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Event Reports

「NTT コミュニケーション科学基礎研究所 オープンハウス 2019」開催報告

NTTコミュニケーション科学基礎研究所では、最新の研究成果を多くの方々に知っていただくイベントとして、2019年5月30~31日に「オープンハウス2019」を開催しました。ここではその開催模様を報告します。

PROFILE

小川 厚徳(おがわ あつのり)/ 武 小萌(ぶ しょうほう)/ 西野 正彬(にしの まさあき)/ Mathieu Blondel/ 持田 岳美(もちだ たけみ)

NTTコミュニケーション科学基礎研究所

オープンハウスの概要

NTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)は、人と人、あるいはコンピュータと人の間の「こころまで伝わる」コミュニケーションの実現をめざし、時代を先取りした基礎研究に取り組んでいます。その最新成果を「見て、触れて、感じてもらう」イベントとして、2019年5月30日(12:00~17:30)と31日(9:30~16:00)に、NTT京阪奈ビル(京都府精華町)で、「NTTコミュニケーション科学基礎研究所 オープンハウス2019」を開催しました(1)。今年は、元陸上選手・Deportare Part-ners代表の為末大氏をお招きし、NTTフェロー柏野牧夫との特別対談を実施しました。また初の屋外でのデモ展示にも挑戦しました。2日間の期間中には、NTTグループ関係者のみならず、各企業や研究機関、大学関係者、近隣地域の方などを含む、約1500名の方々にご来場いただきました。

所長講演

2日間のオープンハウスは、CS研山田武士所長による講演「人に迫り、人を究め、人に寄り添う─人とAIが共生し共創する未来へ─」で幕を開けました(写真1)。
本講演では、人と人、あるいはコンピュータと人の「こころまで伝わる」コミュニケーションの実現をめざすCS研のミッションとして、人間の能力に迫り、場合によっては凌駕するAI(人工知能)技術をさらに追求するのはもちろんのこと、人間の機能、特性を解明し、人間のことをよく理解すること、そのうえで人間に寄り添う技術の実現をめざすことの重要性を指摘しました。2019年は折しも、元号が「令和」となり、オリンピックを間近に控えた年です。時代の変化点にいるCS研の最新のAI技術を3つの観点から紹介したうえで、「人間の能力に迫る技術」「人間を深く理解し究める技術」「人間に寄り添う技術」を中心に、CS研はこれからも新たなチャレンジに大胆かつ粘り強く取り組んでいくことを宣言しました。

写真1 所長講演

研究講演

研究講演では、CS研の顕著な研究成果の中から特に注目度の高いテーマに関して、以下の講演を行いました。
① 「画像や音を見聞きするだけで賢くなるAI─クロスモーダル情報処理がひらく未来─」と題した柏野邦夫(メディア情報研究部)による講演では、CS研の新たなチャレンジとして、クロスモーダル情報処理への取り組みを紹介しました。クロスモーダル情報処理とは、画像、音、テキストといった種類の異なるメディア情報の対応付けを行うことです。音から画像をつくる技術、物音を言葉で説明する技術、モノが映る画像領域と声による言語表現を対応付ける技術を例として、メディア情報の表層の表現形式とその背後にある共通空間を分離してそれぞれを活用する、新しいAI技術の実現可能性について解説しました(写真2)。
② 「「見る力」を簡単に測る─日常環境での視覚能力の簡易測定とそのヘルスケア応用に向けて─」と題した丸谷和史(人間情報研究部)による講演では、人間の情報処理の仕組みにおいて、より日常生活に近い環境でさまざまな人から得られる「広いデータ」を用いた、多面的な検討方法について紹介しました。取り組みの1つとして、視覚能力を汎用機器で簡易的に楽しく計測する方法を取り上げ、開発した技術についてデモを交えて解説しました。これまでの方法論では考慮する必要がなかった新しい問題と解決策を明らかにし、視覚科学の新しい方向性について説明しました(写真3)。
③ 「いろいろな観点で似たものを探す、似たものつながり検索法─絵本検索システム「ぴたりえ」とそれを支えるグラフ索引型探索技術─」と題した服部正嗣(協創情報研究部)による講演では、「内容に関するうろ覚えの記憶に基づいて絵本を探す」「好みの絵本作家と画風が似た別の作家の絵本を探す」「複数ある『桃太郎』の中からもっとも文章が簡単なものを探す」など、いろいろな観点から絵本を探せる絵本検索システム「ぴたりえ」について紹介しました。また、「ぴたりえ」を支えるグラフ索引型類似探索技術についても取り上げ、「絵」「文章」をはじめ多様な対象のさまざまな特徴に注目した検索を実現する方法について紹介しました(写真4)。
いずれの研究講演でも、研究の背景や全体像を述べたうえで、最新の研究成果と技術ポイントを分かりやすい例を交えて紹介しました。多くの方に講演会場および中継会場に来場いただき活気ある講演となりました。

写真2 研究講演(柏野邦夫)

写真3 研究講演(丸谷和史)

写真4 研究講演(服部正嗣)

研究展示

展示会場では、「データと学習の科学」「コミュニケーションと計算の科学」「メディアの科学」「人間の科学」の4カテゴリに関する最新成果30件を展示しました(写真5、6)。各ブースでは、研究員が、大型モニタによるデモやスライドで最新の研究成果を分かりやすく説明しました。また、工夫を凝らした体験型のデモなども用意し、実際に触れてもらいながら、来場者とディスカッションを行いました。以下は、各カテゴリの展示名です。

データと学習の科学(7件)

・混み具合いを学習して空いてる経路を見つけます─二分決定グラフを用いたオンライン最短経路アルゴリズム─
・AIによる空調制御でもっと省エネ・もっと快適─深層強化学習による環境再現・最適制御技術─
・都市の人口分布変動から人の移動を再現─時間別エリア人口データからの移動傾向推定技術─
・深層学習のボトルネック解消で精度を向上─深層学習における、より高い表現能力を持つ出力関数─
・データから学ぶ:どれが原因?どれが結果?─教師あり学習に基づく時系列の因果推論─
・過去データの無い地点でも未来を予測─時空間データ解析のための時空間回帰テンソル分解法─
・いろいろな観点で欲しいものを見つけます─グラフ索引型探索技術による絵本検索システム「ぴたりえ」─

コミュニケーションと計算の科学(7件)

・限界まで効率よくメッセージを送れます─シャノン限界を達成する誤り訂正符号─
・新たな秘密がこれまでの秘密を脅かす─「量子情報を用いた秘密分散」の脆弱性の検証─
・文や段落の修飾関係を賢く判断─ニューラルネットによる階層的トップダウン修辞構造解析─
・ひらがなはいつからわかる?─幼児の文字習得メカニズムを探る─
・「こころが動く、通う」をどう測る?─主観・生理・行動からみた共感的コミュニケーションの分析─
・「触れて深まる体感と共感」を集団から測る─共感的コミュニケーションの触覚的促進と多人数同時測定─
・ロボットと話そう「いつ、どこで、何をした」─ユーザ発話中のイベント理解に基づく雑談対話システム─

メディアの科学(8件)

・うるさい車内でも音声操作や会話をサポート─世界トップの集音技術・音声認識技術を実用化─
・少量の入出力ペアから高精度に音声認識を学習─音声合成を活用した半教師ありEnd-to-End学習─
・いつ、誰が、何を話した?全部で何人いた?─何人の会話でも聞き分けられる深層学習モデル─
・声と話し方を好みのスタイルに変える─系列変換モデルに基づく声質と韻律の同時変換─
・顔に合わせて声を作り、声に合わせて顔を作る─深層生成モデルによるクロスモーダル音声変換─
・声と画像から知らないモノを学びとるAI─音声と画像によるクロスモーダル概念獲得─
・どんな音?物音を言葉で説明しよう─系列変換モデルに基づく音響信号からの説明文生成─
・音からものとかたちを認識─音と画像のクロスメディア情報処理によるシーン理解─

人間の科学(8件)

・鳥の声で喋り、水の泡で演奏する─聴覚信号処理モデルを用いた音のテクスチャ変換─
・踊る紙人形─紙に動きの印象を与える錯覚─
・あなたの目の機能を気軽に楽しく測ります─ミニゲームやタブレットを使った視覚能力のセルフチェック─
・勝者のメンタルとは?─実戦環境での生理状態とパフォーマンスの関連性─
・速いボールを捉える脳のしくみ─視覚と身体の瞬間的な連携─
・「見守る」と「見守られる」をつなぎます─介護者記録用アプリ「みまもメイト」の記録共有による効果─
・身体が“見る”実世界の動きとは?─自然統計で紐解く視覚運動制御の秘密─
・座っているけど歩行感─疑似歩行感が身体近傍空間を拡張する─

写真5 展示会場の様子

写真6 デモの様子

特別対談

今年は、NTTフェロー・スポーツ脳科学プロジェクト統括(2019年7月1日より柏野多様脳特別研究室室長)の柏野牧夫が、元陸上選手・Deportare Partners代表の為末大氏をお招きして、「スポーツの未来と人間の可能性」と題する特別対談を行いました。「メンタル」のコントロール、記録更新の不連続性、協調動作、早すぎる最適化による成長の限界、言語と技術伝達、意識と無意識のバランスなど、示唆に富んだ幅広いテーマが取り上げられました。スポーツの実践や分析を通じてみえてくる人間の本質、そして、ICT、AI、認知科学、脳科学といった科学技術がスポーツ・人間をどのように変えていくかなど、研究者とアスリートの立場から縦横な議論が交わされました。実演も交えた躍動感あふれる対談で、多くの来場者から大変面白く刺激的だったとご好評いただきました。

Webによる情報発信

CS研の研究力・技術力の高さを国内外に広くアピールするため、当日の展示パネル資料を日本語と英語の両方でWebサイトに公開することを毎年継続して行っています。研究講演の映像もWebサイトで公開し、多くの方々にCS研の最新成果を詳しく知っていただく機会を提供しています。

オープンハウスを終えて

2019年のオープンハウスは、約1500名を超える方々にCS研の最新成果をご覧いただきました。特に、研究展示においては、来場者の方々に活発な議論に参加いただくことで、貴重なご意見を多数いただき、大きな刺激となりました。来場者の皆様、本イベント開催に協力いただきました皆様に、心よりお礼を申し上げます。
■参考文献

(1) http://www.kecl.ntt.co.jp/openhouse/2019/

(左から)武 小萌/西野 正彬/小川 厚徳/Mathieu Blondel/持田 岳美

今後ともCS研の研究にご注目ください。

問い合わせ先

NTTコミュニケーション科学基礎研究所
企画担当
TEL 0774-93-5020
FAX 0774-93-5026
E-mail cs-openhouse-ml@hco.ntt.co.jp