グローバルスタンダード最前線
ITU-T SG2会合参加報告
ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector) SG(Study Group)2の第2回全体会合が、2023年3月13~22日に、42カ国137名が参加し、バーチャル会合形式で実施されました。SG2は、番号および識別子に関する標準化を行うWP(Working Party)1と、網管理に関する標準化を行うWP2から構成されますが、本報告ではWP1の状況を報告します。電気通信サービスの進展に伴い、番号・識別子に関するSG2の活動も幅広いものとなっており、ここでは、それらを9課題に分類し、各課題での勧告の策定に向けた活動状況について報告します。
一色 耕治(いっしき こうじ)/本多 麻理子(ほんだ まりこ)
NTTアドバンステクノロジ
はじめに
2023年3月13~23日に開催された、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector) SG(Study Group)2の第2回全体会合について、WP(Working Party)1の課題を、①番号計画、②IMSI/SIM関連、③番号使用適正化、④番号勧告メンテ・管理・割当、⑤ポーティング・スイッチング、⑥インタワーキング、⑦ENUM、⑧災害呼・緊急呼、⑨その他、の9課題に分類し報告します(表)。
番号計画
国際間にまたがる電気通信サービスのための番号計画の作成、番号リソースの割当のための要件等の諸規定を作成する課題です。番号計画に関しては、例えばOTT(Over The Top)へのE.164番号の使用なども番号計画に関連しますが、これについてはより関連の深い課題である「番号使用適正化」に記述しています。また、前会期~今会期に扱われた課題のうち、直近の第2回全体会合で扱われたものを中心に記載しています。
SG2では、IoT(Internet of Things)サービスへの番号使用のケースが世界的に増加する中で、IoT番号の構成を定義し番号割当を行うための勧告E.IoT-NNAIの新規作成が前会期に主要な課題の1つに設定されました。当初は欧州内のどこに車両が移動しても緊急呼サービスの利用を可能とするeCall等を主要なユースケースに想定して検討が進められ、基本的な番号構成案がすでに提案されています。しかし、E.IoT-NNAIの勧告化を待たず、グローバルIoTサービスの提供をめざす多くの国際ネットワーク事業者からは、既存のネットワーク用の国際番号(International ITU-T E.164-number for Networks)の割当がさまざまなIoTサービス用に申請され使用される状況になっています。このため、SG2の第2回全体会合後の中間会合(7月開催)では、「883」から始まる既存のネットワーク用の国際番号を再定義し、導入済みのサービスにも整合するかたちで、IoT番号として再定義する方向で、勧告E.IoT-NNAIの勧告化を早期に図る案がエディタの英国より出されました。最大15桁という番号長の制約の中で、IoT番号としての番号容量の確保やさまざまなサービスの選択が可能となるようにしたこれまでの検討を活かしつつ、既存のネットワーク用の国際番号の再定義をいかに図るかがポイントで、2023年11月の第3回全体会合で具体化に向けての議論が予定されています。
IMSI/SIM関連
携帯電話端末の加入者識別を行うIMSI(International Mobile Subscriber Identity)や、SIMカードの発行者の識別を行うIIN(Issuer Identifier Number)等についての課題です。
■IMSIの課題
IMSIは勧告E.212(The international identification plan for public networks and subscriptions)の規定に基づいて割当が行われ、携帯電話のSIM等に書き込まれています。グローバルIoTを考慮したIMSIについては、番号と同様に最大15桁というIMSI長の制約の中で、いかに容量の拡大を図るかという課題が前会期に議論されました。容量拡大のオプションについては、変更なし、フォーマットの拡張、後方互換性のない新たなスキーム、16進法によるコーディングなどが検討されました。しかし、導入が困難なことが予想されること、IoTサービスによる将来の増加の正確な予測は困難なものの、現時点では新たな申し込みに対してもリソース量の余裕が大であることなどから、当面は変更なしとして、毎回のSG2会合で使用状況の分析を実施していくこととなりました。
■IINの課題
今会期はIINの課題検討が中心になっています。IINはSIMカードの発行者番号であり、勧告E.118の規定に基づいて割当が行われています。IINはISO/IEC 7812のカード規定に準拠し、主要産業識別子(MII: Major industry identifier)が電気通信用(telecommunication purposes)として規定される「89」から始まる番号になっています。これまでIINについては各国主管庁から割り当てられていましたが、グローバルサービスの進展により、グローバルに使用するIINについてもTSB(Telecommunication Standardization Bureau)からの直接割当が必要となり、勧告E.118.1として検討が行われ、第2回全体会合で勧告化が承認されました。
また勧告E.118についても、中間会合(7月開催)で、最新情報を盛り込んでの改定案が提案され、2023年11月の第3回全体会合で具体化に向けての議論が予定されています。
番号使用適正化
番号の悪用に対処するための番号使用適正化の課題です。現在、この分野への提出寄書数がもっとも多い状況にあります。ネットワークのIP化やOTTサービスの増加の中で、発番号詐称や、課金変更を目的にした不正な呼のルーティング変更などの問題が国際間でも多発している状況が背景となっています。特に、被害が多い途上国からの寄書提出も増加しており、SG2におけるもっとも重要な課題となっています。
■番号誤用報告ガイドライン
この課題は、番号リソースの悪用による被害等の問題発生時のTSBへの報告手順やTSBのとるべきアクションのガイドラインを規定した、勧告E.156の改定をするものです。2022年5月の第1回全体会合で、誤用レポートのフォームの改良、決議61(国際番号の誤用への対策)との整合性の議論が行われ、今会合でも引き続きエディタのインドからベースラインテキストの記述の更新に関する提案があり、勧告案の更新が行われました。
■ワンギリ対策
この課題は、ワンギリによる詐欺への対策を検討するテクニカルレポートのTR.MMWFの策定を目標にしています。第2回全体会合での合意を目標にしていましたが、ワンギリ対策として挙げた18項目中のDistributed Ledger Technology(DLT) Platform(分散型台帳技術プラットフォーム)については、即応性の観点から適当であるか検討すべきとのコメントや、全体的に記述された内容の整合性や、略語の統一などエディトリアルな修正が必要との指摘が出されました。このため、合意は次回に延期となりました。
■E.164番号のOTTへの使用
OTTサービスでの番号使用についても、番号使用の適正化の検討の対象とされ、この課題では、E.164番号の識別子としてのOTTサービスでの使用方法に関するテクニカルレポートTR.OTTnumの策定を目標にしています。今会合では1月開催のドラフティングセッションの出力文書をベースに、完成に向けた作業が進展しました。
NTTは本課題の検討の進展に向けて、第1回全体会合および第2回全体会で、E.164番号のOTTへの使用のユースケースについて分類した寄書を提出しました。このNTT提案に関しては、本テクニカルレポートのスコープを超えているとの意見がある一方で、非常に有益な内容であり活用すべきとの意見もありました。これを受けて、中間会合(7月開催)では、新WI(ワークアイテム)での活用の提案をNTTより行い、2023年11月の第3回全体会合に向け、既存WIとの関係等について議論を継続することとなりました。
■選択的呼設定手順
この課題では、新規勧告E.ACPの作成を目標にしています。ACP(Alternative calling procedures: 選択的呼設定手順)は、国際接続において、通常のPSTN(Public Switched Telephone Network)/PLMN(Public Land Mobile Network)間のインタワーキングではなく、例えば、OTT アプリケーションや、IP ネットワークとのインタワーキング、SIMboxの使用、国際コールバックなどの使用により、QoS(Quality of Service)/QoE(Quality of Experience)およびパフォーマンスを著しく低下させる通信形態とされています。また、ACPにより通常とは異なる経路での国際ルーティングが行われることにより、国際間での合意と異なる国際間課金が行われる問題も多数発生しています。今会合では英国から寄書提出があり、無効とするACPが各国の規定により異なることが指摘されました。この観点から、E.ACPに国ごとの見解をTSBに通知し、掲示板などで情報公開することを文書に含めることが本会合で合意されました。
■その他の課題
・国内番号を使用したspoofing(なりすまし)の課題では、2021年に承認されたTR.SPNについて、着ユーザの近隣の番号による発番号詐称のneighbor spoofing等がスコープに含まれているか等の観点から再検討が必要との提案がスーダンよりありました。これを受け改訂作業を進めることとなり、各国のspoofingの状況に関する情報の寄書提出が求められました。
・許容される呼のマスキングの課題は、テクニカルレポートTR.PCMの作成を目標にしていますが、今会合での議論はありませんでした。
番号勧告メンテ・管理・割当
本課題は既存勧告による番号割当等の中で必要となる勧告の改訂を行います。多くの既存勧告の見直しが対象となっていますが、特に以下の2つの課題が注目されます。
■グローバルなNNAIの割当プロセス記載の統合
この課題では、新規勧告E.gapの作成を目標にしています。番号の申し込みや割当手順の分かりやすさ等の観点から、E.164、E.212、E.118、E.118.1、E.218の各既存勧告で規定される複数の国際リソースの割当手順とプロセスの記載を1カ所にまとめたものになっています。本勧告案は、今会合で凍結(Determination)の承認を得て、勧告番号E.1120が付与され、今後TAPコンサルテーションを経て、第3回会合で勧告化の承認を得る予定です。
■国際番号リソースの割当後の監査
この課題は、新規勧告E.auditの作成を目標にしています。Eシリーズ番号の割当は、勧告E.190を基準としていますが、割当後の番号管理について規定する勧告が存在していないという問題がありました。このため、TSBまたはITU-T SG2の番号エキスパートが、番号リソースの割当要件に照らし、番号リソースの使用状況の監査の実施について規定することを目的とし、本会合で新ワークアイテムとして作成を進めることが承認されました。
■その他の課題
中間会合(7月開催)では、国際番号リソースの管理、割当、再利用に関する原則と責務について規定する勧告E.190に関して、現在検討が進められている改定すべき内容について議論され、次会合にインプットされることになりました。
ポーティング・スイッチング
本課題は、番号ポータビリティに関するE.164 Supplement 2の改定、IoTサービスプロバイダによるキャリアの変更(キャリアスイッチング)の手順について規定するTR.Carrier-Switchingの作成を目標にしています。
中間会合(7月開催)では、E.164 Supplement 2のエディタであるNTTよりIoTサービスにおける番号ポータビリティに関する考察を行う寄書が提案されました。本提案は、E.164 Supplement 2の改定に向けて有益な内容であるとともに、E.IoT-NNAIからも参照できるようにすべきとされ、引き続き11月の第3回全体会合で議論を進めることとされました。
TR.Carrier-Switchingに関しては英国・インドがエディタで作成が進められていますが、今会合での議論はなく、引き続き次会合に向けて寄書提出が求められました。
インタワーキング
公衆回線交換国際電気通信網とIPベース網の相互接続時のサービス原則について規定する課題であり、既存勧告E.370の改定を目標にしています。
PSTN、 ISDN(Integrated Services Digital Network) PLMNなどの国際ネットワークがIPベースのネットワークとインタワークする場合のサービスに関する勧告であり、最新化に向けて改訂作業が進められています。本会合では、国際ネットワークの構成に関するE.370 の改定案に“OTT”の表記を含めるべきかの議論があり、引き続き2023年11月の第3回全体会合に向けて議論を進めることとしました。
ENUM
電話番号とインターネットアドレスの対応付けを行う機能であるENUM(Telephone Number Mapping)について規定する課題です。
主要な検討課題としては、新規勧告E.ENUMINFの作成を目標にしています。本来のENUMとENUMライクな機能であるInfrastructure ENUMが、他SGの検討などで混同されている状況から、明確な差別化の規定を作成することを目標としています。
また、その他のENUMの課題として、ENUMのトップレベルドメインのtier0(e164.arpa)を運用するRIPE NCC(Réseaux IP Européens Network Coordination Centre)からの問題提起への対応があります。RIPEからは、加盟国レベルのtier1 の59の割当のうち正常な稼働が認められるのは35のみとの報告を受けたことから、当該国の状況を把握するために、ENUMの稼働状況を規制当局に問うレター案をTSBが作成し、2023年11月の第3回全体会合に向けて議論を進めることとしました。
災害呼・緊急呼
本課題で現在活発に活動中の課題としては、SG2配下のグループとして、AI(人工知能) を活用して、自然災害からの回復力を強化する方法を検討するフォーカスグループ(FG-AI4NDM)の活動があります。
FG AI4NDM(Focus Group on Artificial Intelligence for Natural Disaster Management)は、2020年12月にSG2配下に設立され、AIを活用して自然災害からの回復力を強化するための、データの収集と処理、モデリング、効果的なコミュニケーションを検討しています。今会合では、新型コロナウィルス感染症による議論の進捗への影響もあり2024年3月までの延期が承認されましたが、7テーマのWG(Work Group)/WS(Work Stream)のうち先行する3つのWG/WSの検討結果が正式な成果文書として提出されました。特に、WG-CommsではAIを使用した自然災害管理(NDM)における効果的なコミュニケーション方法として、「AIを活用するコミュニケーションシステムとベストプラクティス」、「NDMのためのコミュニケーションシステムへのAI適用のベストプラクティス」がまとめられています。こうしたベストプラクティスと併せて、最終報告に向けて具体的なユースケースの技術的な検討が進んでおり、今後各国で災害管理等へのAI適用の活発化が想定される中で、検討状況が注目されます。
その他
WTSA(World Telecommunication Standardization Assembly)決議対応の議論は勧告化に向けたワークアイテムはないものでも課題発生時に適宜議論されます。また、番号割当を担当する専門家チームNCT(Number Coordination Team)の国際番号割当等の活動、NCT報告からの課題の議論、国際番号リソースの割当状況に応じたリソース逼迫対策等の議論、各国の国内番号計画へのコンサルティング等の対応は、ワークアイテムとは別に適宜議論されます。
おわりに
電気通信サービスの新たな進展やネットワーク形態の変遷に伴い、番号・識別子が担う役割は変化してきており、SG2での活動も幅広いものとなっています。次会期に向けての取り組みの検討が始まっていますが、依然として継続して取り組むべき課題が多いと考えられます。こうした動向を見極めながら、番号・識別子にかかわる標準化活動等、積極的な取り組みを今後も進めていきます。