2 誰でも簡単に土壌分析と施肥設計が実践できる

2番目は土壌分析と施肥設計が誰でも簡単に実践できる点です。
BLOF®理論の肝となる土づくりにおいて特に重要な工程が、現状の圃場の土壌成分バランスを分析する「土壌分析」と、圃場にどの肥料をどのくらいまくかを計算する「施肥設計」です。この工程がうまくいかないとBLOF®理論実践による効果が大きく下がることになります。
BLOFware®.Doctorでは、ジャパンバイオファームの土壌分析代行サービスと連携しています。圃場の土を採取してジャパンバイオファームに郵送すれば、ジャパンバイオファームにて代行して土壌分析が行われ、結果データが返送されます。結果データはBLOFware®.Doctorへ簡単にインポートすることができるため、すぐに施肥設計へ進むことができます。
従来のBLOF®理論における施肥設計は作業の補助となるExcelツールが公開されていましたが、複雑な計算や調整を必要とするため、BLOF®理論実践において初心者がつまずく理由の1つとなっていました。そこでBLOFware®.Doctorでは、生産者の声を基に、グラフを用いた視覚的に分かりやすい操作で誰でも簡単に施肥設計が行えるよう工夫しています。ユーザは画面上に自動で表示される最適な土壌成分バランスのガイドに従って使いたい肥料の量を調整するだけで、最適な施肥量をシミュレーションすることができます(図4)。計算や調整ロジックはすべてシステム内部に組み込まれているため、ユーザが意識する必要はありません。施肥設計結果のとおりに施肥することで、農作物が生育するうえで最適な土をつくることができ、高品質で高収量な生産を実現することができます。
またこれまで公表されていた施肥設計に関するノウハウは、土壌のミネラル成分バランスに関するもののみでしたが、BLOFware®.Doctorでは新たに窒素量に関するノウハウを取り込んでいます。必要な情報を入力するだけで、最適な窒素量やそのために必要な施肥量を自動で算出します。そのほかにもBLOFware®.Doctorでは、これまで公表されていなかったノウハウを多数取り込んでいます。例えば、これまでは全栽培作物で共通の計算ロジックのみが公表されていましたが、BLOFware®.Doctorでは水稲版、野菜版、果樹版で機能が分かれているだけでなく、ニンジン、タマネギ、ホウレンソウといった栽培作物ごとに最適化された計算ロジックを取り込んでいます。これらのノウハウはジャパンバイオファーム独自のもので、一切公表されていません。BLOFware®.Doctorにこれらのノウハウを実装することで、コアなノウハウは秘匿したまま、広く多くの生産者にBLOF®理論に基づく高度な技術を利用してもらえるようになりました。

■ポイント3 困ったときに助けてもらえる

3番目は困ったときのサポートが整っている点です。
BLOF®理論の実践者数は2000名ほどいますが、全国各地に点在しているため、新たにBLOF®理論に取り組もうとしても、周囲に誰も実践している生産者がいない、困ったときに相談できる他の生産者がいないという状況は少なくありません。
そこでBLOFware®.Doctorでは、システム上でBLOF®理論の有識者であるインストラクターにアドバイスを求めることができる「インストラクターアドバイス」というサポート機能を提供しています(図5)。まずユーザがインストラクターへの相談事項や実際の農作物の写真などをシステムに登録します。インストラクターはユーザからの相談事項や写真に加え、ユーザの圃場の土壌分析結果や施肥設計結果などの複合的な情報を基にアドバイスを返します。ユーザ1人ひとりの状況に応じて判断するため、かかりつけの医者のように的確なアドバイスをすることが可能です。
また全国のBLOF®理論実践者どうしの情報交換の場として、ユーザ限定のFacebookページも開設しています。インストラクターだけではなく生産者どうしでも交流することで、さらなるナレッジの蓄積が期待できます。

今後の展望

これらのポイントを備えたBLOFware®.Doctorの提供をとおして、BLOF®理論による生産者の成功をサポートします。現在は水稲版のみの提供ですが、2021年夏に野菜版、同年秋に果樹版も提供開始予定となっています。
今後は生産者の声やBLOF®理論の最新ノウハウの取り込み、インストラクターアドバイスのAI(人工知能)化やチャットボット化により、BLOFware®.Doctorをさらに使いやすいものにするとともに、生産から販売まで農業を総合的に支援するサービスBLOFware®シリーズとして発展させることで、生産者の収益向上への貢献をめざします。将来的にはグローバル展開も視野に入れ、世界の食糧危機の解決にも貢献していきたいと考えています。

■参考文献
(1)https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/team1-120.pdf
(2)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/meguji-full.pdf

(後列左から)宇野 真太郎/小林 豊/齋藤 剛/和田 真里奈/鹿嶋 雅
(前列中央)梅下 博史

NTTコムウェアは、「農業を魅力ある職業にする」ことを目的として農業ビジネスに取り組んでいます。今後も「BLOFware®.Doctor」をはじめとしたソリューションの提供をとおして、日本の農業の競争力を強化し、持続可能な農業生産を支えていきます。

問い合わせ先

NTTコムウェア
エンタープライズビジネス事業本部
金融ビジネス部 BLOFware担当
TEL 03-5796-3488
FAX 03-5796-9559
E-mail comware-blof-ml@nttcom.co.jp