グローバルスタンダード最前線
国際電気通信連合(ITU)全権委員会議2018の結果
2018年10月29日から11月16日まで国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)全権委員会議が開催されました。ここではITU幹部職の選挙、理事国選挙、および主要議題の結果について紹介します。
PROFILE
岩田 秀行(いわた ひでゆき)
NTT研究企画部門
会議概要
2018年10月29日から11月16日までアラブ首長国連邦のドバイ世界貿易センターにおいて、182カ国から通信担当大臣級を含む2500名以上が参加し国際電気通信連合(ITU: International Telecommunication Union)全権委員会議が開催されました(写真)。本会議は4年に1度開催され、ITUの全構成国の代表が参加するITUの最高意思決定会議です。日本からは佐藤総務副大臣、渡辺総務審議官を首席代表とし、政府、民間から39名が参加しました。
写真 ITU全権委員会議の様子
ITU幹部職の選挙および理事国選挙の結果
11月1日に事務総局長および事務総局次長の選挙を実施し、現事務総局長であるH. Zhao氏(中国)が176票/178票で再選、現事務総局次長であるM. Johnson氏(英国)が、113票/178票で再選しました〔現電気通信開発局長(ITU-D)であるB. Sanou氏(ブルキナファソ)は65票〕。
11月2日に無線通信局長(ITU-R)、電気通信標準化局長(ITU-T)、電気通信開発局長の選挙を実施し、無線通信局長は2回の投票の結果、M. Maniewicz氏(ウルグアイ)が108票/176票で新任〔I. Bozsoki氏(ハンガリー)は64票〕、現電気通信標準化局長であるC. Lee氏(韓国)が174票/179票で再選、電気通信開発局長 は1回目の選挙で過半数89票を上回る95票/179票でITUとして初の女性局長となるD. Bogdan女史(米国)が新任されました。
11月5日に無線通信規則委員会(RRB: Radio Regulations Board)委員選挙および理事国の選挙が行われ、橋本明氏(NTTドコモ標準化カウンセラー)は全候補者最大の169票を獲得し、アジア太平洋地域で当選、同時に行われた理事国選挙で、日本は166票を集め、アジア太平洋地域2位で12回連続当選しました。
主要議題の結果
週末を含む連日議論が行われ、最終日前日は午前5時半まで議論が行われました。主な審議結果は以下のとおりです。
(1) ITU憲章および条約
真に必要がない限りは憲章・条約を改正しないという提案がアジア太平洋およびアフリカ地域から提出されましたが、変更なしで合意されました。
(2) 2020~2023年戦略・財政計画
理事会からの2020年から4年間のITUの活動方針を定めた計画案に対して、中東およびアフリカ地域が「online privacy」の語の追加を提案しましたが、追加はされませんでした。本戦略に基づいて、SDGs(Sustainable Development Goals)の達成に向けたITUが取り組むべき内容を整理記述し、予算配分や各セクターの活動が定められます。
(3) インターネット関連
中東地域からDONA(Digital Object Numbering Authority)財団*をICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)他インターネット関連機関と並べて参照する提案、およびICANNの役割をITUに担わせようとする意図の提案等がなされました。各機関の役割の明確化と、DONA財団の参照は技術中立性の観点から反対との立場の日米欧と、中東・アフリカ地域とで意見が対立し議論が紛糾しましたが、DONA財団の参照はされず、ITUの役割も所掌内としつつ、途上国の懸念に沿う方向で決議が修正されました。
(4) セキュリティ関連
サイバーセキュリティの確保に関する新たな条約の制定など、国際ルールづくりを積極的に推進しようとする中東・アフリカ地域と、あくまで各国の主権を尊重し、ITUはセキュリティに関する啓発や能力構築に重点を置くべきとする日米欧が対立しました。
(5) 国際電気通信規則(ITR)
中東・ロシア地域から2020年にITR改正提案、欧州地域からITRレビュー活動停止を求める提案、アフリカ地域、中国、米国からレビュー継続の提案が提出されました。
ITR改正要否また将来のレビュー結果をITR改正の前提にするかで意見が対立しましたが、ITR改正は決議されず、レビューを継続で決議が修正されました。
(6) AIに関する新決議作成
中東地域からのAI(人工知能)に関する新決議作成の提案に対して、中立的な決議提案が欧州地域、米国からなされました。ITUにおけるAI関連のスコープやポリシーや規制作成はスコープ外と明記するか否かで議論が紛糾しましたが、新決議は作成されませんでした。
(7) OTTに関する新決議作成
OTT(Over The Top)に関する新決議作成がアフリカ、中東、欧州、ロシア各地域、米国、ブラジルから提案されました。規制または国際公共政策の策定としてのOTT研究が提案されましたが、日欧米等の反対により該当テキストは削除されました。ITUの所掌内での研究継続、関連機関・ステークホルダーとの連携を強調した新決議を作成しました。
*DONA財団:DOA(Digital Object Architecture)の公共的利益のための技術的調整、ソフトウェア開発およびGlobal Handle Registry (GHR)の管理運営などのサービス提供を目的として設立された非営利団体。