グローバルスタンダード最前線
ITU-T WTSA-24 (世界電気通信標準化総会) 参加報告
世界電気通信標準化総会2024(WTSA-24:World Telecommunication Standardization Assembly-24)は2024年10月15~24日の期間にインド・ニューデリーで開催されました。WTSAは、元NTT CSSO(Chief Standardization Strategy Officer)の尾上誠蔵氏が局長を務める国際電気通信連合電気通信標準化局(ITU-T:International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)におけるもっとも重要な総会で、4年に1度開催されます。本稿ではWTSA-24の概要と主な審議内容を紹介します。
山本 浩司(やまもと ひろし)†1/福園 隼人(ふくぞの はやと)†1
原 美永子(はら みなこ)†2/山岸 和久(やまぎし かずひさ)†3
中島 和秀(なかじま かずひで)†4
NTT研究企画部門†1
NTT情報ネットワーク総合研究所†2
NTTネットワークサービスシステム研究所†3
NTTアクセスサービスシステム研究所†4
WTSAの位置付けと体制
WTSA(World Telecommunication Standardization Assembly)は国際電気通信連合電気通信標準化局(ITU-T:International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)の総会であり、4年に一度開催されます。図1はITUの構造とその中でのWTSAの位置付けを示しています。ITUは全体の意思決定を行う全権委員会会議(PP:Plenipotentiary Conference)が最上位に設置されており、PPも4年に一度設置されます。2022年9月26日~10月14日のPP-22では日本から擁立された元NTT CSSO(Chief Standardization Strategy Officer)の尾上誠蔵氏がITU-T局長に選出され、2023年から次の選挙までの4年間の任期を予定しています。PPの配下には理事会(Council)が設置され、さらにその配下に事務総局(General Secretariat)とITU-R(Radiocommunication Sector:無線通信局)、ITU-T、ITU-D(Development Sector:開発局)の計4局が設置されています。WTSAはITU-T内の最上位に設置される総会であり、配下のSG(Study Group)およびTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group)の規則を定める決議(Resolution)の新規提案・改訂・廃止、および各グループの議長・副議長の選出を行う重要な会議です。図2はWTSA-24の審議体制を示しています。WTSAは図のように、総会としての意思決定を行う全体会合(PL:Plenary Session)の配下に5つの委員会(COM:Committee)を設置します。COM1は会議運営、COM2は予算管理、COM3は作業方法、COM4は作業計画・組織、COM5は編集をそれぞれ行います。COM3およびCOM4配下には、詳細な検討を行うためWG(Working Group)がそれぞれ2グループずつ設置されます。WTSA-24では日本からCOM3の議長、およびCOM4の副議長の計2名が選出され、活躍しました。
WTSAでは、ITU-Tの活動指針、作業方法など定める決議に関する審議に加え、SGの再編、SGおよびTSAGの議長、副議長の選任などを行います。そのため、WTSAでの議論の多くは政策的課題や組織の運営方針に関するものが多く、SG会合とは異なり、政府関係者の参加が多いことが特徴です。個々の審議では技術的な内容も含まれることから民間企業からの参加も重要な役割を担っています。また、WTSAでは、6つの地域〔アジア太平洋地域(APT:Asia-Pacific Telecommunity)、欧州地域(CEPT:European Conference of Postal and Telecommunications Administrations)、米州地域(CITEL:Inter-American Telecommunications Commission)、アフリカ地域(ATU:African Telecommunications Union)、アラブ地域(LAS:Council of Arab Ministers of Telecommunication and Information represented by the Secretariat-General of the League of Arab States)、ロシア地域(RCC:Regional Commonwealth in the field of Communications)〕からの提案に基づき審議される特徴があります。
WTSA-24の概要
前回のWTSA-20は当初、2020年にインド・ハイデラバードで開催される予定でしたが、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の世界的な拡散に伴い度重なる延期がされ、最終的には2022年3月にスイス・ジュネーブの現地およびオンラインによるハイブリッド会議により開催されました。
今回のWTSA-24は通常の現地開催となり、2024年10月にインド・ニューデリーのPragati Maidanで実施されました。図3はメイン会場となったPragati Maidan内の建物Bharat Mandapamの外観です。また、図4はBharat Mandapamの大会議室で実施されたWTSA-24プレナリ会合の様子です。プレナリ会合では今回参加した164の加盟国(member states)の代表団が一堂に会し、尾上局長を含むITU幹部およびWTSAの議長団が会議の指揮を執り、進行されました。
■スタディグループの再編
2024年1月に開催されたTSAGへのSG統合に関する日本からの提案により、ITU-Tでは16年ぶりとなるSGの統合(SG9+SG16)が合意され、SG21が設立されました。元々、SG9は“Broadband cable and TV”、SG16は“Multimedia”と題されたものでした。新しいSG21は“Multimedia, content delivery & cable TV”と題され、IP(Internet Protocol)ベースおよびケーブルベースを含む既存および将来のネットワークのためのマルチメディア技術を研究するSGとなります。
■各グループの議長・副議長の選出
各グループ(TSAG,SGs)の議長、副議長の選任に関しては過去(WTSA-20以前)WTSA決議35に規定がありましたが、2018年のITU PP-18において新決議208(Appointment and maximum term of office for chairmen and vice-chairmen of Sector advisory groups, study groups and other groups)が承認され、前回のWTSA-20でWTSA決議35の廃止が承認されています。PP決議208では、地域バランスを考慮して各SGの副議長は各地域から3名以内とする規定などが含まれています。今回WTSA-24においても、PP決議208に基づき次会期(2025~2028年)の議長、副議長が選任されました。表がその結果を示しています。表内の※は二期目を表しており、また日本からの選出者は赤字で示しています。日本からは議長が1名、副議長が7名選出され、NTTからは1名が選出されました。
■新決議案
WTSA-24では8つの新しい決議案 digital public infrastructure(COM4/DPI)、メタバース(COM4/MV)、sustainable digital transformation(COM4/SDT)、次世代のエキスパートのエンゲージメント促進(COM3/APT-NG)、vehicular communication(COM4/VC)、戦略企画(COM3/SP)、人工知能(COM4/AI)、緊急通信の位置情報提供(COM4/CLI-C)、が了承されました。COM4/AIの新決議案については、前回のWTSA-20でアラブ諸国から提案され草案作成が進められましたが、欧米諸国や日本から作成の見送りを提案したことで見送っていたものです。人工知能の重要性が社会的に高まっている中、今回のWTSA-24で決議了承となりました。
会議内のイベント
今回のWTSA-24は前回のコロナ禍で制限された環境から一転、多くの参加者が訪れまた同時にさまざまなイベントが開催されました。例えば、10月17日に開催されたNetwork of Women for WTSA-24(図5)ではITU-Tで活躍する女性の方々の表彰やパネルセッションが行われ、ITU事務総局長のドリーン・ボグダンマーティン氏とともにITU-Tのダイバーシティの促進が行われました(ボグダン氏は1865年のITUの設立以来、初の女性の事務総局長です)。
また、10月23日に開催されたPartner2Connect(P2C) Session at WTSA-24も大変盛況なイベントの1つでした。P2Cとは企業や機関が行っている発展途上国等のICTの発展を支援する活動の情報をデータベースに登録(Pledge)し、ITUから公表することで世界的な支援活動を促進するものです。NTTグループはインドでのデータセンタの投資を行っており、この活動をP2CのPledgeとして登録しています。P2C Sessionの様子を図6に示します。オープニングの挨拶はボグダンITU事務総局長が行い、その後、Pledgeを実施している企業・機関の代表者がパネリストとしてパネル議論を行いました。NTTもパネリストとして招待され、NTT研究企画部門 標準化推進室長 山本浩司が登壇しました。
おわりに
WTSA-24はITU-T尾上局長の指揮のもと、SG21の発足、さまざまな同時開催されたイベントなど数々のトピックを無事完遂し、大成功で幕を閉じました。NTTは今回承認された決議の方針にのっとり今後の電気通信・情報通信技術に関する活動に取り組み、P2C Sessionでも議論されたサステナブル社会の実現に向けてIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の研究開発と国際標準化の推進を行っていきます。