NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

2025年11月号

特集2

NTTグループの建設DXへの取り組み

建設現場に入り込み本質を見極めた施工管理DXの実現

NTTドコモビジネスは、人々の豊かな暮らしの創造をめざし、お客さまの事業を支えるもっとも頼りになるDX(デジタルトランスフォーメーション)パートナーになるために、建設業を軸に各業界の現場における施工管理DXの実現とデファクトスタンダード化に向けて取り組んでいます。主な取り組みとして、①協業先である竹中工務店様・清水建設様と工程表を軸にしたデータ連携、施工管理DX、②発注者・施工者・施工者等のステークホルダを巻き込んだバリューチェーン横断検討、③建設業以外の業界へのソリューション提供・価値提案を行っています。本稿ではNTTドコモビジネスの取り組み姿勢、取り組み概要、今後の展望を紹介します。

香西 裕介(こうざい ゆうすけ)/藤井 慎太郎(ふじい しんたろう)
渡邊 修平(わたなべ しゅうへい)/久留島 弘章(くるしま ひろあき)
NTTドコモビジネス

建設現場の現状・課題

建設業界は、国内総生産の約5.5%を占める基幹産業であり(1)、これまで質の高いインフラ整備や住宅建設を通じ、長らく日本の経済と国民生活を支えてきました。しかし近年、建設業界は、①時間外労働の上限規制、②就業人口の減少・高齢化、③他業界に比べITの投資規模が小さいという課題に直面しています(2)
① 時間外労働の上限規制
建設業では、これまで法令の適用が猶予されていたため、一定の条件下においては制限のない労働環境となっていました。しかし2024年4月以降は建設業においても、一般企業と同様に「月45時間・年間360時間」を上限とする規制が適用され、臨時的・特別な事情がない限りこれを超えることは認められなくなりました。
② 就業人口の減少・高齢化(3)
建設業者数は2025年時点で約48万者となっており、ピークであった1999年から約20%の減少を記録しています。
就業者数についても同様で、2022年の平均就業者数は約479万人と、1997年のピーク時から約30%減少しました。さらにその内訳をみると、55歳以上が35.9%を占める一方で、29歳以下はわずか11.7%にとどまり、著しい高齢化が進行しています。
③ 他業界に比べITの投資規模が小さい
建設業界は、他業界と比較しIT領域への投資規模が小さくとどまり、デロイトトーマツコンサルティング合同会社の調査によると各業界の収益当りのIT支出額は以下のとおりです(一部抜粋)。金融:7%、サービス:6%、教育:6%、通信:4%、医療:3%、建設:2%(4)
建設業界のIT導入が進まない理由としては主に以下3点が考えられます。
・関係企業が多く、作業フローも異なるため統一されたITツールの導入が困難。
・経験豊富な作業員の多くは、長年慣れ親しんだアナログな手法を好む傾向があり、新しいITツールの導入に心理的な抵抗を感じることが少なくない。
・そもそもの人材不足に加え、ITに詳しい人材も多くなく導入に踏み切れない。
一方、建設投資額は2014年以降増加傾向にあり、2024年には73兆円に達しました。近年の建築費高騰に伴う影響はあるものの、依然として高い需要が存在しています(5)。すなわち、需要は依然として存在し続けている中で、少ない時間と少ない人員でより多くの現場を効率的にマネジメントする必要がありますが、生産性を向上する1手法であるIT化も遅れています。
このような背景を受け、建築現場全体の生産性向上を目的に、ゼネコン各社はDXの推進や各種ソリューションの活用に取り組んでいます。建設DXの推進により、単なる業務効率化にとどまらず、適切なリソース管理、最適な人員配置、さらにはコスト管理や経営判断への貢献など、経営レベルの意思決定にまで波及することが期待されています。近年の建設テック市場は2022年度から2025年度にかけて年平均12%増で成長しています。2022年度は1,652億円、2023年度には1,845億円(対前年11.6%増)に拡大しており、2030年度には3,042億円に達する見込みです(6)
ただし、建設テック市場の成長とともにソリューションも乱立してきており、現場としては「どのサービスを導入すべきか判断が難しい」という新たな課題も生じています(7)。導入しても運用が定着せず形骸化してしまうケースや、異なるソリューションどうしの連携が取れず効果が限定的にとどまるケースも散見されます。そんな中、他社ソリューションとの連携や運用サポートの支援に関するニーズも生まれてきています。
このように、建設業界は外部要因含め変革の渦中にあります。そのため、業界のニーズや市場動向を正確に見極めたうえで、現場が真に求めるものを提供していくことが重要であると考えられます。

NTTドコモビジネスとしての姿勢

そのような建設業界に対し、NTTドコモビジネス スマートワークサイト推進室はPMVを以下のとおり設定し、高品質な社会インフラが支える豊かな暮らしの実現をめざし、事業に取り組んでいます
・Purpose(なぜ自分たちが社会に存在するのか):人々の豊かな暮らしを創造するために、建設分野を中心とした各業界の持続的・安定的な成長を実現する
・Mission(到達点に向かって実現すべき使命):お客さまの事業を支えるために新たな価値を創造し提供し続ける〜VUCA時代における業界のレジリエンス向上を支える〜
・Vision(めざすべき到達点):お客さまにとってもっとも頼りになるDXパートナーになる
また、スマートワークサイト推進室には土木分野と建築分野があります。
土木分野では、株式会社小松製作所、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社、株式会社野村総合研究所とEARTHBRAINを立ち上げ、国土交通省が提唱するi-Constructionを推進しています(8) 。土木現場のデジタルツイン化により、生産性・安全性の向上実現をめざし、デジタルツインの高度化(高精度・費用対効果向上・リアルタイム性他)に特化した開発を進めています。
建築分野では、以下を主に進めています。
① スーパーゼネコンである竹中工務店様・清水建設様と協業し、工程表〜作業日報までの各施工管理にかかわるデータを実用的に連携することで「施工管理業務のDX」をめざしている。
② 発注者・設計者など建設現場以外のステークホルダも巻き込んだバリューチェーン横断による建設DXの検討を行っている。
③ 建設業を軸にしつつ他業界へも安全管理や工程管理の観点で価値を提供している。
本稿ではスマートワークサイト推進室の建築分野における取り組みを紹介します。

現在の取り組み

(1) 竹中工務店様・清水建設様との取り組み
従来、竹中工務店様・清水建設様とは個別に建設DXに関する取り組みを実施してきました。竹中工務店様とは従来の建築現場における個人スキルへの依存やアナログなコミュニケーションスタイルに代表される業務形態を、IoT(Internet of Things)やデジタル化により変革し、生産プロセスを最適化させることで、生産性の持続的な向上を目的に「協働」と「個人」の支援に取り組んできました。また、清水建設様とは工程表を軸にした現場での情報連携による施工管理業務の改善に取り組んできました。
各社との取り組みが同じ方向を向いたため、2023年7月に3社でのプレスリリースを発表し、正式に協業を開始しました(図1)。
3社はワーキンググループを設置し、「施工管理業務のDX」を実現するソリューションの構築と建築現場への実装・定着化を行うとともに、DXにより得られたデータの利活用により、さらなる施工管理業務の高度化と業務プロセスの最適化をめざします。竹中工務店様と清水建設様のプロジェクトで磨き込まれたソリューションをNTTドコモビジネスから広くサービス提供することで、建設業界における課題解決と新たな価値創造に貢献します。
本取り組みは①ソリューション開発→②現場でのPoC(実証実験)→③フィードバックによるソリューション改善→④現場導入、というサイクルを回しながらアジャイル開発を進めています。NTTドコモビジネスメンバも建設現場に入り込み、実態を把握したうえで、本当に現場利用可能なソリューションを開発することに努めています。現場での使い勝手をもっとも意識し、課題の深掘りから真のニーズを探し出すことに注力しています。
デジタル技術の導入が始まって間もない建設現場では、DXを活用した建設作業プロセスや働き方が確立されていません。建設業ならではの慣例や職人の経験則を尊重し学びながら、DXの企画・開発・改善・運用保守をゼロベースから構築していることも本取り組みの特徴です。
3社協業による成果の1つとしてtateras/GaNettを開発しました(図2)。tateras/GaNett は6つの機能を有し、機能ごとに週次でワーキングを実施し磨き込みを続けています。6つの機能は建設現場の入場から退場までさまざまな作業を支援し、現場における生産性の向上に寄与します。現在は現場での生産性向上に注力していますが、今後は各機能で蓄積されるデータの活用・分析や、他ソリューションとの連携を進める方針です。その結果、工程計画の精度向上、金額・人員を考慮した高度な工程シミュレーションを実現することで、金額超過や工期遅延を早期に察知できる仕組みを構築します。これにより、経済損失の回避や企業のリソース最適化など経営判断を支援する基盤づくりをめざします。
(2) バリューチェーン横断による建設DX
建設業は現場だけでなく、発注者・設計者・事務員・不動産業など多様なステークホルダがかかわる産業です。特に発注者や設計者は、施工中も図面・書類の提出や施工品質管理などを通じて現場と密接にかかわる立場にあります。しかし現状では、発注者・設計者・施工者の連携は必ずしも十分とはいえず、個別管理にとどまっているケースが多く、その結果、コミュニケーションロスや認識齟齬が発生し、深刻な場合は竣工遅延・コスト増加の問題が発生しています。実際に契約金額が7億円を上回る大規模プロジェクトを実施した企業のうち、66%が予算や工期を10%以上超過しています(9)。当比率を参照し、日本国内における2023年の元請け完成工事高(約90兆円)に当てはめると、約6兆円もの損失が発生していると推察されます。
このような課題解決に向け、発注者・設計者・施工者の共通プラットフォーム利用やソリューション連携による情報の一元管理、リアルタイムの情報共有、シームレスなコミュニケーションの実現が必要であると考えます。これらのアセットを持つパートナー企業との協業や連携強化により、各ステークホルダを巻き込んだバリューチェーン横断による建設DXを検討しています。
(3) 建設業以外の業界への価値提供
スマートワークサイト推進室は建設業以外のお客さまへも価値を提供しています。(1)に記載のtateras/GaNettの機能の中に現場のKY(危険予知)活動や工程管理を支援する機能が存在します。製造業では労災全体の約3割を機械接触や転倒が占め、人的ミスや不安全行動の削減が大きな課題となっています。そのような製造業において建設業と同様にKY活用が実施されます。tateras KY帳票アシストは過去の事故事例を活用することで、KY活動に緊張感を注入することが可能です。また、建設業と目的や管理方法に差異はありますが製造業においても工程管理は存在します。クラウド型の工程表作成ツールGaNettは工程表の共同編集やリアルタイム共有が可能です。工程表にさまざまな属性情報の付与が可能であるためより高度な工程管理が可能です。運輸業、不動産業等からも同様の引き合いがあり、価値を提供しています。

今後の展望

工程データが蓄積されることにより、将来的には工程表作成の自動化や工程計画の精度向上、工程シミュレーション、4DBIM(Building Information Modeling)への昇華をめざします。またNEDO(国立開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)と、実証実験中の「空間ID」と現場の作業場所を連携することにより、建設ロボットによる資材の自動搬送や現場巡回など空間IDの活用も検討しています(9) (図3)。
竹中工務店・清水建設・NTTドコモビジネスの3社は、本協業を通じて構築するDXソリューションの建築現場での利用・定着化に取り組み、「施工管理業務のDX」を推進することで、建設業界全体のプロセスを革新し、生産性向上や働き方改革を推進していきます。また、これらのデータ利活用による新たな価値創造にも取り組んでいます。
加えて、NTTのナレッジであるネットワーク・AI(人工知能)など最新技術と建設ソリューションを掛け合わせることにより、リアルタイムでのデータ通信、遠隔施工、未来予想など、新しいサービス・新機能の検討も進めていきます。
さらに、建設業界の他企業や他業界とのパートナーシップを強化することにより、革新的な技術やサービスの共同開発を進め、業界・コンセプトドライブの横断によるバリューチェーン・データ連携を見据えています。
これらの取り組みを通じて、NTTドコモビジネスは建設業界のDXを支援し、効率的かつ持続可能な未来の構築をめざしています。

■参考文献
(1) https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart3/index.html
(2) https://kensetsu-kaikei.com/lab/work/construction_dx_realization
(3) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001610913.pdf
(4) https://www.soumu.go.jp/main_content/000804891.pdf
(5) https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart5-1/index.html
(6) https://www.nikkei.com/article/DGXZRSP689899_X10C25A4000000/
(7) https://www.autodesk.com/blogs/construction/japan-construction-digital-transformation/
(8) https://www.mirait-one.com/miraiz/whatsnew/trend-data_0010.html
(9) https://www.takenaka.co.jp/news/2025/08/05/

(左から)香西 裕介/藤井 慎太郎/渡邊 修平/久留島 弘章

就業人口の減少・高齢化、長時間労働、IT導入の遅れなどさまざまな課題を有する建設業界に対して、現場が本当に求めるものを提供することで、お客さまにとってもっとも頼りになるDXパートナーになることをめざしています。

NTTドコモビジネス
ビジネスソリューション本部
スマートワールドビジネス部
スマートワークサイト推進室

DOI
クリップボードにコピーしました