from NTT東日本
NTT東日本グループによる東南アジア諸国での新規事業開発──成長が著しいベトナムにおけるテックスタートアップ企業との協業
現在、NTT東日本グループでは日本国内の地域創生にさまざまなかたちで貢献することをめざして、日本×東南アジアにおけるシナジー形成および新規ビジネスの開拓に取り組んでいます。ここでは、NTTイーアジア(NTT東日本100%出資の子会社)によるベトナムのスタートアップ企業・AWING社への経営参画を通じた、既存の無料Wi-Fiネットワークを活用したデジタル広告配信プラットフォーム事業の海外展開の取り組みについて紹介します。
東南アジア地域におけるビジネスの成長機会をとらえるNTT東日本グループ
これまでNTT東日本では、NTT e-MOI(ベトナム・ハノイ市、2024年4月にOCGより社名変更)による高品質かつ安価・スピーディなソフトウェア開発(1)や、ベトナム・ビンズオン省のスマートシティ化に向けたICTインフラ整備等のグローバルプロジェクトを実施してきました。
昨今、NTT東日本グループではソーシャルイノベーション企業としての新たな価値提供に取り組んでいますが、その挑戦は日本国内だけにとどまるものではありません。現在は、東南アジアを中心とした国・地域において、既存の事業・プロジェクトを通じて得られた知見・経験を糧とした深い入り込み・理解に根差した「共感型DX(デジタルトランスフォーメーション)コンサル」の実践により、それぞれに適したソーシャルイノベーションに資する新たな事業の発掘・形成・立ち上げを推進しています。
東南アジアにおけるNTTイーアジアのグローバル事業戦略と主な取り組み
こうした中で、NTTイーアジアは、国内と海外の懸け橋を担う立場でNTT東日本グループの中でグローバルビジネスの形成・推進等といった重要なミッションを掲げています。アジアの地域社会の成長と発展のために、NTT e-MOIを通じたソフトウェア開発事業とグローバル事業(図1)の2つの主軸事業に注力し、革新的なテクノロジに基づいたソリューションを提供することで、持続可能で豊かな社会の実現をめざしています。
グローバル事業の通信インフラ・スマートシティ開発領域に関しては、2018年からベトナム南部ビンズオン省の新都市開発エリアにおいて、ブロードバンドアクセスを提供している現地通信企業VNTT社とともに光アクセスネットワークの構築に取り組んできました。そして、光通信インフラを活用したNTT東日本のギガらくWi-Fi等付加価値サービスの商用展開を実現し、地方都市のスマートシティ実現に向けたビジネスモデル構築も手掛けています。インドネシアでは、同国政府の定めた「インドネシアブロードバンド計画」によりFTTH(Fiber To The Home)加入者増が急務となっていたインドネシア最大通信事業者PTテレコムに対し、有償コンサルによる技術支援や研修を実施しました。2022年度には、インドネシア国内7拠点で研修を実施し、安全性の向上、工法の改善など、高い評価を受けています。
加えて、NTTイーアジアは新たな成長事業を発掘・形成するために、ASEANの主要都市であるホーチミン、シンガポール、ジャカルタに活動拠点を設置し、各地域の市場環境や社会課題などについてビビッドな情報を自ら収集するほか、現地での人脈形成を図り、スタートアップ企業も含めた新たな事業パートナー候補のとの関係構築を通じて、将来の協業可能性について議論するなどといった活動を日々進めています。
ベトナムのスタートアップ企業AWINGへの戦略的パートナーとしての経営参画
これらの活動の第一歩として、NTTイーアジアは、ベトナムのスタートアップ企業であるAWINGとの協業を開始しました。AWINGはベトナム・ハノイ市に本社を持つ2017 年設立のスタートアップ企業で、無料Wi-Fiにアクセスした利用者に広告配信し、広告主から得た収入を Wi-Fi アクセスポイント(Wi-Fi AP)のオーナーと分配するプラットフォーム事業を展開しています(図2)。
同社は、この数年間で事業基盤を着実に拡大しており、Wi-Fi広告ビジネスにおいてはベトナムトップシェアを誇ります。また、ベトナム国内では、全国63省中62省まで配信をカバーし、累計の利用者は4100万人、2023年に年間1.1億クリック(平均クリック数800万/月)にものぼり、平均70%近くの高い広告クリック率を誇るなど、実績においては他社との圧倒的な優位性を持っています。Wi-Fi APオーナーとしては、大手飲食チェーン、大型ショッピングモール、空港、コンビニエンスストア、大学キャンパス、病院チェーン、工業団地等が同社のプラットフォームに参加し、広告主としては日系を含む500社以上の大手企業が同プラットフォーム経由で多様な広告を配信しています。
同社のプラットフォームの強みとしては、Wi-Fi APオーナー、広告主の双方に大きなメリットがある点です。Wi-Fi APオーナーは、既設のWi-Fi APをAWINGのプラットフォームに登録し、利用者(顧客)がそのWi-Fi APから無料Wi-Fiにアクセスし、最初に広告を見ることで、広告主からの収入を得ることができます。これによって、通信コストがカバーされるだけでなく、閲覧数によっては収益にもつながります。また、Wi-Fi APオーナーは、自らのWi-Fi APが提供する広告配信枠の一部を使って、自社の広告も配信することができます。
一方で、広告主は図3のようにロケーション情報をベースに広告配信先や動画・静止画等、多様な広告形式を選択できることで、潜在顧客層とのマッチングが可能です。さらに、利用者がどこの店舗でいつ、どんな広告をクリックしたかをすべて把握できるため、デジタル広告による測定可能な効果を求める広告主にとっては大変有効な手段となります。また、顧客は自宅でインターネット画面を見ているのではなく、今まさにその場所にいらっしゃるため、例えばショッピングモールの中で、注目店舗や注目商品に効果的にセミリアルタイムに誘導することができるなど、プレミアムな広告配信モデルだと位置付けられています。
Wi-Fi APオーナーが増えれば増えるほど、特定顧客層に対し広告を配信したい広告主も多く出てきますし、その逆もあります。こういったネットワーク効果が、AWINGの最大の強みともいえます。
現時点で東南アジア地域等にAWINGと同等のビジネスモデルで成功を収めている事業者はほかにありません。また、同社が内製で開発したWi-Fi AP設置場所や時間帯、ユーザ特性に応じ適切に広告を選択して配信できるプラットフォームのアルゴリズムは、ベトナムで特許を取得し、高い拡張性を持っています。今後は、ベトナム同様に高い成⾧率を持つ東南アジア諸国のデジタル広告市場への参入を企図しています。また、日本においても、新規でのWi-Fi APオーナーの獲得、既存Wi-Fi APオーナーへの展開の両面でビジネスチャンスがあると考えています。
NTT東日本およびNTTイーアジアは、各国の通信事業者、NTTグループ企業等とのリレーションを活用することで、AWINGの迅速な事業拡大および海外展開をめざし、戦略的な事業パートナーとなるべく、2024年3月にAWINGへの出資契約を締結しました(図4)。本出資完了後、NTTイーアジアがAWINGの筆頭株主となり、取締役を派遣し、同社の経営に事業戦略立案・実行等の立場で参画しています。
NTTグループとのシナジーを見据えて
NTTイーアジアは、AWINGとの海外展開戦略において、手始めに東南アジア諸国の中でもっとも人口が多いインドネシアで市場開拓の活動を開始しています。インドネシアでの本格展開に向けてすでにテストマーケティングを実施し、Wi-Fi APオーナーとしては、現地レストランチェーン、広告主としては日系大手消費財メーカに参画いただき、既存Wi-Fi APシステムとの連携ならびに広告配信効果を確認しました。参画したAPオーナーからは、AWINGのプラットフォームに無料で参画できるだけでなく新たなレベニューシェアが見込める点や、既存のWi-Fi APシステムとの連携においてAPオーナー側で煩雑な作業が必要ない点を高く評価いただきました。インドネシアではすでに現地最大手通信事業者(図5)や大手ISP等へのアプローチを行い、Wi-Fi APパートナーとして提携する検討が具体化しています。また、インドネシアのほかに、シンガポール・タイ等からも続々と引き合いをいただいています。
さらに、日本も重要な市場として位置付けており、NTT東日本やNTTグループとの連携により大きなシナジーが生み出せると考えています。例えば、外国人観光客の誘致に悩んでいる地方自治体に対しては、観光地や名産品等の映像を交えた広告を配信し、遠く離れたベトナムのカフェ・レストランにいる人々に対し直接アプローチするソリューションとしての提案が可能です。まさにクロスボーダーのプラットフォームの強みを活かすことができます。また、日本を訪れるインバウンド観光客が滞在中の各地方のホテルWi-Fiに接続した際には、近隣のレストランや観光地など、その場のロケーション情報を活かした広告を配信することも可能であり、街中への誘導や地域経済への発展に寄与することもできます。
加えて、NTTグループが全国各地で多様な業種のお客さまに提供するWi-Fi APとの連携ができれば、AWING単独ではなし得ない切り口で日本国内のビジネス拡大が可能となります。すでに複数の支店やグループ会社から関心を得ており、ベトナム全土の利用者にアプローチできる点を評価いただくなど、日本の地域から東南アジア向けに発信する広告市場の可能性を実感しています。読者の皆様の事業との連携において、ご関心・ご興味のある方がいらっしゃれば、ぜひお声掛けをいただければ幸いです。
今後も、NTT東日本およびNTTイーアジアは、AWINGとの協業を足掛かりに、ともに事業を通じて地域の未来を支えるソーシャルイノベーションを巻き起こす海外企業の発掘・事業提携を推進していきます。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/22303
問い合わせ先
NTT東日本
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