2026年3月号
特集2
通信インフラの適切な維持管理を実現するための設備個々の状態に基づく腐食劣化予測の試み
- 金属腐食
- 加速試験
- マンホール
持続的に通信インフラを維持管理するためには、個々の環境下における腐食挙動を正しく理解し、劣化を予測することが大切です。本稿では、マンホール内に設置された金属部材を対象とし、マンホール内の環境を模擬した加速試験の検討を行うことで、マンホール内金属の劣化を予測する取り組みを紹介します。
豊田 新(とよた しん)/竹内 陽祐(たけうち ようすけ)
NTT先端集積デバイス研究所
社会インフラの維持管理と腐食
社会インフラを構成する構造物には、鉄塔や橋梁、プラント設備など鉄を主体とする鋼構造物に加え、建築物の躯体や橋脚、擁壁に代表される鉄筋コンクリート構造物が数多く存在します。これらの長大な構造物は、主要部材だけでなく、それを支える多様な金属製部材や付属品によって機能が維持されています。鉄は高い力学特性に加え、経済性や加工性に優れ、さらにリサイクル性も高いことから、構造物の規模にかかわらず社会インフラを支える材料として広く利用されています。一方で、長期にわたる供用環境下では、こうした鉄材が腐食による劣化を受けるおそれがあります。腐食の進行は構造物の安全性や機能性を低下させるだけでなく、補修や更改の頻度を高め、社会的・経済的な負担の増大につながります。腐食挙動を正しく理解し、劣化を抑制・予測する技術の高度化は、社会インフラの安全性と信頼性を支える基盤であると同時に、企業が保有する設備の維持管理費の低減にも寄与する重要な課題です。このような背景のもと、社会インフラを構成する個々の部材に着目し、その腐食挙動を把握することが重要です。
腐食挙動の評価の流れ
腐食挙動を評価するためには、実設備・暴露試験・加速試験*1、それぞれに対して分析を行うことが重要です。まず実設備では、装置や構造物が実際に置かれている環境条件を明らかにするとともに、腐食の形態や分布を把握します。これにより、実環境と腐食の実態を踏まえた暴露試験や加速試験の設計が可能となります。暴露試験は、実設備で生じるさまざまな腐食の進み方を把握するとともに、実環境に曝される初期状態から継続的に腐食挙動を観察できる点が特長です。ただし、評価には長い試験期間を要します。加速試験では、実設備での腐食要因の一部を強めることで劣化を加速させ、短期間でその影響を評価することができます。ただし、実環境とのずれが一定量生じることには注意が必要です。一方で、部材表面での腐食生成物の分析、断面の観察や電気化学測定などの分析を組み合わせて多角的に評価することにより、腐食メカニズムの解明や腐食速度の把握、劣化過程の追跡、劣化予測につなげることができます。腐食評価の流れを図1に示します。
NTTが保有する所外の通信構造物として、とう道、地下管路、マンホール、電柱などがあります。従来、それぞれの設備に対する現地調査、暴露試験、加速試験を実施し劣化予測することで、適切な維持管理を実現してきましたが、本稿では特にマンホール内に設置された金属部材を対象とした加速試験の検討事例を紹介します。
*1 加速試験:材料の耐久性・寿命・品質変化を、通常より厳しい条件下で短期間に評価し、長期的な性能や腐食挙動を予測する手法。

マンホールの維持管理
街中の道路や歩道で見かける鉄蓋をマンホールと呼ぶことがありますが、正確には、鉄蓋の下に構築された構造体をマンホールと呼びます。マンホールは水道設備として上水道や下水道の出入り口となります。一方、通信設備としてはケーブルの接続点となります。NTTは全国に約68万個の通信用のマンホールを保有しています。図2のようにNTTの通信ケーブルはマンホールを通して電柱へ架設されユーザ宅へ引き込まれます。この通信ケーブルは、私たちの日常生活に欠かせない通信インフラを支えるためにも、常に安定して稼働することが求められています。
現在、マンホールに対しては、360度カメラを用いて定期的にマンホール空間内の状態を記録し、劣化状況を確認する方法で点検を実施しています。今後、維持管理に携わる人員の減少に対応しつつ、維持管理費を抑制し、安心・安全な通信インフラを保つためには、点検稼働のさらなる効率化が必要です。そこで、NTTでは劣化予測により、劣化リスクの高いマンホールは早期に点検し、劣化リスクが低いマンホールは点検周期を延伸するなど、設備個々の状態に応じたメリハリのある維持管理手法の開発に取り組んでいます。

マンホール内部の付属金物が果たす役割
マンホールの維持管理では、マンホール躯体の管理のほか、管路と接続するためのダクトや通信ケーブルの牽引や保持するための金属部材が点検・補修対象となっており、点検の効率化には、それぞれの劣化を効率良く把握する必要があります。私たちは、ケーブルを保持するためにマンホール内部に設置された付属金物に着目しています。マンホール内部では、敷設された通信ケーブルはコンクリート壁面に取り付けられた金物により支えられており、これにより作業員のケーブル接続や点検作業を容易にしています(1)。そして、通信ケーブルは移動や落下を防ぐため、付属金物と紐で固定されています。
マンホール内部の腐食環境
マンホール内部には鉄蓋の隙間やダクトから流れ込んだ雨水、地下水が溜水となり、金属が腐食しやすい環境を形成することがあります。付属金物が腐食によって劣化し破損してしまうと、通信用ケーブルが落下し通信への影響を引き起こすおそれがあります。そのため、付属金物の劣化傾向を把握し適切に維持・管理することが求められています。しかし、マンホール内部の環境は十分に解明されているとは限らず、付属金物の腐食挙動も明らかにされていない現象もあります。マンホール内部はほぼ密閉された空間であるため、外部から水が流れ込んだ場合には、マンホール内の空間は湿度100%に近い高湿度環境となります。流れ込む水量が多い場合には、付属金物は溜水に水没します。溜水中の金物は水面に近い位置で腐食しやすいことが報告されています(2)。このように溜水の水位により付属金物の環境が異なるため、腐食傾向もその環境ごとに変化すると予想されます。加えて、溜水の水位は水の流入出量により変動するため、水面に近い付属金物は高湿度条件と水没条件が交互に入れ替わる環境(気液交番環境)にも曝されます。実設備からは、図3のように、ケーブルが紐により固定されていたと推測される位置で局所的な腐食が発生した事例が確認されていることから、紐が接触する部分で進行する特異な腐食挙動も明らかにする必要があります。そこで私たちは、もっともマンホール内で腐食劣化が著しいと考えられる気液交番環境における紐接触部近傍での腐食に着目し、①加速試験による長期的な劣化推定と、②電気化学測定による挙動解明に取り組むことで、付属金物の劣化予測をめざしています。

■加速試験による長期的な劣化推定
(1) 加速試験方法
加速試験に用いるサンプルを、熱間圧延軟鋼板(SPHC)とSPHCに溶融亜鉛メッキ処理を行った亜鉛メッキ鋼板の2種類としました。それぞれ腐食範囲をそろえるため、サンプルの背面と四辺をマスキングしました。また、紐接触部の腐食を模擬するため、鋼板の露出部に紐を6回巻きしたサンプルを作製しました。
加速試験には複数の方法、条件がありますが今回は塩水噴霧試験(SST:Salt Spray Testing)、複合サイクル試験(CCT:Cyclic Corrosion Testing)、気液交番試験の3つの試験を選択しました。SST、CCTは標準的な試験であり、大気中の腐食を評価するためによく利用されています。SSTは常時塩水噴霧(5% NaCl)を行う試験です。CCTは今回、塩水噴霧2時間と乾燥(温度60 ℃、湿度20%)4時間、湿潤(温度50 ℃、湿度95%)2時間のサイクルとしました。マンホール環境は前述したように大気中の環境とは腐食挙動が異なります。そこで、私たちはよりマンホール環境の腐食を模擬できる加速試験として、気液交番試験を行いました。気液交番試験は、水中と気中を交互に繰り返す加速試験です。今回は、水中状態144時間、気中状態24時間のサイクルを繰り返しました。水中状態で用いた溶液は5% 塩化ナトリウム水溶液、気中状態の環境は湿潤状態と同じく、温度50 ℃、湿度95%に設定しました。各加速試験の試験時間は、SST、CCTは480時間、気液交番試験は672時間としました。
加速試験終了後、JIS規格(JIS H 8502)に準拠した方法でサンプルに付着した錆を取り除き、腐食減肉量を求めました。また、錆を除去したサンプルを乾燥させたのち、3D形状測定機を用いて表面の凹凸形状を測定しました。
(2) 加速試験結果
加速試験後のサンプル(紐あり)を除錆し、その表面の凹凸を示すコンター図*2を図4に示します。加速試験前のサンプル(紐あり)の外観を(a)に、CCT_480時間後のSPHCのコンター図を(b)に、CCT_480時間後の溶融亜鉛メッキ鋼板のコンター図を(c)に示しています。そして、SST_480時間後のSPHCのコンター図を(d)に、気液交番試験_672時間後のSPHCのコンター図を(e)に示しています。コンター図はサンプル上部のマスキングされた個所を0µmとしてカラースケールで表示しています。マスキングされていない個所では腐食減肉による鋼板表面の板厚減少がみられました。図4の(b)と(c)から、SPHCのほうが溶融亜鉛メッキ鋼板よりも板厚減少が大きいことを確認しました。図4の(b)と(d)から、CCTとSSTのサンプルでは、紐接触部の大部分は露出部よりも板厚減少が発生していませんが、最上段の紐直下に露出部と同等以上の板厚減少が生じていることを確認しました。また図4の(e)から、気液交番試験では露出部よりも紐接触部で板厚減少が生じていることを確認しました。さらに、CCTやSSTと異なり、紐接触部の最上段だけでなく、紐接触部の6本すべての紐直下に板厚減少がみられました。
各サンプルの全体の腐食減肉量変化を図5に示します。グラフの値は、各加速試験後の複数のサンプルの平均(CCT、SST:N=4、気液交番:N=3)をプロットしています。全体の腐食減肉量は、CCT、SST、気液交番試験のすべての加速試験でSPHCのほうが溶融亜鉛メッキ鋼板よりも多くなる傾向を示しました。また、SSTよりCCTのほうが、気液交番試験よりも全体の腐食減肉量が大きくなる傾向を示しました。紐の有無による全体の腐食減肉量の傾向は、CCTとSSTではSPHCと溶融亜鉛メッキ鋼板ともに紐なしのサンプルが大きくなる傾向がみられましたが、気液交番試験では紐ありのサンプルのほうで大きくなる傾向を示しました。
*2 コンター図:連続的な値で変化するスカラー変数の空間分布を、同じ値を持つ点を結んだ線(等高線・等値線)で表現した図で、値の分布傾向を色分けして可視化する手法。


■電気化学測定による挙動解明
(1) 電気化学インピーダンス分光法による評価
金属の腐食は、金属が電子を失う反応(アノード反応)と、溶液中で電子を受け取る反応(カソード反応)が同時に起こる電気化学反応です。そのため、腐食の進みやすさや速さを調べるには電気化学測定が有効です。この測定では、腐食に伴って流れる微小な電流をとらえることで、初期の腐食挙動も評価できます。一般に、測定対象である作用電極、基準となる電位を与える参照電極、そして測定に必要な電流を流すための対極からなる三電極系を用います。ポテンショスタットにより電位を制御しつつ電流を測定することで、腐食速度や反応特性を定量的に理解することができます。
腐食評価に用いられる代表的な電気化学測定手法には、自然電位測定、分極曲線測定、分極抵抗法、電気化学インピーダンス分光法(EIS)があります。このうちEISでは、交流信号の周波数を変えながら応答を測定するため、電荷移動、拡散、腐食生成物皮膜の影響を分離して評価できます。さらに、試料の状態をほとんど変えずに、腐食過程や皮膜の変化を時間的に追跡できる点が大きな利点です。私たちは、紐を接触させた状態の金属試料に対してEISを適用する手法を開発し、腐食環境が水中から気中に移行し金属表面の水分が蒸発する過程での腐食速度の定量評価をめざしています。現在、水分減少過程で腐食速度が上昇する傾向を確認しており、加速試験で観察された紐接触部における局部腐食の主要因であると考え、検討を進めています。
(2) まとめ
CCTとSSTでは紐直下の局部腐食を再現することはできませんでした。これは、紐によって噴霧された塩水が紐接触部の鋼板に触れることを防いでしまったためと考えられます。ただし、最上段の紐直下に関してはサンプルの上部から流れてきた塩水が紐に吸収されたため、局部腐食が生じたと考えられます。SSTよりCCTで腐食が進行していたことから、マンホール内での付属金物の局所腐食は、高湿度条件と十分な水分が紐に吸収される水没条件が交互に入れ替わる環境にある金物に発生しやすい可能性を示唆しています。
一方、気液交番試験では紐直下の局部腐食を再現することができました。これは、気液交番試験はサイクル間隔が長いためマスキングされていない個所では腐食劣化の進行が緩やかでしたが、紐接触部では水中状態で十分な水分がすべての紐に吸収され、気中状態で乾燥することにより、紐直下で局部腐食が進み、図4(e)のように紐を取り付けていない個所より減肉量が多くなったためと考えられます。したがって、気液交番試験により紐と金物の接触部における局部腐食を再現できる可能性があります。
■参考文献
(1) Y. Takeuchi, A. Ito, H. Kasahara, Y. Okamura, and J. Tamamatsu:“Degradation Characteristics of Glass Fiber Reinforced Plastics Using Unsaturated Polyester as Matrix in Weak Alkaline Aqueous Solution,” MATERIALS TRANSACTIONS, Vol.65, №2, pp.159-166,2024.
(2) 伊藤・若竹・,田中: “通信用管路の腐食状況とMH内環境との関係性に関する調査,” 土木学会第70回年次学術講演会発表講演概要集, Vol.5, №83, pp.165-166,2015.

(左から)豊田 新/竹内 陽祐

通信インフラの維持管理の効率化に向けて、材料分野からのアプローチにより、持続可能な社会の実現に貢献していきます。