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2026年7月号

from NTT西日本

ネットワークデジタルツインを活用したネットワークオペレーション業務への適用検討

本稿では、ネットワーク運用の高度化に向けたネットワークデジタルツイン(NDT)の活用について述べます。そして、通信シミュレーションにより学習データを生成し、AI(人工知能)による故障復旧や工事シナリオ作成を支援する手法を提案します。これにより、効率性・迅速性と品質の両立を実現するネットワーク運用基盤の可能性を示します。

はじめに

近年、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)化やシステムのクラウド移行の進展に伴い、通信ネットワークの重要性は一層高まっています。令和7年度通信白書においても、情報通信インフラは社会経済の基盤として不可欠性を増しており、その役割は継続的に拡大していると指摘されています。今後も生成AI(人工知能)をはじめとするAI技術の普及や分散コンピューティングの進展により、ネットワークのさらなる高度化と重要性の増大が見込まれています。
一方で、将来的な労働力不足やネットワーク用途の多様化・複雑化といった社会環境の変化も予想されています。このような環境下においても、社会インフラとして安定した通信品質を維持するためには、ネットワーク運用の効率化と高度化が不可欠です。
NTT西日本R&Dセンタでは、これらの課題解決に向けて「ネットワークデジタルツイン(Network Digital Twin:NDT)」の活用を検討しています。NDTをネットワーク運用に適用することで、オペレーションの効率化と高品質な通信サービスの提供の両立をめざします。

ネットワークデジタルツイン構想

一般にデジタルツインは、製造業などの分野において、設備や製品の状態をデジタル空間に再現する技術として活用されています。一方、通信ネットワークにおいては、トポロジ構成や装置状態に加え、トラフィック量や経路制御などが時間的に大きく変動するという特性があります。そのため、単にネットワーク構成を静的に再現するだけでは、実運用の課題検討には十分とはいえません。
本稿で扱うネットワークデジタルツインは、構成情報の再現に加え、運用操作やトラフィック変動を含む動的な振る舞いを再現可能とする点に特徴があります。これにより、設計・検証用途にとどまらず、運用フェーズも含めた包括的なネットワーク高度化を支援する基盤としての活用をめざしています。
近年、生成AIを活用したネットワークの設計・構築・運用支援技術の研究開発が進展しています。しかしながら、多くの手法は過去のデータに基づく学習に依存しており、未知事象や複雑事象への対応には限界があります。また、ネットワーク構成や設定の変更に伴い再学習が必要になるなど、運用上の課題も存在します。
学習データ拡張の手法として、既存データの加工や実機検証によるデータ生成が考えられますが、ネットワークデータは多様かつ複雑であり加工は容易ではありません。また、実機検証では環境構築コストや運用負荷が大きく、効率性・即応性の観点で課題があります。
これらの課題に対し、NTT西日本R&Dセンタでは、通信シミュレーションを活用して学習データを生成する基盤としてNDTの活用を検討しています。主なユースケースとしては、「ネットワーク構成変更工事」と「ネットワーク運用」が挙げられます。
NDTを活用するために必要な主な機能は以下のとおりであることが知られています(1)(図1)。
① 商用網構成のデジタル空間への再現
② 工事や運用操作がネットワークへ与える影響の事前検証
③ 自動化シナリオの実行および検証
④ 商用網状態のリアルタイム反映(監視・運用モード)
⑤ 商用網と分離した検証環境の提供(検証・デバッグモード)
NDTを商用ネットワーク運用へ適用するにあたっては、実網への影響を最小限に抑える設計が重要となります。本検討では、商用網とデジタルツイン環境を論理的に分離し、検証・デバッグ時の操作が商用環境へ波及しない構成を前提としています。また、商用網の状態をNDTへ反映する際には、リアルタイム性と運用負荷のバランスを考慮し、用途に応じた情報粒度や反映タイミングを設計しています。
これらの設計思想により、安全性を確保しつつ、運用に資する情報を柔軟に活用できるNDT環境の構築をめざしています。
特に検証・デバッグモードでは、AI未学習の故障パターンを意図的に再現し学習データを生成できるほか、AIが生成したコマンドや工事シナリオの事前検証が可能となります。これにより、生成AIのハルシネーションの影響を抑制しつつ、商用環境での安全なAI活用が期待されます。

ネットワークデジタルツインの活用想定事例

■AIを活用した故障復旧

本取り組みでは、AIエージェントがネットワーク状況をリアルタイムに把握し、自律的に復旧処理を行うことでネットワーク運用の高度自動化をめざします(図2)。AIエージェントの開発はNTTネットワークサービスシステム研究所の持つネットワーク障害復旧エージェント技術を活用しています(2)
従来、AIによる復旧にはKnowledgeDBに十分な障害情報が必要ですが、実際には過去の障害履歴に依存しており、網羅性に課題がありました。そこで、NDT上で商用規模のネットワークを再現し、二重故障などの多様な障害パターンを網羅的に生成し、強化学習により復旧動作を学習させました。
今回NDTには、各ネットワーク装置のOSを仮想環境上に再現する方式、いわゆるエミュレータ型のNDTにてネットワークの再現を行いました。この方式では装置のソフトウェア挙動を高い忠実度で再現できる利点があります。この方式で実装することにより、論理的なネットワーク構成を実環境と同等な環境を仮想的にシミュレーションすることができます。
その結果、バックアップ回線切替時のサイレント障害に対し、誤ってアクティブ状態となったインタフェースを特定・閉塞することで復旧するなど、複数の障害パターンにおいて自律復旧を確認しました。
一方で、スケーラビリティの課題が顕在化してきました。それは論理的な構成を完全再現するために、ノード数が増加する度に接続する対応装置も爆発的に増加するため、必要な計算資源やライセンスコストが増大することに起因します。実際、ノード数増加に伴い学習時間は急激に増大し、60ノード規模では理論上極めて長時間を要する結果となりました。今後は本技術が対応可能な業務領域を見極めていくと同時に、大規模なネットワークにも適用可能な別のシミュレーション手法も含め検討し、ネットワークの規模やユースケースに応じ適切な手法を選択していく必要があると考えています。
ネットワーク運用におけるAI活用においては、初期段階から完全自律をめざすのではなく、人とAIの役割分担を前提とした段階的な自動化が現実的であると考えています。具体的には、故障要因の候補抽出や復旧手順案の提示といった判断支援をAIが担い、最終的な実行判断は人が行う運用モデルです。
NDTを活用することで、AIが提示する判断根拠となる情報を網羅的かつ事前に検証可能となり、運用者の意思決定を高度に支援することができるようになります。
今後は、小規模ドメインへの適用から実用化を進めるとともに、スケーラビリティ課題の解決に向けた検討を継続します。

■工事シナリオのデバック環境検討について

ネットワーク工事においては、自動化ツールの活用が進展していますが、その実行に必要な工事シナリオの作成には自動化プログラムの検討やコーディング、その動作検証等に稼働がかかり、自動化ツールによる効率化の効果を圧縮、場合によってはむしろ導入前に比べて稼働増となるケースもあります。
本取り組みでは、AIエージェントが工事シナリオを生成し、NDT上でデバッグおよび検証を行う仕組みを検討しています(図3)。
具体的には、AIが生成したシナリオを直接商用環境に適用するのではなく、まずNDT上で実行し、期待どおりの動作となるかを検証します。結果が不十分な場合は、その情報をフィードバックし再生成を行います。このサイクルを繰り返すことで、シナリオの品質を向上させます。
さらに、検証済みシナリオを実機検証環境で確認したうえで商用適用することで、効率性・迅速性・品質を損なうことなく、ネットワーク工事の高度化が可能となります。

今後の展望

本取り組みの一部は、NTT西日本R&Dフォーラムにおいて展示を行いました。展示では、ネットワークデジタルツイン環境を用いた故障復旧支援や工事シナリオ検証のコンセプトを紹介し、運用担当者や技術者から多くの意見を得ることができました。特に、商用網に直接影響を与えずに事前検証ができる点や、AI活用時の安全性を担保できる点について高い関心が寄せられました。
一方で、大規模ネットワークへの適用時の計算コストや、運用フローへの組込み方法など、実用化に向けた課題も明確になりました。これらの知見を踏まえ、今後の技術検証や検討を進めていきます。
従来、ネットワーク運用においては効率性・迅速性の向上と品質の確保はトレードオフの関係にあり、適切なバランス設計が求められてきました。
しかしながら、AIおよびNDTの活用により、これまでリソース制約から省略されていた検証や、机上検討に頼っていた項目を実環境に近いかたちで検証可能となります。これにより、従来は困難であった網羅的な検証やデータ取得が実現できます。
すなわち、NDTは物理的・時間的制約を解消し、ネットワーク運用における効率性・迅速性と品質向上の両立を可能とする基盤技術として期待されます。
今後は、実運用への適用を見据えた技術検証および課題解決を進め、次世代ネットワーク運用基盤の確立をめざします。

■参考文献
(1) 清水・池内・ 高橋・岡部:“通信ネットワークのデジタルツインの取組事例,”人工知能, Vol.40,No.4, pp.482-489, 2025.
(2) https://www.rd.ntt/forum/2025/doc/C14-j.pdf

NTT 西日本
デジタル革新本部 技術革新部
R&Dセンタ 技術方式担当

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