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2026年8月号

特集2

つくばフォーラム2026に見るアクセスネットワークの研究開発

NTT西日本グループにおけるサービスとネットワークの過去・現在・未来

メタル設備を利用した固定電話サービスの終了や日本のオールブロードバンド化等に向けた「最終保障提供責務」の創設など、地域通信事業は大きな転換点を迎えています。本稿では、NTT西日本グループにおけるサービスとネットワークを「過去・現在・未来」の観点で整理し、NTT西日本が担う役割と今後の取り組みを紹介します。なお、本記事は、2026年5月27~28日に開催された「つくばフォーラム2026」における、桂一詞NTT西日本代表取締役副社長の基調講演を基に再構成したものです。

桂 一詞(かつら かずのり)
NTT西日本 代表取締役副社長
副社長執行役員 CTO CIO

日本の過去・現在・未来

■ヒト・モノ・文化

NTT西日本の過去・現在・未来を述べる前に、まず日本の過去・現在・未来を概観します。
現生人類は約20万年前にアフリカで出現し、日本列島へは約4万年前に到達したとされています。その後、比較的早い時期に磨製石器がつくられていたことが岩宿遺跡で確認されており、世界最古級のものであると考えられています。また、約1.6万年前の地層からは土器が出土しており、これも世界最古級で、縄文時代の始まりと考えられるようになっています。
約1.1万年前に氷期が終わると大陸との地理的な分断が進みますが、その後も大陸と日本列島の往来は継続したと考えられています。さらに、約3000年前には長江流域から稲作文化が九州へ直接伝来したとされており、以降、渡来人との混血が進みつつDNAの断絶なく発展してきました。
このような歴史を踏まえると、日本には高度な技術や適応力を持つ人類が移り住み、世界的にみても非常に古い時代から独自の磨製石器や土器を用いた生活様式が確立されていたことが分かります。すなわち、日本は「世界最古のモノづくりの国」であるといえるのではないでしょうか。そして異民族による大規模な征服もなかったことから、「DNAや文化の断絶なく、渡来人と“共生”しながら発展してきた」稀有な国であると考えられます(図1)。
補足ですが、宗教においても、日本固有の宗教である「神道」、6世紀ごろに伝来し神道と融合してきた「仏教」、さらに16世紀以降に伝来してきた「キリスト教」、近代になって入ってきた「イスラム教」などが存在し、世界三大宗教が共存している日本は稀有な国であると考えられます。ここにも「共存・共生する」日本の文化をみることができるのではないでしょうか。

■商売・サービス

次に、近世から現代にかけての商売・サービスの側面から日本をみてみます。日本は戦後直後の「安かろう悪かろう」という状況から、持ち前の「モノづくり精神」で高い品質を実現し、「ジャパン・アズ・ナンバーワン(1)」と称されるまでに高度経済成長を遂げました。このような成功体験から「品質に対する高い期待水準」が日本にあると考えられます。また、近江商人の経営理念である「三方よし」に代表されるように、自社の利益だけでなく、顧客や社会に対する責任を重視する価値観も、日本の商慣行の特徴といえる要素の1つです。

■失われた30年

ところが、1990年代後半以降の日本経済は、「失われた30年」と呼ばれる長期停滞の局面を迎えました。1990年以降の各国の名目GDP(Gross Domestic Product:国内総生産)の推移を比較すると、他国が大きくGDPを伸ばす中、日本は長年低迷しています。一方で、GAFAM〔Google、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、Microsoft〕を中心とした海外企業の時価総額の向上については著しいものがあります。
では、なぜこのような状況に至ったのでしょうか。一般に指摘されている要因として、1つは日本独自のエコシステムに固執するあまり、そこから脱却できず、いわゆるガラパゴス化してしまったという点です。また、商品・サービスの品質は高い水準にあるものの、均質化が進んだ結果、価格競争に陥り、新たな付加価値による差別化を図ることができなかった点も要因として考えられます。

■日本の価値観と直面している課題

以上を踏まえると、日本には「共生・つなぐ文化」「モノづくり精神」「品質に対する高い期待水準」といった価値観を持つ一方で、グローバルなエコシステムへの適応や、新技術・新サービスによる価値創出、すなわちゲームチェンジが進んでいないという課題に直面していると考えています。
日本的価値観として守り続けるべきものは何か、また、グローバルなエコシステムに合わせ、変えるべき価値観は何か、考えていくことが重要です。そして、地域通信事業を担うNTT西日本としても、何を守り、何を変えていくべきか、見極めていく必要があります。

NTT西日本の過去・現在・未来【光サービス】

NTT西日本では、2001年以降、フレッツ光の提供を開始し、契約者数は2025年度末で約1050万まで拡大しています。多くの国民や企業が光による高速通信サービスを利用できるようになり、国際競争力の源泉になっていると考えています。
また、面的な光サービスの展開にあたっては、さまざまな構築手法を工夫しながら、これまでに約50万kmの光ケーブルを敷設してきました。その結果、ユーザカバー率は約95%に達しています。
一方で、残る約5%の地域には光サービスが未提供であり、これを面積に置き直すと、ルーラル地域を中心に約3分の1のエリアでは光サービスが提供できていない状況にあります。したがって、日本のオールブロードバンド化を今後どのように実現していくかが、大きな課題となっています(図2)。

■日本のオールブロードバンド化(最終保障提供責務)

これまで、ブロードバンドサービスについては、NTT東日本・西日本を含めて提供責務を担う事業者はいませんでした。しかし、電話・ブロードバンドの双方について「最終保障提供責務」が創設され、2027年以降の導入が予定されています。これは、日本のオールブロードバンド化に向けて、複数事業者が連携してエリアをカバーし、サービス提供可能な事業者が存在しない地域では、NTT東日本・西日本が提供の責任を負うという考え方です。
電話サービスでは、すでにNTT東日本・西日本にユニバーサルサービスの提供義務が課されていますが、今後はブロードバンドについても、事業者と連携しながら提供責務を担うことになります。
ここで課題となるのが、前述の約3分の1の光未提供エリアです。仮にこれらの地域をすべてNTT西日本の固定光でカバーする場合、膨大なコスト(稼働)が必要となり、最終的には、国民負担につながることになります。さらに、電話のユニバーサルサービスにおいても、現在NTT西日本では年間約350億円の赤字が生じていることを踏まえると、NTT西日本単独で最終保障提供責務を果たしていくことには大きな課題があります。
例えば奈良県では、NTT西日本の光サービス提供エリアは北西部の都市部に集中している一方で、南部の人口密度が低い中山間地域ではCATV(Cable Television:ケーブルテレビ)事業者がサービス提供を担っています。そのため、こうした広域の中山間地域を新たにNTT西日本の固定光でカバーする場合、膨大なコストが必要になることが分かります(図3)。
よって、将来にわたって日本の電話・ブロードバンドサービスの“最終保障提供責務”を果たしつつ、交付金投入による国民負担を抑制するためには、すでにサービス提供を行っている事業者との連携や、モバイル・衛星を含めた最適な提供手段の選択が必要不可欠です。最終保障提供責務制度が持続可能な仕組みとなるよう、国・事業者との議論を進めていきます。

NTT西日本の過去・現在・未来【ネットワーク】

ネットワークは、技術革新やサービスの変遷に伴い、大きく進化してきました。NTT西日本としても、伝送装置の大容量化・高速化を進めるとともに、電話、マス向け、法人向けなど、個別に構築してきたネットワークの統合によって、効率的なネットワークの実現を進めてきました。これらの進化は、高速かつ高付加価値なサービスの提供に寄与してきました。
近年は、AI(人工知能)活用、クラウド利用、映像コンテンツ利用の拡大に伴い、NTT西日本のネットワークを流れるインターネットトラフィックは過去4年間で約2.2倍に増加しています。また、データセンタ需要の高まりにより、データセンタ間トラフィックは2024年からの10年間で約5倍に増加するとの予測もあります(図4)。
しかし、インターネットトラフィックの増大に対して、NTT西日本の光サービスは定額制で、収入とコストのバランスが悪化してきています。その一方で、GoogleやMicrosoftなどのハイパースケーラー*1は、データセンタを用いたクラウドサービスの拡大を背景に売上や企業価値を大きく伸ばしています。さらに、ネットワーク装置や光ケーブルの大量調達を通じて、ハイパースケーラーを中心としたエコシステムが形成されており、NTT西日本の物品調達の優先度や価格交渉力にも影響を及ぼし始めています。
このため、NTT西日本としては、光サービスの“土管化”を防ぎ、付加価値の提供によるネットワークサービスのマネタイズや、ハイパースケーラー中心のエコシステムに対応するためのネットワーク・技術の高度化に取り組む必要があります。

*1 ハイパースケーラー:大規模データセンタを世界規模で構築・運用し、クラウドやAIサービスを提供する事業者のこと。

■ネットワークのマネタイズ(付加価値の提供)

ネットワークのマネタイズに向けては、「統合型マネージドネットワークサービス」の提供を考えています。多様なコネクティビティに加え、セキュリティ・AIなどの付加価値を統合的に提供するネットワークサービスをNTTグループ各社と連携して実現していきます。また、NTT西日本としては、24時間365日の監視・出張修理や、IT資産管理といった「オペレーション・オンサイトの強み」を最大限に活かすことで、他社と差別化した付加価値を提供することが可能です(図5)。

■ハイパースケーラー等のニーズに合わせたネットワーク・技術の進化

AIの急速な発展・普及に伴い、データセンタ需要は急速に拡大しています。土地や電力供給の制約が大きい日本では、データセンタの分散配置が進むと想定されます。また、諸外国でも、地理的に離れた複数のデータセンタを高速・低遅延のネットワークで結び、1つの巨大な計算基盤として運用する「スケール・アクロス」という考え方も広がりつつあります。
このようなデータセンタ分散へ対応するには、①離れたデータセンタ間を接続するための大容量・低遅延の長距離伝送、②リージョン*2内のデータセンタ間を接続する光ファイバケーブルのさらなる大容量・低遅延化、③データセンタ内部における演算処理の低消費電力化、が重要です。NTT西日本としても、これらに対応するネットワーク・技術の進化に取り組んでいきます。
まず、「①大容量・低遅延な長距離伝送」については、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想に基づくオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の全国展開を進めており、NTT西日本でも2027年度末までに整備を完了させる計画です。さらに、プラガブル光トランシーバのオープン規格であるOpenZR+*3などとIOWN技術を組み合わせることで、市場動向に適応した大容量な長距離伝送の実現をめざします。
次に、「②光ファイバケーブルの大容量化・低遅延化」については、現在、データセンタ間のケーブリングビジネスにおいて、ハイパースケーラーの需要に合わせたオーダーメイド型のサービス提供を行っています。加えて、HCF(Hollow core fiber)やMCF(Multi core fiber)といった低遅延・大容量を実現する次世代光ファイバの導入も検討していきます。
このHCFとは、光が通る中心部(コア)が空気となっている次世代光ファイバであり、石英がコアの従来型光ファイバと比べて約30%の低遅延化が実現可能といわれています。一方で、実フィールド導入に向けては、大量生産や長尺化、従来型光ファイバとの接続時における低損失化といった技術課題に加え、クリーン環境下での接続作業や、許容曲げ半径を踏まえたクロージャ構造の再設計など、施工・運用上の課題もあります。しかし、このような課題を克服しない限り、日本独自のエコシステムから脱却できないため、技術や考え方を見直していくことが重要です。
さらに、「③データセンタ内部の低消費電力化」については、IOWNにおけるPEC(Photonics-Electronics Convergence)-2、PEC-3*4などの技術を最大活用する必要があります。NTT西日本としては、これらの技術をエンジニアリングも含めて一元的に提供できる準備を進めていきます(図6)。

*2 リージョン:クラウド事業者がデータセンタ群を地理的な単位で管理・提供する際の区分のこと。
*3 OpenZR+:OpenZR+MSA仕様に準拠したプラガブル光トランシーバのこと。
*4 PEC:光電融合技術を用いて開発したデバイス群のこと。PEC-2はボード間、PEC-3は半導体パッケージ間の光通信を実現する光電融合デバイス。

NTT西日本の過去・現在・未来【基盤】

NTT西日本は、通信ビル約4000棟、管路約33万km、電柱約616万本、ケーブル約108万kmに及ぶ膨大な通信設備を保有しており、これらを維持・管理しながら、信頼性の高い通信サービスを提供しています。また、これらの設備は他事業者にもオープン化しており、社会インフラへの二重投資の抑制や、モバイルを含む通信サービスの早期発展、面的展開にも貢献しています。さらに、災害発生時の影響最小化や早期復旧に向けて、点(ビル・装置)、線(中継網)、面(アクセス区間)の設備強靭化にも取り組んでいます。
一方で、NTT西日本が保有するこれらの設備の固定資産額は約2.4兆円にのぼり、年間の設備維持費用も約3500億円と大きな負担になっています。固定資産2.4兆円の内訳をみると、民営化前の電電公社時代に取得した設備は減価償却が進み約0.2兆円ですが、民営化以降に取得した設備は約2.2兆円と全体の約9割を占めています(図7)。
さらに、民営化以降、累計約20兆円規模の施設保全費を投じて、設備の維持・更改を継続してきたことから、現在の通信インフラは民営化以降に構築・維持してきた設備を主として成り立っていることが分かります。これら設備の維持については、今後もNTT西日本が主体的に担っていく考えです。一方で、設備を将来にわたり安定的に維持するためには、事業者間の連携やコスト負担等の仕組みについて国や事業者との議論を進めていく必要があります。そのうえで、NTT西日本としても、膨大な設備を効率的に運用していくため、「リーンな設備の実現」や「点検・保守のスマート化」を着実に推進し、安定した設備の維持・運用をめざしていきます。

■リーンな設備の実現とオンサイト保守のスマート化

今後、メタルサービスの終了に伴いサービス提供は光中心へと移行していきます。これに伴い、NTTビルからのサービス提供距離は、メタル設備では10kmであったものが、フレッツ光ネクストでは20km、IWAN(Interconnected WAN)では60kmに延伸されます。これを契機に、フレッツ光を提供していない通信ビルなど、これまで距離制限上必要であったビルを廃止し、隣接ビルへ集約することによって、整備・維持コストの削減をめざします。また、電柱や管路などについても、メタルケーブル廃止後に活用見込みのないものは、撤去や他事業者への譲渡を進め、設備のスリム化を図っていきます(図8)。
オンサイト保守の効率化に向けては、ドローンを活用した橋梁下部の管路点検や、複数カメラを搭載したMMS(Mobile Mapping System)車両による電柱点検、これらから取得した画像データのAI解析に取り組んでいます。さらに、他社設備や道路構造物も併せて撮影することで、点検業務の受託といった新たなビジネス展開にもつながっています。このように、通信設備にとどまらず、社会インフラ全体を対象とした保守業務のスマート化にも取り組んでいきます。

おわりに

本稿では、日本の価値観や直面している課題を踏まえ、過去・現在・未来の観点から、NTT西日本グループのサービスとネットワークの役割および今後の取り組みについて述べました。今後、NTT西日本には、社会に不可欠な通信インフラを持続可能なかたちで維持・整備するとともに、変化するグローバルエコシステムの中で新たな価値を創出する役割が求められます。これまでの取り組みを踏まえながら、変えるべき点は着実に変革し、豊かな未来社会を共創する「バリュークリエーションパートナー」として、社会課題解決および新たな価値創造に取り組んでいきます。

■参考文献
(1)E. F. Vogel:“Japan as Number One: Lessons for America,” Harvard University Press, 1979.

桂 一詞

この春 「愛される未来につなげよう。」という新たなコーポレートスローガンを策定しました。過去・現在と受け継がれてきた通信インフラを守りつつ、新たな変革にチャレンジし、愛される未来の実現に向けて取り組んでいきます。NTT西日本グループへのご支援・ご指導を引き続きよろしくお願いします。

NTT西日本
設備本部 ネットワークデザイン部
企画部門 企画担当

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