NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

2026年3月号

特集2

持続可能なインフラ設備の実現をめざす研究開発

通信インフラの長寿命化に向けたプラスチック材料の加速劣化試験に関する取り組み

屋外で使用されるプラスチック材料は、光・熱・水・応力が複合的に作用して劣化が進むため、インフラ設備の長寿命化には、耐候性に優れた材料を適切に選定できる評価技術が不可欠です。本稿ではポリプロピレンを例に、耐候性を適切に評価する加速劣化試験の確立に向けた取り組みを紹介します。

根岸 香織(ねぎし かおり)/鴻野 晃洋(こうの あきひろ)
峯田 真悟(みねた しんご)
NTT先端集積デバイス研究所

通信インフラにおけるプラスチック材料と劣化

通信インフラでは、ケーブル被覆、支線カバー、クロージャ筐体、結束材など、数多くの部位にプラスチック材料が使われています。プラスチック材料は、軽量で成形性に優れ、耐食性や電気絶縁性などに利点を持つ一方、金属やセラミックス、ガラスといった無機材料に比べて、光や熱などにより化学構造が変化し、外観や特性が劣化しやすい特徴を持っています(1)(2)。特に屋外環境では、紫外線、気温、降雨・結露、風、汚染物質などの因子が複合的に作用するため、材料の劣化の進みは、使用される環境条件に強く左右されます(3)。したがって、通信インフラを長寿命化するためには、使用環境を踏まえた適切な性能の評価試験を行いながら、要求特性を満たす材料開発や効果的な劣化対策を講じることが重要です。そこで私たちは、屋外環境に曝されることを想定したプラスチック材料を対象に、実環境で生じる劣化現象の再現性と劣化の加速性を両立させ、材料特性を適切に評価できる独自の加速劣化試験の確立をめざして研究を進めています。本稿では、通信インフラにも幅広く用いられるポリプロピレン(PP)をケーススタディとした加速劣化試験の取り組みを紹介します。

代表的な劣化因子

プラスチックの劣化では、酸化、分解、架橋などの分子レベルの化学反応を伴って、さまざまな物性や特性の変化(脆化、白化、亀裂、強度低下など)が進行します。前述のとおり、屋外環境では光・熱・水などが相乗的に作用して劣化が進むため、個々の現象を切り分けることは困難ですが、ここではその中で代表的な劣化因子を概観します。
まず主要な劣化因子として挙げられるのが太陽光(紫外線)です。紫外線は材料中の化学結合を切断します。酸素存在下では、化学結合切断によって生成したラジカル*1と酸素が反応し、化学結合の切断が連鎖的に進む光酸化を生じます。ポリプロピレンなど多くの汎用プラスチックは、理想的には太陽光をほとんど吸収しませんが、微量の不純物や触媒残渣*2、あるいは微量のカルボニル基(C=O)等が起点となって光エネルギーを吸収し、光劣化が生じます(1)。高分子の分子結合エネルギーと比べて、紫外線領域の光エネルギーは結合切断に十分な大きさとなり得るため、紫外線が多く存在する屋外環境では酸素を介在した光酸化反応が進行しやすく、表面の変色、チョーキング*3、脆化、亀裂などにつながります。
次に熱です。熱は化学的な反応速度を高めるため、光を起点とした参加反応を加速させ、光と熱が同時に作用すると相乗的に劣化が進むことが報告されています(1)(2)。また、大気中で高温に長時間曝せれると、熱と酸素の作用で自動酸化反応が進み、ヒドロペルオキシド(ROOH)基やカルボニル(C=O)基、ヒドロキシ(OH)基などの酸素を持つ官能基を生成しながら連鎖的に進行します。こうした反応は温度が高いほど進みやすく、材料表面から内部へ熱が拡散することで、厚みのある部材でも劣化が進行します(1)
水(湿潤)も重要な因子の1つです。降雨、霜、結露、あるいは浸漬のように水分と接触する環境では、表面近傍の添加剤が水とともに徐々に流出し、安定化機能が低下することがあります。添加剤が枯渇すると、同じ紫外線量・温度条件でも劣化速度が急に上がり、表面脆化や微小亀裂が顕在化しやすくなります(1)~(3)
また、上記の化学的な要因だけでなく、物理的な因子として材料に加わる応力も考慮すべき対象です。応力は光・熱・水のように化学反応を直接進める因子ではありませんが、劣化で生じた微小欠陥を起点にマクロな亀裂を発生・進展させます。曲げや振動などの繰り返し応力が作用すると、応力集中部*4でクラックが生じ、先端で損傷が蓄積して亀裂が成長し、破断に至ることもあるため、応力は材料の寿命を大きく左右する因子といえます(2)

*1 ラジカル:不対電子を持つ化学種で反応性が高く、連鎖酸化などの開始・進展に関与。
*2 触媒残渣:重合触媒に由来し微量に残る成分で劣化反応の起点となります。
*3 チョーキング:樹脂表面が劣化して白い粉が生じ、触れると付着する現象。
*4 応力集中部:形状や欠陥で局所応力が高まり、亀裂発生・進展が起こりやすい状態。

加速劣化試験による耐候性評価

光や熱、水などの環境因子による劣化への抵抗力は耐候性と呼ばれ、材料選定や寿命推定における重要な評価特性となっています。材料の耐候性を評価する場合、実際の使用環境下で自然暴露する方法をとることがもっとも確かな情報を与えると考えられますが、この方法では検証に多大な時間を要してしまうため、材料開発や改良サイクルの速さに適合しにくいのが実情です(1)。そこで、光・熱・水などの環境条件を制御し、室内で加速的に劣化を進めることで、短期間で材料の耐候性を適切に評価できる加速劣化試験が不可欠となります。
既存の加速劣化試験として、試験条件や結果の比較可能性を確保するために国際的に標準化された手法が整備されています。代表例として、プラスチック材料の耐候性評価の試験方法を規定するISO 4892があり、光源としてキセノンアークランプを用いる試験法(ISO 4892-2)や、紫外線蛍光ランプを用いる試験法(ISO 4892-3)などが規定されています。また、日本ではこれに対応する規格としてJIS K7350が整備されています。これらの規格では、照射光強度、温度・湿度、濡れ時間等の試験パラメータを管理しながら暴露する枠組みが示されており、国内でも、材料の相対比較や品質管理、スクリーニングなどに広く用いられています。
加速劣化試験の手順や条件は、材料の課題抽出や特性評価、あるいは寿命推定など、評価の目的によっても異なると考えられますが、いずれであっても、その評価目的に合った劣化機構の再現を重視し、単に材料に与えるストレスを強めるだけにならぬよう注意が必要です。加速条件を単に強めるだけでは、例えば、実環境とは異なる劣化現象を副次的に誘発する場合もあり得るため、評価対象における実際の使用環境を十分に考慮したうえで適切な加速試験条件を設定し、外観変化や機械特性、化学指標の分析と組み合わせて総合的に評価することが重要です。私たちは、この点を考慮しながら、使用環境で生じる劣化現象の再現性を高め、かつできるだけ短期間に材料の耐候性を評価できるように検討を進めています。

プラスチック材料の添加剤と分析指標

ポリプロピレンなどの汎用プラスチック材料は、一般に主原料である高分子そのものだけでは耐候性に課題があるため、耐候性を補完するために酸化防止剤(一次:ラジカル捕捉、二次:過酸化物分解)、光安定剤などの添加剤が配合されています。表には、プラスチック材料の主な添加剤について、種類と配合目的を示しました(2)。添加剤は、材料の耐候性だけでなく、成形加工性や機械特性、コスト等にも強く影響するため、主原料が同じであったとしても、添加剤の配合量や組合せによってその特性は実に多様です。そのため、通信インフラのさらなる長寿命化のためには、多様な材料の中から必要な耐候性を備えた最適な材料の選定、あるいは配合の最適化等を進めることが重要です。この検討において、加速劣化試験による耐候性評価は必須のプロセスであり、適切な試験条件の設定が肝要です。私たちは、実環境での劣化現象の再現性と劣化の加速性とを両立する加速劣化試験を確立するためには、材料の劣化メカニズムを把握し、加速条件が材料特性にどのような影響を及ぼすのかを十分に理解することが重要と考え、添加剤量の異なるポリプロピレンを例に、種々の条件で耐候劣化させた際の分析データの蓄積を進めています。
試験条件が材料の劣化に及ぼす影響を確認する分析として、もっとも代表的で直接的な情報を与えるのは外観観察ですが、そのほかに外観に表れない劣化状態の分析も重要です。例えば、カルボニル指標や酸化誘導時間などの化学的指標や、引張・伸び・弾性率などの機械強度、衝撃強度、硬さなどの物理指標等があります。カルボニル指標は、フーリエ変換赤外吸収分光(FT-IR)を用いて測定し、おおむね 1700~1750cm−1付近に表れるカルボニル基の吸収強度を基準ピークで規格化した値です(2)。プラスチック材料が紫外線や熱で耐候劣化すると、材料表面の紫外線吸収から始まる一連の劣化反応の過程でカルボニル基が生成・増加します。図1は、ポリプロピレンのサンプルに対して紫外線+熱+水噴霧の条件で加速劣化試験を実施したときのFT-IRの測定結果の例です。加速劣化させる試験期間が長いほどカルボニル基の吸収ピークが大きくなっていることが分かります。カルボニル指標は、基準ピークで規格化した相対指標にはなりますが、FT-IRを用いて非破壊で測定可能であり、酸化劣化の進行度を示す有用な指標として広く用いられています。
また、酸化誘導時間は、示差走査熱量計(DSC)で一定温度下においてサンプルが酸素雰囲気に曝されてから、酸化反応(発熱)が検出されるまでの時間を示す指標です(2)。DSCだけではなく、例えばケミルミネッセンス(CL)法を用いて、酸化過程で生じる発光をとらえる方法でも酸化誘導時間を評価することが可能です。酸化誘導時間を測定することで、プラスチック材料に添加される酸化防止剤の効果や酸化への抵抗力などを相対評価することができます。図2は、酸化防止剤の添加量が異なるポリプロピレンサンプルの酸化誘導時間についてCL法を用いて測定した結果の例です。AよりもBのほうが酸化防止剤量の多いサンプルですが、実際にサンプルBのほうが酸化反応までの時間が長く、材料の耐酸化性に添加剤が効果を発揮していることを読み取ることができます。このような化学指標に加え、機械特性などの物理指標も重要です。例えば、引張試験によって得られる応力-歪み曲線からは弾性率や引張強度、破断歪みや靭性などのマクロな特性を評価することができます。このほかにも劣化状態を把握するための指標はさまざまありますが、これら指標の分析をとおして、材料の劣化メカニズム解明や加速劣化条件との関係を詳細に調査していくことが、最適な加速劣化試験の確立に直結すると考えています。

加速劣化試験の検討例

ここで、加速劣化試験の検討例を紹介します。例えば、紫外線+熱+水の因子に加えて応力の影響も評価できるように、折り曲げにより引張・圧縮応力を繰り返し発生させることで、応力が定期的に加わることを想定した加速劣化試験を実施しています。図3は、加速劣化試験のサイクル条件を表す概念図です。紫外線+熱+水+応力が同時に作用する環境下で使用されるプラスチック材料の選定や優劣を評価する場合には、紫外線+熱+水の加速条件で耐候劣化させ、劣化後のサンプルに対して評価目的や破壊様式に合致する力学的負荷を与え、機械特性を評価する方法が考えられます。ただし、この場合は、紫外線+熱+水の因子と応力によるストレスとが別々に付与されているため、紫外線+熱+水+応力が同時に作用する環境下での劣化機構とは厳密には異なります。そこで、図3のように、紫外線+熱+水の耐候劣化ブロックと応力ブロックとを交互に繰り返す加速劣化試験を考案しました。この試験方法は、紫外線+熱+水+応力の同時付与ではないものの、各ブロックを交互に繰り返すことで、耐候劣化による脆化や微小亀裂の生成と、応力による亀裂進展とを段階的に重ね合わせることを意図しています。図4は、図3のサイクル条件で加速劣化試験に供したときのポリプロピレン試料の外観観察結果です。時間経過とともに試料表面に微小なクラックが発生しており、折り曲げ部位に近い領域でその傾向がより顕著であることが分かります。本試験は、折り曲げの工程が入ることで通常の耐候劣化よりもさらに劣化が促進されますが、屋外で繰り返し応力が加わる環境を想定した材料選定や性能評価をより正確かつ短期間に評価できる加速劣化試験とするため、耐候劣化条件や折り曲げ条件、各ブロックの時間比などの条件の最適化を進めていきます。
次に、温水への浸漬を組み合わせた加速劣化試験についても紹介します。温水への浸漬は、プラスチック材料の添加剤が降雨や結露などの水で溶出する現象を加速する意図で実施しています。前述のとおり、ISOやJIS規格の試験方法でも紫外線や熱に加えて水による劣化を付与していますが、例えば降雨の激しい環境などを踏まえ、より添加剤の溶出現象を加速させたい状況においては、浸漬の工程を組み合わせた加速劣化試験が有効ではないかと考えています。図5は、添加剤が配合されたポリプロピレンに対して、50~70 ℃の温度に保った水に一定期間浸漬させたときの添加剤の減少傾向です。未劣化のときの添加剤量を1として減少比率を示しています。一定期間後の溶出量で比較すると、温度が高いほど顕著な溶出が生じていることが分かります。この溶出過程を加速劣化試験に取り込み、例えば一定期間の浸漬により添加剤量を減少させた後のサンプルを耐候劣化させることで、ある程度の添加剤流出が生じた後のサンプルの劣化を再現・加速できると考えています。あるいは、折り曲げ試験と同様に、耐候劣化ブロックと浸漬による添加剤溶出ブロックとを交互に組み合わせた加速劣化試験とする方法も考えられます。耐候劣化と水による添加剤の溶出現象を段階的に重ね合わせることで、降雨の激しい環境での劣化の再現や加速に適用できると考えています。

今後の展望

通信インフラの長寿命化に資することを目的に、プラスチック材料の耐候性を評価する加速劣化試験の取り組みについて紹介しました。私たちはこれまでも、屋外環境における塗装の耐食性や耐候性を評価するために、独自の加速劣化試験を確立してきました(4)。今後も、これらの知見を活かしながら、プラスチック材料の劣化現象の解明や、加速劣化条件と実環境でのデータとの相関付け等を進めつつ、再現性と加速性が高く、材料特性を適切に評価することができる加速劣化試験技術の確立をめざしていきます。

■参考文献
(1) 飯塚:“促進暴露試験によるPPの光劣化に関する研究,”九州大学学位論文,2018.
(2) 本間:“プラスチック材料大全”,日刊工業新聞社, 2015.
(3) 大武:“ゴム・プラスチック材料の原因別トラブル事例と対策,”日刊工業新聞社,2024.
(4) 三輪・竹下・石井・澤田:“吸水挙動を模擬した防食塗膜の促進腐食試験に関する取り組み,”NTT技術ジャーナル, Vol.29, No.11, pp.15-18, 2017.

(左から)根岸 香織/鴻野 晃洋/峯田 真悟

プラスチック材料をはじめとする種々の材料の劣化現象解明や加速劣化試験などの材料研究を推進し、社会インフラ全体の長寿命化への貢献をめざします。

NTT先端集積デバイス研究所
サステナブルデバイス研究部

DOI
クリップボードにコピーしました